第三四話「四式戦闘機、登場」
四式戦闘機がロールアウトします。
―さて、ソ連艦隊が動いたわけであるが、その陣容はマクシム・ゴーリキー級巡洋艦、キーロフ級巡洋艦などの新鋭艦に第一次大戦時の旧型が入り混じる編成であった。対する日本は大和型戦艦3隻(51cm砲搭載艦にランクアップしている)を主軸に、長門に榛名と霧島の残存する金剛型を加えた陣容であった。陸奥を失ったのが痛いが、幸いなことに日本には嬉しい新鋭艦が2隻加わっていた。建艦計画の要の一つのB65型大型巡洋艦の第一次生産艦が竣工していたのである。名は筑波と生駒。かつての装甲巡洋艦の名を受け継いだこの2隻は水雷戦隊を率いるのが設計当初の思想であったが、建造段階で多少の修正が加えられ、情報処理能力と対空能力が高められた。艦橋などのレイアウトは大和型のそれと全く同じで、廉価版大和の様相を呈していた。
― 呉 第二水雷戦隊旗艦「筑波」 艦橋
「これが筑波か……先代と違って充分に働いてくれそうだ」
田中頼三中将は慎重かつ時に勇敢な一面を持つ軍人で史実通りに第二水雷戦隊の司令を務めている。彼は高雄型巡洋艦より遙かに広々な艦橋に関心すると同時に、名前の元になった先代の装甲巡洋艦に想いを馳せた。生まれながら旧型のレッテルを貼られ、大して活躍せずに終わった先代「筑波型」と違って、今回は最新鋭として存分に働けそうだ。
「我々の出番はまだでしょうか」
「そういきり立つな。ソ連艦隊が現れた時が我らの働きどころだ。アメ公共との戦いの予行演習にはなろう」
彼は鼻息荒い部下たちを諌めると同時に来るべき第二次日本海海戦への決意を示した。先輩たちが戦ったあの戦争では文字通りの大海戦であったが、邪魔者はいなかった。今回は航空機や潜水艦などの兵器が発達してきているので水上艦艇の優位だけで勝てると思ったら大間違いである。特に数が多い潜水艦には要注意だ。しかし筑波には試作装備がつけられていた。対艦魚雷が無い代わりに十二糎二八連装噴進砲を改良し、対艦用に大型化した新型を搭載している。ミサイルまでの繋ぎの装備だが、威力は充分である。小型戦艦の域を出ないように見えるこの艦の最大の武器だ。
「アメ公共のアラスカ級は所詮大きい巡洋艦の域を出ないが、この超甲巡は違う。小型高速戦艦に入る。いざ取っ組み合いに成ればあの様な失敗作など問題ではない」
田中頼三は超甲巡の力をこう評した。アラスカ級が`大きい巡洋艦`の域を出ず、結局2隻のみの建艦に終わったのに対し、超甲巡は改良効果もあって`廉価で調達可能な高速戦艦`に入る。建艦数も44年以降にさらに2隻(金剛型の榛名や霧島の代艦)が建造予定である。
「さて、今日は艦隊運動の訓練に入る。総員、配置に付け!」
練度を引き上げ、実戦で力を発揮しなければせっかくの最新装備も宝の持ち腐れだ。それは史実の信濃や大鳳で証明されている。田中頼三は口から泡を飛ばす勢いで艦隊に指示を飛ばす。陸奥の喪失から特に重視されているのはダメージコントロール訓練や乗員の総合練度。彼はF情報からその重要性を理解している一人だ。今日も第二水雷戦隊は月月火水木金金の猛訓練に励んでいく……。
―第一航空艦隊旗艦「瑞鶴」
「あれが次世代型の`疾風`か」
「はい。とりあえずハ42を搭載した先行生産ロットのものですが」
呉に停泊中の瑞鶴では次世代型制空戦闘機の運用テストが始まっていた。零戦や鍾馗に代わる次世代型制空戦闘機「疾風」。中島飛行機がキ44で模索した重戦傾向を順調に発展させたキ84の番号を頂いた機体で、さらなる重武装(ホ5を2個追加して4丁搭載)を施された制空仕様の`甲型`として試作された機体。制空戦闘機としての速度・運動性・防弾仕様などを全て高レベル化した機体。対Gスーツも一緒に採用される予定だ。
小沢治三郎はこの次世代型制空戦闘機に期待を懸けていた。今のところは先行配備を間に合わせるために現有で唯一の18気筒での実用発動機「ハ42」を搭載したが、将来的に2500馬力のハ43へ換装するとされている。零戦は長らく艦載機主力を務めていたが、ようやくお役御免の時が来たのだ。
新型の制動装置などが装備された瑞鶴でのテストは良好。来年には量産機を実戦部隊へ配備を開始するというのが参謀本部の思惑だ。この機体は甲型の試作70号機。細部を初期試作機より洗練し、航法装置とプロペラを新型へ変えたものだ。
「ようやくこれで米軍次世代機と同等になれるな」
「はい。これで搭乗員らも楽になりましょう」
参謀長の角田覚治も小沢同様に次世代機の完成に感動しているようだ。これで名実ともにヘルキャットやコルセアのカウンターパートとなりうる機体が日本軍に登場したのだから。これで零戦からの早期機種変更が可能となるのは大きい。
「後で整備班長を呼び出せ。構造・エンジン整備などの意見を聞き取りたい」
「分かりました」
四式戦闘機はまだ試作に過ぎない。なので不具合も多々出るだろう。それを解消して量産型に反映させたいのが日本軍と中島飛行機の考えだった。零戦の限界が出始めたフィンランドに送れるように早くしたいのだが、そううまくいかないだろう。




