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あの時助けていただいた地蔵です ~お礼は俺専用ダンジョンでした~  作者: 大正


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第22話:評判の伝播

 今日もダンジョンに入り、一層から順番に綺麗にしていく。スライム、ゴブリンという順番で一層二層を巡り、昼休憩を挟んでまたスライム、ゴブリンと巡っていくのが土日のダンジョンの潜り方になっている。


 さすがに日曜日ともあって探索者の影はちらほら見える。これが平日ならもっと気持ちよく探索が出来てどんどんモンスターを倒して行けるのだろうが、そういうわけにもいかないのが俺専用ダンジョンではない所の違いだな。


 これが自分のダンジョンなら全てのモンスターが俺のために用意されたものであり、全てのドロップも俺の物。ドロップ率は高いし経験値効率もいい。レベルアップをしていくためにはこれからも俺専用ダンジョンにはお世話になりつつ、こっちで資金を稼いでるふりをする。完璧なスタイルだ。


 昼を過ぎて、昼飯のいつものおにぎりを今日は二個から三個に増やした。塩パスタではないが、腹に溜まっても夜に近づくにつれお腹が空くのでそれまでの時間を出来るだけ長く取ろうというスタンスで、今日はおにぎり三個だ。しっかり運動もしてるしまだまだ俺も食べ盛り。ある物はあるだけ食べられる方が幸せではあるだろう。


 スライムの魔石一つでおにぎり一つと考えても、まだまだ胃袋に詰めるだけのおにぎりを購入する余裕はあるし家にはお金が用意されている。今日帰ったら俺……武器を買うんだ……


 昼過ぎになって一層に戻ってスライムを退治して回っていると、スライムが数匹固まって探索者を囲っている場面に遭遇した。まとめて処理しようとして失敗したのか、スライムが興味を持って近寄って行っているのかは解らない。


 もしかしたらまとめて倒す技みたいなものを持っているのかもしれないし、ただ応援が呼べないだけなのかもしれない。もし後者なら探索者がモンスターに襲われているのを見ぬふりして放置したことになり後味が悪い。


 近寄って、声を出して確認する。


「助けは要りますか? 複数に囲まれてるようですけど」


 しばらくすると、向こうの探索者から声が返ってきた。


「……お願い、手伝って」


 ブスッとした言葉と共にヘルプコールが聞こえてきた。声の主はどうやら女の人みたいだった。ササっと近寄ってスライムが女の人に夢中になってる間に核を的確に狙って一匹ずつ倒していく。


 数匹のスライムをあっという間に片付けると、魔石が落ちたので拾って女の人に渡す。


「大丈夫ですか。怪我なんかはされてませんか」


 しばらく待った後、さっきよりもはっきりと返事は返ってきた。


「大丈夫よ。後、その魔石はあなたがもらってもいいわ。私は結局倒せなかったんだし」


 女の人はそう答えると、他の方向を向いてしまう。少し気まずい空気が流れる。


「あの……もしこのまま動けないなら出口まで行けますか? お付き合いしますが」

「結構よ。ちょっと見栄張って同時に倒そうとして失敗しただけだから。貴方に助けられるとは思わなかったけどね」


 うん? なんかその口ぶりだと俺のことを知っているような様子だ。


「もしかして、知り合いだったり? もしくは一方的に俺が知られてるとか」

「あなたは学校では有名人だからね。本条幹也君」


 どうやら同じ学校の生徒……というか同級生らしいな。


「よければでいいが、名前を教えてくれないか。なんか片方からだけ一方的に知られてるってのはあまり気分が良いもんじゃない」

「結城彩花。隣のクラスよ」


 結城彩花……隣のクラスの。えーと……女の子のまとめ役みたいなことしてる子だっけか。にわかにだが思い出してきた。普段はあまり接触がない関係だから名前だけでは全てを知ることは出来ないが、何となく人となりだけは伝わってきた。


「しかし、なんでまたダンジョンなんて潜ってるんだ? そういうキャラじゃないと俺は認識してるが」

「そうね、あなたのせい、というのが大きいわね」


 少し自分に呆れるような口調で悪びれたように話しだす。


「あなたがダンジョンに潜って無事に帰ってきたじゃない? いつも一緒にいる小林君と違ってあんな目立たない性格してるのにやることはやれるのか、それともダンジョンってそんなに簡単に潜れるところなのか。試してみたくなったっていうのが本音ね」


 どうやら俺の活躍? が要らんダンジョン熱を動かしてしまっているらしい。ということは、彼女以外にも誰かの心の中の思いに俺も十八歳になったらダンジョンに潜るんだ……という思いを巡らせてるかもしれない訳か。


「で、実際に潜って見たらこのざまだし、よりによってあなたに助けられるし。本当散々な結果って奴ね」

「まだ潜って何日も経ってないんだろ? 諦めるのは早いかもしれないぞ」

「そういうものなのかしらね。少なくとも一対一でスライムは倒せたけど、調子に乗って二匹三匹と手を出してたら気が付いたら囲まれちゃってたわけ」

「一人で潜ってるなら一対一の場面を多く作るのが一番楽に倒せるぞ。中々収入にはならないけどな」

「あなたの言う通りかもしれないわね。私は初心者だからそれに素直に従うとするわ」

「初日はまあ……収入は期待しないほうがいい。体がダンジョンに馴染んできて、スライムが問題なく倒せるようになってから奥へ行くようにしたほうがいいかもな。後はドロップは必ずあるわけじゃないってのと、魔石以外はまず落とさないって思っておいたほうがいいかな。それから……」


 気が付くとベラベラと一方的にしゃべっている自分に気づく。結城さんは若干引き気味だ。これはまずったかな?


「すまん、一方的にしゃべってるな。ダンジョンで相手がスライムとはいえ危ないことは危ないから……」

「まあ、あなたが私に危険が無いように教えてくれているのはわかるわ。今日のところは素直に従っておくことにする。その……ありがとう」


 結城さんはそのまま一人でスライムを相手にし続けることを選んだらしい。まあ、投資した分だけは回収したいよな、という気持ちもわからないではないが、彼女に付き合い続けるのも何か違うな、と思い、彼女の姿を見送るといつものルーティンに戻ることにした。


 少なくとも一度やらかした以上、同じ失敗はしないとは思いたいし、そこまで彼女も頭が悪いわけではないはずだ。このままスライム退治をしつつ、またゴブリンエリアに向かう。


 ゴブリンエリアに向かうと、五匹のゴブリンが固まって何やら話らしきものをしていたので、こっそりと近づいて一匹を静かに倒す。倒された仲間にびっくりして戦闘態勢を取ろうとするその間にもう一匹を倒す。これで一対三の格好になった。後はいつも通り、三匹を同時に相手にしないように自分との距離が近いゴブリンが常に一匹になるように足運びを慎重に行う。


 ゴブリンが立ち向かってくる。そのこん棒にはかなりの力が入っているが、レベルが十分に上がっている俺にとっては脅威は今の所ない。試しに体で受けてみるが、当たった感触こそあるもののダメージらしきダメージは受けていないと判断できる。俺を殴ってどうだ、へへへ……と言わんばかりのゴブリン相手に、平然と立ち尽くす俺に、ゴブリンは一瞬うろたえる。


 その間にゴブリンに一撃を繰り出して、頭を狙って攻撃を加えると、そのまま包丁槍が刺さって頭を貫き、ゴブリンは黒い霧になって消えた。これで後二匹。


 残り二匹のゴブリンは同時に相手をしようとこちらに向かってくる。こういう時は……待ちに構えずこっちから率先的に襲っていき、無理矢理一対一に持ち込むのが格下相手での鉄則だ。


 片方のゴブリンに向かってダッシュで追い込み、一方的に切り刻んで黒い霧に返すと残り一匹。一対一なら恐れることは何もない、素直に倒して終わりだ。


 強敵と戦って美味しい思いをする必要はない。今はただ時間を潰しつつ、しっかりと戦って稼いでますアピールをしておこう。


 結城さんは大丈夫かな……とこっそり心配している。初心者で一人で女の子が来るようなところじゃないとは思うが、これも本人が選んだ道だし、外野がとやかく言うわけにもいかないだろうし、あんまり辛いなら辞めていくだろうし。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 時間になって入口へ戻り、換金。今日も55000円ほど稼いだ。これで一旦家に帰って、お金を取ってきて中古屋で例の剣を買う。一応買う前に試しで持たせてもらうつもりではあるが、何となくイメージで俺に馴染んでくれそうな気がしてきた。


「ただいまー、引き続き中古屋行ってくる」

「おかえり、いってらっしゃい」


 アカネもちゃんと返事をしてくれて、ほんのり青く光った。ちゃんと居ると認識するだけでもちょっと神力が回復するらしい。今知った情報はさておき、急いで中古屋へ向かう。売り切れてたら……その時は縁がなかったと思っておこう。


 急いで駅前ダンジョンすぐそばの中古ショップへ寄ると、まだあの剣はそこに飾られていた。店員にすぐ行って、持った感じを確かめたい、気に入れば買いたいと告げると、ショーケースの鍵を開けてくれて中の剣を取り出してくれた。


 手に持ち、鞘から剣を抜く。シュラン、といい音をさせて抜かれた剣は、刃こぼれもなくきれいなままの刀身を見せてくれていた。この剣が相手にしてきたモンスター程度では傷がつかないのか、それとも傷つく前に前の持ち主が手放してしまったのかは解らないが、綺麗なその刀身に視線が吸い込まれるようだった。


 少しショーケースから離れた閉鎖された練習場所で試しに振らせてもらう。うん、重心もいい感じだ。これなら包丁槍から射程は短くなってしまうが違和感なく使えるような気がしてきた。これだ、これにしよう。


「これ、買います。売ってください」

「探索者証はお持ちですか? 刀剣の売買になるので探索者証の提示が義務となっております」


 探索者証を見せると、そのまま会計につないでくれた。この剣でしばらくは活動することになるんだな。よろしく頼むぞ相棒。そしてさようなら包丁槍。お前はいずれ隆介のところにでも行って、そっちで活躍してくれるとうれしい。


 試しに隆介に「新しい武器買った。前のは譲ってもいい」とメールしておくと「誕生日になった時にまた相談するわ」と返ってきた。


作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

後毎度の誤字修正、感謝しております。

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