【GAME17-1】過ぎ去りし過去の刻……!!
「……龍牙、お前が本当に外道に成り下がった時は……」
「……剣ぃ、てめぇが目指す英雄とやらに成り上がった時ゃ……」
「「俺が、この手で……!!」」
時の流れと共に人は変わる。その成れの果ては、光か、闇か……?
――――オープン・ザ・ゲート!!!
▶▶▶ NOW LORDING...CONNECT!▽
――ここはゲームワールド・オンライン、生い茂った密林に試練の遊戯を与えし『アドベンチャー・フォレスト』。
幾千の敵をなぎ倒し、己の揺るぎなき決断と闘志を証明してみせたアメイジング・無双モード。その戦場の為に用意されたゲートでは、途中で試練を成就せずに脱退した未熟なプレイヤー達の悔しそうな面を構えてゾロゾロと脱落する姿が垣間見えた。
しかしそれを尻目にただひたすらゲートを見つめて、帰りを待つ者。みのりとシャッフルオールスターズの仲間たち。
なんて一通りの状況を説明終えた所でグッドタイミング、彼女らが待ち侘びたゲートの扉がググッと開いた。
「剣くん帰ってきたーーーー!!!!」
みのりの一声に皆が注目、ゲートの中から舞い降りたるは切り札騎士・桐山剣!激戦でよろめく身体をどうにか奮い立たせて仲間の元へ駆け寄った。
「へ、ヘヘッ……! どうにかクリア出来たようだぜ」
剣は苦し紛れに笑顔を作った途端、ガクンと膝を降ろして苦悶の表情で疲れ果てた。そりゃそうだ1000人の敵と相手にしていれば、精神も張り詰めて労力も半端なく消費するもの。
オーブを賭けたビッグゲームの1st STAGE、アメイジング・無双モードの突破者は桐山剣と忍野龍牙の2名。
とはいえ激戦の後に直ぐ様次なるゲームの準備は、いくらゲーム戦士とて体持たずの満身創痍。そこでスピリットプレイヤーのジャスティス様の計らいで1時間のインターバルに休憩を取ることとなった。
会場より隣接されたヒールスポット、休憩所にて剣たちは戦いの傷を癒やすことに。
▶▶▶ NEXT▽
「――なるほど? さっきのゲームで右手に発していたPASの波動はやっぱり本来俺が持ってるのと違うタイプのものだったんか」
剣は休養ベッドにてうつ伏せになりながら、豪樹特有の豪腕マッサージで身体を解されていた。それにしても剣に発破掛けたりマッサージまでやっちゃって、至れり尽くせり豪樹さんご苦労様です。
「なぁに、可愛い教え子の為なら何だってするで。セルフサービスや」
それはともかく剣の思惑、無双モードの終盤でレジスター隊長の不意打ちを右手一本構えてジャックナイフを弾き返したPASの波動の話。
剣の形をしたPASとは一転、明らかに防御に徹した盾のような形をしていた。
プレイヤーの魂・PASは幾多の形あれども、いきなり魂の本質を変えるほどの変化は一例には無い。摩訶不思議なり魂の能力。
「あれは剣が覚醒した【ロングソード】が変化したんじゃなく、従来の素質のPASから追加されたもう一つのPASの前兆。つまり剣がニつ、PASを覚醒する可能性が出てきたって訳だ」
「二つ?!!」
この槍一郎の証言を聞いた剣本人が一番びっくらこいた。私も負けじと驚きましたよ!
だってそうでしょう? 本来人の心は命同様一つあるもの。二つあるなんつったら赤ちゃんをお腹に抱えた妊婦さん、九つあるなら猫さんくらいですよ。幾ら何でもこれは……
「単純な理論だよ。人の心に正義と悪、二つの心がぶつかりあって出来ているように、性格にも反映されて喜怒哀楽や感情をコントロールするとPASが成長して更に強い形に、或いは感情から進化して分裂だって可能なんだ」
あ、なるほど……そりゃ道理な理論だ。って私が感心してる場合じゃないでしょうに。
「おそらく剣は僕たちの特訓やゲームを通じて、心情が変化してPASが変化していったんだろう。右手に闘志の剣、左手に守護の盾。益々騎士っぽくなってきたじゃないか!」
「ふふっ、頼もしい限りです!」
剣の更なる躍進に期待する槍一郎と穂香。それと対照的に思い更けるは剣、何を悟ったやら私情に浸って含み笑い。
「……フッ、フフフ……やっぱりPASは素直過ぎらぁ。俺の心の内を直ぐにバラしたがる」
「どういう意味――?」
そこへみのりが疑問に思ったその時、剣はプレイギアを起動させてアプリ内の『フォト』をスクロールしてある画像を皆に見せた。
「これは、剣くんと……残りの四人はだぁれ?」
「俺がみのり達と出会う前の、俺の親友との写真だよ」
「えっ……!?」
その写真が撮られたのは2年前、四人男に女が一人の五人衆チームが、通天閣を背にふざけ合っている写真を剣は大事に保存していた。
特に驚いたのはその親友の一人の龍牙。今みたいに目は据わってなくやさぐれた狼の風貌とは裏腹に、笑顔が自慢の剣と同様のヤンキーなヤンチャ坊主な印象であった。
「この龍牙くん、剣くんと見た目がそっくり……」
「ホント、左が剣くんならこっちのは黒剣くんって感じ。漫才出来そうね」
などと横から傍観するレミがつまらない事を抜かした所、何を思うか剣は思いの丈を話す。
「――俺と龍牙が出会ったのは小1ん時かな。何となく俺に似てる感じがして、唯一似てねぇのは俺よりも悪巧みに関しちゃ頭のキレるクソガキだった。一緒にゲームやってバカやって……いつの間にか仲良くなっちまった」
――類は友を呼ぶ。他人を卑下する際に使われることわざだが、剣にとっては似たもの同士、馬もあって相性の良い友を見つけた瞬間であった。
それからしばらくして友達も増えて、人脈は狭けれど深い絆で繋がれたグループとして浪速区・新世界の話題をかっさらう小童グループに成長していった。ところが……
「中学までは一緒だったんやけど、高校からはどうしても皆と別の進路に分かれることになって、卒業前に俺らは遠距離になっても親友でいようって誓おうとしたんや。そしたら龍牙は……」
『どうせ離れ離れになったら、嫌でも俺らの事忘れてくんやろ?』
「……アイツにとっちゃ些細な一言だったんだろう、だけどそれが皆の反感を買って次第には手まで出すほどの大喧嘩になっちゃった。俺は止めようとしたんだが言い返せる言葉も無いまま、アイツは俺たちの前に姿を消した」
その日は丁度中学卒業まで2週間を切り、皆が進学やら行事やらで一番忙しい頃に起きた大事件であった。
それから一回も龍牙は顔を見せることなく、最後に剣達の前に姿を現したのは卒業式当日。卒業証書を握りしめた剣を含めた四人の前に、荒れ果てた姿を晒して……
「あんときの龍牙は俺らとバカやってた龍牙と別人だった。何かに飢えてるような目付きで俺らを睨みつけて……顔面目掛けて殴りかかった」
親友だった筈の龍牙から味わされたのは、強烈な痛みと血の味。剣は必死でこの暴行を止めようとしたが他の三人は重傷を負わされて、痛み転じて恨みが剣や龍牙へと突き刺していく。そして龍牙は剣に零距離で叫び尽くした。
『俺がこんなに無様になったのも、人が傷付いたのも皆……桐山剣、お前と出会ったからなんだよ!! お前とダチになること自体間違いだったんだよぉぉぉぉおおおおお!!!!!』
この醜態が他の友に疑心暗鬼をもたらすことになり、裏切り者と烙印を押された剣と龍牙。そして友が皆絶交と宣言され、事実上の友情崩壊をもたらした。
「……あんとき何でアイツが俺を憎んだかは分からんかったけど、アイツの血走った眼の先には自棄のような感情があった。――まぁ気付いたのは最近だけどな、憎悪に駆られてそれどこや無かったんや」
「剣くん…………」
人は時を重ねるに連れて、許容する懐も大きく変化していくもの。
剣はPASの鍛錬と共に心を鍛え上げた事により、憎しみから別の感情が芽生え始めていた。それが先程の【盾】の形をしたPAS。
果たして龍牙と再び相対する時、剣は何を思いゲームに挑むのか。その答えは第ニのPASの覚醒によって明らかになるのだろうか……?
『――2nd STAGE進出者2名に告ぐ、次なるゲームの準備が完了した。これより再びゲートを開き、新たな戦場の舞台に集結せよ!!』
ジャスティス様のありがたい報告がアナウンスを通じて伝えられ、インターバル休憩の時間は終わった。
「……さて、そろそろ龍牙と御対面と参りますか!!」
準備万端、マッサージで身体もスムーズ気分も上昇。桐山剣再び戦場に降り立つ時が来た。……とその時。
「剣くん!!」
旅立つ剣を呼び止め、近寄るは現在の親友・みのり。
「……何や、みのり?」
「……私ね、喧嘩って嫌いな方だけど一回剣くんとやりあった時に分かった事があるの。――痛みを分かち合わないと分からない気持ちもあるんだって」
「――!」
「互いに味わった痛みを知って、自分を見つめて、そしてまた分かち合う事で絆を深められるなら……今度は逃げないで龍牙くんと真剣に向き合ってみてよ! 喧嘩の後の仲直り、しちゃいなよ!!」
「…………せやな、みのり! 俺はその為にもう一度アイツと戦うんや!!」
迷いなき真意に烈火のPASが胸にみなぎる。
「じゃ皆、行ってくるぜッッ!!!!」
「うん、いってらっしゃい!! 頑張ってーーー!!!」
友に傷ついた過去を振り切って、己の魂で導いた6人の仲間の声援を背に受けて、桐山剣はゲートの前に立つ。
いよいよ次回、万感の思いを込めて2ndゲーム・一騎打ちに挑む剣と龍牙! この続きはまた次回に持ち越し。本日のゲーム、これまでッッ!!
▶▶▶ TO BE CONTINUED...▽




