【GAME45-8】甦れ、茨木童子の魂!!
――闇深き地底空間・B2層にて、裏プレイヤーと鳳凰堂孔雀の刺客の忍野龍牙との凶暴なる攻防戦を繰り広げていた頃。それを面白半分に高みの見物をしてる外道・ザ・外道な者が居た。
B1層にて裏ゲームを引き起こした張本人、テロ集団『サザンクロス』の幹部・デルタのデクルックス。灰色のタキシードよりもドス黒い性根を持ち合わせた愉快犯。そして何を思ったのか、自ら彼に接近した小原恵美も一緒だ。
「とまぁ何はともあれ、アンタが無事で良かったよ、小原の姉ちゃん。運が悪かったなーあんな中途半端なデッキじゃなくて、僕が残り半分の報酬あげれば勝てたのに」
そうなんです、あの復讐神のデッキを渡したのはこのデクルックス。しかも故意的に半端なデッキを渡している所が性根のひん曲がった証拠。それでも小原はただ無言で彼の減らず口を聞き入るだけ。
「しかしあのおっぱいデカいゲーム戦士も馬鹿の甘党だよな。『サザンクロスと協力しない』だなんて抜け道なんか腐るほどある。姉ちゃんは鳳凰堂孔雀に復讐する、それを僕が自ら手を貸すだけ。こっちから動いてりゃアンティなんて口約束に過ぎないんだよ」
「………あぁ、ソウだな」
ルールが絶対のゲームアンティとて、頭の使いようによっては通り抜けも容易く熟す。悪知恵には頭が切れるデクルックスにルールの制約は通用しなかった。
「お前から手を貸すのだったラ、アノ連中は助けないのか。お前も目の敵ニしている鳳凰堂の手先に追われてるんダぞ」
「……は? 助けて何になるの。確かに一人の狂犬くらい余裕だけど、それをする義務も義理も無いじゃん。てか逆に聞くけど、姉ちゃん自身が他の仲間を助けた事が一回でもあんの?」
心真っ黒人間は、人の揚げ足の取り方までも黒い。妙に的を得ている部分をわざと突く所からまずブラックなやり方。だが短気な小原は否定しなかった。
「…………確かに無イ。あたいの気まぐれに割り込んで喧嘩を激化した事はあるケドな」
実に小原さんらしいですね。
「だろうね。僕らみたいなルールに縛られない奴にとっちゃ、自分の信じたものだけが正義だからね〜☆」
「………それモ、そうダナ……」
もしその理屈が通るならば、“強者の都合”だけが受け入れられる事が世の中の正義なのかもしれません。しかし弱者が這いつくばって懸命に生きる様は、強者側にとって滑稽な玩具にしか見えないのでしょうか。
「見てみなよ、あの裏プレイヤー達の沈みよう! 前まで自分も裏ゲームで良い気になってた癖に、今じゃ自分の立場守るだけ。弱者が群れて馴れ合って必死になってら。もう強い奴に命乞いしないと助からないね、やっぱ強さって大事だよね〜〜☆☆」
キャリア社会で生き抜いた高学歴者が、無学な人を蔑んでいるかの格差にも似たデクルックスの嫌味な笑い。それに対し小原は無情にそれを眺めるだけ。
「あ、そうだ。忘れない内に残りの報酬分のカード全部姉ちゃんにやるよ。約束は約束だからな」
外道だけど約束には律儀なデクルックスは、アメイジングカードの束をそのまま小原に投げ渡す。そのカードの内容を広げ見るならば、小原の恍惚な笑みが復讐への期待を物語る。
「……凄ぇ! コレダケのレアカードなら、前ヨリもっと強くなれる。これなら穂香だけでナク鳳凰堂のガキにも……!!」
「そうだよ、その気迫を待っていたんだよ【茨木姉貴の小原】さん。あんたみたいな奴こそ鳳凰堂を殺すにはもってこいだ。僕が受け入れてあげるよ」
サザンクロスと鳳凰堂を配下に持つWGCとの全面戦争を企むデクルックス。これも最高幹部や同胞からの命令なのかはさておき、危険思考の塊に仲間が増える事は新たな刺激を生むことに違いない。
―――だがその時、小原の脳裏には数刻前に戦った大森穂香の言葉が突き刺さっていた。
『鳳凰堂さんに力を奪われても、小原さんをよく知る方なら今を認めて、受け入れてくれる筈です』
「―――――“受け入れる”、ってか?」
「そうそう、そうこなくっちゃ! WGCも地上のゲーム戦士も全部ぶっ潰して、僕らサザンクロスの時代を作ってやろ―――――――」
バシッッッッ!!!!!!
凄まじい程に張りのある音と、同時にデクルックスの顔から飛び散るカードの花吹雪。
彼の顔面へ殴打された跡には四角いカードの型、パラパラと舞い落ちるキラ加工のレアカード達が彼の周りに落ちてはバラ撒かれた。
「……………………………………何すんだよこの◯◯◯◯」
※余りにも酷い暴言なので、小説内では表現修正を施しています。
「◯◯◯◯はお前の方だろ、●●●●が」
伏せ字を伏せ字で返すな!!
「“弱者は群れて馴れ合う”。当たり前だろ、人間ってのは一人じゃいきてけないからよ。B1層も地上の奴らも群れて強くなった気でいやがって、エンヴィーの小娘らも悪あがきしたって惨めなだけなのに。
―――だが………最低なあたいと、最悪なお前になんか、一片も非難する資格はねぇよッッッ!!!!!」
その時我々は奇跡を見た! 鳳凰堂によって精神崩壊し、PASの力も不十分な状態であった小原の魂に覇気ある波動が彼女を中心に迸っていた!!
それを証拠に不安定な言動や死にかけていた小原の眼が活気に充ち、輝きを取り戻しているではないか!!!
「人間舐めんなよ。弱かろうがハンデ背負ってようが、一歩踏み出して必死に生き抜いてる奴らを侮辱すんじゃねぇ!!!!!」
「――――――へぇ……?」
――小原は変わった。穂香との戦いから自分の信じる強さの意味を知った。己の我儘の為に外道へと逃げそうになった心を踏みとどめた事が、己の魂が応えてくれたのだ。
京の都、朱雀大路の南端“羅生門”に住み着いたと云われる悪鬼、“茨木童子”の魂が小原恵美のPASとして甦った――――!!
「………交渉決裂、ってか?」
「そーゆー事だクソガキ。あたいはここに残ってエンヴィーらを助ける。でないとマジで大山に顔向け出来ないからな」
「でもカードくらい貰っていいんじゃないかなー。でなきゃ助けた所でカス以下の力しか出ねーじゃん。鳳凰堂の復讐はどうすんのさ?」
「ケジメつけんのにクズからのカードは要らねぇよ! それにあたいの復讐は、シャッフルオールスターズの大森穂香との決闘でとっくに終わってらぁ!!」
いよっ、茨木の小原姉貴カッコいい〜!!
「………ケッ、今更会った所で他の連中が受け入れてくれるかな。心壊して力失ったアンタが、テメーのナナハンで群れてくれる仲間なんかどのみち出来ねーけどなァァァァァ!!!??」
「それ、お前にブーメラン突き刺さってねーかい? 胸当てて刺さってるか確かめな、作者の学生時代野郎」
……それって“ボッチ”って意味? ダメですって作者死にかけてますよ!?
「だがそれはあたいにも言えることさ。自分を受け入れようとしない奴が他も受け入れてくれる訳が無い。乱暴だが同胞への情にゃ熱い“鬼”の魂が、そう教えてくれたんだよぉ!! 永遠にあばよ危険思考野郎!!」
茨木童子の魂により覇気を取り戻した小原、見失いかけた本質を取り戻した彼女は未練の元であるデクルックスから完全に縁を断つかのように、天井近い遺跡群の上を駆けていった。
「………何だよ、結局ルールに毒されてやんの。バーカ」
▶▶▶ NEXT▽
「――――待てやこのチンピラ忍者ァァァァ!!!!」
颯爽とB3層への入口にたどり着いた小原。今にも牙を剥きかけていた龍牙に煽りの発破だ。暴走族の姐さんにチンピラ呼ばわりとはこれ如何に。
「あ゛んだと、ゴラァ……!!?」
それでも威嚇する龍牙も異常ですが。
「お、小原!?」
「何でアンタが……!?」
既に瀕死寸前のエンヴィー、キザンも意外な助っ人に驚愕せずには居られなかった。
「悪いなエンヴィー。お前からくれたPASのエネルギー、ここで使わせて貰うわ」
小原はアメイジングのカードスキャンブレスを装着し臨戦態勢に入る。だが装填されたカードデッキは空。これではPASが甦った小原とて龍牙を倒す事は不可能だ。
「……アホか、カードも持たない奴が決闘出来ると思ってんのか。腑抜けた頭を取り替えて出直して来い」
「もう取っ替えてんだよ。それにカードなら心配するな。―――あたいのPASが、持ってきてくれる」
その言葉の意味は何かはさておき、小原は胸に念を込めてPASの発動の合図。――いざとなったら魂を込めろ! 轟く羅生門、呼び覚ませ茨木童子の鬼の号砲を!!
◎――――――――――――――――――◎
・PAS【イバラキドウジ】確認。
・小原恵美のPASスキル
【宴前の暴走儀式】発動!!
同胞達を呼び寄せ、特定のカードを
デッキに入れる!!
◎――――――――――――――――――◎
―――ブロロロロロ………、ブロロロロロ…………!!
地底空間に鳴り響く大型自動二輪の重量感溢れるエンジンの嘶き。それは単数に限らず10台、20台とバッファローの群れの如く爆音が響き合い、次第にヘッドライトの光が重なり合って龍牙の黒い忍び装束をも白く包んでいった。
―――暴走族の総長の気高きカリスマは今も健在! 一瞬でナナハンバイクで繋がったダチ公を50人以上も掻き集め、その者達の懐に持っていたアメイジングカードを1枚ずつ小原へと集められ、空のデッキからあっという間に50枚のデッキに創り上げた!!
「小原組総長・小原恵美ぃ!! 我が誇りに掛けて同胞達の危機を救ってやるんで夜露死苦ゥ!!!」
「「「「「夜露死苦ゥゥゥ!!!!!」」」」」
さぁ、さぁ〜どうなる裏プレイヤーの共同合戦! 善とはまた異なった激アツ展開を見逃すな!!
――本日のゲーム、これまでッッ!!!
▶▶▶ TO BE CONTINUED...▽




