【GAME43-6】とある偉大なゲーム戦士の話!!
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――時遡ること10年。ゲームワールドオンラインに太陽の如く咲き乱れた向日葵畑。
地平線の果まで続くサンライトイエローの花びらが見る者を圧倒し、澄み切った青空と太陽が重なり荒んだ心をも癒やす憩いのガーデン。
広大なる花畑『オールグリーンガーデン』を造りあげたのは、かつて将棋・囲碁・チェスといったアナログな盤上ゲームを制覇した伝説のゲーム戦士、神崎紗由理。
彼女はいつしかその栄光を心の隅に置いて、今は仮想空間にて理想のガーデニングを営む凛々しき貴婦人となっていたのですが……、そんな真実を知ってや知らずや、見渡す限りの向日葵畑で無邪気に飛び回る少女も居た。
『きゃは〜〜☆☆ たーのしい〜!』
――幼き頃の大森穂香、当時6才。6年前に実の父・賢士朗によって紗由理の元に預けられた穂香は、まだその真相を知らない純粋無垢な女の子。
それでいて病気もせず、元気いっぱいな彼女は紗由理の事は父と母のただの友人である事は分かっていたが、それ以外の事に疑問は特に持たなかった。それに……
『ふゅ〜、つかれちゃいました……』
はしゃぎ過ぎてクターっと倒れ込むその姿、何となくあざとい(重要)。
『いっぱい遊んだわね穂香。おいで、ちょっと休んでからそろそろ帰りましょうか』
『はーい』
華奢な身体を立たせて紗由理の元に駆け寄る穂香。先程過失に踏んだ花達に気をつけながら、慎重に彼女の元へ。
『楽しかった?』
『はい、とっても!』
『良かったわ、向日葵達も穂香の事気に入ったみたいよ』
そう言われて穂香も嬉々とした顔で、暖かな紗由理の手を握り帰路へ向かう。まだ6才の穂香はゲームワールドに行くことすら貴重な経験であったが、何よりもそんな仮想空間にて紗由理が造りあげた花畑を観れた事が感動的であった。
『こんな広い土地、元の世界じゃできませんね。紗由理さん』
『そうね、皆土地に関しては欲張ってるから。田舎でもない限りはそうそう出来るものじゃないわ』
何しろ紗由理も穂香も大阪育ち。山はあれども平野は殆ど都会と化し、万一ガーデニングをしてもやたらと近所が五月蝿い社会。理想の花畑とは遠のくばかり。
そこで提案したのが、仮想空間の未開拓な土地で資金を投資し、自分だけのガーデニングを造ろうと紗由理は考えた。時期が夏とはいえ、ここまでの向日葵畑を造るのに数十年掛かったとかとか。
『ところで穂香、小学校の子達とはちゃんとやれてるかしら?』
『え、あ、はい! この前も駄菓子屋でよく来る子と仲良くなったんです』
それは誰の事かは分かりませんが、不慣れな学校生活に難は無い様子の穂香。
『それなら良かったわ。さてお夕飯どうしましょうか、全く考えて無かったわね』
こう読んでると益々お母さんっぽく感じますね紗由理さん。
そう言ってる間にも紗由理はプレイギアを取り出してログアウト準備に入ろうとした所、何を思ったか穂香は話を持ち出した。
『……あの、紗由理さん。―――私では紗由理さんの娘にはなれないのですか……?』
……仮の親娘であるなら、誰しもぶつかるであろう愛情の確認。穂香もこの矛盾に気づかぬ訳がなく、母のように接する紗由理に実娘でありたい気持ちもあった。
こんな時『そんな事はないわよ』と言うべきか。しかし紗由理の答えは……
『…………えぇ、駄目よ』
冷淡にも否定した答えに、穂香は言葉を失う。紗由理がこう言い放ったのにはちゃんと理由があった。
『辛いけどそこは分かって頂戴。線引に名字も神崎に変えなかったのは、貴方の唯一の家族であるお父さんが今も生きているから。それなのに勝手に私の娘になる訳にも行かないでしょう?』
穂香にとって生を受けたからには、父も母もたった一人だけの存在。訳あって父母の友人である紗由理の元に預けられた穂香。
それを引き受けたのは紗由理であったが、実の母になる事は頑なに拒んだ。それも勿論理由あっての事。
『私は貴方のお父さんと約束したの。この時代で、貴方を守って、優しい子に立派に育てるって。だから貴方が私の娘になるという願いだけは受け入れられないわ』
大森穂香の家族は、ゲーム戦士の極限を追求する為にゲームワールドの異次元空間に存在した“超次元空間”の研究をしていた。
そこは、人間の叡智や常識をも覆す程に、心理の限界を求められるという未知の空間。そこに果敢にも家族一丸となって飛び込みつつ研究を重ねたのだが……
未開拓の地に危険が無い訳がなく、予想もしなかった超次元空間のアクシデントに父・賢士朗を除いた妻と6人の子供は消息不明・或いは死亡という最悪の事態を生んだ。
この時穂香は生まれたばかりであった為、超次元空間に来れず事故に立ち会っては無かったが、この事故による心労やPASの暴走で父は発狂にも似た形で記憶も喪失し、超次元空間に引きこもった。
※『極限遊戯戦記』第4章参照
無論その事までは紗由理は知られていない。しかしここで親の権限を受け入れてしまえば、命を掛けて授けた愛娘の父や、超次元空間の存在も全て曖昧になってしまう。それ程残酷な事は紗由理には出来なかった。
これらの事をしっかりと穂香に伝えた紗由理、それに対して穂香は……
『………私は、お父様を待ちます。会えるのは何年先になるか分かりませんが……』
『分かって貰えて嬉しいわ』
穂香は辛いのをグッと抑えつつ、まだ見ぬ父の事を胸の奥にしまい込んだ。
……だがそれでも穂香には、今のうちに聞いておきたいことがあった。
『ねぇ紗由理さん。私のお父様や、お母様はどんな人だったんですか……?』
『そうねぇ……お父さんは研究熱心で、お母さんは家族の気持ちを第一に考える人。二人共芯があってとても強くて、優しい人。私なんて足元にも及ばないわ』
『……私は、紗由理さんも優しいと思ってます。……御世辞じゃありません。本当ですよ!』
『ありがとう。穂香も優しい子ね。これなら急に帰ってきても安心だわ。もしそうなったら……私より沢山甘えてあげなさい』
……その時の真実を知った時、何とも言えない感情に陥るのは私と、前作を読んでくださった読者様なのかもしれません。
話で逸れてしまったが、改めてログアウトをする為に向日葵畑を後にしようとする穂香と紗由理。
―――ところが。
『……紗由理さん? どうしたのですか』
『―――――下がってなさい穂香』
常に温厚であった紗由理の顔が急変し、鋭い眼光を放ち警戒する。そう、あの【盤上の魔女】と呼ばれたゲーム戦士時代の威迫にもさも似たり。
果たして、この平穏な向日葵畑に何者か侵攻してきたのでしょうか? その正体は誰か、晴天の空から一機のヘリに飛び降り、パラシュートで着陸する二名のゲーム戦士が……!
『やっぱり無茶ですよ丈様! あの神崎紗由理の花畑ですよ、この土地を買い取ろうなんて――』
『うるさい、使えない門番だな瑠璃。ロクに城主の身の回りも護衛出来んのか』
何とそこに現れたのは立海遊戯戦団の城主、しかも銃司の兄で先代の城主に当たる今は亡き立海丈。そして門番であり守護者の立壁瑠璃!
既に穂香の周りにて立海との因果があったのでしょうか? そして丈は何故オールグリーンガーデンに出向いたのでしょうか!? 運命は何処へ!
――本日のゲーム、これまでッッ!!
▶▶▶ TO BE CONTINUED...▽




