【GAME43-7】架ける運命、廻る因果!!
――向日葵で覆われたオールグリーンガーデンに、招かれざる客現る!
その客とは何と、若き立海遊戯戦団の先代城主・立海丈ではありませんか!!
因みに現在の城主であり、丈の弟である銃司は兄よりも5つ年下。という事は10年前の話で銃司が穂香と同い年で6才から5つ足した所の……計算整って、丈は何と11歳の頃であった!
そしてその側近として丈の護衛に参られたのは、立海の城の門番であり守護者。
壁のPASを持つ女性格闘ゲーム戦士の立壁瑠璃。今のように時実桜が側近でないのは、当時捨て子であった彼女が、立海に引き取られて間もない頃であったからだ。
そんな彼が何故に、このオールグリーンガーデンにヘリまで用意して出向いたのか。それは傲慢城主らしき横暴な考えであった。
『あら、関東随一の遊戯貴族の貴公子がわざわざつまらないお花畑に出向くなんて珍しいわね』
オールグリーンガーデンの主、神崎紗由理は平静に挨拶を交わす。
(ゆ、遊戯貴族!? 東京で一番お金持ちでゲームにも強いって有名な、あの立海家の……!)
これには穂香も驚いた。何せ遊戯貴族はおろか立海家のゲーム戦士と会うなんて、彼女にとって夢のような話でしたから! 穂香と紗由理の様相を伺い、明らかに場違いであると気付いた瑠璃は早速に平謝る。
『あ、申し訳ありません……私有地で堂々とヘリコプターまで出してしまって』
『関係ない。俺はこの広大な土地が気に入ったのだ。百坪以上もあるこの平野、奪い取ってでも我が手中に収め、領地に加える価値はあるものだ』
対して銃司さんの兄は豪快なまでの傲慢であった!
立海の戦力強化を図るために、戦いとは全く無縁な花畑の土地を奪い取ろうと考えている。11歳の少年がとても考えるレベルでは無いが。
『流石に不味いでしょうそれは! この辺はWGCの管轄で保護されてる地帯ですし、それを横暴に取るなんて』
『実に滑稽だ。絶対の壁を誇る守護者が権威の圧には崩れるのか? 我が立海のゲーム戦士が初めから牙を取る奴があるか、常に強者の威厳を保ち恐怖を与える者になれ』
……アンタ、ホントに11歳すか? それにしてはゴッドファーザー並のカリスマとマフィア感が漂うのですが。
『私は神崎紗由理。このオールグリーンガーデンの持ち主よ。悪いけど、まだここを明け渡す気にはなれないの。私の唯一の趣味の場だから、他を当たって下さらない?』
『神崎? 知らんなそんな名は。下級国民がこの俺に指図とは……………………』
仮にも紗由理は前世代におけるゲームの覇者。世代のズレから丈にはその素性を知らず、恐れ多くも高圧な口を叩く……かと思いきや。
その口を一旦閉じ、何を思ったか丈の方から動きを止めた。紗由理の深緑で大樹の形をしたPASから途轍もない覇気を察しての静止か、それとも……?
『立海丈……、若くして立海家第20代城主となり、強大な勢力と財政を持ってゲームを制す。貴方のルビーのように紅く光るPASが、その情熱を示している。
――でも自惚れるには早いわ。この広い世界には貴方と同等、或いは更に強力なゲーム戦士は幾千も居る。
強くなるのは構わないけど、ルールに逸脱した者には破滅が待っている。その事を先に忠告しておくわ』
『ぬっ、その物言いは聞き捨てならないぞ神崎! ここにおわす御方こそ、遊戯貴族の未来のホープと言われた紅蓮の貴公子―――』
『止めろ瑠璃。我が立海に言の葉一つに噛みつくような礼儀を教えた覚えは無い』
(いや、恐怖を与えろつったのアンタでしょ……)
等と矛盾しつつも瑠璃を制止させる丈。すると城主自ら牙を抜き、土地の横領を取り消して礼を弁えた。
『神崎と言ったな。この城主の俺が直々に非礼を詫びよう。貴方の名と忠告、心の髄まで覚えておく』
『……それはどうも。分かって貰えたようで』
はぁ……ちょっと私までもヒヤヒヤしましたが、花園が戦場とならなくて何より何より。
それどころか紗由理さんは貴族の城主にも関わらず、休憩がてらに立ち寄る事は歓迎してくれるようだ。なんて懐の深い人なんでしょう。
(丈さん、見かけは私と同じくらいでも強そうなのに、紗由理さん相手にあっさり引いちゃった……!)
第三者から見れば、子供から保護者への注意勧告みたいな絵面ですが、ゲームではそんな垣根も軽く超える実力社会。
互いに玄人並みの強者でも圧倒的に紗由理のが上であった。“一流が一流を知る”とは言ったものでしょうか。……と思いきや。
『……オイ、そこの小娘』
いや、アンタもそれなりのガキ……いや失礼、同じ年頃の少年でしょうが。それはともかく丈はやり取りに見とれていた穂香を指さし呼んだ。
『な、何ですか……?』
『お前、今学校や周囲に気の許せる友人を造れずに不安を抱えてはいないか?』
『え……!?』
初対面である筈の穂香と丈、5つも年が違う彼から突拍子もない事を言うものだから、戸惑いを隠せない穂香。しかもそれは的を得ていた。
『……図星だな。お前には一般庶民とはまた違った雰囲気を持っている故に近寄り難いと自分でもそう思ってるだろう? 学校では少数でもお前と関わり合う者も居るが、結局それは親や教師の眼を気にして仕方なく思うか、おべっかを使う姑息な者に限られるだろう。
――――そんなものは、絆を分かち合う“友”とは到底及ばん義理の関わりに過ぎんのだ』
『そ、それは……』
『嘘だと言う前に、先ず自分の魂に聞いてみたらどうだ?』
『……………』
そう言われて穂香は手を胸に当てて、無意識に自分を偽っている事に自覚した。それは穂香が、紗由理に心配をさせまいとする優しく小さな嘘であった。
それを紗由理の前で悟られた事で、余計に惨めになるばかりの穂香。しかし……
『お前に優しい嘘は似合わん。今度、俺の城のバスター・キャッスルに来い。同じゲームワールドの地だから直ぐに分かるだろう。そこに俺の勉強熱心な友人が、お前の事を気に入る……そんな気がするのだ。我々が盛大にもてなしてやろう』
勉強熱心な友人とは、丈と同い年の参謀・大門史也の事なんですが。
人の運命や未来を見透かす事が出来るPASを持つ丈からは、穂香がこれからめぐり逢うであろう“本当の友”の事も見えていた。
『それともう一つ、学校や地元で友人付き合いに上手くいかなくても気にするな。お前には、これから先の人生で信頼出来る仲間は6人、とにかく心を許せる親友が必ず出来る確信がある。生きとし生ける全てのゲーム戦士に、孤独な者など誰も居ないのだ。
――お前の弟分と一緒に、我が紅蓮城で会えることを楽しみにしてるぞ……!』
『………あ、はい、機会があれば』
(――――おとうと…………?)
この時はまだ穂香は知らなかった。
数年後に本当に出会う事になるシャッフルのメンバー達、剣・みのり・レミ・槍一郎・豪樹と、そして弟分である倭刀とめぐり逢う運命を、既に丈は予知していた事を……!!
だとしたら丈がこの花畑に出向いたのは、穂香の運命を知ったから……? いや、それは私の考えすぎではあるまいか。
『……さて、邪魔したな。我々はここで退散しよう。瑠璃、帰るぞ』
『は、はぁ……、何がなんだかな展開ですが……』
丈は上空にて控えていたチャーターヘリを再び呼び戻し、向日葵を居らないようにある程度距離を保って、ヘリに乗り込み離陸していった。
その間に何やら丈護衛が下手だとか、瑠璃じゃ任せらんないから桜に役回すぞゴラァだとか言ってましたが……
『……行ったわね。若い癖して傲慢だけど、礼儀は弁えてるようで良かったわ』
当時で既に若きゲーム戦士は、己の力量に自惚れ、力自慢ばかり考える傾向に悩まされていたと紗由理さんは語ってましたが、対して穂香は丈からの金言を頭に残しつつ、ある疑問が浮かんでいた。
『………紗由理さんは、ゲームで戦ったりしないんですか?』
『……しないわ。もうする気力は無いし』
『紗由理さんはあんなに強いでしょう? それで悪い人達と戦う事だって出来るじゃないですか』
『私がそれを極めたとして、その先に何が待ってると思う?』
『それは…………』
穂香にはまだ、考えを固める説得が見つからなかった。紗由理もあれだけ戦う事に否定するのは、長年ゲームの戦場に立った経験則によるものだった。
『私はもう40年以上もゲームの試合で戦い抜いて、勝利を勝ち取ってきたわ。今更強さが欲しいとは思わないし、中途半端な気持ちでやるなら、やらない方が気軽なのよ』
『でも、でも……もしさっきの貴族さんが言う事を聞かないで、襲いかかったらどうするんですか?』
『その時は、私もあの子も痛みだけが残るだけよ。何かの為に戦おうとしてもやる方もやられる方も両方傷つけるのが“戦い”だから。
……でもね、戦わない事は負けでは無いのよ。勝つ事だって沢山ある』
『戦わないで勝てるんですか!?』
『例えば、大切な人を遠くに逃すために時間を稼ぐ事とか。自分よりも大好きな人を守れただけでも“勝利”って言えるじゃない?』
自己犠牲にも似た紗由理の守護精神に、掛ける言葉を忘れる穂香。
『穂香、貴方はさっき間違えてか弱い花を踏んでしまったでしょう? 花だけでなく人同士でも誤って傷付ける事は誰でもある。でもそれに恍惚や優越感を持ってしまっては駄目。
―――人の悔しさ、悲しさを顧みず、強くなった気でいて心の中で偉ぶっていても……結局それを失えば、自分に得たものなんて何処にも無いんだから』
『………………』
『貴方がゲーム戦士として強くなるのは一向に構わないわ。けれど人としての道、その本質を、優しさを見失わないで……!』
幼き穂香の小さな手を、紗由理の暖かく大きな手で包み込まれる。その温もりは太陽の如く、穂香の心にも優しく包み込むような心地であった。
――その時、穂香にはある決心がついた。
『……それじゃあ、私がゲームに強くなったら、今度は私が紗由理さんをお守りして良いですか? 紗由理さんも、私の大好きな人だから……!』
『あら……! じゃその強さは、私よりも困っている皆の為に使いなさい。貴方の魂に宿る一欠片の優しさが、この時代の未来を創るの。そうすれば私も、貴方の胸に秘めた魔導杖のPASも、とても喜ぶわ』
『―――はい! 私、ガンバります!!』
(……やっぱり、親娘ね)
『え? 何か言いました紗由理さん?』
『ううん、何でもないわ』
――大森穂香6才、この日を堺にゲームに鍛錬を積む日々を経て、ゲーム戦士としての志を目指すことになる。
その後に狂乱した父との予想に反した再会、弟分となる池谷倭刀や、立海遊戯戦団の交流。
更に七色の魂に導かれて、シャッフルオールスターズの仲間入りを果たし、誇り高き魔導杖の魂を持ったゲーム戦士・別名【新緑の魔導師】として現在に至る。
しかし今はまだ道の途中、この先穂香がどんな戦士に成長するかは、まだ紗由理も折れかけた茎の花も知る由が無い…………
『―――――ありがとう。頑張ってね、穂香……!』
………とも、限らないかも知れない……!
嗚呼、廻る因果は糸車。夏風仰いで風車……!!
▶▶▶ TO BE CONTINUED...▽




