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あの時助けていただいた地蔵です ~お礼は俺専用ダンジョンでした~  作者: 大正


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第37話:コミュ障というより人見知りなだけなんじゃね?

「……ただいま」

「おかえり。なんか元気ないわね」

「ちょっと気になることがあって。後、俺も勇気を出して一歩目を踏み出そうかと思うんだ」


 アカネに決意したような表情を作ってなんとか引けている腰を誤魔化そうとしてみる。


「何? 女の子に告白でもするの? 今のあなたの容姿なら服装はともかく、数うちゃ当たると思うわよ。多分レベルアップの影響でかなり整ってきてるみたいだし」

「告白まではいかないが、女の子に人生で初めてメールを送る」

「あら、大冒険の始まりじゃない。そういうのもっと欲しいわ。私の神力になるからもっと頂戴」

「さては面白がってるな? 俺にとっては……その……偉大な一歩なんだ」


 スマホの連絡先にある結城さんの所をクリックして『もしかして、駅前ダンジョンにいた? 』とメール文章と入力する。


 後は送信ボタンを押せば彼女に連絡がいってしまう。後このボタンを押すだけ……だがボタンに指が……指が中々うまく押せない。これが心理的障壁、全ての努力と勇気と根性を無効化してしまう巨大な壁が立ちふさがる。


 こいつはオークチーフより強敵だ。さて、どうするものか……


「えい」


 俺がうんうんうなってる間に、アカネがスマホのボタンを押す。しまった、こいつスマホの画面だけはいじれるんだった。なんということを……


「あ……あぁ。俺のファースト連絡送信が横取りされてしまった」

「あなたがもたもたしてるからでしょう? それより、返信が来た時にどうやって話を繋いでいくか考えてるわけ? 」


 返信……そうか、送信したら返信が来るかもしれないのか。


「それは……重大だな」

「どっちかというと重症ね」


 アカネが呆れているが、俺にとってはメールのやりとり自体が重大事項。なに一つとっても初めての出来事なのだ。


「よし、ここは一つ隆介に相談を……いや、それはちょっと恥ずかしい」

「自分で考えなさい。いきなり告白されるわけじゃないんだから安心して……ほら、返信来たわよ」


 返信には『そうだけど、たしか目が合ったわよね? 』と書かれていた。


「どうしようアカネ、なんて返そう」

「普通に会話するつもりで送ればいいと思うわ」

「よし、ふ、つ、う、に、か、い、わ……」

「違う、そうじゃないわ」


 アカネに送信ボタンを押すのを止められた。なんだろう。


「えっ? なんかまずかったか? 」

「見かけたからちょっと気になったとか、あなたの感想があるでしょう? それをそのまま送ればいいのよ」

「なるほど、凄いなアカネは」


 アカネは心底凍てついた目でこちらを見てくる。うわぁなんだこいつ……みたいな感想がその視線から伝わってきた。


「私とは普通に会話できるのになんでメール一つ送るのにそんなに苦労してるのよ。一周回ってそこまで行くと才能よ」


 ボコボコにされている俺ではあるが、おかげで整理がついた。


『一人でまた潜ってるみたいだったからちょっと気になった』


 メール送信、と。


「こういうのを送ればいいんだな! 」

「やっと一歩進めたわね。お疲れ様。さあ返信が帰ってくるわよ。心の準備はいいい?」

「お、おう……返事まだかな」


 しばらくするとまた返事が返ってきた。


『平日まで付き合ってもらおうとは思ってないわ。また土日に会ったらよろしく』


 ふむ……これがあれか、遊ぶ約束って奴だな。ダンジョンで遊ぶとは過激な遊びだが、お互いにそれぞれ目的があってのダンジョン探索だ。ちゃんとその辺は切り分けていこう。


「わかった。俺なりのボキャブラリーとかそういうものはないが誠実に向き合おうと思う」


 話題……話題……そうだ、成績だ。成績の話をしよう。


『平日まで潜ってると勉強のほうは大丈夫なのかなって』


 送信。送信ボタンが押せるようになっただけこの短い時間でレベルアップしたと言えるな。ダンジョンの中でやってたらもっと流暢にウィットなジョークを弾ませて会話できるようになるんだろうか。


「あなたの頭の中をそのまま送信すればいいと思うわよ。よっぽど変なこと考えてない限りは問題ないと思うわ。にしても、焦れるわね」


 またしばらくして返事が来た。


『私はちょっと落ちたぐらいで済んだわ。ところで、何でいきなり3位になれたわけ? ダンジョンのおかげとか言わないでしょうね』


 図星だ……ここは誤魔化して何か他の話題を振るか、それとも真面目にダンジョンに潜ってよく運動するから頭が冴えるようになった、とでも送信しておくべきか。


『ダンジョンに通うようになって血行が良くなったとかかも』

『なんか授業もすんなり頭に入るようにはなったかな』

『予習復習も手間がかからずに終わるようになった』


 三連打で送信してみる。コミュニケーションのレベルがグングン上がっている気がする。


『そうなのね。本条君ぐらいまで強くなれたら私もそうなれるのかしら』


 うーん……なんと返しておくべきか。


『効果や効能には個人差があると思う』

『なにそれ、健康食品みたいな言い方』


 順調にやり取りできているぞ。隆介とのやりとりとまではいかないが、それなりに仲良くやってるように表向きは見えるかもしれないな。


『まあ、ほどほどにね。それに、土日にだけしっかり深く潜るほうがメリハリがついていいかもしれない』

『それもそうね。考えておくわ』


 話題が一旦切れた。ここから話題を膨らませるのはちょっと難しいので会話は一端ここで終了、ということで良いんだろうか。


 この後どうすればいいんだろう。何か話題が来るまで待てばいいのか、それともこっちから話題を振ったほうがいいのか。悩むな。


「一旦話すことが無くなったんでしょう? ならそのまま放っておけばいいわよ。向こうから何か言いたいことがあるなら続きを送ってくるだろうし、気づいたときに返信すればいいと思うわ」

「なるほど……難しいな話題のやり取りっていうのは」

「幹也もこれで数レベルは上がったってところね。後はま、彼女には練習台になってもらって精々腕を磨くことね」


 異性交流レベルが3上がった、ぐらいの感じだろう。レベルのいくつまで行けばナチュラルにナンパしたり会話したりできるようになるのかは解らないが、こっちのほうも鍛えていかないとな。


「練習台って言い方があまり好きではないんだが……でも、初めての異性の友人としては俺の……いやでもなあ。あ、でもダンジョンで会って直接話す間は問題なかったな」

「それなら、普通に会話出来てるってことじゃない。貴方ダンジョンが絡むと舌が良く回るものね」


 ダンジョン探索中なら問題なく会話が出来てる……それに結城さんが飲み物を奢ってくれた時も問題なかったな。つまり、俺はある程度自然体でいられるなら女の子と会話は普通にできるってことか。


「なるほど、アカネのおかげで自己分析が出来た。意識するとダメなんだ。意識してるような場合じゃなかったり、お礼を言ったりするぐらいなら問題はない、そして、今初めて女の子とチャット会話が出来た。これが一歩前進でなくてなんと言うんだ」

「急に強気になったわね。まあ、その調子で頑張りなさい。それと、そろそろ夕食の時間ではなくて? あんまりぼやぼやしてると食べ損ねるわよ」


 おっと、もうこんな時間か。中古屋で色々漁ってる間に時間が経ってたみたいだ。今日は……オーク肉を薄切りにしてカリッと焼いた油でニンニクをちょっとだけ入れて、なんちゃってペペロンチーノにしてしまおう。


 唐辛子はまだ……うん、あったな。パスタを茹でて軽く冷ますと、唐辛子をちょんちょんちょんと刻んでオーク肉を炒めた油でつぶしたニンニクと共に炒めて、香りが出たら茹でておいたパスタと合わせてよく絡ませながらカリッと仕上げる。これで出来上がりだ。


「さて……遅くはなったがいただきます、と」


 パン、と手を合わせてアカネにもおすそ分け。いつもの青白い光がアカネに吸い込まれていく。すると、アカネがまたググっと少しだけ大きくなった気がする。後ろ髪も少し伸びたな。


「またちょっと成長したわね。この調子で頼むわ。ダンジョンがきっちり出来上がってあなたがもっと強くなれば、私もあなた好みの美少女になってるかもしれないわよ? 」

「そいつは楽しみだな。精々触れないことを嘆きに嘆くぐらいの美少女になってくれ」

「やっぱり私相手だと何の問題もなくしゃべれるのね。その結城さんだっけ? そんなに可愛いの? 」


 結城さんは……まあ可愛いかどうかで行ったら可愛い。そこそこ強気ではあるが、そこがかえって可愛さを強調させるようなところはある。結構負けず嫌いな所もあるな。俺に負けないようにダンジョン通いも頑張ってるようだし。


 後はなんだろう? ちょっと守ってあげたい気分がちょっとあるな。あのまま放っておくと危なっかしいというかなんというか。サポートは必要なんじゃないかと思う。


「なるほどね。実際に会ってみないとわからないけど、幹也はそう考えてるんだ」


 しまった、また考えを読まれていたのか。流石にビジュアルまでは共有できないらしいが、頭の中での文字としての思い起こしはアカネには全部通じるらしい。試しに、隆介が野球部に入ってピッチャーやってる図を想像してみる。


「む、イメージ映像に切り替えたわね。流石に私と幹也のパスはそこまで太くないから、映像や動画だと容量が足りないのよね」


 つまり、妄想するだけならいくらでもできるわけか。これで一つアカネに隠し事をする余裕が出来たというもんだ。


「その言葉が漏れてなかったら100点をあげる所だったのだけれど。まあ、文字でなら通信ができる分には、私もその結城さんとのメール送信と変わらないのかもしれないわね」

「ちなみになんだが、どのぐらい離れてたらこのパスは通らなくなるんだ? 」

「目に入る範囲なら確実に届く、ぐらいでイメージしてもらっても構わないわ。それ以上遠いと難しいわね。だから学校でどんな青春を送ってるかはあなたが帰ってきて思い出すまでは認識することはできないわ」


 俺とアカネの関係にまた一つ深みが加わった、ということだろう。部屋の中にいる以上は読もうと思えば俺の頭の中身を読める、ということがわかった。妄想はできるだけ動画や映像で行うことにしよう。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

後毎度の誤字修正、感謝しております。

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