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あの時助けていただいた地蔵です ~お礼は俺専用ダンジョンでした~  作者: 大正


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第54話:おうちデート?

 女の子に尻を追いかけられるというのはあまり気分のいいもんじゃないんだよな、という隆介の昔の何気ない一言が今俺に刺さっている。実際、俺の家に食事を取りに来るため、結城さんが俺についてきている。時々後ろを振り返りながらちゃんとついてきているかを確認しながらなのでスピードはそんなに出ていないし、信号もちゃんと停まる。


 結城さんは美味しい角煮のことで頭が一杯なんだろうか。それとも男の部屋に上がるというほうには意識ちょっとでもいっているのだろうか。果たして本当のところは結城さん次第だが、とにかく、俺は生まれて初めて……隆介曰く有史以来初めて女の子が上がることになるわけだ。


 家までの時間で考えておくことを色々考える。アカネは家にいるだろうか。原則いないつもりで振る舞わないといけないし、アカネから迂闊に話しかけられても反応しないようにしないといけないな。


 さすがに部屋には上がらないだろうから、リビングで冷凍してある角煮をいくつか分けてそれで終わりってことにしておきたい。ああ、神は何という試練を俺によこしたもうたのか。女の子が俺の家に来る。それだけでも大変な話だ。


 家までの時間で必死にどういう対応をするかどうか考える。入り込むとしてもリビングまでだろうし、俺の部屋までは入らないだろう。その間に冷凍庫から角煮を出して分けて、その間に何とか結城さんを引き留めて、あちこち見回られないように何とか引き留める小粋で気軽なトークを……そんなものはない。後は何か、何かないかな。オークの肉塊を見られるのも困るし、冷蔵庫の中身がそれほど入ってないのをつつかれたりするかもしれないのでそのあたりを膨らまして……どうやって? いやいややはり難しい。実際に部屋に入られてどこがどうと説明するほうがまだ解りやすさはあるな。とにかく、出来るだけ部屋の中を物色されないような感じでリビングに押しとどめるような形でとどまってもらうのが一番だな。


 ふぅ……まだ部屋にもついていないのにこれだけ頭がグルグルと回ってくれるんだ、テストになったらもう一回りしてくれるんだろうな。


 考え事がまとまらないままアパートにつき、自転車置き場に自転車を停める。結城さんがなんだか神妙な顔つきでこちらについてくるが、もしかして結城さんも一人暮らしの男の部屋に入るのは初めて……だったりするんだろうか。だとすればむやみに部屋の中を散策したりはしないだろう。そんなに心配しなくていいのかもしれないな。


 部屋の鍵を開けて中に招き入れる。結城さんはゆっくり部屋の中に入っていく。


「失礼しまーす」


「どうぞ、入って」


「おかえりー。お客さんかしら? 」


 アカネの声が奥から聞こえてくるが、反応してはいけないのであえて返事はしない。そして、アパートの鍵はあえて開けておく。ここでパチッと閉めたら結城さんが過剰反応するといけないからな。


「リビングはこっちだから、ついてきて」


「うん……意外と綺麗にしてるのね」


「部屋はごちゃっとしてるけどね」


 玄関先やリビングに入り、きょろきょろとしながらもとりあえずリビングの椅子に座る結城さん。目の前で冷凍庫から角煮を出して、チャック袋に固まったたれと数個の角煮を入れて、分けて渡す。


「これで足りるとは思うけど、もうちょっといる? 」


「いえ、これで充分よ。これをお手本にして作ればいいのね」


「一応レシピも頭の中にあるけど、参考にするなら送るけどどうする? 」


 臭み消しが要らないというのは余計な味わいを加える必要がないという点でも優秀だ。それを事前情報として伝えることで美味しさの方向性を持たせることもできるだろう。


「そうね、参考までに教えてくれるとありがたいわ」


「じゃあ、スマホに送信しておくよ。是非料理の時の参考にしてもらって」


「母にそう伝えておくわ」


 さて……会話が途切れてしまった。どうしよう。少しの間かそれとも長い間か、静寂が二人を支配し……


「まあ、幹也が女の子を家にあげるなんて。今夜はお赤飯かしら? それともちらし寿司で豪勢に祝った方がいいのかしら」


 一柱だけ盛り上がってるのがいた。無視だ無視。反応するのは彼女が帰ってからにしよう。


「男の子の部屋……」


「え? 」


「男の子の部屋、初めて上がったけど、こんなに綺麗にしてるのも珍しいのかしら。それとも、本条君が綺麗にしているだけなのかしら。どっちなんでしょうね」


 話題を向こうから提供してくれたのでそのまま話題に乗る。


「隆介曰く綺麗すぎるぐらいだとは言われてるな。部屋の中もまあ、散らかっているとは言われない程度には片付けられてはいるし、洗濯物は出た時点で洗ってるし。綺麗に出来てるとは思ってる」


「その辺あたしはダメね。全部親任せだし料理も習ってる途中だし。この角煮はお母さんに任せるとしてももっと腕前をあげていつか美味いと言わせて見せるわ」


「それは……手作り弁当を分けてくれるってことか」


「えっと……まあ……そういうこともあるかもしれないということよ」


 段々語尾が小さくなっていく。やがて顔を赤くし始めた結城さんにどう反応して良いか困る俺。


「今よ、そっと抱きしめてありがとうっていうのよ! 」


 約一柱ヒートアップして声を荒げているのが居る。そのまま抱きしめてキスでもしろというのだろうか。それは流石に青春レベルが足りないというか、ちょっと先に行き過ぎてると思う。


「き、期待して待つことにするよ。後は何かある? 」


「そ、そうね。そこに山積みにされているパスタの山があなたの主食なのはわかったわ」


 リビングの片隅にピラミッド積みしてある安売りパスタの山を指す。キッチンの戸棚を開けて、パスタソースが色々あることを見せつけて、塩パスタばかりというわけではないぞ、ということも見せておく。


「これで二週間ぐらいは食っていけるかな。後は米もあるし、今日の弁当みたいに米に角煮……いや、角煮にパスタ……それも有りだな。ボロネーゼとは違うけど角煮を潰してパスタに絡めるのもいいかもしれないな」


「パスタから離れたら? いくらお腹に溜まると言っても他の栄養不足になるわよ」


「そっちはちゃんと夕食とかで取るから大丈夫だよ。朝と昼をパスタにしてるだけで、夕食はちゃんと野菜炒めを作ったりして一日の栄養素は取れるように努力はしてるから」


 さすがに隆介みたいにゴミ箱を覗いて野菜くずからちゃんとバランスよく食べてる……とか推測するのはないだろうが、ゴミ箱には色んなゴミが入っているので察しのいい隆介以外に覗かれるとちょっと恥ずかしいところもある。


「ねえ、あなたの部屋ってどうなってるの? 」


 結城さんが俺の懸念事項の禁忌に触れようとしてくる。結城さんとしては興味本位なのだろうが……今何か見られえるとまずい物って表に出てなかったよな。


「少し片づけたいからその後でも良ければいいけど……男の部屋には興味あるものなの? 」


「そうね、ベッドの下にエロ本が隠してあったりするのかどうか辺りは気になるわね」


「流石に俺の部屋にエロ本はないぞ。ただ、ベッドの下は収納スペースになってるだけだからそれほど見て面白いものもないとは思うけど」


「それでも気になるものなのよ。ちょっとでいいから見せてくれてもいいじゃない。減るもんじゃないし」


 まあ、たしかに見られて減るようなものはない。俺の評判が下がるようなものもないはずだし、ラノベやゲームがちょっと散らかっている程度のはずだ。


「まあ、参考になるかどうかはわからないけど、変にいじったりしないなら別にいいよ」


「そう、じゃあ本当に覗くだけ……お邪魔しまーすっと」


 結城さんが俺の部屋に入ってくる。本当に有史以来俺の部屋に女の子が入ってくるという実績を解除した。後はまあ、部屋で何をするかだが、興味深そうに机の上を見たりベッドの乱れ具合を確認したりするだけのようだ。


「やっぱり他人の部屋ってその住人の匂いがするものなのね」


「臭いかな? 自分ではよくわからないから対処のしようがないんだけど、部屋用の消臭剤か何か置いた方がいいだろうか」


「そんないやな臭いってわけじゃないわ。男の子の部屋って感じの匂いはする。後は汗と……多分本条君の匂い」


 俺の匂い、と言われてドキッとする。俺の匂いってどんな匂いなんだろう。汗臭いのは仕方ないとして、やはり消臭剤でも一度撒いて、部屋の匂いをリフレッシュさせた方が良いんだろうか。


「今だ! 押し倒せ! やれーっ!」


 俺にしか聞こえない声が空気を読まない場違いの声援をかけている。まだ無視だ。


「思ったよりは綺麗な部屋してるわね。ちゃんと服も片付いてるし。私の弟はもっと汚い部屋してるわよ」


「弟いるんだ。それと比べたらっていうか、弟の部屋も一応男の子の部屋ってことにはなるんじゃないか? 」


「身内はノーカンよ。ベッドの下は……何か箱が置いてあるわね」


「しばらく使わないもの入れとして収納スペースに有効活用してるだけだよ。昔の服とか、冬服とか。まあ色々詰め込んではある」


 嘘である。その箱の中にはスキルスクロールとオークチーフを倒した時の魔石やまだ換金してないリザードマンの魔石が詰め込まれている。中を覗かれたら一発アウトだ。


「……ちゃんと勉強してるんだ。予習復習欠かさずやってるみたいな感じ。ノート見ていい? 」


「いいけど、俺に解る範囲でしか記述してないからあんまり参考にならないかもよ? 」


「この先どんな勉強していけばいいのか参考になるかもしれないから。じっくり読ませてもらうわ」


 そろそろ暗くなり始めるし、女の子は帰る時間帯だと思うんだが、良いんだろうか。まあ、勉強教えてもらってたという言い訳はできるか。結城さんは数学のページを熱心に読み込み、授業の内容をまとめたノートや例題の解き方なんかを熱心にめくっては頭に詰め込んでいっている。


 これをさらっと読んで身に着けることが出来ていたら、相当点数は上がると思うが、そこまで賢い、というわけでもないらしい。ある程度読むと、俺にこれどういう意味? という感じで解説を求めてきた。


「勉強会も立派なデート……になるのかしらね。まあ、部屋に呼んで一緒に勉強するのも仲が良くなければできないことだし、悪いことではないわよね」


 さっきからずっと放置されっぱなしの一柱がぼやきながらも、結城さんの成績を上げるべくちょっとずつ進捗は進んでいっていた。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

後毎度の誤字修正、感謝しております。

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― 新着の感想 ―
なんかちょっと甘酸っぱい感じでいいです〜 ちょっとずつ2人の距離が近くなっていく感じもいいです〜 続きが楽しみです〜
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