【GAME50-5】史上最強のシャッフル!!
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――それはまだ、桐山剣の親友・天野槍一郎が試練に出かける前。剣の必殺奥義【切札騎士剣武術】を習得すべく二人で特訓をしていた頃。
………いや、ごめんなさいね。『ゲームの途中で何を回想入ってんだ?』って言いたげですよね読者の皆さん。そんな睨んじゃイヤ! まぁそれはさておいて。
早瀬ハルのPAS【HDD】によって、デッキの中だけでなくそのカードの順番すらも記憶してしまう能力を打破すべく、桐山剣はカードデッキを取り出して“史上最強のシャッフル”なるものを繰り出そうとするのですが――?
そこからの回想で意外な伏線がある、っと考えてくれれば幸いです。
『……ふぅ。僕から言うのもなんだけど、ホントに君は剣筋が冴え渡ってるというか……剣術に関しては才能があるよ本当に!』
『よせやい槍ちゃん! 槍相手に弾かれっぱなしの俺に言う台詞じゃないぜ』
彼らの特訓の場所は、豪樹さんが経営するゲームジム『ビッグウェーブ』のシュミレーションルーム。VR空間で広がった四角形の個室でカードブレスを装着し、各々がカスタム・ツールカードを発動させて武器を携えて、ひたすらにその武器の太刀筋の鍛錬。剣と槍一郎の場合は、その名の通り剣と槍との鍔迫り合い。
剣は剣武器の《ファイティングブレード》を、槍一郎は槍の《トライデント》で必死に稽古しているが、靭やかな槍一郎の槍術に剣のブレードは弾かれる始末であった。
『僕の槍は両刃剣と違って、攻撃軌道が特殊だからね。突き刺すよりも、敵の武器を手元から薙ぎ払う事にも特化されているんだ。僕が剣のブレードを弾かせるのは、本当にやられてしまう危険を払うための最終手段さ。剣は僕をそうさせるまでに剣術の勢いが強くなったんだよ』
『そんなもんかね、弾かれちゃ元も子もねぇが―――ッ!』
またしても謙遜で受け流す剣だったが、槍一郎の元に近寄った時、槍を持っていた彼の両手が赤く腫れ上がっているのに気付いた。
剣の刃と槍一郎の刃が迫り合った瞬間に、武器を握る両腕から伝わる衝撃が、明らかに剣の方が上回っていた証拠であった。つまりは槍一郎の方が、先に武器を弾かれると悟った故に、彼は剣のブレードの柄から手を解くように巧みな槍術で弾かせたのだ。
この時点で武器のパワーは、剣の方が勝っていたのだった。
『……これで、僕が君に嘘を言わないことが分かっただろう?』
『あぁ、確信したよ。疑ったりして悪かった』
自分への謙遜から自信に変えてくれた槍一郎に謝る剣。一旦二人は鍛錬を止め、武器を収めて個室内での休憩に入った。
『ここまで僕を追い詰めたんだ、僕から君に教える剣術はもう無いかな』
『え〜!? そんなんつまんないぜ、もっとゲームに使える技とか無いんか?』
『もっと習得したいなら、今まで吸収した技術を応用すれば良いじゃないか』
『応用って何を?』
『このゲームジムや様々なゲームで培ったスキルで、トレーニングした成果を何かに活かすんだ。僕の手を真っ赤にする程に強くなった君の手先と腕は、剣術の為だけに使うのは勿体ないよ。剣だったら、この力を他に何で使えると思うかな?』
『あ〜、そーやな……カードデッキのヒンズーシャッフルかな。あれって結構手首使うやん』
“ヒンズーシャッフル”は、トランプやカードゲームで使うカードの束を中から上に持っていくようにシャッシャッと混ぜ合わせるシャッフルの事。一般的なのはこの混ぜ方と言いますが、カードゲームの玄人からは余り混ざらないデメリットから避けている人も居るんだとか。
剣は深く考えず、当てずっぽうにシャッフルを選んだが、槍一郎はその答えに同意した。
『良いじゃないか! それだったら剣は今度は完璧なシャッフルを編み出せば良いんだよ』
『ふぇっ!? いやいや冗談やって! 第一カードスキャンブレスにゃ自動シャッフル機能付いてんねんし……』
『役に立つかどうかは、やってみなければ分からないじゃないか。自動機能付いたって、それが完璧に混ざって相手に悟られないとも限らない。PASの力もあるんだしね』
『―――!』
『……剣、僕は君の持ち味である“強運”の力ってのは、僕や他の仲間から会得したゲームの技術を、君は食わず嫌いせずに全部吸収したから得たものでもあるんだよ。受け取った経験値は絶対に裏切らない。もしかしたら意外な所で、大事なゲームを突破する鍵になるかもしれないからね』
『“受け取った経験値は絶対に裏切らない”か……』
『そうとも。みのりちゃん達から貰ったものや、銃司との決闘で得たものも全て君の経験値になる。勝利報酬なんかよりも断然価値のあるものさ。
………僕も、その経験値の一つになってくれたら嬉しいな』
『…………………』
この言葉の後、心做しか笑顔から曇りかかったような槍一郎の表情が、横顔として剣の眼に焼き付けていた。
その顔は今も尚脳裏に浮かび、剣は槍一郎の言葉通りに仲間やゲームで得たものを全て自分の技術として身につける努力をした。勿論突拍子に浮かんだシャッフルの案も。
信頼できる仲間の一声は、剣にとって勇気付けるだけでなく、彼自身の魂を鍛え上げるものにもなっていく。
―――その結果、13種にも渡る桐山剣だけの剣術必殺奥義【切札騎士剣武術・十三騎の陣】の完成に導いた。その技の一つが、“史上最強のシャッフル”と豪語する究極のシャッフル技だ!!
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―――代わって舞台はゲームワールド・コロセウム。
桐山剣印の真っ赤なカードデッキから取り出した40数枚のアメイジングカードの束。
それを左手の平に添え、剣は目を瞑り精神統一の構え。そしてその様を蔑むように見つめるは早瀬ハル。PASの力でこのカードデッキの順番を再び記憶するつもりか。
早瀬はおろか、傍観するゲームマスター・蒼真すらも、PASを使わないシャッフル技では到底死角を破れんと見ていたのだろう。だがそれでも剣はこのシャッフルに賭けた。
槍一郎の願いと、自分に対する極限の挑戦を、こんな形で無駄にはしたくない。そんな純粋な願いが、桐山剣の華奢な腕に力が漲り―――常識を覆す新技が炸裂する!!
ヒュッ………!
「………!?」
剣はボールトスの要領でデッキの束を放り投げ、カードが空中を舞い、剣もその束に向かってジャンプしたその刹那ッッ!!
「切札騎士剣武術・七騎の陣!! ――――【七星出月・超燕返し】ッッッ!!!!!」
―――――シュバババババババババババッッッ
天に舞い上がる宝札の星雫。それを桐山剣は更に細かく刻み込むように、手刀を左右小刻みに振るうことによって、カードの裏表の絵柄が全く見えない残影のフィルターと化す。
この鍛え上げられた剣の手刀と、剣の真心から決してカードを傷付けない加護により、散りばめられたカード達は再び一つの束となりて剣の手に収まり、地へと降り立った。
カチャッ、ピキュィィィン!
そしてまた収納されたカードが入ったデッキケースが、ブレスへと装填されていく。果たしてこの荒技が、早瀬ハルのHDD・PASの記憶集積能力を超越したのでしょうか………!?
「………な、何てこと……?! 私の【HDD】を持ってしても、速すぎてカードが見えなかった…………!??」
―――仲間から受け取ったプレイングセンスが、PASを超えた!!!!
(槍ちゃん……、ありがとうな!!)
早瀬のその反応を見るや否や、忽ち浮かび上がる剣の恍惚な笑み……!!
《CARD DRAW》
そしてその成果を確実に確かめるかのように、舞い降りたカードドロータイム。カードを受け取った剣は直様ブレスへとスキャンする!
『カスタム・ツールカード、【土壇場の馬鹿力】!!』
◎――――――――――――――――――◎
<カスタムツール・カード>
【土壇場の馬鹿力】EG:④
属性:赤 装備:プレイヤー/ユニット
効果:装備したプレイヤー及びユニットは
自分のHPが相手のHPより少ない場合、
AP+1000される。
◎――――――――――――――――――◎
〔桐山剣 AP100→1100〕
散々プレイヤースキルやら妨害カードやらで攻撃が無効にされた剣は、その憂さを晴らすべくこのカスタム・ツールカードを剣自らに装備。持ち腐れていた《ファイティングブレード》の刃に煌めきが戻り、早瀬の【守護霊のカーテン】を飛び越えて桐山剣は特攻する! 世界はこの一撃を待っていた!!
「うぉらぁああッッ、締切とっくに過ぎてんだろうが、原稿書けやサディストライタァァァァァァ!!!!」
作家にとっては嫌な攻撃宣言だ………
――――SLASH!!!!!
「く……ぅぅっ………!!」
〔早瀬ハル HP2000→900〕
「しゃあああああああああッッッ!!!!!」
早瀬、遂にファーストダメージ付与! しかも剣のハーフダメージを超えてリードも許した!!
ようやく与えられた会心の一撃、痛めつけられた仕返しを果たした剣の両手から力が溢れ、血湧き肉躍る!
「……………お見事、です……!!」
完全と立ち上がった切り札騎士・桐山剣! この修羅の先に待ち受ける次なる魔の手は何か! ――本日のゲーム、これまでッッ!!
▶▶▶ TO BE CONTINUED...▽
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