第52話:リザードマンと真剣勝負
午後に入り、オーク狩場を徐々に奥へ行きはじめた。オークも二体連れが増えてきたので、それぞれ一対一で対応できるようになっているので問題なく戦えている。結城さんがここで戦力として数えられるのは非常に大きい意味を持つ。
お互いがお互いの取り分としてオークを分け合えるので、どちらかに負担がかかる、というパターンが無くなったのが一番大きいだろうし、結城さんもオークぐらいなら一人で倒せる、と自信がついたのもあるだろう。レベルアップもまだなのに凄いな、と素直に思う。ここでレベルアップした能力を全力で確かめたらどこまでのことができるのか……次に俺専用ダンジョンに潜った時は試してみるか。
リザードマンぐらいならあっさり勝てるかもしれないし、実は今とあんまり変わらなかったり、どっちに転ぶかは解らないが、自分の全力戦闘がどこまで通用するのか、という点は知っておいて損はないだろう。
そのままオーク二匹連れと戦い続けて三十分ほどして、四層に到着した。空気が湿っぽくなり、水の匂いがする。
「ここからがリザードマンのエリアね」
「そう。水場には必ずいるらしいから、水源が見えてきたら戦闘準備する、という具合で良いと思う」
「なるほど……でも水場以外にも居るのよね」
「初対面だろうし気が抜けないとは思うけど、オークよりも頭を使ってくるから要注意。結城さんにとっては……フェンシングの恰好で立ち向かった方が良さそうかな。そのほうが若干戦いやすいと思う」
最初から体半分を見せないようにしていれば、リザードマンは薙ぎ払いの姿勢から動かないはず。その間に俺が横から一撃入れるなりして場を崩して、ついでに止めを刺してくれれば結城さんにもいい経験になるだろう。何事もまずはやってみるべき、だな。
早速水場に来たらリザードマンが水浴びをしていた。ここの水場に居るリザードマンは必ず水浴びをしている習性でもあるのだろうか。足元に転がっている石をぶつけてリザードマンの反応を見る。こっちに気づいたリザードマンが向かってくる。走らず、そして堂々と向かってくる様は今から戦おうという言葉すら聞こえてきそうなぐらいだ。
「まずはリザードマンの動きのほうをよく見てて」
「初手は見物に回らさせてもらうわ」
リザードマンの正面に立つと、リザードマンは突きの姿勢になり、半身になると今度は槍を持ち直して薙ぎ払いの姿勢にチェンジ。俺がしばらく正面を向いたり半身になったりを繰り返しながら徐々に近づいていく。
しばらくしてリザードマンの射程に入ったのか、突きをお見舞いしてくるが、剣で弾いて回避。どうやらリザードマンの槍でもそうそう簡単には壊れないらしい。これならオークチーフの山賊刀相手でも折れる心配をして戦う必要はなかったのでは? とも思う。
リザードマンが続いて上から殴り下ろしの姿勢に入ったので、右にサッと回避。そのまま剣をリザードマンの手に向けて振り下ろすと、リザードマンの手が切れたが、斬り込みが浅かったため槍を落とさせるところまではいかなかった。仕切り直しだな。
再び半身になりリザードマンの射程ギリギリまで近寄ると、今度はこっちからフェンシングの踏み出しのようなポーズで一気に相手の手まで剣を届かせる。その踏み出しの早さに対応できなかったリザードマンが槍を落としたので、落とした槍を蹴飛ばして水場のほうへ寄せて、手元に何もないようにする。
リザードマンは拾いに行くかそれとも素手で俺に殴り掛かるか少し悩んだ上で、槍を拾いに行ったが、俺に背中を向けたのはちょっとまずかったな。リザードマンに追いついて背中からバッサリと切り落とし、退治に成功する。リザードマンは槍と共に消滅し、後には何も残してはくれなかった。
「出来るだけ色んな引き出しを出すように動いてみたけどどうだろう? 参考になったかな」
「うん、何となく。流石にまだ一人で倒せる自信はないけど、二人で一匹相手ならなんとかなりそう」
結城さんなりに学ぶものはかなりあったらしい。わざわざ苦労して倒すような真似をした価値はあったってことだな。
さて、次は……と、丁度歩いてきたのが居るな。一匹だし連携で倒せるならさっきより短い時間で倒せるだろう。
「結城さんのタイミングで攻撃してみて。俺はリザードマンが槍を振るわないように抑え込む役やるから」
「解った。今回はそれでやってみる。後で攻守交替ね」
半身で立ち向かって、こっちの姿勢に対して薙ぎ払いの姿勢を取るリザードマン。結城さんは俺の後ろに居てまだ攻撃の姿勢ではない。リザードマンとの距離が縮まり、槍をこっちに向けて振り向けてきたので剣でガード。その瞬間を狙って結城さんがリザードマンに攻撃を仕掛ける。小剣で直接頭を狙ってフェンシングのように突き刺し、リザードマンの頭部をきっちり串刺しにする。
頭を貫かれたリザードマンはそのまま痙攣しながら黒い霧になって消滅する。頭でもいいのか、と一つ勉強になった。よし、次へ行こう。
「この調子で行けば何とかなるかな。次行ってみよう」
「さっきので一応正解なのね」
「倒せればこの際文句は言わないかな。若干危なっかしいところはあったけど、武器はこっちで抑えてたから飛び出せたってのもあるだろうし」
さらに奥へ進むと、また一匹リザードマン。同じように俺が槍を抑え込んでその間に結城さんが止めを刺すスタイルでどんどん倒していく。魔石も落ちたし、これでリザードマン経験としては充分な物かな。
結城さんと攻守交替し、結城さんに抑えてもらってる間に俺が攻撃をする、というパターンも経験してもらった。どうやら結城さんの小剣でも、槍に殴られても折れたり曲がったりはしない模様。ちゃんと耐久力はあるらしい。
そして、ついに出てきたリザードマン二匹連れ。さて、どういう戦い方にするかだが……
「結城さん、俺がまず一匹最速で仕留めるから、その間だけで良いので一匹受け止めててもらえないかな。もちろん倒せるならそれ以上のことはないけど、受け続けてくれてるだけでもいいよ」
「要するにやるだけやってみろってことね。ここまでのテストみたいなものね」
「そういうこと……さあ来るぞ」
リザードマンがそれぞれ俺と結城さんに向かってくる。二匹連携を取られてこっちのように順番に一人ずつ倒していく……そんなそぶりを見せていたらピンチだったが、そこまでの連携が取れるほど賢くはないらしい。おかげで一対一で思う存分殴り倒せる。
最大限素早くリザードマンに近づき、向こうが槍を構えだす前に剣を突きだし、リザードマンの首と体を泣き別れにして素早く倒す。俺の初動だとこのぐらいのことは出来るか。一つ自分の体のスピードの最大値がわかったな。そのまま結城さんの援護に入る。結城さんは槍の射程内で薙ぎ払いを受け止めて、さてこれからお互いどう動こうか? と顔を合わせている最中だった。
つまり槍のないほうはがら空きである。そっち側から攻撃に参加すると、リザードマンは二対一でこっちが圧倒的に有利なのでそのまま俺が剣を心臓部へめがけて突き刺した。リザードマンは黒い霧になって霧散する。後には魔石が残った。
「ふぅ、二対二でもなんとかなるか」
「流石にそっちが終わるの早すぎない? なんか仕掛けでもあるとか? 」
「いや、最速を極めるとどこまで短い戦闘時間で終わるのか確かめたかっただけだ。相手が武器を構えてなければ数秒で終わることが確認できただけでも収穫かな」
ちょっと誤魔化しておく。結城さんは自分の相手のリザードマンに集中していただろうから俺の瞬間移動的な速度に気づいてないだろうし、早さを極めてみた、的な話で終わらせておけばこれ以上詮索してくることはないだろう。
「さて、二対二でも問題ないことは確認できたけど、今日のところは下がってオークの続きをやろうか」
「そうね。オークのほうが数が湧いてるし、時間を考えたら入り口に近いところのほうが帰りも楽だわ」
そのまま来た道を戻り、湧きなおしていたリザードマンをそれぞれ一対一で倒しながらオークのところまで戻った。空気から湿っぽいのがなくなり、再び乾燥した空気に戻る。
「やっぱりこっちのほうが過ごしやすくていいわね。なんだかあっちはムシムシするし、あんまり長居はしたくない感じがする」
「こっちは運がよければお肉をくれるしな。リザードマンは槍を落とすらしいが……正直今貰っても手持ちに邪魔になるだけであんまり恩恵はなさそうだ」
「オーク肉もベチャっと地面に落ちるから正直あんまり食べたいとは思わないんだけど……よく食べようと思ったわね。私もひと切れ貰ったからあんまり人のこと言えないんだけどさ」
「オーク肉は細菌とかを持ってないから、水洗いしてしまっても問題ないらしい。だから俺も角煮にしてみたんだ。結果は想像以上のものが出来てしまってちょっとびっくりしてるけどね」
オーク肉はドロップした見た目からは判断できないぐらいに美味い。これは前のカツ丼でもわかったことだが、どうやらオーク肉は豚肉よりも脂の質が良く、それでいて細菌が居ないので水洗いしたりまな板で切った後洗わずに他の食材を調理しても問題ないという、食肉にはないショッキングさを提供してくれた。また今度、オーク肉で何か作ろうかな。何が良いだろう。
「さて、食肉の材料がまた襲ってくるぞ、とっとと倒して食材にしてしまおう」
「毎回落としてくれると懐に優しいんだけど……そうも言ってはいられないし、毎回落とされたらそれはそれで荷物が大変なことになるからほどほどでもいいわね」
まあ、荷物を一杯運んで帰ったほうが探索の目的には合致するんだが、あまり重くても困る……というのが結城さんの言い分らしい。
重い分には俺が持つから良いんだけどな。今日の朝と違ってバッグの中身はドロップ品と弁当の空箱と飲み物しかないから、空きはたくさんある。こいつに満載して帰ってくるのも目的の一つと言えばそう。だから気にせず重たい荷物を背負って帰ることにも期待していこう。
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