第五六話「ソ連海軍対大日本帝国海軍 その一」
-日本軍は史実ではシーレーン防衛に無理解であった。だが、この歴史では超大国たるイギリスの庇護を得られた結果、資源援助により十分に必要とされる海防艦の数が建造可能となったのと、軍艦の能力が史実の1940年代末の米海軍艦艇相当の能力にまで性能向上した事により、シーレーン防衛能力も、ひいては主力艦隊全体の防空能力も以前より飛躍的に上がっていた。対空機関砲も主力艦中心に、史実で威力不足が指摘された九六式二十五粍高角機銃から、大口径の「ボフォース 40mm機関砲(スウェーデンから輸入&ライセンス生産。三連装式)」へ更新が進んだ事で威力不足と射程の短さが解消されていた。そのため史実の艦艇と比較すると艦容も別物に近い艦が多かった。特に大和型戦艦はそれが顕著であった。
-連合艦隊旗艦「甲斐」
「いよいよだね山口君」
「はい。長官の最後の花道に添えるのにはいい獲物になりましょう」
この時期、山本五十六はいずれ連合艦隊司令長官を辞し、自身の得意分野の軍政に戻る事を公言していた。連合艦隊司令長官になったのは政治的理由からであるし、改革のために人望があった自分が担がれたに過ぎない事をよく認識していたからだった。海軍軍人の花形である、連合艦隊司令長官としての最後の花道として、ソ連海軍を屠る事に意気込んでいる。今回は空母を持たないソ連海軍が相手なので、真の主力である、空母とその艦載機は来たるべき`第二幕`たる対米戦に向けて温存され、対潜空母や2線級の軽空母に対潜哨戒に徹してもらうのみ。おそらくこの戦いが人類史上最後の純粋な水上艦のみの大砲撃戦となる可能性が高い。ソ連艦隊は主力が極東へ来訪次第、再編し、日本海に出てくると思われるので、本格的接敵はまだだろう。だが、極東配備の艦艇が通商破壊は行って来るのは容易に想像できた。
「第二水雷戦隊は敵の重巡に接敵できたかね」
「只今交戦中との事です」
山本五十六は予め第二水雷戦隊に「通商破壊の敵艦を容赦無く撃沈せよ」という指令をだしていた。通商破壊阻止は超甲巡の実験台として丁度いいからで、今時の交戦結果如何によっては超甲巡の一定数の量産化も決定されるからだ。そのため護衛に連れてきた空母「飛鷹」と「隼鷹」所属の偵察航空隊にその様子を逐次報告させていた。
- 日本海
「撃てぇ!!」
ソ連海軍艦隊と接敵した、日本海軍精鋭の第二水雷戦隊司令長官の田中頼三は配下の新鋭艦を率い、敵艦隊を順調に屠っていた。高雄型甲巡より遥かに大型かつ安定性が高い超甲巡は砲撃の際の動揺が通常の甲巡より小さく、荒れることもある日本海での砲撃戦では敵艦より優位に立てていた。
「弾着、今……夾叉に成功!」
「よし、修正の後に第3射だ!!」
その超甲巡1番艦「筑波」はその主砲たる、最新式の「31cm50口径砲」(50口径砲もこの口径なら信頼性が確保できた)を斉射する。その艦容は正にミニ大和といっていいくらいに大和型戦艦と瓜二つであった。僚艦と共にその艦砲を撃ちまくる。装填速度は新式の自動装填装置が装備された事で以前の甲巡より発射間隔が短縮されており、その点でも優位に立っていた。対するソ連海軍側では旧型のスヴェトラーナ級軽巡洋艦二隻、新鋭のキーロフ級巡洋艦が一隻、レニングラード級駆逐艦などが少数ずつの通商破壊に駆り出された艦隊である。旧式艦と新式との間に差がありすぎ、前衛が新鋭艦で固められた日本艦隊に比べ、艦隊運動の点で不利であった。
「日本のあの旗艦……巡洋艦の艦隊の旗艦にするには大ぶりじゃないか?」
「小型高速戦艦だ。金剛タイプの後継の新型が作られていると聞いていたが……あれがそうだぜ」
日本は一等巡洋艦(重巡洋艦)扱いで超甲巡を配備、運用している。これは艦種区分で「巡洋戦艦」が廃止された故の措置であり、そのため一昔前なら巡洋戦艦に当たる超甲巡も一等巡洋艦扱いとなっているのである。速度も戦艦に近い艦型でありながらも、30ノット台の大台に達しており、水雷戦隊や空母と共に作戦行動が可能である。更に優先して新式電探が装備されていたがため、索敵能力も一個抜きん出ていた。その点が一躍、日本艦隊の有力艦に踊りでた要因であった。
「うわっ!!」
ソ連海軍艦隊旗艦の「キーロフ級巡洋艦」の土手っ腹に31cm50口径砲の一発が飛び込む。一昔前の戦艦の主砲とほぼ同口径の徹甲弾を食らっては新鋭重巡も耐え切れず、火災を発生させる。幸い、火薬庫や兵員室で無かったため、火災は軽微である。
「火災発生!」
「消し止めろ!!敵は並の重巡ではないぞ!!気を引き締めてかかれ!!ええい、これでは40年前と……」
ソ連側の司令官は日本艦隊に比べ、相変わらず練度が低い事を嘆いた。40年前の太平洋艦隊(バルチック艦隊)が敗れた敗因も装備の差以上に練度の低さであった。(史実の日本軍は装備の差が練度の差を無意味にされたので、どちらが欠けてもダメであるが)
それを改めて実感したのだ。
「撃ち返せ!!すべて新鋭艦というわけではない、旧式艦もいるのだ!そいつらから片付けろ!新鋭艦は後回しだ!!」
しかし旧式とは言え、高練度の将兵が乗艦する吹雪型駆逐艦は日本軍の貴重な戦力である。それを撃沈されることは建艦能力や人的資源が米国や英国に比べて劣る日本には重大な損失である。
ソ連海軍はそれを認識していたからこそ、第二水雷戦隊で再旧式である吹雪型駆逐艦を狙ったのだ。そして……ついに連合艦隊で初の被弾艦が出る。今次大戦初の海の戦いはここに始まったのである。それは新生日本海軍の初陣でもあった。




