第21話:換金のためのダンジョン
再び土日。授業をなんとか誤魔化しつつ、体にレベルアップを馴染ませるのに少々苦労したがようやく意識と体の動きのギャップを埋めることができるようになってきた。おかげで問題なく過ごすことができるようになった。
相変わらず先日のダンジョン踏破の件で騒がれてはいるものの、食事や休憩を邪魔されることもなく、一目置かれている、といった立場にはなっている。学校のほうも鬼沼先生がある程度教師陣を説得してくれたのか、他の教師とすれ違っても「よう、有名人」と冷やかされるだけで済んでいる。
おかげで女子から送られてくる目線も少しだけ変わってくることになったが……まあ、飽きるか他の話題が出来ればそっちに移っていくだろう。人の噂も七十五日。まだ二週間かそこらだが。
さて、土日は何をしてもいい日だ。普段の授業と日ごろの教科書パラ読みで大体のことが頭に入ってくれて思い出すのも容易になってくれているおかげで成績のほうの問題は非常に小さくなった。これなら土日目一杯ダンジョンに潜っていても気になることはない、といったところだろう。
「今日はダンジョンに一日潜るんだったわね。魔石持って行って混ぜ込むのを忘れちゃだめよ? 」
アカネからお母さんみたいな注意を受けるが、それを忘れる俺でもない。きっちり40000円分ほどため込んである金を換金にまわすため、時間的に長く潜っていたからこれだけの金額を稼ぐことが出来たんだ、と言い訳が出来るようにするためだ。
本来よりも三倍ぐらいの収入が見込まれるが、丸一日潜った収入としてはまあそのぐらいの金額差があっても不思議ではない、程度の範囲に納められるようにしたい。今日一日がんばって金に換えて、可能なら武器も買いたい。
まずはいつも通り駅前ダンジョンへ向かい、武器を組み立てて戦う準備はできた。いつもより濃いめのモンスターが出る辺りへむかうと、ひたすらモンスターと戦い続ける。スライムはもう確実に倒せる。ゴブリンも一対三ぐらいの相手なら問題なく順番をつけて上手く立ち回り、戦えるようになった。二層の前半まではこれでしっかり戦えるな。
夕方まできっちり体を動かし続け、昼食を多めに取ったにもかかわらず腹も減って、これ以上の探索はちょっと厳しくなってきたところで一旦外に戻る。いくら分ほど稼いだかは解らないが、かなりのペースで稼いでいたのは確か。換金が楽しみだな。
換金カウンターに向かって今日一日の成果を換金してもらう。
「大分多いですね。朝からずっと潜ってたんですか? 」
さすがに家から持ってきた分で底上げがされているので、量について少し疑問符がついたようだ。
「朝から今までの分ですね。かなりのペースで回ってましたし、なんか今日はいつもよりドロップが多く感じられたのでそのおかげかもしれません」
「なるほど、丸一日分というなら納得です。少々お待ちくださいね」
しばらく換金手続きに時間がかかったものの、58000円というかなりの好条件での換金となった。明日も通えば十万円にはなりそうだ。今日はちょっといいものを食べよう。そして明日も体を動かす分だけきっちりと探索をしよう。
帰り道に中古品ショップに寄って、この間目をつけていた剣を見に行く。値段は……まだ変わってないな。それに、現物がここにあるということはまだ売れてない証拠。こいつを手に入れるまでは金稼ぎを頑張りたいところ。明日同じ金額を稼げばこの剣は買える。この剣が買えればより深くまで潜れるようになり、稼ぎも多くなって誤魔化しで嵩増ししている魔石もさらに嵩増しが可能になる。いいことづくめの好循環が生み出せることになる。
ルンルン気分で家に帰ると、アカネがいつも通りリビングの机の上でぷかぷか浮きながら帰りを待ってくれていた。
「ただいま」
「おかえり、その様子だと順調だったみたいね」
心なしかアカネも安心しているように見える。外のダンジョンだと自分が関われない分どこでどうなっているか見えないのが心配なのかもしれないな。
「今日もあまり疑われることなく換金出来たよ。明日も潜ってしっかり稼いで、ついでにこっちのダンジョンでの稼ぎも混ぜ込んで、武器を仕入れてくることになると思う」
「そう、これで包丁槍も卒業できるわね」
「使い勝手がいいとなおいいんだが、しばらくは取り回しの違いに苦悩しそうではあるかな。槍も剣もどっちも使えるようになるのが一番いいとは思うけど、包丁槍は隆介に譲ることも考えてるから今後は使わないかもしれないな」
「まあ、防具をそろえるのを手伝ってくれたおかげで順調に探索者として仕事が出来てるんだし、その分のお礼はしないといけないわね。そういう意味ではありだと思うわよ」
アカネも包丁槍を隆介に譲る案には同意してくれている。費用は包丁代金だけのようなものなので、それでここまで稼ぎを大きく出来たのだから隆介にだって同じことはできるだろう。あいつ器用だしな。
とりあえず今日の夕食はちょっと豪華にしたいな。肉を多めに入れた回鍋肉でも作るか。味噌は流石に甜面醤はないから普通の味噌でちょっと重たい感を出そう。そのほうが腹に溜まった気もするしな。
慣れた手つきでキャベツと豚肉を刻むとパッパッと作ってご飯も炊いて、回鍋肉定食スープなし、というかなりお手軽な夕食が出来上がった。
「そういえば、お昼は悪いな。ダンジョンに潜りっぱなしだと神力の受け渡しが出来なくて」
「どうせコンビニご飯なのでしょう? 手作りのほうが気持ちがこもっててその分神力も回復するからこの夕食で差し引きゼロってあたりかしらね」
コンビニの飯も人が作ってるとは思うんだが、まあいい。有り難く頂きますして、青い光が回鍋肉から発せられるとアカネに吸い込まれていく。お供え物の効果を目で追えるというのはさらにありがたさが増すので俺の信心も中々の者だな、と自分で自分を褒めるところだ。
出来立ての回鍋肉を口に運び、その美味しさと自分の料理の腕にそこそこの自信を覚える。塩パスタも悪く無く感じ始めたところだが、休日ぐらいはちゃんとした飯を食べたいと思うところ。それが叶えられだけでも充分だろう。
食事を終えて軽く勉強のおさらい。やっておくことで頭が冴えわたる効果があるし、運動した後体が疲れ切ってない時の適度な勉強は血の巡りがよく、教科書や辞書の中身がどんどん頭の中に入ってくる。これがレベルアップのおかげであることはわかっているが、それでもグングン知識を吸い上げていくという行為が自覚できるのは中々に面白い。
中間テストに向けて勉強を開始し始めているが、もう中間テストまでに出そうな領域はすべて終えてしまっていて、特に数学と英語は予習の段階まで始めてしまっている。これは中々面白いな。今なら勉強が好き、という謎の感情を理解できそうな気がする。
◇◆◇◆◇◆◇
少しの勉強時間で多大な成果を得られたことで満足感を得られたのか、昨日は寝つきが良かった。一日歩き回っていた割に体も元気なので、多分ダンジョンの中を歩き回るにも休憩が必要なく水分補給と昼休憩だけでストイックに探索をしていることで、また大きな収入を得られることになるだろう。
仮に空振りばかりで大きな収入を得られなくても、まだ俺専用ダンジョンに潜った時のへそくりが大量にある。このへそくりを土日でちょっとずつ放出することで毎日安定した収入を得られることは間違いないだろう。そして、今日は貯めに貯めた金を使って武器を購入しに行く予定だ。今日の収入と昨日までの収入を合わせれば、また塩パスタに戻るかもしれないがそれなりに強く頑丈で、取り回しのきく剣を手に入れられることになる。
これでまた俺専用ダンジョンに潜ってより危険な場所へも赴けることになるだろう。さあ、しっかり朝飯食べて、今日も一日ダンジョン三昧だ。スライムとゴブリンしか倒せない現状だが、素早く移動することで数をこなしているように見せかければそれだけの収入を得ていてもおかしくない、と考えさせるための理由付けにはなる。今日も頑張ろう。
アカネに朝飯を丁寧にお供えして神力を供給すると、早速装備をそろえて出かける。
「じゃあいってきます」
「行ってらっしゃい。今日で一区切りだからって無茶して怪我して帰ってくるんじゃないわよ」
「わかってるさ。無茶はしない。できるところで出来るだけのことをする。無茶をするのは明日以降になるかな。それまでは大人しく細々と探索して進むことにするよ」
アカネに行ってきますの挨拶をして出かける。今日もダンジョン、昨日もダンジョン。俺専用ダンジョンがあるのに駅前ダンジョンに気合を入れて潜る……というのは変な話だが、換金周りのシステム上駅前ダンジョンに魔石だけ持っていく、というのは難しい都合上、長い時間潜ってこれだけ稼いできました! という証拠を作るためには仕方がないところ。
これももうちょっと奥深くまで潜れるようになれば解決するかもしれない問題なので、その為の武器購入、その為の資金集め、その為のごまかし。つまり、今日までうまくいけばなんとかなるってことだな。
駅前ダンジョンは二十四時間営業なので職員さんは三交代。深夜にこっそり潜り込んで仕事をしてきた体で換金をしてもいいんだが、それは俺の睡眠時間と体調が中々許してくれないし、夜中にこっそり起きて探索……なんてのが学校で問題になればそれこそ探索者を中断しろと言われかねないので、できるだけまともな生徒として評価されるには夜間の換金は諦めなければいけないのがつらいところか。
さて、今日も元気に換金だ。いや、違う、探索だ。アカネには無茶はするなと言われているし、出来るだけ素早く確実にモンスターを倒して魔石を拾いつつ、自分があらかじめバッグにしまい込んでいる魔石とごちゃ混ぜにして結構運が良いほうの探索者だ、という認識にしてもらった方がより好都合だろうな。その路線で行こう。
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