【GAME50-6】家系より受け継がれしPAS!!
―――遂に、早瀬ハルのPASを見破り、パーミッションの強固な防御からなる沈黙も破られた!
早瀬に強烈なダメージを繰り出した桐山剣の右手には、起死回生の勢いで繰り出した《ファイティングブレード》の刃、そして左手にはガッツポーズの握り拳だ。
〔桐山剣 HP1000〕
〔早瀬ハル HP900〕
かくして、HPも逆転リードした事により、桐山剣に勝利の光明が見えてきたのでありました!!
「早瀬さーん! これでもまだPASの力では無いって言いはりまっかー!?」
あれだけ否定した早瀬の事あって、剣も念押しに構えてはいたが……もうそこまでは彼女とて意地っ張りでは無かった。
「………いいえ、もうここまで看破されたのでは隠す必要もありません。剣さんのお察し通り、私のPASである【HDD】の能力で貴方のカードデッキの順番を記憶していました」
「ソイツって具体的にゃ、普通の人より記憶の集積に長けてる能力って事っすか?」
「正確には“一度この眼で見たものを決して忘れない”という特性を、私は生まれながらに持っているのです」
―――PASの覚醒には、人それぞれ個性がある。
例えば剣の場合は、ぶっつけ本番の真剣ゲームにおいて突如として覚醒したのに対し、早瀬は生まれて直ぐにPASを覚醒させており、成長と共にその力はゲームのみならず日常にも影響されるようになったとか。
言うなれば、我々が覚えているはずもない一歳二歳の幼少期の思い出も彼女は鮮明に思い出せる程に記憶に長けている。大型記憶集積回路は伊達じゃない。
「この能力は、私の家系である“早瀬家”のみが受け継がれた希少なPASです。この能力があったからこそ、この超次元ゲーム時代の歴史を残す編纂に大いに役立ったのですから」
“編纂”とは、多くの材料を集めてそれに手を加え、書籍や記録の内容をまとめることを言うんですよ。早い話が編集作業のことですな。
「ゲーム時代の歴史って事は、もしかして早瀬さんのご先祖様も同じ様な能力を持ってたって事すか……?」
ここは早瀬本人でなく、ゲームマスター・蒼真が代わりにご説明を。
「先祖といっても半世紀の範囲に限った話だがな。まだ超次元ゲーム時代が形成されてから五十年しか経ってない。だがそいつのPASは間違いなく、直属の血統から継がれた遺伝……ゲームの能力を司る遺伝子【GNA】より継承されたものだ」
(【GNA】、亡くなった六人の兄妹の能力を継いだ穂香みたいなものか……!)
人の個性は子に幾らか似ているように“遺伝”として受け継がれるものだが、ゲーム戦士の能力・PASも然り。
剣と同じくシャッフルメンバーの大森穂香も、早瀬ハルも、父と母やそれより前の代より継いだPASで覚醒されるケースがある。
それが、ゲーム戦士に宿る特異遺伝子・GNAによるPASの継承であります。
「……でもさ、そんな大層な能力をそんな狡いやり方で使うってのは正直頂けねぇな。ゲームやってて一番歯痒く感じちまった」
攻撃したくてもガードされ、突破口を見出しても妨害される。更にはデッキの中まで見透かされるようなゲームではずーっと目に見張られているような感覚に苛まれたようで、剣とて良い気分には到底なれなかった。
「………やはり、試練とはいえ貴方に気分を害してしまいましたね。私とてこのゲーム戦士の能力を受け継いだ身分として、どうしてもここで活かしたかったのです。……でも結局は姑息な手段。貴方の矜持とゲームを侮辱する行為でしか成立しないのです。申し訳無い事をしてしまいました」
あら……早瀬さん、癖ありと思っていましたが、やはり自分のやった事には深く恥じていた様子で。これではこちらがスカッとした気分も少しだけ申し訳無い気持ちになってしまいます。
こういう時、皆様はどんな言葉で返しますか? 桐山剣はこれに対して、こう答えました。
「何を謝ってんすか、早瀬さん。俺が頂けないと言ったのは中途半端なプレイの事っすよ」
「………………!?」
何と! 桐山剣は早瀬の嫌らしく狡猾な手筈を批判するのではなく、その全くの逆。『もっと本気になれ』と言ってくるではないか!!
「貴方ゲームは初心者と称しても、知識は滅茶苦茶あるじゃないすか。センスも十分だし、それでもこんなシンプルに仕掛けるなんざ、恐らく社長に釘刺されて手加減してるとちゃいまっか?」
それは……本当なんですか? 早瀬さん。
「……仰る通り、私のPAS能力は試練のレベルに置いてキャパシティを超えるものと判断した本宮社長が、分かりやすいやり方で制圧するようにと許可されたものです」
確かに、テラバイト級の容量を集積するHDDのPASですもんね。社長がリミットを掛けるのも分かります。
「しかし意外でした。桐山剣さんは正直短気な性格で、このような姑息な手段を大いに嫌う方と思ってましたが……」
「………例え汚い相手でも、知恵巡らせて乗り越えていくのが強いゲーム戦士ってもんでしょうに。俺は貴方以上に、ムカつくし腸が煮えくり返る奴等と何度も戦ってきました。でも振るう拳は八つ当たりも抑えて、全てゲームでブツケてきたからこそ今の俺があるんです」
それは今の剣だから言える、経験則の培った者にしか分からないレベルの違いを思わせた一言であった。そう、3年分闘志を燃やし戦い続けた主人公として……!
「それだけ剣さんは、ゲームに命を掛けてきたんですね。しかし私はあくまで、自分の能力を試したかっただけです。貴方のように闘志を込めて戦う理由なんて―――」
「無理は禁物っすよ早瀬さん。シナリオライターとか創作者ってのは座って筆で勝負する仕事だから、自分のストレスを制御出来ずに心身弱ったりしやすいってのを聞いたことありますよ。うちの作者もナンボ頭イカれそうになったか」
それでも慶さんが3年以上執筆出来ているのも、読者の皆様の応援あってこそですよ!
「無理なんて、私は別に……」
「ただでさえ“コンプライアンス”とか“規制”とか、自分の書きたい文が書けないで不満溜めてるのにまだ我慢してんすか貴方は。大人ってそんなにストレスを溜めたいんですか?」
……あ、ヤバイ。剣さんの変なスイッチが……
「貴方“早瀬家”ってのを誇りにしてる分、相当プライドが高そうですしねぇ。その身分の高さを利用して、気に入らない相手を毒吐いてて、かなり性格ひん曲がってんじゃないすか? 貴方を慕ってる友人もその圧にやられて仕方なく付き添ってんじゃないすかぁぁぁぁ??」
「………………………………………………………………」
……これはアカン。桐山剣のこの上ない挑発スキルによって早瀬の眼に光は薄れ、作り笑顔だけが残った抜け殻と化している。
(しかもそれが全部当たってるから、余計にな)
マジっすか蒼真さん。
「捻くれサディスティックライターのゲーム、上等じゃないすか。それで負けたら俺はそれ以下だって認めますよ。ここは身分の差も関係ない決闘だぜ。
余計な気回しも遠慮も全部シュレッダーに食わせて、存分に掛かってきて下さいよ早瀬さん! この切り札騎士が存分に叩き斬ったらぁ!!」
コンプライアンスクソ喰らえ。若気の至り故に非常に清々しくも破天荒な桐山剣の威勢に、恐ろしい笑みを浮かべたままの早瀬の眼が、熱にも帯びた視線へと変えていった!
「……本当に面白い方。大人特有の姑息な手段を否定せず、尚強く戦いを求めるなんて! この私を格下に見下げるような貴方も負けず劣らずの傲慢小童ですねぇ……!!」
「俺も成長してる割にそこだけ三年間変わってないすからねぇ」
真っ直ぐな熱血漢の剣ですが、こんな欠点も個性の一つ。それは何年経とうが変わらないのかも。
「良いでしょう。私も本音本心貫き通すのが一番私らしいですから! 遠慮なく、私の持てる実力を存分に貴方にぶつけましょう!!」
「―――――そうこなくっちゃッッ!!!」
掛かってこいや本音上等! 鬱憤なんざぶっ飛ばせ!!
心躍らにゃゲームじゃないぜ、騒ぐ魂決闘で燃やす!!!
ゲームウォーリアーははっちゃけた時が本当の勝負、さぁ手番を握るは早瀬ハル、次は何を仕掛けてくるのか!? ――本日のゲーム、これまでッッ!!
▶▶▶ TO BE CONTINUED...▽
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