【GAME45-9】この修羅を制圧したのは誰か!?
――小原恵美こと『茨木姉御の小原』、精神崩壊の心に光が戻り奇跡のPAS復活!!
暴走族の装束は廃れたが、心にはクリームイエローの淡き黄色。更に地底空間にて何処から駆け寄ったかPASの鼓動に導かれ、ナナハン引っ提げ集結した暴走仲間がエンジン轟かせて小原を鼓舞。だが地底なので音響いて喧しい。
バイクで繋がった絆は硬く、同胞達から託されたアメイジングカードが一枚一枚積み重なり、空っぽのカードホルダーにしっかりと50枚のカードデッキが完成。裏プレイヤーを救う為に、小原が変わって龍牙に決闘を挑む!!
「オイオイオイ……、暴走しか頭にねぇような同類集めてデッキ作成か? 目的無しに集めても紙束にしかならねぇだろ」
龍牙が呆れ返るほどに強引な決闘参戦。ゲーム前にPASのエネルギーを使い、その目的が50枚のカードを集めるだけに、無作為にデッキ作成した事が如何に無謀な事か。
「無謀で結構カッコウよ。あたいが一からスタートするには丁度いい条件だろ。お陰で世界の視野が地平線の彼方まで良く見える」
これも、小原自身の罪償いの現れでしょうか。カードゲームの初心者のようにカードを寄せ集めて、見様見真似にデッキを作る。力が正義と信じた鬼が、初心返りのチュートリアルだ!
「………………面白ぇ」
そんな小原の心構えに龍牙は感化されない筈が無かった。自分はおろか旧友敵の桐山剣も過去に培ったものを全て崩し、やり直すべく仲間を作り或いはスカウトされ、這い上がってきた故に現在がある。
小原の置かれている状況がリンクし、他人事には思えなかったのだろう。己自身から刃を小原に向けた。
「決闘受けてやるよ。アイツみたいにチンケな盾かざしてる野郎が、この地底空間の狂犬の俺を止めてみろや!!!」
桐山剣と似た騎士道精神をぶっ潰したい一心に刃が光る忍野龍牙。対するは茨木童子の魂を引っさげた暴走鬼。制するのは誰か。
「「アメイジングバトル! READY!!」」
『――――START UP!!』
「うぉらああああああ!!!」
「っと!?」
おおっと!? いきなりタコ殴りだ小原!! 龍牙が丸腰な所を狙って序盤からHPを荒削る気だ!
『ユニットカード、【フライ・ドローン】!!』
だがここで龍牙も素早い対応だ、EGが0の超軽型ユニットを出してのガード。
◎――――――――――――――――――◎
<ユニットカード>
【フライ・ドローン】EG:0
AP:0 DP:100 AS:0
属性 無 ユニット/アーティファクト
効果:[フライヤー]
◎―――――――――――――――――◎
「ちぃっ、ハエもどきがちょこまかと……」
これでは小原の格闘攻撃も対象が増えて思うように龍牙に攻撃出来ない。一旦間合いを置いての小原によるユニット召喚!
『ユニットカード、【ゴブリン盗賊団】!!』
赤属性の代表兵ゴブリン、名前からして聞こえは良い方だなのだが……
◎――――――――――――――――――◎
<ユニットカード>
【ゴブリン盗賊団】EG:①
AP:100 DP:100 AS:5
属性:赤 ユニット/ゴブリン
効果:なし
◎―――――――――――――――――◎
何と特殊効果が皆無のバニラカード!
「……プッ、クハハハハハハハハ!! 雑魚おおおおおおッッ」
呆れ笑う程に煽る龍牙。PASで導かれた同胞から貰ったカードの筈が、信頼には程遠いコモンカードを掴まされた。しかし当の小原は自分の能力のデメリットは分かっていた。
(苦肉の策なのは分かってはいたさ、個性も強さもバラバラな仲間から掻き集めたデッキが全部テーマに沿ったヤツな訳が無い。分かりやすく言うなら、中古30円カード売り場から50枚引っ張り出してそのまんま戦うようなもんさ)
それは確かに苦肉の策ですね……
「掻き集めのデッキだろうが、俺様は手加減せぇへん。盾掲げたからには全力でそれを壊すだけや……!」
殺気ギラギラの龍牙のカードスキャン!
『ユニットカード、【かまいたち忍】!!』
◎――――――――――――――――――◎
<ユニットカード>
【かまいたち忍】EG:④
AP:200 DP:200 AS:5
属性:黒 ユニット/シノビ/イタチ
効果:[シノビ变化]EG:③
①このユニットが攻撃で相手プレイヤー
にダメージを与えたとき、
黒属性以外のユニットを1体破壊する。
◎――――――――――――――――――◎
「オラァ、そのまま切り刻め!!」
―――ザクッ!!
「くっ……!」
〔小原恵美 HP1700→1500〕
「《かまいたち忍》の効果。相手プレイヤーにダメージを与えた時に黒属性以外のユニットを破壊する。《ゴブリン盗賊団》の肉ごと抉り裂け!!」
何をえげつない破壊指令出してんですかアンタ!
だがユニット破壊でも狼狽える暇は無い。小原は蓄積したEGを使って、またユニットを召喚する。
『ユニットカード、【ゴブリン傭兵】!!』
またしてもゴブリンユニット。とにかく軽いEGで場の雑兵を束ねようという考えなのか小は
―――バシュッッ
「うわッ?!」
おっとどうした!? 召喚したばかりの《ゴブリン傭兵》が突然手札に戻った! ブーメラン帰宅か!?
「ボケェ、単に俺様がアクションカードを出しただけの事や」
◎――――――――――――――――――◎
〈アクションカード〉
【強制帰還】EG:①
属性:青
・効果:フィールド上のユニットを1体
持ち主の手札に戻す。
◎――――――――――――――――――◎
単純明快バウンスカード、《ゴブリン傭兵》の召喚を見計らってのアクションカード発動。目にも留まらぬ起動速度に小原の緊迫度も高まっていく……!
「まだまだぁ……、俺様はもう一体の忍者を出すぜ」
『ユニットカード、【渇望の忍者】!!』
◎――――――――――――――――――◎
<ユニットカード>
【渇望の忍者】EG:③
AP:100 DP:100 AS:5
属性 無 ユニット/シノビ/ヒューマン
効果:[スピードサモナー](この効果を持つユニットはカウンター・レスポンス時でも召喚が出来る)
①このユニットが攻撃で相手プレイヤー
・ユニットにダメージを与えたとき、
自分はカードを1枚ドロー出来る。
◎――――――――――――――――――◎
片やかまいたち、片や金欲に飢えた忍。二体の忍者が動けばもれなくユニット破壊とカードドローの恩恵あり。効率良く動き、攻撃すればメリットが付く忍特有の効率特化ユニット。邪魔が無ければとことん好き勝手が出来る。これだけでも小原の首が忽ちと締められていくのだ……!
「小原、さん……!」
そんな不安極振りな決闘を只々見守るだけのエンヴィー。その周囲では龍牙によって、負傷したキザン達がようやく意識を取り戻した。
「ぅ、ん……! これは……」
「キザン! 気が付いたのね。今小原が私達を守る為に決闘を……!」
「……こりゃたまげた。まさか東の鬼ゲーム戦士の小原恵美が助けてくれるとは……!」
「でもありゃマズイね。小原姐さんのデッキ、コモンカードばっかりで勝ち筋が全く見えねぇよ」
「全ク、同感ダ」
エンヴィーやキザン達にも立ち籠もる不安。それも小原は分かっていたのか、ただ黙々とカードを回し、戦いに徹するのみだった。
「……やっぱ強さは正義だよなぁ? ゲームに勝てりゃ盾をかざしたお前なんざ、棍棒の無い鬼みたいなもんだ!!」
遂に龍牙の戦場にフィニッシャー、切り札級のユニット【黄泉返りの忍者】まで召喚され、完全に決闘の全てを制圧された! 忍者ユニットによる一斉攻撃に為す術もない小原は、その刃に脆くも斬り刻まれるだけであった……!!
〔小原恵美 HP800→100〕
「何が鬼の魂だ? 強さに自惚れて酒ばっか呑んだくれてるようなクズが、人間様の握った刃で片腕を斬り落とされるのがオチだってのがまだ分からねぇか。ハローワーク行って人生やり直してこいやババア!!!」
年上の者に対しての暴言が凄まじいが、ゲームで罷り通る世の中で、本気で強くなろうとする者の言う事は断然説得力があるのは確かだ。
だが龍牙に首を絞める運命がほぼ確定したとしても、小原には魂に掲げたプライドがあった。
「―――鬼は常に強くなきゃならねぇ。たとえあたいが底辺まで落ちぶれた程度で、相手に背を向けて逃げる事は終生の恥を意味する。負けようが、それでくたばっちまおうが、最期にでも笑えた奴が本当の勝者ってもんだろうが!!!!」
退かぬ、媚びぬ、省みぬ。何処かの帝王がそう交互するように、近未来で抗う鬼のゲーム戦士にも揺るがない矜持は確かにあった。
―――――だが…………
「だったら俺様が笑ってやるよ。お前の最期に対してな……!!」
◎――――――――――――――――――◎
<カスタム・ツールカード>
【シノビブレード】EG:④
AP(攻撃力):150 PP(使用回数):20
属性:黒 装備:プレイヤー
≪必殺技≫
『中秋の冥月』EG:⑥ AP:300
・広範囲三日月形に斬撃を与え、
10%の確率で即死させる。
◎――――――――――――――――――◎
ドスッッ………!!
「ぐ、ぶぁああ…………!!!」
〔小原恵美 HP100→0 KNOCKOUT!〕
龍牙の片手に忍刀。小原の腹部から鈍い音を放って血飛沫エフェクト。小原恵美、圧倒的なる大敗。
(……つまらねぇ。大した抵抗も無く沈みやがったか。肉壁にしちゃ無様この上ねぇだろ)
戦いのエクスタシーを求める龍牙にとって、全く足しにもならない消化試合。小原に微かな同情を込めながら白け顔で倒れた小原の面を拝むならば……
「………は、ははは、あははははは……!!」
戦い破れて乾いた笑い。有言実行、最後を笑いで締めた小原の眼には薄っすらと悔し涙が浮かび上がっていた。
「また負けちまったなぁ……、お前も強ぇなぁ――――!!」
そう捨て台詞を溢して小原、気力が切れてバッタリと尾羽打ち枯らす。
「小原……!!」
今さっきまで精神を立て直したばかりの小原にとって、満身創痍そのものであったにも関わらず、一片もダメージを与えられずに惨敗に期した。意地っ張りのプライドが傷付かない訳もない戦いに、身を挺して挑んだ意味は何だったのであろうか……?
「こんなつまらんゲームにアンティを賭ける気にもならねぇ。暫くそこで寝てろ」
憎み口を吐き捨てる龍牙に対し、小原は僅かに喋る気力を残しつつ最後の抵抗に物申す。
「そう、言ってるのも今のうちだ……! 後悔するなよ狂犬忍者……!!」
「……あ? この期に及んで負け犬が何を吠えてんだクソボケぇ………………………………」
―――その時、龍牙の背後から黒い影が覆われている事に気付いたその刹那……!!
ゴスッッッッッッ!!!!!
龍牙の後頭部から降り注ぐは隕石級の拳骨! それを交わす隙もなく直撃した龍牙は即死も心配されるような鈍い音を立てて卒倒。その豪鬼も見まごう怒りの拳をぶつけた者は何と……!!
「「「大山さん!!!!??」」」
地底はこの女将が来るのを待っていた!!! B3層の主、酒呑童子のPASを宿した女将ゲーム戦士・大山杏美が駆け付けてきた!!
この哀しき修羅場を制圧出来るのは彼女しかいない、次回・終結の時! ――本日のゲーム、これまでッッ!!
▶▶▶ TO BE CONTINUED...▽




