第34話:中間テストとメダルゲーム
ボス退治をして数日後、中間テストの日程が発表された。テスト範囲はこの後の授業で発表されるだろうし、その間の予習復習どころか、かなり先まで予習が出来てしまっているし、テスト問題集というのも試しに書店で立ち読みで読んでみたが、ほとんど暗唱できてしまっている。これは……かなり良い点数が取れる所まで来てしまっているな。
いきなり成績上位者に食い込んでしまうと隆介に何を言われるかわかったもんじゃないが、かといって手を抜き過ぎてもダンジョンなんかに潜ってるから成績が上がらないんだ、と逆に悪い例にされることになるかもしれない。
別にダンジョンに通って賢くなることを隠したいわけじゃないから、いきなり成績が上がってもおかしくはない……のか? まあ、ほどほどのところで凡ミスをして間違えるぐらいのことはしておくか、それとも自分のできる限りのことをしていい成績を修めておくか。悩んだ結果、後者を選ぶことにした。
ダンジョンのせいで成績が下がったと言われようと、ダンジョン通ってるのに成績が上がったと言われようと、全ては同じ。なら、せっかくだしできるだけいいところの点数を取るほうに決めた。
俺の真似をしてダンジョンに潜って成績をあげようとするやつがいても気にしないことにしたのだ。そいつの成績が上がらなくても俺には関係ない、そういうスタンスで挑む。また目立つことにはなるだろうが、ダンジョン通ってるおかげで頭がよくなったのか、血の巡りが良くなって効率的な学習ができるようになったのか、と問われそうだが聞かれたら答える方向性で行こう。
なにより、自分の精一杯をかけてギリギリのラインで戦う、という行為に、先日のボス戦から楽しみを覚えてしまったようなのだ。
自分の限界に挑むというのは中々に楽しい行事である、ということを認識してしまったおかげなのか、勉強にもより一層身が入るようになった。自分の頭のほうの限界も意識して、無理がたたらないギリギリの範囲で詰め込み、反復、再調整、という流れを得て自分の身に付けていく。もしちょっと疲れて運動がしたくなったら自分専用ダンジョンに潜って体を動かし、頭へ流れる血流を増やして、また勉強に戻る。
この一連の流れが俺の脳細胞を活性化させ、さらなる高みへと昇りつめさせてくれるらしい。勉強って楽しいんだな、ということを十八年間生きてきて初めて実感することが出来た。これもダンジョンのおかげである。きっちり予習して、当日は隆介を驚かせてついでに周りのみんなも驚かせるようにしていこう。
「こんなに勉強熱心だったかしら? なんだか人が変わったみたいね」
「レベルアップは人を変えるだけの何かを持ち得ている、というのは面白い表現だな。文字通り人としての格が上がっていると考えればそんなに深く考えるほどのものでもない。レベルが上がった以上はそれ相応に結果を出すのがレベルに対する責務かなとも思う所だ」
「ダンジョンのほうはちょくちょく入ってはいてくれているみたいだし、中間テストの間は流石に外のダンジョンには潜らないのね」
アカネが俺がポテチをつまみ食いしているところから神力をそっと抜き出して味わっている。このポテチが食えるのも専用ダンジョンのおかげではあるのでそこはアカネがつまみ食いするだけの権利はあろうというものだ。
「ダンジョン潜ってるのに成績が良かったら流石に何かカンニングでもしてたんじゃないかと言われそうだからな。ちゃんと中間テストの間は家で勉強してたっていうアリバイも欲しいし、換金しなきゃいけないほど生活費に困ってるわけでもない。あとはまあいくつか理由はあるが……とりあえずテストが終わるまでは大人しく勉学に励むさ」
「えらいえらい」
アカネが当たらない手で俺をなでなでしている。悪い気はしないのでそのままなでなでされながら勉強を続けることにした。やはり覚えたい内容がスッと頭に入ってくるこの感覚は凄いな。これに慣れたらもう今までの勉強法なんてあてにはできないだろう。
そしてテスト当日。今日は朝から隆介が俺を待ち構えていた。
「さあ、幹也お待ちかねの中間テストだぞ。ダンジョン通いで鈍った頭をフル回転させる時がやってきたぞ」
「待ちかねている人物のほうが少ないと思うぞこんなイベント。普段の授業態度だけで充分だろ」
「それならそれでもいいが、幹也の評価はそんなに高くないと思うんだが」
「まあ、たしかに。でもまあ、問題ないだろ」
賢くなったことで余裕が出ている俺に対し、隆介が奇妙そうにしている。
「おかしいな、前までなら俺に泣きつかんばかりに勉強教えてくださいと許しを請いに来ていたはずだが」
「まあ、そうだったかもしれないな。でも今回はそこそこいける気がするんだよな。だから今回は泣きつかずに自分でなんとかしてみることにするよ」
「……やっぱりおかしいな。お前本当に幹也か? 」
「同じ顔した誰か、ではないことは確かだ。証明が必要なら、お前の悪事を色々とばらす覚悟で挑むが……どうする? 」
隆介はじゃあ……と言いそうになって言うのをやめた。どうやらここでばらされてはいけない悪事の数々を思い出してきたらしい。
「どうやら本人で間違いないようだ。今回の結果を楽しみにしておくことにするぞ」
「まあ、適度に期待しておいてくれ。悪い結果にはならんとは思うからな」
そういってシッシッと隆介を自分の教室に返すと、さて中間テストのことはもうどうでもよくなった。俺は決めたのだ。今の精一杯でどこまで出来るかを試すことに。どんな結果が帰ってくるかは解らないが、精一杯の学力を総動員してテストに挑むことにする。最初は難関の現代文からだ。どうやって作者の気持ちに応えればいいのか。そこの出題がない限りは大丈夫だとは思うが、まあやるだけやってみよう。
予想通り、現代文のテストの中の文には「この時作者が伝えたいと思ったことを答えよ」という問題があり、消去法で行くしかなかった。これさえ乗り切れば印税が出るとかそういうネタに走った解答が存在していなかった分だけある意味では楽とは言えたが、一番無難な選択肢を選んだはずだ。
◇◆◇◆◇◆◇
二日間のテストはつつがなく終わり、全ての解答欄を埋めた。解けなかった問題というのはなかったように思えるが、凡ミスが積み重なってしくじった可能性がある所もある。しかし、テスト範囲全てを勉強し終えて何なら期末テストの範囲にまで手を出している自分にとって、感想欄以外の部分で問題になるようなところはなかったように感じる。
テストが終わり、また隆介が遊びに行かないかと誘いに来たのでたまにはいいか、と遊びに出る。
「で、今日のその貸しメダルの量は今までの探索の恩恵ってところか? 」
ゲームセンターのメダルコーナーに来たので、今まで預けていたメダルを取り出し、隆介とメダルゲームで遊ぶことにした。
「そういうわけじゃないぞ、これは今まで必死に集めて溜めてた分だ。今日はまだ一円も使っちゃあいない」
「つまり、負け具合によってはお前の財布からまたコインが貸し出されるわけだな」
「自分のを使えよ。ここはメダルのやり取り禁止の店だからな」
隆介も自分の貸しメダルが何百枚か残っていたらしく、それを引き出すと共に落ちもの系のメダルゲームに熱中し始める。
アームの動きとその先に行くであろう絡み棒の配置、それからメダルが落ちるタイミングとプッシャーの押し出す時間、それらを計算に入れて、タイミングよく少しずつメダルを放り込んでいく。
頭の中でシミュレートした通りにメダルが落ちていき、そのメダルをプッシャーが押して上段から下段へ。そして、下段のメダルが少ない枚数のメダルに押され、落とし口からメダルとして戻ってくる。ついでに画面中央のスロットのリールが回り、リールが止まった通りのメダルが排出されると、また計算のやり直しになる。落ちものプッシャーゲームは考えるパラメータが多いのでそれなりに楽しめるな。
隆介は純粋に遊んでいるが、こっちは手堅く手持ちの枚数を増やす方向性で行っているので、隆介とはメダルを落とす早さもタイミングも違うが、着実に手持ちの枚数は増えていっている。一度この辺で大当たりを出しておかなないと、手前に溜まり始めた大量のメダルを押しきることは難しいだろう。
かといって、完全に電子制御されたスロットの数字を弄ることは出来ないのでそこは賭けになるが……まあ、回ってる間にその内当たるだろう。
十五分ほど粘って、ようやく大当たりが出る。後はプッシャーのタイミングに合わせてうまいことメダルが振ってきてくれるかが賭けだな。
そして、タイミングよくプッシャーが手前に引きさがった時に大量のメダルが上から降ってきて、プッシャーがそれを押し出し、一気にドバっと場が流れ出す。手前に溜まっていたメダルが一気に排出され、かなり大量のメダルを手にすることが出来た。まあ、こんなもんか。当初よりプラス200枚ってところだな。
「お、うまいこと当てたな。こう、色々と身の回りが調子よく回ってると最近人生が楽しいんじゃないか? 」
「そうかもしれないな。まだ十八だが、人生の楽しみ方を心得てきたって感じがするな」
「なんでたかがメダルゲームでそんな達観してるんだよ。それより数枚くれ。後数枚で山が崩れそうなんだ」
「どれどれ……二枚で充分だろこれ」
筺体上部左右にある投入口からタイミングを計って同時二枚投入。両方ともプッシャーがうまいことからめとって下段に押し、そして下段に落ちた数枚のメダルが一気にメダルを押し込み、そして隆介の前に十数枚のメダルが払い出されてくる。
「すげーな、もうこの筺体は完全クリアって感じか? 」
「そう言えるのはジャックポットを当ててからだろうな。流石にそこまで粘ってたら夜になってしまうからな。ほどほどのところでメダルを増やして帰るつもりではいるけど」
「今のお前ならじゃんけんでも五十枚持って帰ってきそうだ」
「電子制御されてる部分は無理だ。それ以外は……多分勘でなんとか計算できる」
結局俺も隆介も多少プラスにして再度メダルを預け直し、テスト勉強の憂さ晴らしは終わった。後は返ってくるのを待つだけとなったが、本気でやったのに点数が悪かったらちょっと凹むな。それなりの結果が出てくれていることに期待するしかないだろう。
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