第51話:秘密のデートは継続中
ダンジョン入口まで戻り、換金を済ませる。時間はいつも通り。換金額は48200円になった。
「夜中から潜ってたんですか? やけに多いですけど」
換金カウンターからドロップ魔石の多さにチェックが入る。
「そうなります。日が昇る前からダンジョンに居ましたから」
「そうですか。その時間帯は人が少ないので狩り放題だったでしょうね」
換金カウンターも、やはりこの時間帯は暇だと自覚しているらしい。
「あはは、ほぼ貸し切りでしたよ。おかげで美味しい思いをすることが出来ました」
「今からは、また潜られるんですか? 」
「その予定です。土曜日は目一杯ダンジョンで稼ぐことを目標にしてますので」
もう一回来るという予定を話しておくと、そのまま次の人へと換金の列から離れる。さて、トイレを済ませたら入場口付近で結城さんを探すことにするか。来てないなら来てないでそのままもう一度……いや、一回家へ帰って追加の魔石を持ってきて換金することにしよう。
スマホを握って結城さんから連絡が来るのを待つ。入場列のほうを睨みながら結城さんが一人で入っていかないかどうかを確認する。もしくは、誰かと一緒に潜るのならそれはそれでいい。しかし、こうやって来るのを待っているのはストーカーの一種になったりはしないだろうか。
「なーに入場列を見つめてるのよ。私が先に潜らないように待っててくれたわけ? 」
後ろから声をかけられる。振り向くと結城さんがそこに居た。
「あー、いや、中に入ってから連絡をくれるかもしれないとも思って。ちょうど朝の換金が終わったし、いつもの待ち合わせの時間にもなったし、色々ね」
「ふーん……で、準備はいいのよね? なら行きましょ」
結城さんは何事もなかったかのように入場列のほうへ歩いていく。俺もそれに続いてダンジョンの中に入る。流石にこの時間は朝一という人も多く、奥へ行く道は大体綺麗に掃除されていて歩くだけの部分が非常に多い。かといって無理に横道にそれてこの辺りで稼ぎたい、という理由があるわけでもないし、狙っているスキルスクロールがあるでもない。このままレッドキャップ地帯を抜けてオークまで良ければ便利だな、という程度である。
「俺さ……今日来ないかと思ってたんだよね。体育祭の時にひやかされていたから、それを気にして結城さんは俺とダンジョンに来るのを止めるんじゃないかって」
「そんなこと考えてたの? 気にしないでいいのに。まだ付き合ってるってわけでもないし? まあこれからも探索には付き合ってくれるんだろうからダンジョンでデートなんて雰囲気のないところではあるけどね」
あっけらかんと答える結城さん。俺の杞憂100%だった、と今証明された。この数日間の悩みは何だったのか。
「その返事がすぐに聞けるなら体育祭の夜にでもメールで返事を聞いておきたかったな。だとすればもうちょっといらんこと考えずに済んだ」
「心配性ねえ。まあ、私を気遣ってくれてるのはわかったからそれはそれでよしとしときましょ。今日も頑張って稼いで帰るわよ」
「それはもちろん。俺の気も晴れたし、ここ数日悶々としてた気持ちはモンスターにぶつけてなかったことにしておきたい」
「良い心がけね。じゃあとりあえずオークのところまでみんなについていきましょ。レッドキャップ辺りは戦うのが面倒だし、出来るだけ自由に思う存分戦える場所が欲しいわ」
結城さんが前を歩いていくので後ろにぴったりとマークして、レッドキャップの気配がしないかどうかだけを確認していく。女の子の後ろを歩いてるおかげで、シャンプーかリンスの良い匂いが俺にまとわりついてくる。女の子はどうしてこう良い匂いがするんだろう。
レッドキャップ地帯を抜けてオーク地帯へたどり着いた。ここからはオークを見つけては狩り、見つけては狩りの繰り返しだ。結城さんも戦闘に慣れてきたおかげで、一対二でも問題なくオークを倒していける。
一時間ほど連続でオーク戦ったところで小休止。魔石もオーク肉も手に入ったのでこの一時間だけでもそれなりの収入を得ることが出来た。時給にしたら……3000円か4000円かそのぐらいになるだろうか。次の一時間も同じように戦えればいいんだが。
「オークの次ってリザードマンだったよね。行くの? 」
「一応さっき戦ってきてはいる。一対一ならまあ負けない勝負はできる。ただ二体出てくると保証が出来ない感じだね。結城さんが居ても厳しいかも」
「本条君と私でも一対二は厳しいんだ? 」
結城さんが意外そうな顔をする。多分本気を出したら一対二でも問答無用で倒せる相手ではあるだろうが、レベルアップした分を抑える形で動いているので、専用ダンジョン以外ではおそらく一対二の場面が出てきたらピンチに陥る可能性は高い。
「そんなわけで、今日もオーク狩りかな? できるだけ一杯ドロップが落ちると良いね」
「ドロップと言わずスキルスクロールでも出てくれればかなり美味しい思いが出来るわね。今日もしっかり稼ぎましょう。過去一記録を更新するつもりで頑張るわよ」
結城さんはやる気満々だ。こっちも負けない程度にカバーしつつ、結城さんが一人でも問題なくオーク討伐が出来るという自信がつくと嬉しいところ。
早速オークが現れたので結城さんが前に出て、一人で戦えるかどうか実践訓練をしてみる。型通りに足の腱を切って転ばせた後、心臓にめがけて一発でオークを倒し、無傷無問題で倒せることを実践して見せた。
「どうよ」
「良い感じ。その調子でどんどん行こうか」
◇◆◇◆◇◆◇
お昼になり、オークがあまり湧かない地点で昼食をとる。二人座り込んで、弁当箱を開ける。
「どうせ今日もパスタ……じゃない! 」
「今日は手間暇かかったオークの角煮弁当だぞ」
「自作したの? 凄いわね。しかもおいしそう」
結城さんがこちらの弁当に目を奪われている。結城さんのお弁当はこっちとは違って色とりどりだ。バランスよく野菜が配置されており、ちゃんと肉も入っている。それに比べて米の白と角煮の茶色とほんのりのキャベツの緑。彩りでは完全に敗北している。
箸で柔らかく角煮をぷつんと切って見せると、そのまま口の中へ放り込む。うむ、冷めているとはいえ柔らかさも味わいも損なわれていない。朝食べた角煮と冷えて脂分がしみだしている以外は満点と言っていいだろう。結城さんがごくりと喉を鳴らす。
「……一つ食べる? 」
「じゃあ、こっちのおかず三つと交換で」
「やけに張り込むね」
「それだけの価値があるような気がしてきたわ。卵焼きでもトマトでもアスパラでも好きなものを持っていくと良いわ」
お言葉に甘えて、その三点を選ばせてもらうと、結城さんの弁当箱に角煮をそっと乗せる。結城さんが慎重に箸で角煮をつつき、そして箸で割る。箸の抵抗を受けずに柔らかくほぐれていく角煮を、結城さんが慎重に口に入れていく。
そして口に入れ、かみ砕き、顎を前後左右に動かしながらうっとりとする結城さん。少し色気があるそのしぐさに俺も少しドキッとする。
「なにこれ。すごく美味しい……肉の臭みもないし、しっかり煮込んであるし、相当手間かけたんじゃないの? 」
「昨日の夕方から今朝にかけてだから半日かかってることにはなるかな。最近の俺の料理の中では一番の自信作だ」
「売ろうと思ったら売れる品物ね。いくらになるのかしら」
なんだか俺から買い付けようとしているのかのような結城さんがそこに見られた。自分で作ろうと考えない辺り、お弁当も簡単なものは自作だが手の込んだものは冷凍に任せている、と言った感じなんだろう。現代人としては正しいが、食を追求するという面では今一歩及ばずってところだな。
「今日はこれが食べられただけでも来た甲斐があったわ。もう後はこの美味しさだけでも満足しちゃう感じね。午後からはどうするの? 」
「そうだなあ。オークに居座り続けてもいいけど、リザードマンを二人で倒す場合どうなるか、というのを試してみたくはあるかな。多分隆介……ああ、小林隆介ね。あいつの誕生日がもうすぐだから、きたら二人で潜ることもあるだろうし連携でどう動けば楽に倒せるようになるかというのを試しておきたい」
「小林……あいつも探索者になるの? 」
結城さんが怪訝そうな顔をしながらたずねてくる。おそらく、もしかしたら一緒にパーティーを組んで行動をするかもしれない、という話にもなるんだろう。
「うーん、彼女と一緒に潜りたいとは言ってたから、基本は教えるつもりではあるけど、それ以外でパーティーを組まなきゃいけないような状態になったらその時にまた考えるかな。もともとこの防具も、隆介の誕生日までに割り勘した金を用意できなかったら隆介のものになる、という条件付きで金出し合って買ったものだし」
「じゃあ、今手元にあるということは割り勘した分は稼いだってことなのね」
「そうなる。スキルスクロールが出てそれを売ったお金もあったし、結構値は張ったが確実にこの防具は俺の物だって主張はできる。隆介も防具なり武器なり盾なりをそろえるのにまたお金がかかるだろうけど、何とか自前で用意するとは言ってたから大丈夫そうかな」
隆介は馬鹿でも無謀でもないから、きちんと計画立ててそれらをそろえる用意はできているだろうし、武器の面は最悪俺の包丁槍をやるとは言ってあるので、防具だけはきちんとそろえてくるんだろうな。
「ほんとは二人が良いんだけど」
結城さんがボソッと独り言をつぶやく。また一方的に喋っていて聞き逃してしまったな。
「何か言った? 」
「何でもないわ。それより、午後も稼ぐわよ。小林が来る前にもう一歩先へ進んでおきたいわ」
先に食事を食べ終えた結城さんが立ち上がり、ぐっと伸びをする。
「そうだな。今度はこっちが貸し付ける側になれるかもしれないし、その分の稼ぎは確保しておきたい」
とても美味しく胃袋に溜まるご飯を思う存分楽しむと、尻と膝をパンパンとはたいて埃を落とす。こっちも伸びをして、食事の間の身体の塊をほぐすように柔軟運動。問題なさそうなので水分も補充し、さあ、午後の部を始めるか。
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