第49話:出ない時には出ない、出る時に出る
次のリザードマンはまた水場に居た。先に気づかれたので奇襲は無理だが、手数と動きは既にある程度覚えさせてもらっているので、形に落として倒すことにする。最初のリザードマンと同じく、薙ぎ払いのスキに近寄って槍を落とさせるか手を切り落とすかして、槍さえ落とさせてしまえば後はこっちのものだ。しっかり俺の食費になってもらおう。
リザードマンを倒して魔石を拾いつつ、四層を回る。どうやらある程度進んだ後でぐるっと周回するコースになっているらしく、周回の先はまだ作ってないらしい。半分ほど来たところで、地形を考えてみる。
「これはこの先さっきの分かれ道につながるのかな。だとするとリザードマンが二匹湧いてる可能性は低くなるが」
「どうかしら。ランダムリポップだから、二匹湧いてる可能性は否定できないわよ」
「なるほど。今回は運が良いだけか。せっかくだしリザードマンのドロップを何か拾ってみたいところではあるが……と、出てきたな」
リザードマンが一匹、またのんびりと歩いている。俺に背中を向けているのでこっちには気づいていないのだろう。【スニーキング】で静かに近寄ると、後ろから心臓のありそうなところにズブッと一刺し、ステルスキルで倒す。ドロップは魔石だけ。これは俺の運が悪いのか、それともリザードマンがそれだけ落としにくい部類のモンスターなのか。まだ数匹だから確率が偏っているだけなのかもしれないな。もうちょっと倒してから帰ることにしよう。
リザードマンは結局一匹ずつ倒せば一匹ずつまた湧きなおす、という形のようで、二匹まとめて現れることはなかった。ソロダンジョンとしては有り難いところではある。次回来る時は二匹湧いてる可能性はあるな。その時は充分注意してくることにしよう。
そのまま四層をぐるりと回り切って、リザードマンを一匹ずつ倒して戻ると、三層の乾いた空気が出迎えてくれた。
「どうやら今日の収穫は思いのほか少なかったみたいだな」
「魔石が必ず手に入るだけでも充分な収穫でしょ? 文句言わないの」
アカネにくぎを刺される。そういえば、リザードマンを結構な数倒したけどレベルアップしなかったな。たまたま今のレベルの経験値ではレベルアップしなかったのか、それとももうちょっとで上がる所なのかまでは判断がつかないな。帰り道にでもポッコリ上がるかもしれないから、それに期待するか。
帰り道のオークも手慣れたもので、俺なりの簡単オーク攻略法でも倒せるし、セオリー通り両足の腱を切ってから心臓を狙って武器を差し込む方法でも両方倒せる。ちなみに俺なり簡単攻略法とは、正面から挑んでこん棒を持ってる腕を斬り飛ばして攻撃手段を喪失させてから急所を狙う方法だ。こっちのほうが少々危ないが時間がかからないしお手軽に倒せる。
オークがまたオーク肉を落としたのでこれもビニール袋に包んでおく。そういえばオーク肉には細菌とかついてるんだろうか。肉としてドロップした時点で空気中の菌は付着してそうではあるが、食中毒の原因になるカンピロバクターとかそういったものに汚染されているのかどうか。
みんなが案外気にせず食していることを考えるとついてないような気がしてきたが、生理的に問題があるので、自分で食べるときは水で洗ったりせずにブラシで汚れを落とすぐらいにして、よく焼いて食べている。
部屋に戻ったら調べるか。オーク肉の清潔さとかそのあたり。多分食べることに関しては日本人は律儀だから、細菌の有無とかそういうのは真っ先に調べているだろうし。
オークから今日合計三個のオーク肉をせしめると、レッドキャップ地帯を抜けて色んなゴブリンが出る地帯へ戻る。
そこで出てきたシールドゴブリンがまたスキルスクロールをくれた。今度も【シールドバッシュ】だといいんだが。後日隆介に売りつけることも可能になるし、自分の周りの探索者の強化にもなって一石二鳥だ。なんか運よく出た! と言っておけば隆介も納得するだろうしな。
そして、その次に出会ったゴブリンアーチャーでレベルも上がった。やはり、リザードマンとオークでそれなりに経験値を稼いでいたのは間違いないらしい。これでレベル8か。人類の最先端はレベルいくつぐらいなんだろうな。流石に俺より低いということはあるまい。
最前線で戦っていればレベルも上がるし容姿も良くなる。探索者が美男美女ぞろいという話になるか、昔はそうでもなかったが今はかっこいいとか、そういうレベルで認識されるようにもなっているはずだ。
ゴブリンとスライムを最後に片付けて、部屋に戻る。そしてドロップ品をベッドの下にしまい込み、そして手を洗ってからスマホで検索。オーク肉の細菌や生食が可能かどうかについてを調べる。
「早速調べものとは感心ね。忘れないうちにやることをやってしまおうという姿勢は評価できるわ」
「まあ、食べ物に関することは早めに解決しておいたほうがいいからな。”オーク肉 細菌”と……」
調べた結果、オーク肉には食中毒を起こすような細菌は付着、もしくは生存してないことが明らかになった。どうやらわざわざ研究チームがダンジョンに潜って、オーク肉がドロップした瞬間無菌パックにしまい込んで実験室へ持ち込んで、ダンジョン現地に存在する菌も含めて検査した結果、ダンジョン内に存在する菌以外でオーク肉に付着している細菌は特になく、表面を水で洗ったりしても大丈夫などころか生食も可能らしい。
ただ、注意として脂身が多すぎるのであまり生食には向かない素材だ、とされている。生食OKで無菌ときたら、後はやることは決まった。今日拾ってビニール袋に入れたオーク肉を水で洗って、クッキングペーパーで水分をふき取った後でパック詰めにして冷凍。これでかなり長持ちするはずだ。
今後はオーク肉をより気軽に楽しめるようになった、という事だろう。もう、砂が少し残ってて口の中でじゃりじゃり言わせたりする可能性はゼロに等しくなったわけだ。
「悩みは解決したの? 」
アカネがスマホの画面を覗きこんで聞いてくる。顔を寄せ合って……というより俺の顔を貫通して覗き込んでいるので、俺からはアカネの後頭部がよく見えているがスマホの中身が見えなくなった。
「大体は。後は最後に拾ったスクロールの鑑定かな。この間のスクロール鑑定サイトにブックマークしておいたから……と。後は撮影だな」
さっき拾ったスキルスクロールを鑑定してもらうと、【盾術】というスキルであることがわかった。どうやら盾の使いまわしが少し上手になるらしい。一つではあまり効果は実感できないが、複数枚重ねて覚えることで盾の取り回しが非常にうまくなるらしい。お値段は20000円ほどらしい。シールドバッシュほどの価値はない、ということだろう。
まあ、どっちもその気になれば自力で発動できるスキルではあるし、そこまで値段をつけるほどのものではない、ということなんだろうな。これは隆介行きで確定だな。
「そんなにポンとあげちゃっていいの? お金まわりはしっかりしておかないと後で問題になるわよ、絶対」
「まあ、後日分配からちょっとずつ返してもらうさ。俺が防具を借りたように俺が今度はスキルを貸す番だ。急ぎで金が必要なわけではないんだし、ちょっとずつ返してくれればそれでいい」
後は魔石類だが……土曜日にまた朝駆けしてリザードマン地域まで足を運んでみて、そこで戦えるかどうかを試してみるのが一番か。戦えて無事戻ってきたらよし、もし二匹連れ三匹連れが多くて戦えなくても、そこまで行ったという事実は残るからそれを参照してリザードマンの魔石も換金に回せるだろう。
今日のところはレベルも上がったことだし、リザードマンも一対一では問題なく倒せることまでは確認できた。後は……一対二になった時にどう動くか、ということをイメトレしておくべきかな。
やはり、この剣ではリーチの問題もあるが、槍使い二匹というのは厄介だ。仮に俺と結城さんが相手になったとしても、まともに一対一の姿勢で勝負することはできないだろう。勝負するとしたら二対一の姿勢になって同時に飛びかかって攻撃して、早く数を減らすことぐらいしか思いつかない。
結城さんと……結城さんとまた駅前ダンジョンで探索することができるんだろうか。どうも今日の一件が後を引きずりそうな気がしてならない。その場合は残念だが隆介の誕生日まで一人寂しく探索することになるんだろう。そうなったらそうなったで、御縁がなかったと諦めるしかない……ん、諦めるってなんだ?
「おーい……またしょうもないことで悩んでるわね。そのままデートに誘って付き合ってる体を装った方がお得なんじゃないの? 」
……外野がうるさい。結城さんとこのままデートを重ねてれば真剣交際になる、とでも決めつけているようじゃないか。そんなことはないし、そもそもお互いの利害が一致した探索者としてのお仕事であって、デートであるとかそういうのは周りが見てどう思うか……周りから見てもデート扱いされてたな。
じゃあ後はそれを結城さんが嫌がるかどうかだけじゃないか。だったら俺が悩む必要はないんだ。結城さんが来るかどうか、それだけ確かめればいいし、本気で気になるなら今すぐメールで送信して今日のお昼のことについて説明を……いや、そもそも説明が必要なのか?
なんだか俺一人だけが未練たらしく結城さんと探索をするのを待ち望んでいるかのようだ。それはそれで自分に腹が立つ。彼女いない歴イコール年齢の面倒くささがここに極まっていつつある。このままでいいのか、いやよくはないだろう。
すべては土曜日、土曜日の回答次第だ。俺から連絡するわけではなく、結城さんからの連絡をまとう。隆介ならグイグイ自分から行けと言いそうだが、流石にまだそこまで俺は対人レベルが高くない。大人しく連絡を待って、連絡が来たら即座に移動できるように時間を計りながら行くことにしよう。あまり深くまで潜ってもそれはそれで面倒が多くなりそうだしな。
「そこはグイグイ行くべきよ。まったく、ヘタレはいつ卒業できるのかしらね」
ここにももう一人、いやもう一柱いた。みんなが僕を責めるよう。
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。




