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あの時助けていただいた地蔵です ~お礼は俺専用ダンジョンでした~  作者: 大正


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第47話:体育祭での一幕

 体育祭が明日始まる。近年の猛暑化により、昔は九月に行っていた体育祭が、俺の入学と同時に六月に変更になったため、梅雨のシーズンが訪れるギリギリのところで開始するというのが通例らしい。


 しかし、梅雨の前でもすでに暑いので暑さ対策は各自しっかりするようにというあやふやな言葉で締めくくる教師に少し投げやり感を覚えたりもする。学校側としては体調管理も生徒に行わせることによって手間を減らしたいが、むやみに熱中症にかかって病院に運ばれるような事態も起こしたくない、ということなんだろう。


 俺は願い通り玉入れと綱引きに出場することになった。個人競技で全員強制出場の100メートル走はさておき、それ以外ではできるだけサボれる競技に自主的に参加することにより、あんまり目立つような種目には出ないで済むようになった、というのが本当のところだ。


 今日も昼飯には隆介がついてきている。いつもの中庭風屋上で弁当のパスタを食べつつ、隆介の会話に答えながらの日常だ。特に今回の体育祭では目立つつもりはないので、100メートル走でもトップスピードで飛び出して、後は後ろから追いつかれてくる奴に徐々にペースを合わせながらそこそこの着順でゴールするつもりではある。


 多分、今全力で走ったら高校記録を出せそうな気がするんだよな。だからそこまでのものが求められない程度に頑張るつもりではある。陸上は個人種目が多いので、部活としても一番スカウトしやすい部分でもある。うっかり手を抜くのを忘れているとタイムまで測られて即大会出場、なんて話にもなりかねない。


「……で、そっちは楽そうでいいな。個人競技は一種目だけか」

「ああ。後は団体競技でお茶を濁すことにした。今更体育の成績が上がったところで受験にもかかわりないしな。最低ラインさえクリアしてればそれでいいだろうと思ってな」

「まあ、たしかに面倒と言えば面倒だが……一応見にくる親もいるらしいし、メインはそっち向けなんだろうよ。受験を控えた生徒にとっては体力を使うだけ面倒くさいから雨で中止にでもなってくれた方がよっぽど楽に過ごせるんだろけどな」


 隆介もあまり乗り気ではないらしい。隆介は運動もそこそこできるので体育の授業でも目立つことがある。他のクラスとの合同体育の場合は特に女子からの視線が集まる。大変なことだな。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 体育祭の日がやってきた。むかつくことに雲一つない晴れ渡る青空にギンギンに照らしつけてくる太陽。テントの中で休憩できるとは言え、競技と競技の間の待機時間はまだしも、競技開始待ちのあいだは出場する生徒も運営側に回っている教師と生徒会も、汗をかいてなかなか大変なことになっている。


 いっそのこと、運営側の教師が倒れて競技中止にでもなってくれれば助かるんだがな。そう思惑通りにいかず、全競技は無事に開催される予定となっている。


 グラウンドの端では、保護者席の母親たちがパラソルを差しながらカメラを構えている。男子たちが「うちのクラスは勝てるぞ」と無駄に気合を入れ、女子が「日焼け止め貸して」と言い合っている。体育祭は、文化祭とは違う熱気に満ちている。これはこれで悪くないが、目立ちたくない俺としては早く終わってくれないかなと祈るばかりだ。


 まずは全員参加の百メートル走からだ。一回ずつ走り、タイムの上位者が再度走り、更に上位者を絞って最終的にこの学校で誰が一番早いのかを決める勝負となっている。つまり、一着さえ取らなければ一回走るだけで済む、という便利な仕組みになっている。


 しばらくして俺の番。ふと観客席を見ると、アカネの姿が見えた。暇すぎて応援にでも来たのかな。人に思い切り全身をぶつけながらこっちに手を振っているので、顎を上下に上げ下げして見えてるぞ、とサインを送る。


 そのままスタートし、最初の全力ダッシュで力尽きたように見せかけて……という戦法で挑んだが、最初のダッシュが早すぎたらしく、誰も追いつけないままゴールしてしまった。しまった、これでは最終戦まで残ってしまう。次は遅れてスタートしていこう。


 スタート地点を振り返ると、俺の踏み込みが強すぎたらしく、俺の居た地点だけ少し凹んでいた。やはり、力の入れ過ぎだったようだ。


 100メートル走二回目。今度は遅れてのスタートとなったが、そのまま後ろを走りつつ前へちょっとずつ走り込んでいく。一着二着をギリギリ取れるかどうかのところでゴールし、二着となった。よし、下手に競争勝負で目立つことは避けられたぞ。


 そう思っていたら、ちゃっかり陸上部が俺をナンパしに来ていた。


「さっきの走り見てたぞ。フォームとスタートを見直して君の脚力を活かせば走り幅跳びでも400メートル走でも確実に上位へ行ける。今からでも遅くはないから陸上部に入らないか? 成績のほうが問題ないことは聞いている。どうだい、高校最後に一花咲かせていかないか? 」


 見ている人はちゃんと見ているんだなあ、というのが素直な感想だ。一本目のスタートの抜け出しと二本目の追い込みをそれぞれ見て、その上で走ってみないか? とコナをかけに来ている。普通ならうんと答えるのが筋なんだろうけど、俺の場合そっちで目立つつもりも陸上で食っていくつもりもない。


「ありがたい申し出ですがお断りしますよ。さっきのはたまたま運が良かっただけですから」

「そうか……気が変わったらいつでも来てくれ。陸上部の門はいつでも君を歓迎している」


 熱烈なスカウトを断って、自分のクラスのテントに戻る。すると隆介が隣のテントから遊びに来た。


「見ていたぞ。君も最後の青春を陸上で華々しく散らしていかないか? 」

「散っちゃあダメだろ。そこは咲かせておけよ。まあ、どっちにしろ俺には関係ないことだ。仮に俺が本当に陸上に才能があったとしても、俺自身に興味がないからな。残念ながらお断りしてきたよ」


 自分のテントに座り込んで買ってきた清涼飲料水を飲む。短い間とはいえ汗をかいたからな。汗はかいた分だけ補充したほうがいいし、教師も体育祭とは授業中でも倒れられるよりはマシ、とジュース類を飲んでもいいことになっている。気楽なもんだ。午後の玉入れと綱引きまでは時間があるので適当に競技を見ながらボーっと観戦することにした。


 なお、100メートル走の結果だが、俺から一位を奪い取ったやつがそのまま一位でゴールインし、学年で一番早い男であることを証明して見せていた。どうやら陸上短距離のわが校のエースだったらしい。そりゃあそこで追いつけるなら確かに才能があると見込まれてスカウトもくるってもんか、と納得できた。


 今日のお昼はボロネーゼ風パスタだ。こんな日までパスタか、と言われそうではあるが、腹に溜まって肉もある。ついでにオーク肉もいくつか放り込んであるので、金額的にはかなりお高いパスタであることは確か。


「なんか今日のお前の弁当は肉肉しいな。競技だからってはりこんだか? 」

「それもあるが、基本的には気分的に食べたかったってのが一番だな。良ければそっちの一品とこっちの一口交換するか? 」

「たまにはいいだろう。ほれ、卵焼き」

「ほれ、一口」


 隆介の誰かのお手製弁当の卵焼きとこっちのパスタの一口、たっぷりソースがかかっているところを交換してやる。隆介は一口食べて「うまい! 」と叫ぶと、こっちのパスタに夢中になり始めた。


「それ、市販品か? やけに肉が美味いぞ」

「肉はな……ちょっと足したんだ。多分その足した分が美味いんだろうな」

「もしかして、それがオーク肉という奴か? 一人でオークまで倒せるほどお前は成長したのか」

「まあ、ありていに言えばそうだが……結城さんの手伝いの部分も否定できない」


 結城さんとは毎週土曜日だけは一緒に潜ろうという約束をしている訳じゃないが、なぜか毎週顔を合わせては一緒にパーティーを組んで探索をしている。おかげでオークにも慣れたし、結城さんも装備品の出費分をようやく都合で来たと満足している。次は武器を変えてもうちょっと戦いやすくしたいそうだが、それにはもうしばらくの時間がかかるだろうな。


「そっちのデートは順調そうでいいな。デートには普通金がかかるもんだが、金を稼ぎに行くデートというのも中々面白い。俺もあやかりたいもんだ」

「まあ、結城さんも次の目標があるみたいだから……と、こっちみてるな」


 視線を感じたのでそっちをむくと、結城さんがご飯を食べながらこっちを見ている。どうやら、風で話をしていたのが聞こえていったらしい。結城さんの周りにはそのデート話を是非聞いてみたいと数名の女子が群がっている。話をする場所を間違えたか。もうちょっとこっそり話せばよかったかな。


 結城さんと目が合うと、結城さんは少しだけ口元をにやつかせるとふっと視線を逸らし、まわりの話に合わせながら食事に戻った。もしかしたら、やってしまったという奴かもしれない。次のデートはないかもしれないな。


 午後からの玉入れも綱引きも、その印象が頭に残ったままだったのであまり意識を集中することなく全力でやってしまったので、どちらもクラス順位一位という成績を残すことが出来た。どうやら放り込む玉を全部俺が入れてしまうと考えたクラスのみんなが俺に対して玉を放り投げてきて、それをそのまま籠にポンポンと放り込んでしまうので圧倒的な差で勝ってしまった。


 ここでまたやってしまったと気付いた俺が、綱引きで一番後ろで綱を引く役に関わったが、後ろから引っ張るだけで充分助力になったらしく、残りのメンバーの頑張りようで後は順当に勝ち進み、優勝。相手チームからは「向こうの一番後ろに魔王がいる」とまで言われていた。


 アカネが声をあげて応援していたのと、隆介がこっちが勝つたびに茶々を入れに来るのだけは覚えていたが、頭の中は次の土曜日、どういう顔をして結城さんに会えばいいんだろう、ということをひたすら考えていた。


 うーん……悩んでも仕方がないか。ここはいつも通り結城さんに会って、それから言い訳を……言い訳? 俺が何故言い訳をする必要があるんだろう。いつも通り接すればいいんじゃないかな。別に秘密のデートを楽しんでいる訳ではないのだから、いつも通り接すればいいんじゃないかな。


 よし、自然体で行こう。次のデートもいつも通り、オークを倒していくことにしよう。金をしっかり稼いで、それから次の段階へ行くもよし、だ。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

後毎度の誤字修正、感謝しております。

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