第31話:初めてのパーティー戦 2
side:結城彩花
気が付いたら真横にいた本条君がモンスターの真横に居て、倒す準備まで済ませている。素早すぎてわからなかった。どれだけダンジョンに通って訓練すればあの領域に達することができるのかしら。慣れると言っても限度があるわよね。
助けられているのは間違いないのだからキャリーされてる気分なのは間違いないけど……せめて盾持ってるほうは自分で倒せるようになるぐらいはしないと……今日の目標はそれね。
本条君は一人でもこの辺りを歩き回れるようだし、私が居ることで逆に動きづらくなっているなら私の動きを見直さないといけないわね。
どうすればいいのかしら……ここは素直に質問しておいたほうがいいのかな? あんまり質問だらけだとかえって重荷になったりしないかしら。でも、そのまま足を引っ張り続けるよりはマシなはず。
少なくとも一緒に行こうって言ってくれてる時点で多少動きづらくなるのは承知の上なんだろうから、初心者質問で恐縮ですが戦法で色々聞きだして、今のうちにちゃんと動けるようになった方がいいかもしれないわね。
せっかくダンジョンでの師匠みたいな人に出会えたんだから、色々吸収させてもらわないとね。よし、解らないことは聞く。聞いたうえでどう行動するかを決めていく方向性で行きましょう。
◇◆◇◆◇◆◇
結城さんがぽろぽろと質問をし出した。真面目な質問だったので答えられる範囲で答えてそれなりの道筋と、出来そうな範囲での答えを出す。さっきのゴブリンアーチャーもそうだし、シールドゴブリン相手にどう立ち回るかについて、結城さんの武器でどこまでのことができるかを考えつつ、試しにシールドゴブリンと立ち回ってもらって実戦と再考とを繰り返しながら倒す。
俺の回答を真面目に受け取っているようで、明らかに動きが良くなった。シールドゴブリンも盾を弾いて胴ががら空きになった後でゴブリンと同じ心臓を突くように試してもらったところ、最初の数回はシールドゴブリンの盾に阻まれて中々本体を狙えない状態にあった。
そのたびに戦い方を考え直してもう一度戦い、今度は盾を弾けるようになった。盾を弾き飛ばすまではいかないものの、がら空きになった胴体に結城さんが普通のゴブリンのように一撃を加えて、二手順で撃破できるようになった。そして、五回目ぐらいで危なげなく倒せるようになってきた。もう、突進戦術で防御を捨てるような戦い方をする女の子はここにはいない。
ちゃんと考えつつ立ち位置を変えながら素早く……それでも俺からしたら十分遅いが、動き回りながら相手のスキを探して戦い抜く姿はゴブリン相手なら立派に戦い抜いている、と言えるだろう。
その間ゴブリンアーチャーは俺が相手をして、率先的に処理することで遠距離攻撃からは身を守れるようにしている。ゴブリンアーチャーのいる場所やどういうシチュエーションで狙ってくるかも段々慣れて覚えてきた。
後はどれだけ長い間巡って戦闘経験を積むか、ということになるな。今日一日でどこまで慣れてくれるかわからないが、物覚えが悪いわけではないらしいので一安心かな。
ところで、俺はどうしてここまで結城さんに親身になっているんだろう? ちょっと前にダンジョンで助けて、その前は窓から見られるだけの間柄だったはずだ。確かに可愛いから気になるのは間違いないが、それでもちょっと肩入れしすぎではないだろうか。できるだけ顔を知っている人が怪我をしたりしてほしくない……ということだろうか。
「どうしたの本条君、集中きれたとか? 」
「ああ、いや、なんでもない。なんで結城さんと一緒に組んでるのかなってちょっと解らなくなってきたところというか、何だろうな。自分でよく解らないが、組んでて楽しいな、と」
「そう、ね。確かに足引っ張ってばっかりだけど、一人で潜ることに比べたらずいぶんマシだわ。おかげでいくらか今日は稼いで帰れそうね。ほとんど本条君のおかげだわ」
「まあ、自分への復習だと思って教えてるからな。自分でも勉強になりつつあると考えながらやってるからあんまり苦にはなってないしね。それに、結城さんのおかげでパーティーでどうやって自分の立ち位置を考えていけばいいかというのがわかってきたからそれも俺の身になってくれてるよ」
うーん、うまく伝えられないけど、俺にも勉強にはなっているということは間違いないのでそこはちゃんと言葉にして伝えておこう。無駄な時間を使っているとかそういうことはない、ということも含めて、きちんと俺の勉強にもなっていると伝えておけば、結城さんも介護されてるという気持ちから離れてくれるだろう。
「さあ、次行くわよ。今度は数を倒してしっかり稼いで行きたいわ。ちょっとお昼休憩にして、その後はひたすらゴブリンを倒しましょう。質で倒せなくても数でをこなせばきっと自分なりの戦い方が身に付いてくると思うわ」
モンスターの寄り付かない辺りを探すと、その場に座り込んで昼食を食べ始める。結城さんはしっかりとお弁当を作ってきていたが、俺はコンビニおにぎり三個だ。
「それで足りるの? 」
「カロリー的には充分かなって。足りなかったら夕食に何か食べるし、お腹が空いてきた時点で帰ればいいかなって考えてたから。俺、あんまり食事にこだわりないんだよね」
「それでよく持つわね……そうね、今日の受講料ということで、肉巻きポテトを一つ持って行っていいわよ」
「うーん……よし、それで納得してくれるなら有り難く頂くことにするよ」
爪楊枝にまとめられた肉巻きポテトを一つ貰う。流石に結城さんが一から作ったものではないんだろうが、それでも俺には充分食事のあてとなってくれた。少しでもカロリーがあるほうが健康的だからな。もしここでコンビニおにぎりではなくいつもの塩パスタで食事を済ませていたらもうちょっと何かもらえたかもしれないが、そこはぐっと我慢だ。
むしろコンビニおにぎりというチョイスがなければおひとつどうぞとならなかった可能性もあるわけだから、美味しく頂いてしまおう。
肉にかけられた甘辛のタレが美味しい。ポテトにもその味が移り、口の中が一時的に幸せになる。今日パーティーを組んで良かったこと第三位ぐらいにランキングされる。
第一位はもちろん、パーティーを組むと決めた時点で換金に走って怪しまれることなく自宅からの持ち出し魔石を処理できたこと。二番目はこうしてパーティーを組めたことで一人では考えられない状況や立ち回りが考えるヒントをくれたことだ。
それぞれ食事を食べ終えたところで少し食休みをして、午後はひたすらゴブリンを倒していくことにする。午前中の探索で学んだことを意識しつつ、同時に二匹三匹と相手にしていくことで、お互いのパーティーとしての動きを確認していく。結城さんも俺に背中を預けることと、効率的にゴブリンを倒していく方法を学んだことでより楽に戦えるようになった。
「午前中の戦闘のおかげで随分楽になったわね」
「結城さんが効率よく動けるようになったから、一対二でも戦えるようになったのは大きいね。これで四匹ぐらい来ても戦えるようになった」
実際、俺も楽が出来ている。ゴブリンが相手だが、数をこなしているおかげで魔石も順調に溜まってきた。俺のダンジョンで同じ数だけ倒していれば……と思うとちょっともったいなさはある。
しかし、今日はノーマライズダンジョンの練習として来ているのだから、パーティーを組んでこうして探索作業をしているのは問題ないことになる。むしろ、俺専用ダンジョンでは学べないこととしての意味なら非常に濃厚な時間であるとも言えるだろう。
午後を目いっぱい使って、途中休憩をしながら精一杯ゴブリンを倒していく。倒したゴブリンはもう百から先は数えていない。魔石も充分に溜まりつつあり、一日の稼ぎとしてはそこそこの物になりつつある。やはりパーティー活動はそれなりに楽が出来るんだな。
しかし、魔石が溜まってきたとはいえ今日の収入のメインはやはり俺専用ダンジョンからの収入の形になったのは仕方のないところ。ソロではオークも倒せる! という自信がついただけまだ奥深くに行くだけの余力はある、というところだ。後はこっちでオークも倒せれば更に良いんだが、その為には定期的にパーティーで潜る、ということになるんだろうな。
やがて夕方になり、腹も減ってきた。そろそろ手じまいの時間だな。
「結城さん、そろそろ帰ろうか。もういい時間だし」
「あら……もうこんな時間だったのね。気づかなかったわ」
帰り際のゴブリンとスライムを掃除しながら、今日の反省点を考えていく。
「今日は……どうだった? 」
「普段一人でゴブリン倒してるよりはよっぽど楽が出来たわ。やっぱりパーティー組んでるほうが楽なのね」
「それはそうだろうと思う。複数相手にする場合でも、片方が攻撃せずに抑え込んでいる間に一対一、なんて場面も作れたしね。俺も普段一人だからこういう戦い方はちょっと思いつかなかった」
「そうね……あのね、本条君。そっちが良ければなんだけど、またパーティー誘ってくれないかな? 一人で探索するよりよっぽど楽だってことがわかってきたし、優秀な戦力を是非味方につけておきたいところなのよ……後かっこいいし」
「かっこいいかはともかくとして、またタイミングが合ったらその時はよろしくお願いするよ」
「ほんと! やった! 」
嬉しそうにガッツポーズではしゃいでいる。まあ、俺は土日しか潜らないから必然的に土日に限定されてしまうかもしれないが、その間でも稼いで行けるのは便利だろうし、俺も隆介とパーティーを組んだ時のことを考えるとあらかじめ慣れておくほうがいいだろう。
「じゃあ、約束するために……スマホのアドレス教えて」
「わかった……これでいいかな」
通信アプリの連絡先を見せ合うと、俺のスマホに女の子の自撮り写メがアイコンになったアカウントが登録された。
今日の儲けは午前中にプラスして、二等分した価格で10400円になり、ほくほく顔の結城さんとその場で別れた。さて、お金は……土日だと手数料がかかるから、明日の学校終わりにでも預けに行くか。流石にこんな大金持ち歩いている訳にもいかないからな。
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