第五七話「ソ連海軍対大日本帝国海軍 その二」
-超甲巡はこの世界では正真正銘に大和型戦艦を小型化する形で作られた。その為、計画だけに終わった旧史以上に、実際に造ってみたら、大和型戦艦の弟分的性格が色濃く出ていた。敵艦にはその勇姿が恐ろしく強大に見えていた。
「提督、敵の新型小型戦艦を黙らせることはできないのですか!?」
「本艦の攻撃力では不可能だ。向こうは一昔前の主力戦艦と同等の砲を持っている。悔しいが魚雷を持たぬ本艦では有効打は与えられん!」
ソ連海軍艦隊の司令は配下の艦で日本海軍側の旗艦に有効な打撃を与えられる艦がいないことに歯噛みして悔しがる。他の条約型なら砲撃で出血を強いることはできるが、旗艦とその僚艦には砲撃は通用しない。小型とは言え、戦艦であるのだから自身と同等の砲に耐えられる構造を持つのは子供でも分かる事だ。
「旗艦はいい!!他の条約型を狙え!!それなら勝てる!!」
彼は至極当然な命令を下した。日本海軍は40年前の露日戦争(日露戦争)の結果、アジア最強の海軍大国として名を上げたが、それが仇となって軍縮条約の制約を受けているはず。そのため巡洋艦や駆逐艦の戦闘力はその範囲内に収まっている。条約に加盟していない自国の立場のそれを逆手に取る策であった。
-「キーロフ」の備砲である「1932年型 18cm砲」が火を噴く。標的となったのは吹雪型駆逐艦の「朝霧」であった。砲弾は装甲を貫通し、誘爆で一番砲塔を吹き飛ばし、火災を発生させる。
「司令長官、朝霧が!!」
「損害はどうか!?」
「装甲のおかげで貫通は免れた模様ですが、一番砲塔が損壊し、炎上中!!」
田中頼三は思わず、駆逐艦をターゲットにしてきた敵に舌を巻いた。日本側の戦略は新鋭艦をフル活用し、とにかく出た杭を打つの要領で敵新鋭艦を叩く手はずであったのだが、
敵は正面から勝てないのを悟り、護衛艦から片付けようとしているのだ。
「朝霧の速力はどうか」
「ハッ、`我、被弾スモ、全力発揮可`との事です」
「よし、朝霧を下がらせろ!足柄と羽黒に打電!四艦で敵艦を料理する!」
この時、第二水雷戦隊には妙高型重巡洋艦の後期の二隻が艦隊再編成の結果、超甲巡の護衛艦として配備されており、大正期計画・昭和初期の完成でありながらも巡洋艦改修では高雄型に次いで行われたこともあり、依然として重巡としては日本海軍トップ3の戦闘力を維持していた。高練度兵の奮闘もあり、新鋭艦を引っ張る役割を果たしていた。
「魚雷、撃てぃーっ!!」
足柄の誇る「61cm魚雷」が陽の目を見る。これは今回の初陣までに新型の九三式魚雷改(炸薬を38年からの長期計画で実用化したHBX爆薬に強化した新型。イギリスから最新炸薬のトーペックスの提供が行われない事を見越した日本海軍は独自にHBX爆薬の開発に注力した)に強化されており、ダメージコントロールに日本海軍以上に練度が低い、ソ連軍の船などは駆逐艦ならば当たり所が良ければ一撃撃沈も夢ではない。大口径かつ、秘密兵器の酸素魚雷なので、ソ連に発見される可能性は低いのも日本海軍が自信を持つ理由であった。
レニングラード級駆逐艦「ティビリシ」がその栄えある初の餌食となった。一発が命中し、脇腹に大穴を穿ち、大浸水を起こし、傾斜していく。
「ば、馬鹿な……yaponskii共に我が駆逐艦が…こうも簡単に」
「ティビリシ」艦長はわけも分からぬ内に日本海軍に自艦が食われたことを信じられない。だが、残酷な運命は彼を地獄にたたき落とした。羽黒の放った別の酸素魚雷がさらに命中。堰を切ったように復元も不能なまま転覆したからだ。その時の勢いで彼は哀れにも艦橋の壁に頭を強打し、戦死した。
これが日本海軍の水上艦隊における、今次大戦初戦果である。
「レニングラード級、一隻撃沈!!」
飛鷹所属の偵察航空隊から第二水雷戦隊に詳しい観測結果が伝えられる。機上レーダーの実戦実験も兼ねたこの観測は思ったより良好だ。裏方に徹するのにぶーたれる航空要員には悪いが、これは第二水雷戦隊の戦である。田中頼三はキーロフ級の周りの堀を埋めるかのように、護衛艦を狙うように、勇躍、下令した。
「よくやった!この調子で敵を痛打するぞ!!」
筑波と護衛の羽黒、足柄は意気揚々と砲撃を加えていく。だが、第二水雷戦隊とて無敵ではない。羽黒の後方にいた朝潮型駆逐艦「大潮」の艦橋に18cm砲が直撃。艦橋が見るも無残に破壊され、更なる命中弾が煙突付近に命中、大火災を起こして炎上する。
「大潮、被弾!炎上しております!!」
観測からの悲痛な報告が伝えられる。大潮は操艦機能を失い、艦隊から落伍していく。そして……ややあって爆雷が誘爆を起こし、まっ二つになって海へ消える。
「くそっ!!大潮が……!」
兵士たちの悔し気な声が筑波艦内のあちらこちらで起きる。それは田中頼三とて同じだ。
ソ連の予想外の健闘は日本海軍を驚かせると同時に闘志に火を注いだ。果たしてソ連軍は超甲巡に一発見舞えるのか。ソ連軍の奮戦と日本海軍の闘志はどちらが勝つか




