第35話:けっかはっぴょおおおおおおおお
テストが終わって採点が終わり、そして次の授業でテストの答案が返ってくることになった。学年全員分のテストを採点して各個それぞれの惜しい点に評価をつけていくタイプの教師は大変だろうな、と思いつつも何点の答案が返ってくるかはひやひやしている。
特に現代文。やはり一問は最低限出てくる「作者の気持ちを答えよ」系の問題は悩みに悩んだ末、消去法でそれらしいものを選ぶ、ということで潜り抜けた。多分、合ってるはず。
他の教科についてはあまり心配はしていない、というか手を抜かなかったのでかなり良い点数、いや相当良い点数になっているだろう。
数学や英語なんかの答案はきっちり埋めたので、英語での文中の意図なんかを読み間違えることがあった場合その分減点があるだろうが、数学についてはちょっとした自信がある。満点とはいかずともそこそこの成績ではあるだろう。
世界史・日本史と古典も問題はなかったはずだ。ほとんど丸暗記の科目では用法と容量は守って書き入れたのでここも心配はない。書き間違えや勘違い、人物が何世だったか、なんかがあってるかどうか怪しいところではあるが、それ以外の部分で気になることはなかったはず。
こう思い返すとちょこちょこ修正や再確認したい部分が出てきたな。それでもまあ、ひどい点数だと言われて探索者なんてやってるから……と言われる可能性は低いだろう。
今回は隆介のお世話になっていないのでその分のプレッシャーもある。さあ、、帰ってきた結果が貼り出されるのを楽しみにしよう。
◇◆◇◆◇◆◇
昼休み中に中間テストの合計点の結果発表が貼り出されたらしく、塩パスタを胃袋に入れた後でちょっくら見に行くことにする。
最近は個人情報保護の観点云々で貼りだしを行わない学校が増えているが、うちの学校は進学校であることも含め、生徒同士の競争心理を働かせるために其処に目をつぶって貼りだしをするようにしている。実際、それであいつには負けない! と奮起する生徒もいるらしいので、いい方向には働いているようだ。
隆介も付いてくることになったので二人で後ろのほうから順番に順位を眺めていくことにする。
「さて、幹也先生は一体何位なのかなあ? 楽しみだなあ」
「さあな。白紙で出したわけじゃないからそれなりの順位であってくれればいいんだが」
学年生徒200名の順番が名前で張り出される。下のほうは悲惨だが、上のほうはそれなりの名誉欲と実力を手にすることができるので、この手の貼り出しにはちゃんとした意味や教師からの活入れ、という意味もあるんだろう。
順番に200位付近から見ていくが、俺の名前はこの辺りにはなかった。まあ、あれだけ答案を埋めてりゃ四択問題でもヤマカンで当たることもあるのだし、よほど悲惨な結果を残さなければ大丈夫というところだ。
しばらく進み、100位台。結城さんの名前があった。彼女は前回のテストはどのあたりだったんだろう。上がっているのか、下がっているのか。ダンジョンに通っているとはいえレベルアップするまでにはまだ至ってないはずだし、勉強する時間が減った分だけ順位は下がった、と考えるのが普通だろうが、それでも中間にいるのは立派だと言えるだろう。
80位から61位。普段隆介に頭を下げ続けて維持できているのがこのラインだ。しかし、俺の名前はまだない。
「お、普段ならお前の名前があるのがこの辺だが……見落としてきたかな? 」
「流石にそれはない。気になるならもう一度探してきたらどうだ」
「むぅ……納得がいかない。俺の手助けなしでお前の成績が上がる見込みはないはずだが」
「今回はいつもと違うと言っただろう。それなりの順位は残してあるはずだ」
隆介が急いで200位からここまでまた順番に見直してきた。そしてここまで戻ってきて、俺の顔を見る。
「なかっただろ? 」
「悔しいことにな。でも賭けてなくてよかったと胸をなでおろしているところだ」
「それは良かったな。さあ次の表を見に行くぞ」
60位から41位。ここにも俺の名前も隆介の名前もなかった。ここから先はお互い何位になるかわからない、というような状況。もしかしたら隆介よりも上かもな、なんてことまで考え始めるぐらいの勢いで心が躍っている。
「まだ上にいるのか。お前、カンニ……」
「失礼なことを言う奴だな。頭の中身を思い出すのがカンニングなら全員カンニングでアウトだろ」
それに、俺の周りの席の奴は全員もっと後ろで結果が出ていた。俺がカンニングされる可能性はあるが、俺が周りをカンニングしてそれらよりいい点を取ることは不可能だろう。
40位から21位。まだ名前が出てこない。これはベスト20入りが確定したようなもんだ。
「お前……本当に何があった」
「賢くなった。としか言えんな。勉学の楽しみがようやくわかってきたというところだ。わからないことがわかってくるというのは中々楽しいもんなんだな」
隆介があっけに取られているが、最後の1枚、1位から20位まで張り出されている、一番人の山が多い最後の一枚に向けて歩みを進める。
後ろから俺が来たのに気づいたのか、少し道が出来る。そして、自分が一体何位になるのかを確認することになった。
まず、隆介の名前が8位にランクインしていることがわかった。普段俺に勉強を教えない分下がるか上がるか微妙なラインだったが、いつもの好順位であることは確か。
そして俺の名前は……3位にあった。1位は不動の絶対防壁石畑さんなので動くことはなく、2位は万年2位男として知られている薬師寺君。そして、俺はその次になった。飛んだ番狂わせになってしまったが、静かに結果発表から離れると、驚愕した顔の隆介に肩をポンと手を置き、お疲れ、とでも言わんばかりにトイレに行った。
トイレから帰ってくると、まだ結果発表から立ち直れていない隆介がまだ立ちつくしている。そして周りでは「あの本条が3位だってよ」「あいつもっと低かったろ、何があったんだ」「最近なんか変わってきたよな」等と周りの生徒が騒ぎ出した。
「ボーっとしてると昼休み終わるぞ? 」
「お前……一体何なんだ」
隆介に哲学的な質問をぶつけられる。ダンジョンに通ってレベルアップのおかげで賢くなりました、えへっ なんてことをぶちまけられたら気楽なんだが、既に試してあるように隆介にはアカネも見えてなければ俺専用のダンジョンも見えていない。
このカラクリに気づけるものが居るとするなら、よほど高位な神官や聖職者なんかじゃないと難しいだろうとアカネも言っていたし、口で説明しても理解されるとは思えない。
「俺は……俺だ」
「今まではフリだったってことか? それとも、賢くなるような出来事でもあったのか? ダンジョンか? ダンジョンに潜り始めてから……いや、その前に兆候は既にあったな。だとすると……やっぱり女が出来たか? 」
アカネを女に含めていいなら女は出来た、と言えるだろうな。だが俺以外には見えない、という条件付きなので……いや、やはり女が出来ているというほうが筋が通っているかもしれない。
「まあ、隆介が思いたいように思えばいいんじゃないかな」
「次は本気でかからせてもらおう。期末テストと評定平均で勝負だ」
「おう、何を賭けるかは知らんがかかってこい、いつもとは違い今度はそっちが挑戦者だ。精々ダンジョンと両立して頑張ってくれ」
「評定平均なら過去の成績も加味されるからな。その分俺が下駄を履いてることになるがいいのか? 」
隆介が念のために聞いてくる。そういえばそうだったな。去年前の成績を持ち出されると隆介にはかなわない所がある。
「じゃあ、どっちも挑戦者ってことだな。今年に入ってからの俺が勝つか、それとも過去の持ち出しを含めてお前が逃げ切るか。割と楽しみになってきたよ」
◇◆◇◆◇◆◇
「とまあ、そんなわけで学力のほうは問題なく上昇していることが確認できた。というか効き目が良すぎた」
「あなた、それなりの進学校にいるはずよね? その中で突然3位に躍り出るとか、怪しさ満点よ」
「個人的には定位置にいる生徒を追い抜かなくてよかった、と胸をなでおろしているところだ。これでうっかり1位でも取ってたら怪しさ大爆発で、教師にも問題漏洩の疑いがかかってるところだったろうからな」
家に帰ってきてアカネに成績の報告。ダンジョンにうつつを抜かさずきちんと予習復習をしていくだけでも問題なく学業にも専念できている、という結果を報告することが出来た。
「しかし、レベルアップもほどほどにしておかないと、あなた明らかに教師に目を付けられていると思うわよ」
「それは学校でのダンジョン騒ぎで充分目を付けられているだろうな。それよりも、俺の真似をしてダンジョンに潜ってしっかり血行を良くして学業に戻れば俺も成績が上がる、なんて信じる奴が出そうなことが心配っちゃ心配だが……それには目をつぶることにした。そこまで俺には責任が取れん」
「まあ、そうよね。流石の私でも複数人相手に人生の講師を行うにはまだまだ力が足りないわ。その点幹也にはある程度お世話になっているし、まあ、これで幹也も人並み以上の実力の持ち主になったわけだから、後は彼女が出来れば人間としては問題解決かしらね」
最後にグサっと刺さる一言を残してはいるものの、アカネの評価もそれなりのものをくれた。彼女は居ないが……いないが……あ。
「そういえば隆介が言ってたな。彼女が出来れば人間変わるものだと。ある意味ではアカネがそういう立ち位置になっているのは確かだな」
「あら、あなた小さい子のほうが好みだったの? 人の趣味は否定しないけど、たしかに私ならいくらでも妄想したり汚したりし放題なのは確かね。触れられないのが欠点かしら」
「違うが。同じ世代かそれ以上のほうが好みだが。でも、アカネがこれから成長して俺と同世代ぐらいにまで育ってくれるならイマジナリー彼女としては充分なものになるとは思うぞ」
「じゃあ精々私が成長するように頑張ってほしい物ね。とりあえず、成績が上がったご褒美をあげるわ」
そういうと顔から俺に近づいていき、キスするような形で俺の頭の中を通り過ぎていった。そしてぐるっと回って俺の前に戻ってくると、「どう? ファーストキスの味は」と聞いてきた。
「触れられないんだから味も何もないだろ」
「ま、そうよね。じゃあ次も頑張ってね。ダンジョンも勉強も」
ところで、これはキスの回数に入りますか?
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