【GAME28-3】新ゲーム戦士・青緑の巫女!!
――ここはゲームワールド、誘われた者達を彷徨わせる大樹海エリア『リロード樹海』。
そこに放り込まれたかのように二人のゲーム戦士が、樹海への脱出を試みようとしていた。
桐山剣と時実桜、好敵手の間柄同士が手を組んでのリロード樹海脱出作戦。
左も右も前も後ろも上も下も……いや上はお空と雲と太陽がありますが、とにかく何処を見渡しても深緑の木々で覆われ、鬱蒼たる森が戦士達を惑わす。
二人ぼっちの森で出口なる光を探す剣と桜。そんな彼らの眼前に森の奥から姿を現したのは、巫女装束に纏った女性プレイヤーでありました。
「あーんもう! さっきから同じ所歩いてばっかりだし、このままじゃ戻る事も出来な……あら、貴方達は――?」
随分前からリロード樹海にて落としたと見られるプレイギアを探していた彼女、俯いてた顔がようやく前を向いて剣と桜に気づいた。桜よりも温和で大人しさが目立つ容姿端麗な顔つきだ。
「何や? 俺らの相手でもしに来たんかお前」
「威嚇してはいけません。それにあの方は戦う気はありませんわ」
警戒し威圧する剣にそれを宥める桜。それを見て彼女は尻込みしそうになる。
(ひぃ!? 騎士のヤンキー!? ……いやメイドさんも居るし、良く見たら悪い人じゃなさそうね)
どうやら剣は所見の人からは騎士の鎧を纏ってもヤンキー呼ばわりされるようで。しかし彼女も同様に相手が悪い人でないとみて、自分から話を持ちかけた。
「は、はじめまして! 良かったぁ、やっとプレイヤーさん達に出会えましたぁ……!!」
彼女は相当樹海の中を歩き回ったようで、プレイヤーに出会えて安堵と同時に、身体の力が抜け切った様子で腰を下ろした。
「脅かしちまってゴメンな。俺はシャッフルオールスターズ・『切り札騎士』のエースや。只今樹海で絶賛遭難中やが、一気に脱出してやるんで宜しくぅ」
(…………???)
独特な自己紹介でなんのこっちゃでちんぷんかんぷん状態の彼女。だがシャッフルオールスターズの名を聞いて思い出した。
「……あ! ひょっとして貴方、一年前のアメイジングウォーズや、この間のオーブ争奪戦で勝ち取ったっていう……」
「おっ、中々分かってるやんか! 立海との戦争の事も知ってるなら、俺が桐山剣ってのも隠さんでも分かってそうやな」
「えぇ、桐山さんの名前は有名ですし……」
何て彼女は言ってますが、本心的には剣をどう見てるのでしょうか。
(やっぱり! 『お調子者でヤンキーな騎士』、雑誌で取り上げられてた通りの人物だわ!)
その雑誌が剣の手に取られてないのが不幸中の幸いかもしれません。知らぬが仏。
「てかお前は何者なん? ひょっとしてこの森の案内役か?」
「いえ、ちょっとした成り行きで樹海に迷い込んじゃって……私は宮城は仙台でゲーム戦士をやっております、【弥風綾乃(17)】と言います」
――遂に明かされた新ゲーム戦士のプロフィール、何とゲーム・ウォーリアーでは初の東北地方・宮城県出身のゲーム戦士!
弥風綾乃、アバター名は【ウィンディ】。そしてゲームワールドでのジョブは【召喚師】。
なる程巫女装束に杖とは、アメイジングでは正に召喚に長けそうなジョブですな。
「じゃ、彼処のメイドさんは……」
「私は時実桜と申します。立海遊戯戦団の侍女、簡単に言えばメイドの長を務めています」
「え、立海……!?」
これには綾乃も驚いた。東北地方でも名高く知られている立海がライバルのシャッフルと協力してるとはまさか思ってもいなかったのだから。だがそんな事よりも重大な事が綾乃には残っていた。
「……そうだ! 二人共ここらにプレイギアが落ちてませんでしたか!?」
「プレイギア?」
「私実は別のエリアで探索してたら突然ワープホールに巻き込まれて、ふとしたはずみでプレイギアを樹海の中に落としてしまったんです〜!!」
どうやら綾乃も剣と同様にワープホールの被害者だったようですな。それを聞いて剣と桜は何処ぞに落ちてないかと周りを見渡すが、ここで個性を見せたのが桜。メイド特有の千里眼がいち早く落とし物に気づいた。
「もしかしてこれじゃないですか?」
「え……あ、あった!! 私のプレイギア!!!」
綾乃のプレイギアは青緑カラーカバーで覆われたコンパクトタイプ。樹海の暗がりな土に溶け込んで見つかりにくくなっていたのでした。
「大丈夫です、データ破損や誰かに見られた形跡はありません。さ、どうぞ」
「あ、ありがとうございます……」
桜の気を配った対応でプレイギアは綾乃の元に手渡される。対して綾乃は桜に対して違和感を抱いた。
(確か立海の時実桜って、冷徹で私達プレイヤーを敵視しているって話だったけど、こんなに優しい人だったっけ……?)
綾乃さん、本や噂で人を判断出来ない事は幾らでもあるんですよ。ね?
「へぇ、お前宮城のゲーム戦士だったんか。俺一度も行ったことないからな東北は。仙台って言えば牛タンとか有名やろ?」
「はい、ずんだ餅とか牡蠣も美味しいですよ!」
「牡蠣! こいつぁえぇや、いつか金貯めて仙台行ってみよかな!」
「えぇ、是非来てみて下さい!」
警戒転じて食べ物繋がりで和気あいあいとなる剣と綾乃。誠に彼らしい交流ですな。
「しかし桐山さんはどうしてワープホールに巻き込まれたんですか?」
「あぁ、俺は氷山エリアでゲームしてったらこーなっちゃって。何しろオーブだけじゃなくて新型召喚機やら、裏プレイヤー討伐やらでやる事いっぱいあったから……」
「裏プレイヤー!? それはまたどうして……」
と、先を話そうとした剣に横にいた桜が耳打ちをする。
(剣さん、一応槍一郎さんや本宮社長の件は伏せておきましょう。あまり話を広げてはシャッフルの評判にも関わりますわ)
(お……せやな)
「まぁ早い話が、『カクカクシカジカエコカーホジョキンモウフルイ』って訳」
何ですかその話の省略表現は。
「はぁ、桐山さんも大変なんですね……」
それで通じる綾乃も綾乃でしょうが。
「とにかくだ、俺らと綾乃の今やるべき事はこの樹海をどう脱出するかだ」
「そうですね。三人で力合わせて、何とかして抜け出しましょう」
「ならばここは私が、空間を操作するPASの力で行く道を制御して……」
と桜が先立ってPASを発動しようとしたが、今度は剣はそれを止めた。
「いや待て待て、PASは切り札として最後に使うべきだぜ。それを温存する為には、俺のダンジョン踏破に必須の最強攻略法が無くっちゃな!」
「最強の攻略法……!? それは一体?」
綾乃は剣の溢れんばかりの自信に期待が高まる。果たしてその攻略法とは。
「題して、【壁にひっついてそれに沿ってターっと行こうぜ by これでレミーラ・フラッシュ無しでダンジョン出られました】作戦!!!!」
((えぇぇぇ〜…………??))
変な所でネジが取れた事を言い出す主人公に、Wヒロイン苦笑い。
「それだけじゃねぇぜ。場合によっては『ウィ○ードリィ』或いは『女○転生』でも使えるという優れた攻略法だ、これなら樹海も抜け出せる!!」
「いや樹海に壁ないし、レミーラもたいまつも要らな」
「えぇい立ち止まってる暇はねぇ!! 二人共付いてこーーい!!!」
まるで抑えきれなかった衝動に駆られるように、剣は綾乃のツッコミに耳も貸さずにひたすら森の中を駆けていった。……剣さんストレス溜まってたのかしら。
「……変な人ですね。あれでオーブを獲得出来たなんて信じられません」
「でも剣さんはとても強くて優しい方です。信用にも値します」
「あれで桐山さん強いんですか?」
「えぇ、いずれ綾乃さんにもご理解頂けますわ」
互いに誇りを掛けて、真剣に戦った者だけが知る戦友の信頼。桜が心を開いたゲーム戦士なら尚更である。と言った側から
――――キィィィイイイイイッッッ
急ブレーキを掛けて桐山剣が帰って来た。おかえりなさーい☆
「ハァ、ハァ、ハァ……、嘘やん元の場所に戻ってるだと……!? てか二人共付いて来れたんか?」
「「はい! ちゃんと付いてきてましたよ♪」」
当たり前のように嘘を付く綾乃と桜でした。
「どうやら空間に関係無く迷いやすい様ですね。ここは三人周りに気を配りながら地道に進みましょう」
「しゃーねぇ、急かすよりはコツコツ行くのが先決か」
「……あら?」
桜と剣で作戦を定義したその横で、綾乃は何かを感じ取って耳を澄ます。
「桐山さん、時実さん。彼処から何か聞こえませんか?」
それを聞いて他の二人も耳を澄ます。
「……聞こえるな。軽妙な音楽。大人びてるというか、リズムが良いっていうか……」
「サックス、ピアノ、それに8ビートで奏でるウッドベース。ジャズセッションの様ですわ」
「じゃず?? こんな樹海にバンドやってんのか!?」
――剣たちはまだ知らなかった。
この樹海の遥か北の方向に、森林を部分的にくり抜いて作り上げた小さな村があった事を。
その村では三人の楽器を奏でるゲーム戦士達が、優雅気ままにセッション演奏をしていた!!
彼らと剣たちが接触する時、いよいよお待ちかねのネクストゲームの幕が上がる!!
そうなれば戦いは3VS3の団体戦、そのゲームの詳細は次回のお楽しみに。本日のゲーム、これまでッッ!!
▶▶▶ TO BE CONTINUED...▽




