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あの時助けていただいた地蔵です ~お礼は俺専用ダンジョンでした~  作者: 大正


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第50話:決戦の土曜日

 土曜日が来た。朝も明けぬうちから弁当作りから始める。今日もパスタ……ではなく、米だ。何故なら、今日のお弁当の主役はオーク肉の角煮。昼間冷蔵庫に寝かせて解凍し、学校から帰ってきた後茹でて冷まして茹でて冷ましてを繰り返し、しっかりと下茹でを終えて、浮き出てきた脂をラードとして何かに使うように保存しておく。


 このラードはチャーハンでも作る時に使おう。流石に捨てるのはもったいないし、高級肉の脂だしな。何に使っても困らない一品として冷蔵庫で冷えていてもらっている。


 その後で、臭み消しの生姜や香辛料なんかの材料が少ないが、醤油や砂糖と酒で合わせた調味料でしっかりと煮たたせて、完全に冷まして、そこまでして出来上がったものが今目の前にある。後はこれをもう一回温めれば完成だ。いつもの一品料理にしては手間暇が存分にかかっている。後はキャベツを刻んで……よし、お弁当箱の中に夢の世界が詰め込まれた。


 後日の分も含めて一杯作ったので、今食べない、使わない分は冷凍して、月曜日のお弁当にでも詰め込んで持っていこう。確実に隆介が腹をすかしてたかりに来るぞ。


 さて、余分に米も炊いたし一つ味見に用意しておいた角煮と刻んだキャベツの残りを皿に盛って朝ご飯としよう。炊き立てご飯に角煮にキャベツ。これが美味しくないわけがない。朝飯と昼飯が同じになっても今日はいい。


 いただきますをすると、アカネのほうに盛大に青い光が流れ始めた。そのおかげか、またアカネがググっと成長する。身長は二センチぐらい伸びたかもしれない。髪は確実に伸び、おかっぱだった後ろ髪が肩の下まで伸びるぐらいになった。


「これは中々の手間暇かかった一品ね。私も見てたけど、ここまで料理に情熱を注げるのも大したものね」


 アカネの声の響きも、幼さが少し抜けたように感じる。成長し始めているのは間違いないだろう。


「オーク肉が安全無菌だとわかったからできた角煮だ。ここまで手間暇使った角煮もそうそうないぞ? 」

「でしょうね。味わえないのが残念だわ」


 本当に悔しそうにしているアカネの顔を見ながら箸で角煮をほぐす。ほぐす、という作業すら必要ないぐらいに、箸をただ当てるだけで角煮は簡単にほぐれていった。ここでもうわかる、これは美味しい角煮だ。


 ご飯にワンクッションすると、角煮の脂がご飯にしみこんでいき、茶色い跡を残す。その残りごとご飯と角煮を一度に口に入れる。


 ……


 …………


 はっ、美味すぎて時が止まっていた。これはいかんな。ダンジョン内でも同じようになってしまうと注意がそれてその間にモンスターに襲われるかもしれない。もしかしたら危険な一品だったかもしれない。しかし、一つと言わず二つ……いや、これは際限がない。一つで充分だ。これはあくまで味見なんだから一つで我慢しなくちゃいけない所だ。


 残りの角煮を慎重に使って……行くことなどできない。角煮をご飯の中に沈めて、ご飯にたれをしっかり絡めつつ、キャベツをワシワシっと食べて脂の吸収を早めてくれるようにすると、残りのたれと脂をしっかりとコメに吸い込ませてまた一口。


 美味い……ここしばらくの食事の中で一番美味い食事ではないだろうか。これにかなうとすれば、市役所近くの鰻屋にでも行かないと勝てる要素は薄いぞ。


 しっかりと味わいつくした後、茶碗を舐める勢いで後味に酔いしれていたが、そうしようとするとアカネがじーっとこっちを見つめてきたので、流石に止めておくことにした。


「よろしい。そこまでやるならもう一切れ大人しく食べておく事ね」


 ひとかけらの角煮でここまで飛べるなら、弁当に入れた三つの角煮で幸せ成分が高すぎて達してしまいそうだ。そして、なんとしてもこれをもう一度食べるために家に帰ってくるんだ、という決意が今みなぎった。


 いつものお弁当、剣、防具、そして嵩増し用の魔石、それから……今の天気は晴れ。今日は一日ぐずつくことなし。帰りまでは充分持ちそうだ。途中のコンビニで飲み物を買って、それからダンジョン入場だ。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 まだ明けない朝の中、自転車で駅前ダンジョンまでたどり着いていつも通り入場。装備もちゃんと点検してあるし、金になるものは既に背中のバッグに入っている。後はリザードマンの出現するところまで行くのが第一目標。第二目標は一戦二戦繰り返し戦って、ドロップを得ること。


 流石にリザードマンのドロップを全部は持ってきていないので、十数回戦って帰ってきた、という風には見せられることだろう。背中のバッグもほとんどはオークのドロップ魔石だ。


 リザードマンの生息地はそれなりに奥になるので、朝早くから通っていたとしても戦闘時間はそれほど取れない。それにこの時間、人は非常に少ないのでいざというときヘルプを出すこともできない。俺専用ダンジョンよりも難易度は高くなっていると考えたほうがいいだろう。


 さて、しっかり探索していくか。まずはレッドキャップエリアまで真っ直ぐ。道中のゴブリンやスライムは適度に倒して道の邪魔にならないようにしていく。俺以外の人が通る際にも邪魔にならないように程よく減らしておく。


 目標のレッドキャップ地点まで来た。人の戦っている様子はないので、もしかすると二匹出てくるかもしれない、という意識を持って、気をしっかり保ちながら視覚聴覚嗅覚とを万全に働かせて進む。早速一匹目を見つけたので後ろからそっと近づいてステルスキルする。やはり、レッドキャップ地帯が抜けるのに面倒な地域になっているのは確かだな。


 もしかしたら俺もスキルを買う側になって、【聞き耳】なんかのスキルを購入することもきちんと考えておくことが必要かもしれない。


 ソロ活動が多い分だけ、そういうスキルで自分の身の周りを固めておいて、パーティーの時でも活躍できるようになるのは大事かもしれない。換金したらギルドに今スキルがあるかどうか確認してみよう。


 レッドキャップ地帯をうまく抜け出し、オークエリアへ。ここは一対二でも問題なく戦える。むしろレッドキャップよりオークのほうがより確実に戦えるのでこっちのほうが楽ですらある。そういえば普通のオークはどんなスキルを落とすんだろう。これも帰ったら調べるか。


 オークを数匹倒し、そのまま奥へ。ドロップもしっかり手に入れ、これでオーク地帯でそれなりの時間戦っていた、という言い訳の準備もできた。後はリザードマン地帯までの間どれだけオークを相手できるかが勝負になるな。


 オークと一対一、または一対二での戦いは続く。一対二の場合は時短攻撃としてオークの腕を斬り飛ばして即座に剣を翻し、オークの心臓近くまで一気に剣を突き刺す戦法で片方を完全に動けないような状態にしてからもう一匹のほうへ向かう。この戦い方がかなり便利だ。先のレベルアップで更に加速できた動きと相まって、一対二でも後れを取らなくて済むようになったのはうれしいところ。


 オークはもう一人でも相手できるな。よほど固まっていて一対三やそれ以上、となると厳しい戦いにはなるが、そこまで無理に戦うぐらいなら撤退をする方が賢い。無理にでも攻略しなければならないインスタンスダンジョンならまだしも、ここはノーマライズダンジョン。俺がやらなくても他の誰かがやってくれることに期待するほうがいいだろう。


 そのまま奥へ更に進むと、四層に入ったのか、やはり湿っぽい空気に包まれてきた。ここまで来れば目的の半分が達したことになる。実際にリザードマンと戦う必要があるかと言われると微妙な所だが、一個ぐらいは魔石を拾って帰りたいものではある。


 さて、ファーストリザードマンを探そう。しばらく歩いていくと、早速水場があり、一匹のリザードマンが気持ちよさそうに水浴びをしていた。流石に水の中に入るのは嫌なので、その辺に転がっていた石を拾って水場に投げ込み、リザードマンにこっちを気づかせる。


 こっちに気づいたリザードマンはそのまま水場から出てきて、早速戦闘開始となる。一対一なのでそれほど怖さもない。流石に俺専用ダンジョンとは違うアルゴリズムで動いている可能性も低いだろう。サンプルにしたのがこのダンジョンなら、同じ動きをしてくれるはずだ。予想通り、こちらが半身に構えるとリザードマンは薙ぎ払いの姿勢を取り始めた。


 このリザードマンはやはりオークよりちょっと賢く出来ているらしい。単純に力押しをしてきたり、同じ攻撃や不用意な行動をとってこちらに有利な動きをしてくれるわけではない。その分だけ一歩上の敵だな? という感想をくれる。


 さて、まずは薙ぎ払いの姿勢をわざと崩させてその間に近づいて槍を叩き落とせるか、そこを見てみよう。一気にダッシュで前に詰め寄り、薙ぎ払いから突きの姿勢に変わろうとするその瞬間に槍を狙って剣を振る。俺の剣はうまいこと槍を持つ手の部分に当たり、衝撃でリザードマンが槍を落とす。その間に剣を構え直してリザードマンの胴体に斬撃を加える。


 リザードマンはまだ耐久力を残していたのか、再び槍を掴んでこっちに向けて槍先を向けてくるので、同じく半身になって薙ぎ払いの姿勢を取らせる。ちょっと剣の耐久力試験もしておくか。槍の薙ぎ払いを剣で受け止めて、接触してもこっちの剣にダメージが入らないかどうかの確認だ。


 剣は無事に槍を受け止め、その確実な耐久力を教えてくれていた。薙ぎ払いの威力もどうやらリザードマンが負傷しているおかげでそれほど衝撃も来ず、そのまま力を入れて今度こそ槍を遠くに弾き飛ばす。そのままリザードマンにもう一度切り込みを入れ、深くまで達したその切込みから黒い霧があふれ出し、リザードマンは消滅した。


 ドロップこそなかったものの、リザードマンも一対一のタイマンはるなら駅前のダンジョンでも充分にいける、という自信がついた。アカネがいなくても大丈夫になったぞ。結城さんが居れば、横から更に追撃が入る形になるからより簡単に勝負が付けられるだろうな。


 この調子で……と行きたいところだが、早朝の部はここで時間オーバーだ。ここらで戻って換金を済ませないと、結城さんとのいつもの待ち合わせ時間になる。


 来るかどうかはわからないが、来たらまた一緒にオーク狩りをしてダンジョンデートを楽しみ、来なかったらまたリザードマンに挑むか、家に帰って二度目の換金をするためにもう一往復するかの二択が選べる。さて、結城さんは来てくれるのだろうか。

作者からのお願い


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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

後毎度の誤字修正、感謝しております。

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