第24話:スキルスクロール
家に帰ってアカネにただいま。家にただいま。そして夕食の準備だけしておいて、お腹が空くまで予習復習。これが短時間で終わるようになったのがダンジョンのレベルアップのおかげというんだから、これ以上に嬉しいことはない。
「うちの幹也は勉強熱心でいいわね。ダンジョンにしか潜らなくなって残りの人生をダンジョンに捧げる、とかはしないんだ」
「それでもいいかもしれないとは思いつつあるけど……選択肢は色々あったほうがいいからさ。アカネもいつまでも俺に寄り添ってくれているとは限らないし、そうなったら俺専用ダンジョンもなくなってしまうわけだろ? 将来を考えたら大学にも行って見聞を広めて、その上でダンジョン探索者を続けるかどうか考えてもいいと思ってる」
「ちゃんと将来設計が出来てていいわね。そこまで考えるようになったのもレベルアップのおかげかしら? それとも元からそういう考えだったのかしら」
アカネの茶々が入りつつも予習復習は進んでいるので、頭が二重に物事を考えられる練習としては悪くないことになっている。
「元からかもな。確かにダンジョンの収入は魅力的だけど、もっと長い目線で考えたらいい会社に入ってそこそこの成績を残して人生を終えるのと、探索者としてそこそこの成績を残して人生を終えるの。まあ、レベルアップっておかげでそこそこどころじゃない稼ぎを考えても良い段階にはあるんだろうけど、今潜ってる階層で生計を立てられるか? というところを考えると、俺専用ダンジョンのおかげであるところが大きいんだから、やっぱりこの先々を考えると今は勉強に熱中できる大事な時期であると考えるほうがまともかなって」
学生というのは他のことをしなくても勉強だけに打ち込める環境を用意してくれている、という特別な期間だ。その期間に勉強を出来るだけしておいたほうが後で有利になるからこそこの道が用意されているわけである。
そのあいだに勉強以外のことも一杯したいもの、それでもやっておいたほうがいいものはそこそこはあるだろうけど、学生の本文は勉強にある、という言葉にはそれなりの重みや、学生時代もっと勉強しておけばよかったなあという先人の反省が込められていることは考えるに値する言葉なんじゃないだろうかと思う。
で、俺の場合はそれを短時間高効率でそれを行えることなんだから、勉強の時間はそれとしてきちんと取り、空いた時間で俺専用ダンジョンに潜って色んなモンスターと戦う経験やドロップ品の換金なんかでしっかりと金を稼いで、不自由ない学生生活を送れるようにするのもまた一つ大事なことであると言えるだろう。
「そこまで考えてるなら私としてはご自由に、というところね。後、追加情報があるわ。モンスターのドロップが魔石だけだったのを改良出来たわ。魔石以外にいろんなものが落ちるようになってるだろうから、それを回収して独り占めするなり食べるなり、使うなり好きにすると良いわよ」
アカネに思考を読み取られつつ、ここでアカネが新情報をもたらしてくれた。
「いろんなものということは、オークを倒したら肉が落ちるとかそういう話か? 」
「もっと他の物もよ。例えばスキルスクロールだったり、肉だったり、駅前ダンジョン? でドロップする可能性のあるものは大体取りそろえたと思ってくれていいわ」
スキルスクロール……講習で聞いたな。確か稀にモンスターが落とすことがあるというスキルを覚えるためのドロップ品があり、なかなか高級な値段で取引されているという噂だ。
駅前ダンジョンにはそこそこの回数通ってはいるが、まだ見たことはない。もっと奥の方じゃないとでないのか、それとも今までは落とさないようになってたのか。どちらにせよ、ダンジョンの楽しみがまた一つ増えたことになる。今日もダンジョンには潜ろう。スライムとゴブリンで試してみて、どのぐらいで魔石以外の物が落ちるか確認するんだ。
予習復習を終えて夕ご飯。今日はシンプルに味噌チャーハンだ。中華風じゃなくて味噌を使った和風チャーハンだが、これはこれで中々美味しいんだ。パラパラさこそ再現が難しいものの、しっかりと炒められた……これチャーハンじゃなくて味噌焼き飯だな。突き固めてない五平餅のような、そんな気がしてきた。まあ、それはそれでいい。腹が満たされて栄養があればそれは立派な食事なのだ。
今日も元気に夕飯を食べられることをアカネとダンジョンに感謝しながらいただきますをする。青い光が立ち上り、それがアカネに吸収されていく。すると、アカネがまたむくむくッと少しだけ成長したように見えた。
「あら、私も少し成長したわね。さながらレベルアップというところかしら」
アカネが自分のあちこちを見ながら喜んでいる。アカネがこのままレベルアップして行ったら……前もそんな話したな。うむ、今日も料理は美味しい。
アツアツのおさがりさんを頂くが、味噌の具合がいい感じに全体に引き延ばされていてちょうどいい。本来なら油でギトギトになったチャーハンを鍋を振って油と水分を飛ばしながらパラパラになるまで炒めるのが本式のチャーハンだろうが、その為に気合を入れるほど俺も暇ではない。
腹を満たして水を飲んで、少し休憩。風呂を自動で沸かしてる間にダンジョン探索準備だ。防具に着替えて手に入れたての武器を装備し、マッパー兼モンスター接近緊急アラートとしてアカネを装着した俺は、ダンジョンでは多分よほどのことがない限り怪我もしなければ武器を壊したりもしないだろう。
早速入り込んだダンジョンで、まずはスライムを相手取ってみることにした。剣は包丁槍と同じぐらいの重心バランスを体に齎らせてくれているおかげで、射程が短い以外は取り回しは同じような感じで身体に吸い付いてくれている。ただやはり射程が短い分モンスターに肉薄する必要があるのでそれには慣れないといけないらしい。
地面すれすれの位置にいたスライムの核を狙いをつけて切っ先でそっと擦る。うまいこと切れた核がはじけ、スライムは黒い霧になった。しかし、なんで黒い霧になるんだろうな。もっとグロテスクに死んで行ってくれてもいいんだが……ダンジョンの不思議って奴かな。まあ、やりたくない後処理をしなくて済むのは便利な所。ドロップをきちんと拾って次へ行く。
しばらくスライムとの格闘を続け、いい感じに体と剣が馴染んできたところでゴブリン地帯に入り込む。かがまなくていい分こっちのほうがよりスピーディーにモンスター狩りを体験できるかもしれないな。
ゴブリンに近寄って後ろから「こんにちは」の「こ」の字も出させない内に一刀両断、頭から下まで一気に引き裂く。この剣、相当切れ味良いぞ。なんでこんな素晴らしい剣が中古屋で眠っていたんだろう。もしくは、レベルアップしてる分だけ俺の膂力が強まっていてここまで出来るのか?
まあそれはさておきドロップを拾う。この調子でガンガンゴブリン退治に行って、武器も新型になったことだし盾持ちゴブリンや弓矢ゴブリンを相手にしてみても大丈夫かどうか試しに行こうかな。
アカネが付いてきてくれていることを確認すると、ゴブリン地帯の奥の方へ行く。こっちはまだ地図もできてないからな。簡単な地図を頭の上のに浮かべながら進むと、早速盾持ちゴブリンが現れた。
まずはこの剣でどこまでやれるかを試しておかないとな。剣を両手で握ってゴブリンに肉薄し、盾を思いっきり殴って弾き飛ばす。盾を無くしたゴブリンが盾を拾いに行くか、それともこっちを攻撃するか少し悩むそぶりを見せたので、その間に剣を突き刺してゴブリンを黒い霧に変える。戦いの場で悩んだらそれはスキでしかないのだ。
あっさり倒して魔石を手に入れ、その次のモンスターを探すと、まだこちらから一方的に見つけた範囲で弓矢ゴブリンが現れた。これ幸いと一気に距離を詰めると、足音で気づいたのか弓矢ゴブリンがこっちをみつけ、早速矢を引き絞る。そして放たれた矢がゆっくりと俺の横を通り過ぎて行く。次に矢をつがえるまでの間に距離をさらに詰め、目の前まで近寄ると、弓の弦を切る。
弓の弦を切られたゴブリンはやけくそになったのか、弓そのもので殴りつけてくるが、痛くない。まだ矢を突き刺そうとしたほうが効果があったんじゃないか? なんて考える余裕すらある。このまま相手がどんな攻撃をしてくるのか気になる所ではあるが、多分誰かが調べて詳細をモンスター図鑑的なものにまとめてネットにアップしてくれているであろうから、今それに時間を使う必要はないな。
素直にサックリ剣で切り落とし、弓矢ゴブリンを倒す。こっちも魔石をくれた。魔石100%ドロップは相変わらずらしい。後はここで試すことは、複数同時に来られた場合どうするか、という対応だけだ。
しばらく進むと、弓矢ゴブリンと盾持ちゴブリンが同時に存在している。おまけに、弓矢ゴブリンをかばうように盾持ちゴブリンがいて、どっちかを集中して倒す、ということが難しい配置になっている。
「あら、ちょっと厄介ね。どうする気? 」
「ちょっとどいてくれと言ってどいてくれるわけでもなさそうだからな。順番に近いほうから倒していくしかないだろ」
一気に走り込んで盾持ちゴブリンの目の前まで近寄る。盾持ちゴブリンはこちらの動きについてこれず、弓矢ゴブリンも矢をまだつがえ終えてない。速攻で盾持ちゴブリンの腕を切り落として盾ごとパージさせると、ゴブリンを蹴飛ばして弓矢ゴブリンから離れさせ、そして弓矢ゴブリンの攻撃準備が整うまでに弓矢ゴブリンを一刀のもとに切って倒してしまう。盾持ちゴブリンは切られた腕を抑えながらうずくまって動かなくなってしまった。
苦しませるのも本望ではないのでさっさと首を落として黒い霧に帰ってもらう。後には魔石と……何か巻物を残していった。
「あら、スキルスクロールが出たのね。それが余分に色々出ると言ってた物の中の一つよ。読めば頭の中にスキル……というか戦闘技術を学ぶことができるわ」
盾持ちゴブリンから出たんだから、多分シールドバッシュとかタウントとかそういう系統のスキルスクロールになるんだろう。今の所盾を持って戦闘をする機会は無さそうだから、これも自宅の魔石入れにしまっておいて、後日駅前ダンジョンで換金できないかどうか聞いてみるのが一番だな。
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