第二九話「この雷電凄いよ!!さすが紫電改のお兄さん!!」
雷電の空戦がメインです。
-大東亜戦争末期に日本軍の未熟な搭乗員達が戦果を挙げられなかった要因の一つに
「零戦には口径が異なる機関銃や砲が混在したためにコツが掴めなかった」というのがある。弾道が異なるために未熟な新兵達は性能差がある敵新型機に機銃を当てる事が出来なかったという。新史日本軍はその点は熟知していたので、機銃口径は要撃機で30ミリ、制空戦闘機などで20ミリなどに統一し、それに見合った訓練課程を構築していた。そのため新兵でも戦果が挙げられるようになっていた。
-1943年 フィンランド
「落ちろ!!」
この日も遙は高速重武装の局地戦闘機「雷電」を駆り、空戦に臨んでいた。相変わらずの迎撃戦だが、こういう時に局地戦闘機の真価が発揮される。Dive and Zoom(一撃離脱戦法)を駆使し、持ち前の30ミリ機関砲4門が唸り、Il-2が紙飛行機のように分解していき、火を噴く。遙は上手く機体を離脱させて悠然とフィンランド上空を飛行する。
今度は戦闘機が襲いかかってくる。見るに最新鋭のyak-9だろう。この機体が出てきたということはソ連も本腰をいれてきたのだろうが、640キロが出せるようになった雷電の敵ではない。
「少し遊んでやるか」
操縦桿を動かし、垂直上昇から空中に静止し、そのまま真横に失速反転する。俗にいうハンマーヘッドと呼ばれる曲技飛行の技法である。雷電の頑丈な機体構造と日本機ならばの運動性が欧米機で行った場合のそれよりも華麗かつ繊細な動きを実現した。敵も追従しようとするが、日本機ほどの運動性を持っていないからかどこかぎこちなく、不安定だ。
「くそっ、あのЯпонские самолеты(日本軍機)……なんて動きをしやがる!!」
yak-9を駆る兵士は雷電の華麗な動きに舌を巻く。彼もそこそこ生き残ってきたつもりだが、初めて日本軍との巴戦を経験するので緊張している。最新鋭の日本機は高性能だと聞いていたが、噂通りだ。
(よし。最後はスプリットSで決めてやる)
遙は180度ロール、ピッチアップによる180度ループを順次、あるいは連続的に行うことで、縦方向にUターンするマニューバー「スプリットS」を敢行。反対側に通り過ぎた敵機をおう。
640キロの高速はすぐに敵を照準に捉えることができた。MK 103 機関砲4門が火を噴き、敵を破砕する。
直前に搭乗員は脱出したらしく、落下傘の姿が見える。
「……残弾はあるが、燃料が心配だからそろそろ戻るか」
もっと戦いたいが局地戦闘機である雷電は航続距離にあまり余裕が無い。深追いすると危険なので引き上げる事にした。基地まではなんとか持つだろう。敵影がないことをレーダーで確認しながら基地へ帰投した。
-1時間後
「おっとと……」
今回、遙は雷電で敵攻撃機2機と戦闘機3機を叩き落す戦果を上げていた。上々の戦果だが、雷電で最も気を使うのがこの着陸の瞬間だ。雷電は史実では殺人機と言われたが、新史では改良されたもの、着陸が一番気をつかう瞬間であることには変りはなかった。操縦桿とスロットルやフラップを上手く操作して着陸する。
「お疲れ様です、参謀」
「ああ、中川司令官に戦果を報告してくる」
遙はこの時期には参謀でありながら航空機を駆って前線で戦う事も日課となっていた。これはソ連が連日連夜、物量に物を言わせた攻勢を取ってくるからであり、搭乗員の負傷や休息の関係で搭乗員の定数が揃えられない場合もあるので、窮した司令部に支那戦線で零戦二一型を駆った経験のある彼女は中川州男司令に搭乗員として出撃する用意があると告げた。すると、彼は「それはいい!!早速やってくれんか」といい、搭乗員名簿に遙の名を書き加えた訳である。今では今回含め、出撃回数は既に30回を数えるようになっていた。
「ご報告いたします。岬遙大尉、只今帰投いたしました。戦果、戦闘機3、攻撃機2機」
「ご苦労。ゆっくりと休みたまえ」
「ありがとうございます」
敬礼すると自室に戻り、戦略を組み立てる。今度の攻勢はきっと近いうちに起こるだろう。それまでに敵の手の内を把握して置きたいからだ。
「参謀」
「おっ、どうだ国内の状況は」
部屋には客がいた。知り合いの最近重宝している、表向きは`映画俳優`の情報部員だ。彼とは情報部の重要ポストに就いた`叔父`(中佐の2番目の弟)のもとを訪れた時に叔父から紹介され、それ以来情報を逐次提供してもらっている。
「今回は国内の兵器開発と米軍の状況を報告します」
「頼む」
彼は遙に情報を伝える。重要な事実だ。
「国内では次期主力戦闘機用無線誘導弾(後世でいうミサイルや誘導爆弾。ジェット・プロペラ両方)が研究され初めています。ケ号自動吸着弾、イ号一型甲/乙無線誘導弾の研究が行われています。試行錯誤で……実験で旅館に流れ弾が命中したとかなんとか」
「うわあ、ご苦労さん。種類は?」
「対空、対地、対艦のすべてです。国内では第一級計画で`イ号計画`と呼ばれています」
「イ号ねぇ……大層だな。航空機は?」
「川西の紫電改と中島の疾風が実用試験段階に達しました。軍は疾風を主力にするそうです」
「意外だな。海軍は紫電改を甲戦に押すと思ったんだが」
「速度性能が決め手になったようで、疾風は695キロ出たそうですよ」
「100オクタン使ったのか?」
「はい。92でも650キロ出たそうで」
「大東亜決戦機の本領発揮か。まあ紫電改も幸せかもな。本来の目的に徹しられて」
遙は紫電改が旧史で零戦陳腐化と烈風の遅れで、なし崩し的に海軍制空戦闘機の座を継がせられた事を思えば、今回は局地戦闘機に徹する事ができる分、真価が発揮できるだろうと安心した。そして疾風が主力になったのは当然だろうと思った。
「戦車の方は4式の要求仕様が決定され、ドイツの88 mm KwK 43 L/71のライセンス獲得交渉が始まりました」
「ティーガーの主砲か。上もかなり欲張りだな」
「はい。それで`61式`を参考につくるようで」
「61式か。大丈夫か?」
「さあ?私にはなんとも」
ある意味欲張りな陸軍機甲兵科に呆れつつも遙は一応61式に関する資料を陸軍に贈るよう`父`に手紙を書き始めた。陸軍の贅沢な願いは適うのだろうか。




