第30話:初めてのパーティー戦 1
結局オーク肉は翌日寝ぼけて普通に焼いて食べた所、かなり美味い豚肉だったことが判明したのでそのまま昼食の弁当にも甘辛くたれをつけて弁当にした。あれはまたやりたいな。その為には俺専用ダンジョンにしっかり通ってオークを倒すことにしよう。オークを倒せば食費も浮いてビタミンも取れる。いいことづくめじゃないか。
そして今日は土曜日。ある程度魔石をあらかじめ入れた状態でバッグに隠し財産を仕込んでおくと、いつもの装備で出かけ……おっと、玉を忘れる所だった。この玉が何で出来ているかは知らないが、オークの玉なんだから……金玉のような気がしてきた。何に使えるんだろう。きっとナニに効果がある精力剤みたいな扱いを受けてるんだろうな。買い取りがいくらになるかだけが気がかりだが、ちゃんと持って行って換金するのを忘れないようにしよう。
駅前ダンジョンに到着して入場手続きをすると、見慣れた髪形に見たことのある服装。そこには結城さんがいた。
「……やあ」
「……たまたま同じ時間に入るだけよね? 付けてたりしてないわよね」
「それは保証する。で、今日も一人なのか? 」
「一人じゃ悪いのかしら? 」
言いたいことが上手く言い出せない。けど、ここは彼女のためでもあるし俺のためでもある。誘って奥へ行こう。
「……良かったら一緒に行くか? 」
「パーティーのお誘い? ……正直一人でできることには限界があるから、たしかに一人より二人のほうが便利ではあるけど」
誘ってから気づいたが、自分の持ってきた魔石をどう誤魔化そうか問題が発生した。先に換金しておけばよかったな。しまった……しかし、一度自分から誘ってから断るというのも変な話。よし、ここは誤魔化そう。
「ちょっとトイレに行ってくる。その間に考えておいてくれ」
「わかったわ」
トイレに行くふりをして換金カウンターに換金手続きをしに行く。
「オークの睾丸が二つですか。運が良いですね、これ中々でないんですよ」
「そうなんですか。後こっちの魔石もお願いします」
「はい、すぐに終わりますからね」
換金カウンターは妙に手早く換金してくれると、俺の手元には75800円の金が手に入った。どうやらオークの睾丸は一つで10000円の価値があるらしい。これはかなり美味しいな? 頻繁に出るのはおかしいが、今日も駅前ダンジョンに籠るのだし、もしかしたら一個ぐらいは出るかもしれない。出たら二分割で五千円。高校生に五千円は中々の収入だ。結城さんがどこまで潜れるのかは解らないが、ぜひとも深いところまで……と、待たせたままだったな、急いで迎えに行こう。
「遅かったわね」
「すまんな、大きいほうであまりその……お腹のほうの調子がよろしくなかったみたいだが、全部出してきたからこれ以降は大丈夫だと思う。で、どうだ? 一緒に行くか、行かないか」
「行くわよ。そのほうが楽できそうだし、あなた結構強いみたいだし」
「……そうか」
これで臨時パーティー結成だ。俺以外にも周囲に気を配れる味方が居るというのは心強い。アカネほどの索敵能力はないにしろ、俺で気づけないモンスターをうっかり見つけてくれることに期待しよう。
ダンジョンに入り、しばらく進んで隅っこのほうでスライムと会敵。そういえば、結城さんが最初にスライムに襲われてたのもこの辺りだったか。
「スライム、いける? 」
「馬鹿にしているのかしら。あれから私も何度か通ってそれなりに強くなったんだからね。見てなさいよ」
じっと動きを観察させてもらいつつ、他のモンスターが寄ってこないかを監視することにした。流石に一発目の剣撃で核に届くことはなかったが、二発目は核に当たり、スライムがはじけ飛ぶ。
「うん、大丈夫そうだな」
「でしょ。もうあんなに囲まれたりむやみやたらにモンスター寄せ付けたりはしないわ」
スライムに安心したところでそのまま奥へ進み、道中のスライムを交互に倒しながらゴブリンエリアにやってきた。ここはまだ普通のゴブリン。もうちょっと奥へ行くとシールドゴブリンやゴブリンアーチャーが出てくる。
「ゴブリンの御経験は」
「少しなら。でもこの武器なら大丈夫そう」
つまり、他の武器でゴブリンに挑もうとした形跡はあったということか。ナイフみたいなのでスライムを少しずつ切り刻んでいるところで調子に乗って奥へ挑み、ゴブリンと痛み分けしたとかだろうか。
「先に見つけてるならこっちの物よね」
彼女の体型に合った細身の剣でそのままゴブリンに突進し、玉ァ取ったらァ! という感じでそのままゴブリンを押し倒す。押し倒されたゴブリンの心臓部分にうまく剣が入り込んだようで、ゴブリンはそのまま消滅する。魔石が後に残った。
「どうよ! 」
「一対一や二対二ならいいけど、それ以上の数が出てきた時が問題かな」
「むう……意外と厳しいわね」
むくれる結城さんをちょっとかわいいと思ってしまったが、実際に複数に囲まれて負傷する、という例は初心者にはよくあることらしく、その場合の攻撃の仕方を考えてもらうことにする。
「じゃあ、どうすればいいわけ? 」
「刺して抜いて刺して抜いて……を繰り返してダメージを蓄積させていくとか、体の立ち位置で常に一対一であり続けようとするとか、やり方はいくつかあると思うけど、確殺できないならその戦い方はあんまりお勧めできないかな」
「なるほど……意外と考えて戦ってるのね」
「まあ、ね。囲まれることもあると考えながら行動するほうがスキを作らなくて済むから。それに、気が付かないうちにモンスターが近寄ってる可能性もあるわけだし」
俺の説明を真面目に聞いている。どうやら、今日は誘って正解だったみたいだな。もしかするとゴブリン二匹相手にさっきの戦い方をして、一匹は倒せたもののもう一匹やもう二匹に囲まれてボコボコにされていたかもしれない。
「さあ、次を探しましょう。次のモンスターはどっちかしら」
「次は……こっちかな。足音と何か引きずるような音がするから、こん棒を地面に垂らしながら歩いてるゴブリンが居るんじゃないかと」
「そこまでよくわかるわね……ほんとだ」
結城さんが俺の耳の良さに驚いている。実際に目の前に、戦闘動作にも入らずこん棒をずるずると引きずってボーっとしているゴブリンがいた。小声で結城さんに話しかける。
「さっき言った戦い方、やってみて」
「わかったわ」
結城さんがゴブリンの視界に入らないように近づきつつ、ここだ! というタイミングで飛び出し、ゴブリンに細身の剣……レイピアみたいなやつを抜き差し抜き差し。ゴブリンは突然の結城さんの出現に驚いたのか、こん棒を手から放してしまう。あとはもう結城さんにされるがまま、ひたすら攻撃を受けて反撃もできないまま黒い霧になり散っていった。
「はぁ……はぁ……今のでどう? 」
肩で息をしつつ、俺に感想を聞いてくる。
「突撃するよりは数倍マシな攻撃だと思う。急所を狙って、一発で心臓を狙っていけばもっと回数や体力消耗は少なくて済むかな」
「ふぅ。なるほど、急所狙いね。次はもうちょっと頑張ってみるわ」
よし、と気力を入れなおす結城さん。なんか俺が指導してるみたいになってきているが、本人がそれに気づかないので、それほど頭のほうはよろしくないのかもしれない。残念な子、という称号が彼女の頭の上に煌びやかについてしまっている気がした。
かといって完全に彼女に戦闘を任せていては俺も暇なので、適度にゴブリンを間引きしては残りの一匹を結城さんに色んな戦闘方法で戦ってもらう、という形で進んでいる。
彼女も、自分に経験を積ませようと俺が誘導しているのにうっすら気づいてきたのか、二匹以上いるときは確実に一匹を狙って俺のほうに行かないように調整しているような動きを見せ始めた。その調子その調子。
「ここより先はより面倒くさいゴブリンが出てくるけど、行ってみる? 」
「今日は調子がいいからいける気がするわ。注意点は? 」
「弓矢で狙ってくるゴブリンが居るから、射線上に入らないことかな。見つけたら率先して倒しに行くからね」「弓矢……刺さると痛いの? やっぱり」
「まだ刺されたことがないから何とも言えないが、ここで怪我する初心者は多いらしい」
結城さんにまた聞きだが説明をしておく。実際に俺に飛んでくる弓矢は非常にゆっくりに見えるため普通に捕まえて矢を返した方が早いのだが、結城さんにそれを求めるのは酷なことだろう。本来ならここで盾が活躍するんだろうが、俺たち二人は盾を持っていない。なのでモンスターを見つけ次第、俺が倒しに行くのがベターな選択肢と呼べるだろうな。
少し進んでみると、丁度ゴブリンアーチャーと目が合った。ゴブリンアーチャーは俺からすればだが、ゆっくりした動作で矢をつがえてこちらに向けて射出しようとしている。打たれる前にやれ、という命令が頭の中を駆け巡り、最速でゴブリンアーチャーに近寄ると、そのまま弓の弦を切り、矢を打てなくしたところで結城さんがゴブリンアーチャーに気づく。そして、俺がそばに居ないことにも気づく。
「あなた、いつの間に……」
「このように、素早く近寄って弓の弦さえ切ってしまえば怖くない」
「真似できないわよそんな速度。何をどうしたらそんなに素早く動けるようになるのかしらね」
「慣れ……かなあ? 見つけたらすぐ倒せ、を順当にやってる間に身に付いたのかも」
とりあえずゴブリンアーチャーを倒すと魔石が出たのでそのままバッグに突っ込む。さあ、次のモンスターを探していこう。シールドゴブリンが出てくれると説明がしやすくていいんだけどな。そう思いながらそこから三戦。連続でゴブリンアーチャーとの戦いになった。
射線に入るなとは言いつつも、どうしてもモンスターと出会ったタイミングや位置によってはどうしても射線に入ってしまうことがある。その場合は防具を犠牲にしてでも顔を守れ、と結城さんには伝えておいた。目さえやられなければ後は何とかなるからな。
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