第三六話「`新生`日本陸軍の良き軍馬」
三式中戦車にスポットライトが当たります。陸軍主役です。
-日本は着々と陸海空軍の強化を測っていた。特に旧史で軽視していた兵站の強化を急いでいた。ノルマンディー作戦などでも重視された兵站を日本軍は最優先事項として研究を重ねた。結果、1943年の中頃には欧米列強にも引けを取らない兵站体制が一応形になっていた。その確立は前線での整備の効率化という思わぬ副次効果も生じていた。それは前線では大いに助かることだった。
-前線のとある駐屯地
「おーい、その部品はここでいいんだっけ?」
「ああ、合ってる。メーカーが違っても部品が使えるというのはいいことだ」
彼らは日本陸軍の戦車師団に所属している整備兵。彼らは前線での修理が容易になった事に大いに喜んでいる。ノモンハン事件時の主力であった歩兵支援用の八九式や九七式戦車では考えもしなかったことだ。九七式ではエンジンの部品一つでも、製造元が違うだけで部品の互換性が無いという事態など頻出する事態だった。それが現主力の三式中戦車ではそれが無い。安心して他車両の部品も流用できる。それまでの中戦車よりも扱いが容易な上、万一部品のスペアが無くなっても、予備の車から部品の替えが効くというのが前線将兵から愛される要因であった。また、新史三式は九七式系統とは別の新設計で作られていたので、設計的に攻撃力強化や装甲強化を受け入れられる余裕が有り、前線からの要望でT-34に対応できる砲(ドイツから輸入・ライセンス生産)を搭載する車両も開発され、チヌ改として配備されていた。5月以降に戦線を張っているチヌはその形式にバージョンアップキットで改造されたものだ。チヌはドイツにとってのⅣ号戦車と同じく、「軍馬」として戦線を支える役目を負っている。旧史での`完成時点で時期を逸した`と言われた姿はそこには無かった。あるのは戦線の戦車兵に愛される`軍馬`の姿だ。
「近くでやってるな」
「ああ。俺のオヤジが日露の時の生き残りだが……見せたいくらいだ。機甲戦が主流になるたぁ思わなんだ」
兵士たちの言葉通りにフィンランド戦は支那事変と違い機甲戦が当たり前のように行われている。
時代の流れを感じさせる一幕だ。日露戦役時の兵士たちが見たらあまりの変わり様に驚くだろう。その言葉通り、戦線では今日もフィンランド防衛のために奮戦する三式中戦車改の姿があった……。
-履帯の音が響き渡り、進軍するは三式中戦車改を纏まった数で最初に装備した日本陸軍の`戦車第二師団`。ヘルシンキへの赤軍の攻勢を食い止めるべく、この方面に展開するドイツの第4装甲軍と共に迎え撃つ。日本側の三式中戦車と五式砲戦車以外ではドイツ軍のIV号突撃砲、`最強の虎`ケーニヒッスティーガー(ティーガーⅡ)や最新鋭駆逐戦車「ヤークトパンター」などの姿も見受けられた。ドイツとしても防衛に力を入れているのだろう。新鋭設備を優先的に送り込むのだから。
「偵察機から打電。そちらへ赤軍の部隊が向かった。間もなく先鋒が到着のみこみ」
「了解。全車、戦闘準備!!」
この方面は日独の担当だ。先にコメット巡航戦車が主力の英軍が交戦したがT-34-85とスターリン重戦車の前に敢え無く敗退したとの連絡が入っている。センチュリオンの配備がまだなイギリス軍では赤軍を食い止めることは無理だったようだ。それでも17ポンド砲でそれなりの損害は負わせたというのはイギリス軍の意地だろう。そして奴さんの射程に入る前に打撃は与えておく。射程が長い十糎長砲身戦車砲やケーニッヒス・ティーガーの8.8cm KwK43/2 L/71などが先制攻撃を掛ける。
オットー・カリウスやクルト・クニスペル、エルンスト・バルクマンにミハエル・ヴィットマンなどのドイツ軍の至宝というべき戦車エース達が駆る重戦車隊が8.8cm KwK43/2 L/71を動かし、最大射程に到達にするのを確認する。この日の戦闘の号砲が鳴り響く。
「撃てぇぇぇ!!」
先制は防衛側の連合軍。動きが遅い重戦車群や砲戦車などでアウトレンジ戦を行って、打撃を与え、次に機動力のある中戦車で機動戦に入るのが主な戦略だ。空軍の応援は滑走路の凍結などで当分望めない。幸い制空権は連合軍の手にあるが、敵機がいつ姿を見せるかは分からない。その点は不安要素だった。
「敵の砲撃です!!」
「くそっ!もうか!?噂の新型豹戦車の砲撃だっ!これではIS-2といえど……」
赤軍側はこの先制攻撃に怯えた。ドイツの新型豹戦車(ティーガーⅡのことだが、赤軍はパンサーとの類似性からかその発展型と誤認していた)の攻撃力は凄まじく、T-34は愚か、IS-2をも撃破可能である。威力はD25-T 48.5口径122mm砲も負けていないが、向こうは射程と貫通力がスゴイ。これでは怯える兵士が続出するわけだ。バカスカ撃ちまくられて、T-34にはスクラップになったものが続出し、IS-2でも貫通されなくてもホプキンソン効果が内部で起こり、乗員が殺傷されて沈黙したのも見受けられる。(ソ連戦車の中には旧式戦車や自動車等の機械類をいったん溶かしてから再利用された素材で造られた物が多いので、こういう事態は良くある)
砲撃が一旦止むと、今度は側面から日の丸をつけた中戦車が襲来してくる。敵ながら見事な連携だ。
「側面からяпонские танки(日本戦車)が来る!!」
「狼狽えるな!!Фтор в нацистской Германии(ナチス・ドイツの化物)よりは常識的な相手だ!!」
日本軍の三式中戦車隊がフィンランドを駆け抜ける。そしてパンサー同様の7.5 cm KwK 42へ強化された砲塔が唸りを上げ、砲弾が炸裂する。
「撃ちまくれ!!露助に旅順の借りを返してやれ!!」
「了解!!俺の大叔父があそこで死んでるんだ、40年越しの敵を討ちまっせ!!」
かつての日露戦争の旅順戦で日本軍は甚大な損害を被った。それが息子や孫の代になった現在にその時の借りを返す。ある意味恐ろしさを感じさせる。因果応報とはこう言うことを言うのだ。そして日本軍の戦車がきちんとした機甲戦を行う。旧史では決して見られなかったものがそこにはあった。
-三式中戦車シリーズ。それは日本初の`対戦車用`戦車であると同時に兵士たちにとっては愛すべき初めての欧米と同等の`軍馬`であった……。




