第53話:青春レベルのあがる音がする
オーク狩りにひたすら精を出す。リザードマンの居た四層から戻ってきて正解だったかな。やはりモンスター密度が違う。もしかしたら四層の奥のほうに行けばリザードマンもこのぐらい湧いているのかもしれない。
しかし今の戦力……というか連携の上手さや人数では、リザードマン二体は俺一人なら何とかなるが、二人だとちょっと難しいという珍しい現象が起きている。決して結城さんが足手まといというわけではなく、こっちのダンジョンでは本気を出しづらい、というのが正しいところ。
まあ、どっちにせよオーク二匹をひたすら狩り続けるほうがリザードマンを探して狩るよりはお金にもなるし、繰り返しで良いから楽であることに違いはない。
それに、オークは時々肉をくれてこれが4000円になる。このドロップは大きい。魔石だけでもそこそこの価値があるのに肉までくれるとラッキーストライクって感じだ。とりあえず現状集中して探索をしていれば一時間に一個ぐらいのペースで落としてくれるので、非常に美味しい思いをさせてもらっている。土曜日とはいえもうちょっと混んでても良いもんだが、何かあったんだろうか。
「ずっと貸し切りだけど、オークは人気がないのかしら? 」
「そんなことはないはず。いつもならもう二、三パーティーが続いてくれているはずだが、今日は貸し切りだな。おかげで背中が段々重くなってきたから恩恵にはあずかっていられてるけども」
「どうする、一回戻ってみる? それともいつもの時間までか、荷物が一杯になるまでここにいる? 」
結城さんが不思議がっていて、何か外で起こってるんじゃないかという推察をしているが、俺としてはせっかく稼げる場所を提供してもらえているんだからそれに抗うのも何か違う気がするんだよね。
「んー。このまま稼ごう。せっかくの休日なのに探索者があんまり来ないってのも気にはなるが……もしかしたら近くでインスタンスダンジョンが発生してて、それの対応に追われてる、という可能性もあるかな」
「じゃあ私たちも行かないといけないんじゃないの? 」
「今から行っても多分出来ることってないと思うんだよね。戻って換金して、それが終わったらインスタンスダンジョンも終わってた、って話になりそうでさ。それなら、人が戻ってきたタイミングでこっちも戻るほうが理にかなってるし、こっちは朝からずっと潜りっぱなしでそもそも人と出会わなかったわけだし」
「本当にインスタンスダンジョンが出来てるとは限らないものね。現状維持で良いわ。本条君の判断を正しいと考えることにする」
「単純作業だけど、その分成果はしっかり背中に重さとして残ってるから、今日の稼ぎはかなり多いと考えてくれればいいぞ? 戦う時間も短くなってきたし、確実に成長してると思う」
実際の所、あと何時間ここで作業を続ければレベルが上がるんだろうな。100時間ぐらいかな。結城さんのレベルが上がる前に受験シーズンが来てしまいそうだが……まあ、それまでに本人の努力でなんとかするだろうし、そこまで俺は関知しない、というか踏み入るつもりはない。
ダンジョンの中でならそこまで面倒を見るつもりはあるけど、ダンジョン外でのことに関してはまだまだ俺は結城さんのことを知らなさすぎる。そこまで踏み込むにはそっちも知っておく必要があるからな。
そこまで親身になってしまうのも結城さんからは迷惑かもしれないし、自分がテストの成績が良かったからと言ってそれを鼻にかけてダンジョン以外のプライベートの時間にまで影響を及ぼすのはまた違うな、と思っている。そこでぐいぐいいけ、と頭の中の隆介が叫んでいるような気がするが、そういう目的や思念があって結城さんとこうして探索を共にしている訳ではないんだ。
非常にデリケートな問題だ。向こうから言い出さない限りダンジョン以外での手助けはしないようにしておこう。それが良いと思う。
オークを一通り片付けてリポップ待ちの少しのタイミングで小休止を取り、水分補給をしながら雑談を始める。気晴らしにはちょうどいい。
「ところで本条君、今日のお昼ご飯の話なんだけど」
「角煮の話? 」
「そう、あの角煮、少しで良いから譲ってもらえないかしら? あとオーク肉も一つ。こういう美味しいものがドロップするダンジョンで頑張ってる、って親にも見せたいところなのよね」
「それは構わないけど……美味しい肉は大事だが成績も大事だぞって言われたりしない? 」
俺の成績、という言葉に刺さるものがあったのか、「うっ」軽く胸を押さえる結城さん。
「それを言わせないために、美味しい角煮の元がこれでーすと見せびらかせてみたくなってきちゃって。もちろん、等分する分だけのお金は払うわ。だからいいかしら? 」
「そういうことなら等分の分け前も要らないから一つ持っていきなよ。後、角煮は家に冷凍保存してあるからまたダンジョンまで持ってくる必要があるけど、まあその二点ぐらいは俺が手間かけてもいいかな」
「いや、それは悪いから私が取りに行くわ。そのほうが本条君にも手間をかけさせないで済むし。私はお肉と角煮さえあれば後は両親を説得して美味しい角煮をまた食べられればそれでいいから」
あ、自分では作らないんだね。まあ、任せた方が美味しいものが作れるというならそのほうが良いんだろうけど、料理する結城さんも少し見て見たかった気がする。
「よし、そうと決まればもう一個お肉をゲットしてその分を私が持って帰るぐらいの気持ちでいないとダメね」
一応俺のほうはビニール袋に入れてお肉を保存してるから綺麗と言えば綺麗なんだけど、こっちを持ち帰り用に渡した方が生理的な面で清潔かな。
休憩を終えて再びオーク狩り。肉を手に入れるという目的もあってか、結城さんのやる気を取り戻すことに成功した。正直俺も若干飽きてきていたが、結城さんの反応が一喜一憂するのを見てたらなんか面白くてやる気が出てきた。
そして、念願のオーク肉をドロップして喜ぶ結城さん。
「出たわ! これを持って帰る! 」
「はいはい、じゃあきちんとビニールにくるみましょうねー」
用意してあったビニール袋にオーク肉を包むと、結城さんの背中のバッグに入れてあげる。
「これでまた角煮が食べられるのね」
「同じものかどうかは保証できないけどね。まあ、頑張ってもらって」
さすがに半日かけて作った角煮とは一線を画すものが出来るだろうが、もし俺のよりも美味しいものが出来たら一口味わってみたいものではある。料理の道は一日二日で極まるものではないのだ。
生きてきた人生の分を考えて、俺の料理スキルよりも結城さんの親の料理スキルのほうが上なのは想像に難くない。専業主婦ならセミプロと言えなくもないだけの実力を持っている人だっている。そういう人の手によって作られた角煮ならさぞ美味しかろう。
集中していたが、スマホからアラームが鳴る。いつもの帰還の時間になった。
「あら、もう時間? 早いわね。もうちょっと先じゃないの? 」
「集中してたからだろう。いつもより荷物も多いし、今日はちゃんと稼いで帰れるし、帰りは家に寄っていくんだろう? 多少早めに帰ってもいいぐらいじゃないのかな」
「そうね。あんまり欲張っても悪いし、このぐらい稼げば……いくらになるのかしら? 」
「そこまでは数えてないから何とも。でも、いい金額になるのは確かかな」
背中のリュックを揺すり、しっかり中身は入っているとアピール。それに安心したのか、気分が晴れやかになったように結城さんが気分を変え始めた。
「じゃあ帰りましょ。今日もたくさん稼いだみたいだし、換金窓口での金額が楽しみだわ」
帰り道、レッドキャップエリアを抜けようとしたが相変わらず人がいない状態なのでほぼ手放し状態のレッドキャップを相手にするのに時間はかかったが、それ以外は問題なく倒せていった。どうやらレッドキャップよりも浅い場所ではちゃんと探索者が居たことになり、オークより先の部分にだけ人がいなかった、という珍しい状態になったということになる。
退場ついでに受付の人に聞いてみることにしよう。受付で退場を告げるとともに質問をしておく。
「今日は人が少なかったみたいですけど、何かあったんですか? 」
「インスタンスダンジョンが発生してまして。比較的大規模だということで皆さんそっちへ行かれたのかと思います。昼前ぐらいからでしたか。換金カウンターや事務所の動きを見る感じ、まだ収まってない様子ですね」
「それは……今からでも僕達が向かった方がいい話なんでしょうか」
「流石に今から行っても、というところでしょう。比較的強いパーティーが奥まで潜っているようですし、お二人で潜れる範囲を考えれば、今日は一日ダンジョンの中に居たのが正解だったかもしれませんね」
良かった、怒られるようなことにはならないらしい。結城さんと目を合わせると、肩を軽く竦ませて、言ったとおりだったわね、という感じが伝わってきた。
そのまま換金カウンターへ向かうと、換金カウンターは大盛況。どうやら本当に大規模なダンジョンが出来てしまったらしく、聞こえてくる話を盗み聞きするだけでも、明日までに攻略できるかどうかも不明なんだそうだ。駅前ダンジョン以外にノーマライズダンジョンが作られるのかもしれないな。
順番をしっかり待ち、三十分ほど待ってから自分たちの番が来た。こちらもどちらもあちらも換金換金と偉い騒ぎようだ。結城さんに渡す一つのオーク肉を残して全てを換金へ出す。
換金係のお姉さんがそのまま魔石とオーク肉を預かり、奥で鑑定と肉の保存作業を多分やっているんだろうな。流石に塊のまま常温放置するはずもないし、何かしらの保存処理をしているんだろう。
しばらくして結果が帰ってきた。本日の稼ぎ、二等分して34500円。リザードマン含めてオーク肉とオークの魔石でかなり稼がせてもらった感じだ。時給にしても4000円ほどにはなるだろう。かなり割のいい仕事になったはずだ。
「じゃあ、本条君の家に寄らせてもらうわね」
「解った……? 」
あれ、気軽に返事しちゃったけど、よく考えたら俺の家までデート継続ってことになるんじゃないのか? そうなると、俺の部屋を初めて女性が踏み入れることになるのか。それってどうなんだ。大丈夫か、俺。割とまた簡単に青春レベルを上げてしまっていないか。
「なんで疑問形なの? 」
「いや、なんでもない。家こっちだからついてきてね。あと、自転車だよね? 」
「そうよ。だから後ろからついていくわ」
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。




