第39話:高額ドロップ
「じゃあ、早速行こうか。この人の量ならまだ浅いところでも充分探索はできると思う」
「そうね。前回は二人でシールドゴブリン……だったかしら、あのあたりまで行けたから、今回もそのあたりをメインに頑張っていくことでいいのかしら? 」
入場してすぐ、結城さんが行程確認をしてくる。一人ならオークまで行けるけど、二人だと行きづらい、というのはちょっと不思議な感覚だが、結城さんの注意深さによってはレッドキャップが出現する地域まで進んでもいいとは考えている。
「昼過ぎぐらいにその次、行ってみる? 警戒をしっかりしないと奇襲されるモンスターが出てくるんだけど」
「レッドキャップのことよね。その辺の知識は仕入れてきたわ。後オークも」
ちゃんと自分の巡りそうなところのモンスターは予習してきているらしい。なら、ちょっと奥まで行っても大丈夫かもしれない。
「じゃあ、順調ならその辺まで頑張ってみるか。でも、人が多かったらその時はまた考えよう。数が少ないとその分だけドロップの機会が減るし、必ずドロップするわけじゃないから質より数は大事だと思う」
「確かにそうね。それじゃあ……まず腕試しに行ってみて、その後人が多かったり手に余るようなら戻るってのでどうかしら。体力があるうちに強いモンスターと戦うほうがこっちは楽でしょ? 」
そうだな……その通りかもしれない。
「その方針で行こう。まずは真っ直ぐ奥まで目指すってことで」
「解ったわ。でも、こんな装備で大丈夫かしら」
自分の恰好を見て結城さんがぼやく。確かにオーク相手にはちょっと頼りない装備かもしれないが、弱点を的確につけばそれなりに価値のある攻撃が出来るんじゃないかな。
「それを確かめるためにもまずは戦ってみないとってところかな。どういう風に戦えば積極的にダメージを負わせることができるのか、というのも考えられるしね」
「さ、私たちの番よ、入りましょ」
入場列を抜けてダンジョンに入る。人はみんな奥へ奥へと向かっていくので、その列に紛れ込みながらダンジョンの奥へ進んでいく。いつもならスライムやゴブリンで予習しながら入る所だが、今日の午前中は腕試しだ。ダメなら帰って来ればいいし、午後からも含めてモンスター密度の濃そうなエリアでひたすら戦い続ける、というのも持久力の訓練や集中力を保たせる練習になる。
しばらく進んで人がちょっとずつ散らばり出し、レッドキャップエリアに入り出した。ここから先はルートが分岐しているらしく、オークエリアとまた違うモンスターのエリア……コボルドチーフと連れられたコボルドのモンスターパーティー……ここで人はみんなパーティー戦闘の必要さが思い知らされるらしいが。後はケイブストーカーと呼ばれる蜘蛛のモンスターが居るらしいが、それらのモンスターが居る地点を通り抜けて、奥で合流する、とマップには書かれていた。
つまり、ソロならオークの道、パーティーならコボルドやケイブストーカーの道も目指せるということだろう。こっちは二人なのでパーティーとは呼べるものではない。ならオークの道へ行くしかないだろう。
「さあ、どっからでもかかって来なさいよ。返り討ちにしてあげるんだから」
そういいつつあちこちをきょろきょろと見まわしながら、レッドキャップの位置を探りながらゆっくり進む結城さんの後ろを確実にガード。こっちも後ろに目があるわけではないが、後方からレッドキャップに襲われるのは慣れているのでおそらく、背後を取られてもそれなりに安全に戦うことができるだろう。
と、しばらく先をレッドキャップが横切った。結城さんがそれを見つけて一気に走り寄る。
「見つけたわ、先に攻撃すれば隠れられないわよね! 」
「他にレッドキャップが居なければ、だけどね」
警戒しつつ前のレッドキャップを追いかける。他にレッドキャップが居る可能性は否定できないので、そちらは結城さんに任せて横や後ろから奇襲してくるレッドキャップに充分配慮する。
案の定、先に歩いていたレッドキャップはおとりで、後ろから近づいてくるレッドキャップを確認できたので、結城さんがレッドキャップと戦って無事に勝てるのを目視するまではこっちから攻撃をするのは控えておく。今二対二になると混乱するだろうからな。
もしくは結城さんが確実にレッドキャップに勝てる、という自信と戦果が確認できるのなら今すぐに振り返って後ろのレッドキャップに応対しても良いんだが、それはまだ早いと感じた。
結城さんがレッドキャップに追いつき、背中から剣を突き入れる。そこまで確認すると、俺も振り返って後ろからついてきていたレッドキャップの対応を始める。レッドキャップが「あ、バレたか」みたいな雰囲気を醸し出した瞬間、こっちに最速で近寄ってきて先に殴ったら勝ちみたいな勝負を挑んできた。
レッドキャップの振り下ろしが風を裂く。すんでのところで身を捻り、今度はこちらから攻撃を差し入れる。浅く入った剣がレッドキャップの右手をかすめる。流石に踏み込みがお互いに甘かったか。しかし、レッドキャップに怪我をさせたことで黒い霧が飛び散りつつも、なおもまだこっちを倒そうとする意志が見える。レッドキャップは戦闘力自体はそれほどないが、経験上戦闘意思はかなり強いモンスターなんだろう。
結城さんの剣戟の音が背中越しに響く中、前へ踏み込み、相手の間合いに無理やり飛び込んで斬り上げる。刃がレッドキャップの腕を再び裂き、黒い霧が散った。呻き声を上げた相手が反撃に身をひねった瞬間、渾身の突きを胸に叩き込み、ようやく黒い影は煙と化した。
ふぅ……と一呼吸。結城さんのほうも剣戟の音が止み、こちらへ来る足音が聞こえる。どうやら無事に倒せたらしい。
「何とか勝てた……ってそっちにもいたの? 」
「他にレッドキャップが居なければ隠れられなければ勝ちって言ったろう? もう一匹後ろからこっそりつけてきてたよ」
「もう一匹いたらどうしてたの? 」
「その時は駆け寄るのを無理矢理止めてまず一匹確実に倒すことを目標にさせてたかな」
冷静に判断しての一対一の結果なので、結城さんはあまり告げる文句も口上もなく、モンスターのドロップ品を拾っている。
「ここはそういう戦闘が多く発生する場所だから注意してね。迂闊に身をさらすレッドキャップは何かしらの理由があってそうしている可能性が高い」
「次からは気を付けるわ……で、ここの基本方針は待ちになるわけ? 」
「そのほうが安全に通り抜けられるのは確かかな。常に気を張って、出来るだけ自分の足音も立てないようにして……他の探索者ならまだしも、モンスターだったらそっちに注意を配る感じで」
「やってみる」
そこからしばらくレッドキャップゾーンに居付き、奇襲に対応する術を学んでもらった。危ないと思ったら手を出すが、基本的に結城さんに前に出てもらいレッドキャップの気を引くような感じで釣られるようで逆にこっちが釣る、と言ったスタイルで戦闘を繰り広げた。
レッドキャップゾーンに居付いて一時間ぐらいしたころ、倒したレッドキャップからスクロールが落ちた。
「なにこれ」
「スキルスクロール……だと思う」
「なんて書いてあるかわかんないんだけど、こういうの解読してくれるのも換金の役目かしら? 」
「ちょっと待ってね、前に使ったスキルスクロールの判別サイトがあるから……よし、ネットは繋がるな。ちょっと広げてこっちへ向けてみて」
レッドキャップの反応を探しつつも、なさそうなので安心して撮影、そして判定してもらう。
しばらくして、結果がが得ってきた。どうやら前回と同じく【スニーキング】のスキルスクロールらしい。
「日本語訳【忍び足】らしい。効果は……存在感が薄くなる、足音を自然に消せるようになる足運びができるようになる……らしい」
今自分が使ってる奴だ、とは迂闊に言えないので、機械的に翻訳された内容を読み上げる。
「それ、価値あるものなの? 」
「パーティーメンバー全員で持ってたら便利なスキルなんじゃないかな。一人だけ……まあ、例えばだけど盾役だけ持ってなくて他が持ってたらそいつに意識が行くから自然とタンク役を務めることはできるだろうけど」
「ふーん……いくらぐらいなんだろう」
「どれどれ……200000円だそうだ」
「そんなに!? 」
いきなりの高額スキルドロップに驚いている結城さん。これもビギナーズラックのうちに入るのかな。
「声でかいよ」
「ごめんあまりに高かったから驚いて。それを売れば装備代が一気に回収できるわね」
「だから売る人もそこそこ居るらしい。ちなみにギルドで換金すると20%の手数料が取られるよ」
「それでも160000円じゃない。充分すぎるわ」
「俺と等分すると80000円だね」
「それでも武器代は優に稼げるわ。戻りましょう、戻って早速換金しましょう。こんなもの持ってると足が震えるわ」
そういえば、オークチーフがくれたスキルスクロール、まだ鑑定サイトで鑑定してもらってなかったな。あれいくらになるんだろう。もしくは覚えたほうがいいスキルなのかな。それも含めて帰ったらまた調べものだな。
結城さんが浮足立ってる状態ではこのレッドキャップゾーンに居ることは危ないと判断した方がいいだろう。戻ることを薦めると、結城さんも早く戻りましょうと急ぎ足で入口まで戻り始めた。現金にしておいたほうが落ち着くらしい。
多額の現金持ち歩く方が却って危ないかもしれないとは考えないのか、それとも俺と等分するから大丈夫だと考えているのか。そこまで深くは考えてない可能性のほうが高いか。高額ドロップを初めて体験すると人はそんな感じになるらしい、ということを結城さんから学べた。それだけでも今後の自信になってくれると嬉しいんだけどな。
道中のゴブリンやスライムが邪魔をするが、それらを倒しながら行く結城さんの足取りは軽く、しかし注意は散漫になることはなく、ゴブリンアーチャーの攻撃も射線を意識してよけながら倒していけているのでこのまま問題なくダンジョンから出ることはできるだろう。そこは一安心かな。
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