第33話:ボス戦 でかめのオーク
オークを見やる。オークの手にはオークの身長に見合った山賊刀、といった具合だ。かなりの重量がありそうだ。普通のオークは裸だが、こいつは革鎧を着こんでいる。急所一発突き、とか行かないモンスターなのは流石ボス、と言ったところだろう。
「グモオオォォォォ! 」
ボスオークは一言俺に向かって咆哮をあげる。これが牽制なのか、それとも威圧的なスキルなのかは解らないが、耳が少しキーンとなり、頭を押さえつけられたような気分にさせられる。精神的に少し負荷がかかったのは確からしい。やはり声がでかいやつはそれだけで威圧感があるのは間違いないだろう。
剣を握りなおして、ボスオークとの距離を少しずつ詰めていく。向こうの射程に入ったら攻撃が飛んでくるだろう。受け止めるか、それとも避けるか。
受け止めて剣が折れたら一大事だからな……ここは受け止めず回避する方向で行こう。ボスオークは肩に山賊刀を抱えたままこっちに向けて徐々に歩いてくる。かなり余裕があるような様子で、そのボスオークが見せる余裕が俺を不安にさせる。
じり……じり……と距離を詰め、少しずつ前進する俺と気にせず歩いて近寄ってくるボスオーク。いかんな、もうすでに受け身に回ってしまっている。こっちから攻める方向に行かないとこいつの相手は多分出来ない。
しかし、まず相手の射程を知るためにも初手を回避してその後どのぐらいスキが出来るかを見定める、この方向で行こう。時間制限があるわけじゃないんだ、落ち着いていこう。
縮まる両者の距離、そして、ある程度縮まったところでボスオークが山賊刀を振り上げ俺に向けて切りかかる。それを余裕を持って躱すと、俺がいたところに軽く砂ぼこりが舞い、そして俺がさっきまでいた場所に小さな穴のような攻撃痕が残った。
うん、パワープレイでは負ける。これはスピードとテクニックを活かして蝶のように舞い、蜂のように刺す作戦で行こう。
今の一撃でボスオークの攻撃距離は解った。後はそこにわざと近づいて攻撃させ、その攻撃モーションがキャンセルされないギリギリのところで回避を行い、回避して余裕を持った速度でボスオークに切り込みにかかることにしよう。
ボスオークの次の攻撃を待つ。再び近づいて攻撃を誘う。ボスオークが再び山賊刀を薙ぎ払いし、俺の首がある場所に対して切りつけに来ているが、それをかがんで避けると、下段から一気にボスオークの首めがけて剣を振り上げる。
ボスオークの肩に当たった剣がわずかに切り込みを入れ、そこから黒い霧が吹きだす。血じゃないんだな……返り血を気にせずに済むことは良いことか。血や脂で剣が切れなくなるなんてことにもなりそうにない。これは一気に決着をつけるには……やはり、オークと同じで足に切れ込みを……と、だめだ。こいつは御丁寧にブーツまで履いている。気軽に足の腱を切って転ばせる、という作戦はなしだな。
ボスオークに切れ込みを入れてから再び離れ、わずかなダメージでも与えられることがわかった以上、このまま戦い続けて消耗戦に持ち込むのは可能性としてありと判断できる。後は何処までボスの体力や装備を削りに行けるかだが……相手の武器を破損させるにはちょっと手数とオツムが足りない。防具は破損できそうだが、あまり分厚いところには仕掛けられないだろう。胴体はパスだ。
だとしたら、やはり狙うのは足だろう。足首までは届かなくても太もも……自重を保てなくなる程度まで切りつけ続ければチャンスはある。ここは弱点とまではいわないが、弱そうな太ももあたりを狙って戦ってみよう。
戦闘を続け、ボスオークの攻撃を避けて内側に入っては、太ももに切り込みを入れて細かくダメージを刻んでいく。ボスオークは初めのうちはそんな攻撃では効かん! とばかりに俺を追って追撃を入れに来ていたが、その内変化が訪れ始めた。
数合撃ちこまれた後、ボスオークも俺の狙いに気づいてきたのか、体の姿勢を今までの強者を誇る姿勢から、足をカバーするような腰の据わった体勢に変化し始めた。どうやらこちらの狙いに気づいたらしい。モンスターの癖に頭が回る奴だな。流石はボス、というところか。
待ちの体勢に移ったボスにわざと斬られに行ってそれを避けて攻撃を続けるか、いっそのことこっちかた攻撃に移るか……悩みどころだ。ボスオークは静かにゆっくりとこちらに近づいているものの、足へのダメージをかばってかすこしだけ体の動きがぎこちない。足狙いはどうやら正解だった様子だ。
ここで反撃に移るほうがいいか、それとも……よし、いっちょ切り込んでみて、ボスオークがどういう守りの固め方をするかを学ぼう。こっちはここまで無傷で息も切れてない。まだまだ体力的にも能力的にも負けてはいないんだから素直に戦ってみよう。
こっちのほうが得物が短い都合上、ボスオークに近寄って攻撃をしようとすると、先に向こうの山賊刀が伸びてくる。それを剣で逸らすように力の方向を変えてやると、ボスオークはそれにつられて体勢を崩した。これはチャンスだ。
「ブモオオォ!? 」
体勢が崩れたボスオークの足に一気に全力を込めて剣を振るう。ボスオークの片足は半分まで切断され、黒い霧が飛び散り始めた。そのまま倒れていくボスオーク。しかし、足一本が使い物にならなくなってもに立とうとする姿にボスオークの矜持を見た気がする。
ダメージに対してボスオークの呼吸が荒くなっていく。次にもう一回攻撃で来たら足は切断することができるようになるだろう。ボスオークが転んでしまえば、直接首を狙うことも可能になる。そこまでの後一手が欲しいな。
「ガアアアァアアァ! 」
冷汗が少し出だした手で剣を握りなおし、再びボスオークと対峙する。あっちは気合でなんとかしようと、再び咆哮の声をあげるが、威圧というよりもこんちくしょう負けるものか! という強がりの叫びにも聞こえる。
よし……全速力で突っ込むか。今まで避けることに特化させていた体をスピードを乗せて一撃入れる方向に溜める。相手の剣が振り下ろされる前にこっちが届けば俺の勝ち。届かなかければ切り傷なり何処かを切断されるなりのダメージはあるだろうが、どっちにしろここで勝たなきゃ意味がない。
決して捨て身ではない捨て身の戦法でいっちょここはやってみるとするか。まずはボスオークの攻撃範囲ギリギリまでゆっくりと近寄る。そしてボスオークの射程ギリギリに入ったところで一気に加速。ボスオークに肉薄し、そのままボスオークが反応できない速さで近寄って、すれ違いざまに足に一撃。半分まで切断されていた足を完全に切断する。
ボスオークは攻撃を振りかぶった状態であれ、俺どこへ行った? とばかりに探しているが、俺は後ろにいるぜ。どうやら全速力で駆け抜ければボスオークの認識できる範囲を越えて移動することができるようだ。それがわかれば後はもう楽だな。
「ギャアアァアアッジジアッダ!! 」
ボスオークのちぎれた足に気づき、叫び声をあげる。その間にボスオークの手に持っていた山賊刀を剣で弾き飛ばし、ボスオークから離れたところに移動させる。これでボスオークとの戦力差は莫大なものになった。攻撃手段である山賊刀はもう手元にはなく、足を切断されてまともに立てなくなったボスオークが、俺に向けて手のひらを差し出す。
待って、ちょっと待ってくれ、とも伝えたそうなその手を剣で切断すると、いよいよボスオークの最期の時がやってきた。
ボスオークに近寄り、首に向けて剣を構える。ボスオークはじたばたともがくが、悪いがこれで終わりだ。全身の力を込めて一気に剣を振り抜いた。
刃がぶ厚い首筋を断ち割り、黒い霧が噴き出す。最後までこちらに救いを願っていたボスオークの瞳が、霧に溶けて消えていった。
後に残ったのはかなり大きい魔石と、肉の塊、それと何かのスキルスクロールがドロップ品として産出されたらしい。前のオーク肉より量が多いな。冷凍しておけばしばらくは良い食生活が送れそうだ。スキルスクロールは後で調べて覚えるべきなら覚えて覚えないなら……これはベッドの下の肥やしかな。
そして、いつものフワッとした感触。どうやらボスの経験値は相当多かったらしく、またレベルアップしてしまった。これでレベル7ってところか。人類の最頂点はレベルいくつ何だろうな。レベルだけで強さを判断することはできないが、相当回数ダンジョンに通ってかなりのレベルアップをしていそうだ。俺と同じぐらいのレベルの人間は存在はするんだろうな。
さて、アカネが門の外で待っている。無事に帰ってこれたことを報告して、それから帰ろう。
門を開け、ふよふよと浮いているアカネに笑顔で答える。
「ただいまアカネ、なんとかなったよ」
アカネも笑顔で答える。
「お帰り幹也。怪我もなく無事に討伐出来たみたいね……その肉の塊どうするの? 」
「流石に換金に出せばどこから手に入れたのかと問題になるだろうから、俺の食事として日々減らしていくことにするよ。具体的には俺の弁当と夕食が豪華になるかな。後、今更なんだけどこのボスの名前、なんて言うんだ? 」
アカネに戦う前から疑問に思っていたことを聞く。倒した相手の名前を後から聞くというのは変な話だが、何と戦ったかを知っておくのは今後ボスじゃなく雑魚として出てきた時のことを考えれば必要だろう。
「そういえば伝えてなかった話ね。あれはオークチーフよ。強化版オークってところね」
「確かに、装備も体格も豪華だったな。ドロップも豪華だったが……さすがにこの大きさの魔石は換金できないな。駅前ダンジョンに生息しているかどうかもわからないし、確認できるまではベッドの下の肥やしにしておこう。
「じゃあ帰ろうか。今日の夕飯もオーク肉になりそうだ。これは今度こそカツ丼かな。ちゃんと卵でとじてカツとじにしよう。ご飯も炊きなおさないとな」
「ね、だから言ったでしょ? 今の幹也なら大丈夫だって」
「レベルも上がってしまったことだし、また体と頭の微調整に時間がかかることになるのか。これは中間テストで大変な大番狂わせを行うか、ほどほどのところで済ませるか、悩みどころだな」
「それに、明らかに見た目がかっこよくなってるから明日からが大変ね」
アカネはニコニコしながら俺の顔を見ている。そんなにイケメンになっているのかなあ。レベルアップの前と後でスマホで写真でも撮っておけばよかったか。自分で自分の変化に気づけないのは不便だ。
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