第六十話「日本狙撃兵の奮闘と百貨店の商売根性」
‐日本政府と英国政府、ドイツ政府は米国との開戦理由を1944年の段階から模索し初めていた。旧史で民主主義国家の大義名分のもとに大戦に勝利しても深刻な人種差別が残っていた米国をチャーチルは皮肉っており、米国を未来永劫大人しくさせるための施策を考えていた。
「吉田首相、F情報で見た米国のあの施策は使えるかな?」
「ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラムですね。アレはあったかどうかは不明ですが、旧史で我が国を骨抜きにさせたのに説得力を持たせてます。ですが、
アレは一度`こうだ`と言われたらそれを盲信する傾向がある我が民族でも無い限りは大した効果は見込めんでしょう」
1944年の春頃からは体調悪化で公務がこなせなくなって辞任した米内光政に変わり、外交官出身の吉田茂に大命降下が下り、史実より早く総理大臣となった。これは天皇に軍部が「米国を安心させておきたい」と進言し、天皇もなるべく開戦を延ばしたいという思いから推薦を了承して組閣された。史実と違うのは米内光政の時に慣例化した「不磨の大典」の思考がF情報により打破された事で憲法改正が行われ、内閣総理大臣が軍の統帥権を天皇から委任される」形で軍部へ影響力を得た事だ。文民出身の吉田茂が就任した事で図らずしも文民統制が達成された事になる。
吉田茂は米国の民族性からウォー・ギルト・インフォメーション・プログラムの米国自身への応用は難しいとチャーチルに言う。チャーチルは渋い顔を浮かべ、大英帝国の子供でありながら`反抗`を企てる米国の民族性は厄介だという。最も米国の世論は好戦的かつ
現時点では`白人の意見`=世論なはずだ。有色人種への差別は今時大戦で有色人種の底力を示さない限りは変わらない。
「確かにあの国は`人種の坩堝`なのに人種差別が残っている。それをうまく利用して
大義名分を立たせられるとは思うがな、あなたはどう思うかねヒトラー総統」
「前の歴史で`ポカ`やった私がいうのもなんだが、`メリケン`の差別は根強いからな。
旧史で日本帝国がその滅亡と引換にアジア地域独立の根を蒔かなければ50年代以後も
奴らは有色人種を差別し続けるだろうな」
「米軍相手に常に優位に立つにはどうすればいいと思う」
「少なくても飛行機は2、3世代先の進歩を確保しなければいかんだろう。
前は数年でゼロやメッサーシュミットなどの優位が帳消しにされたからな」
ヒトラーは兵器に関して、米国の膨大な物量を勘案すると、航空機にしても2,3世代先に行っていなければ米軍の物量相手には優位を保てないと言う。実際、大戦末期には必死に米国を追っていた日本が烈風を実用化する頃には米国はベアキャットどころか
ジェット機のシューティングスターを配備し、はたまたさらなる後継のセイバーの計画が始まっていた。そのくらいの優位がこの新史には必要なのだ。例えば既に日本軍は零戦の後継機として「紫電改」や「疾風」を配備し、「烈風」やジェット機の実用化も行っているが、更なる計画はまだまだある。
「イワンの酒飲みどもは米国の表立った援助は無いからそろそろ攻勢に出れる物量は無くなるはずだ。そこを見定め次第`バルバロッサ作戦`を発動させよう」
「うむ。だが、問題は日本軍部隊の陳腐化だな」
「我が国は空海軍と防空に国力のリソースを割いてるので、陸は後回しになっているのです。なので陸戦兵器の更新は滞りがちに……貴国らの優れた兵器の提供をお願いする次第です」
「ふむ……分かった。何とか手配しよう。ヒトラー総統も頼みますよ」
「あいわかった。陸軍省に欲しい兵器をリストアップさせるように通達してくださらないか」
「近日中に陸軍省に用意させましよう。それと兵器生産の援助はよしなに」
日本は空海軍装備の近代化に国力の半分以上を傾けている。それ故に陸軍兵器の更新は難しい。優れた他国製兵器のライセンス生産は国力の関係で難しい。そこで日本は国内の他国メーカーに金を払って一部兵器を生産してもらっているという涙なしには語れない状態である。無論、国産兵器にも九〇式野砲、九二式十糎加農砲、九六式十五糎加農砲
などの優秀品はあるが、ソ連の物量相手には数が足りず、戦局を左右するには至らない。そんな中で意外な効果を上げているのが、本来なら主力小銃となるはずであった「九九式短小銃」をM1カービンの採用に伴って狙撃銃へ転用した「九九式狙撃銃」である。
夜目が効く者や視力に優れる兵士とスコープと併せた効果は抜群。しばしばソ連軍を混乱させる効果を生んでいた。
‐フィンランド とある戦場。
「いたいた……イワンおじさんの無能将校どもが」
雪にカモフラージュして息を殺し、狙撃銃を構える日本狙撃兵。狙撃銃として生産された九九式短小銃の精度は国力の向上もあっていい方に入り、狙撃銃としての需要には答えられていた。F情報によりソ連軍の情報は全て教えこまれており、赤軍の傾向もあって、将校を重点的に狙撃し、部隊を混乱させる戦法を連合軍狙撃兵達は取っていた。日本軍は特に狙撃兵の活用を重点的に行なっており、陸軍戦線の崩壊を食い止めている一助となっていた。
将校と思われる標的に向けて照準を合わせ……絶好のタイミングで引き金を引く。
次の瞬間、見事に敵将校を射殺する。九九式はボルトアクション式だが、質実剛健。
史実のように素材が不足することも、工作精度低下も無いために反動は強いもの、
その威力から狙撃兵の間では評判であった。
「さて……次のポイントに行こう」
彼はすぐさま移動し、別ポイントに移る。狙撃場所を悟られないためだ。
`ソ連軍がなんぼのもんだ`。この時代の日本人の敢闘精神は戦後の日本人とはもはや別の国の人間かと錯覚させられるほどの凄まじいもの。無論、根本的には21世紀頃の日本人と変りないが、21世紀より厳しい教育(体罰教育など)が行われていたため、元々の反骨精神と併せて精神的ストレスに強い者が多かった。特に日本軍にはF情報が入るまでは私的制裁も横行していた軍隊なので、その点では強かった。雪の中に無数に潜む日本陸軍狙撃兵達は新史日本の戦術の象徴とも言えた。
‐また、戦線からそれほど離れていない場所では……。
『松坂屋でございます~!』
『高島屋でございます~!』
戦時中の資金獲得手段として、日本の百貨店は戦場でもちゃっかりと商売に勤しんでいた。
戦場に構えているので屋台か何かと間違えられるほど粗末な作りの店構え(と、いうより本当に屋台だが)であるが、品揃えは豊富。日本陸軍に限らず、連合軍相手にも商売に勤しんでいた。
例えば……。
「ウチの部隊に紅茶の葉をダースでくれ!!」
「毎度あり~!!」
……と、英国軍の皆さんがトラックで買い付けにくると思えば、紅茶の葉をダース単位で買い占めていく。その隣ではドイツ軍が食料を買い込んでいる。そして我らが日本陸軍は……。
「うちの部隊に原節子のブロマイドをくれ!!」
「ウチは嵐寛寿郎だ!!」
「カルピスをくれ!!」
「三ツ矢サイダーも!!」
と、戦時とは思えない品々が飛ぶように売れていく。これも何時の時代も不変の娯楽を求める人々の希求がストレートに現れるということと、百貨店の凄まじいまでの商売根性のなせる業であった。
久しぶりの更新です。




