【GAME51-3】不安に揺らぐ切り札騎士の心!!
――桐山剣と時実桜、二人が攻略するオリジンロードの逃走劇の途中ですが。
一旦舞台を変えまして、現実世界はゲームワールドオンラインを管理するWGCの総本山【ディメンション・ターミナルビル】に移ります。
このパターンに移ったということは、そうです。
剣の聖剣獲得GWクエストを管理するゲームマスターの一文字蒼真と、それを傍観するWGCの代表取締役社長・本宮マサト若社長のターンであります。
「社長、このクエストに付き添いを巻き込んで宜しかったのでしょうか? もしも河合みのりに危害を与える事になってしまえば……」
第二の試練を見届けた後、直ぐにログアウトして第三の試練の調整に入った蒼真さん。
事前にみのりを拉致する事を社長から知らされていた分、不本意な導入に良心が痛んでいる様子。
「彼にとっては酷な展開である事は分かっていた。何しろ彼の大親友を我々が攫ったのだからな。憎まれても仕方の無いことだ。……しかしそれでも私は聖剣を持つに相応しいその魂を、試練で魅せてほしいのだ」
若社長も人の子。力こそが正義と曲解する者が溢れるこの時代に、偉大なる聖剣《GXキャリバー》を桐山剣に託すべきか。
心を鬼にして、剣の強い意志を試練の最後まで試そうとする本宮社長。彼が画面を見つめる眼は情熱に満ちていた。
「ここからが正念場だぞ桐山剣。我々が何故河合みのりを攫ったのか、そして決闘の舞台の意味をその眼で確かめるがいい!!」
魂強きゲーム戦士に本宮社長の高揚が止まらない。そんな彼の期待を余所に、剣はどう抗っていくのか。
▶▶▶ NEXT▽
―――はいお待たせしました、変わって舞台はゲームワールド・オリジンロードの真っ只中!
黒尽くめのアバター【シャドウ・D】の脅威を避けつつ、ひたすらに出口を探す剣と桜。
「……もう、あの野郎追って来ねぇよな?」
「はい、でも曲がり角から急に出てくる可能性もあります。神経を研ぎ澄ましながら慎重に進みましょう」
何しろあの【シャドウ・D】、アメイジングカードの効果だけでなくPASですらも効かない最強仕様の敵キャラに為す術もない。
そうなれば剣に残された手段は『逃げ』しかない。みのりを攫った相手ともあって、非常に歯痒い所も抑えつつ、剣は彼女の待つ『オリジンの聖地』へと突き進むのみ。
「ちっくしょう、一片あの黒マスクにグーパン打ちのめしてやりたい……!!」
桜の時間停止能力を諸友せず、みのりを攫っていった【シャドウ・D】に苦虫を噛み潰し、倒したい気持ちに荒ぶる剣。
更に逃走による猛ダッシュの連続から、彼の息にも乱れが生じて切れ切れになっている様子が桜にも伝わった。
「剣さん落ち着いてください。みのりさんが心配なのは分かりますが、目先の試練を超えないことには始まりません」
「そんなん分かって………いや、桜の言う通りや。みのりが攫われてから、俺が冷静さを欠いてるのが嫌でも感じるわ」
昔の剣ならば、意地を張って自分の情緒を無理やり捻じ曲げてでも正常に保とうとしていただろう。
度重なるゲームでの経験則から、自分の精神が不安定である事を彼は既に察していたのだ。
「剣さん、プレイギアWATCHを出してください」
「ん? 桜が居るからマップアプリ要らんやろ」
「違います。他のアプリケーションに『ハートテスター』を開いてください」
剣は桜の言われるままに、左腕のプレイギアWATCHの画面のアプリから、ハートのマークが目印の『ハートテスター』を起動する。
すると、画面ではテンポ良く一本線から変動する波長の流れが映し出された。早い話がこのアプリの内容は心電図だ。
「何だよ、これじゃ俺医者に診察されてる気分じゃんか」
普段の正常な人の心拍の波形は、一定の距離で針を描いたような形になっている。
しかし今の剣の心拍は、まるで剣山かと見まごう程に一拍の呼吸のペースが早かった。これは急激なストレスによって生じる頻脈性による呼吸の乱れである。
(やはり……強がってはいるけれど、みのりさんが攫われたショックで精神にも影響されているわ)
桜は銃司の護衛と同時に、精神のケアにも携わる程に医療系に長けていた。
ゲーム戦士にとって精神はゲームに大きく左右する要素であり、過度なストレスは心身にも影響する。
剣にとって、無意識に心の支えであったみのりを失った今、何をされているのか分からない不安と怒りに駆られて不安定な情緒になっている。
このまま試練に進めば、おそらくは聖剣を手にする事すら望み薄になってしまう。そう感じた桜は、剣にある方法を提案した。
「剣さん。今から私が今後のゲームにリラックスして望める為のケアを施します。どうか心を落ち着けて、万全の状態で挑んでください!」
「ケアって……この修羅場のど真ん中でか!?」
余りにも場違いな展開に剣は困惑したが、彼女の言う通り今の精神状態では攻略不可と考えた彼は、潔くそのケアを受けることに。
とは言っても、そのケアは誰でも出来る簡単なもの。
先ずはゲームの疲労による脳を休ませる為に糖分摂取。板チョコを一切れずつ味わいながら食べる。
その後は呼吸の調整を合わせた精神統一。
3秒間鼻で息を吸って、そのまま3秒間息を留めた後で、5秒間ゆっくりと鼻から息を吐く。これを何度も繰り返す腹式呼吸法だ。
その合間に桜は、剣の長い首と肩を丁寧にマッサージしていく。
我々ゲーマーの悩みのタネである『ストレートネック』を改善させるツボも桜は知り尽くしていた。
「……いつもこんなんを銃司にやってんのか?」
「はい、ストレスはゲーム勝利への大きな壁と言われていますから。剣さん達と決闘に挑む際も、いつも私がケアしていました」
桜のか細い手からは予想も付かない、力強い指圧によって肩を押されて剣は悶絶しつつも、桜は本心を彼に言い諭した。
「……私は、銃司様と剣さんが正々堂々と本気で戦っている所を見るのが楽しみなんです。
二人共私にとって敬意ある人ですから、敵味方関係なくどちらも応援したくなっちゃいます。私に今出来ることがあるとすれば、剣さんには元気なままでゲームに挑んで欲しい。
―――こんな私でも、貴方の大事な人になれますか……?」
「………………」
桐山剣を気にかけてくれる者は、最愛の友人達だけでは無かった。本来敵同士であった者が、ゲームを通じて心を開き、こうして身を呈して御奉仕してくれる。こんな縁は中々導かれたものではない。
だったらこれ以上クヨクヨしていられない。最大の好敵手を超える為に、己を誇れる切り札騎士を目指す者ならば……!
「―――何を血迷ってたんだか。俺はメイドちゃんに心配される程、堕ちちゃいねぇぞ!!」
気付けば、プレイギアWATCHの心電図からは正常な脈拍波形が取られていた剣。一時的だが覇気を取り戻した剣に桜はホッと安堵した様子であった。
こうなれば一安心と、再び二人の足取りが軽くなり先へ進もうとしたその時。
「………聞こえますね」
「足音。それも一人じゃない、三人くらいか……?」
耳を澄ませば聞こえ来る、軽快なテンポで三重音を奏でる足音がこちらに近付く音が……!
気合戻ってまた一難、剣と桜に再び【シャドウ・D】の魔の手が迫るのか!? 丁度読み終わりの時間となりました。――本日のゲーム、これまでッッ!!
▶▶▶ TO BE CONTINUED...▽
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