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あの時助けていただいた地蔵です ~お礼は俺専用ダンジョンでした~  作者: 大正


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第20話:志村、後ろ、いや前

 放課後、隆介に付き合って自転車を押しながら隆介の家まで行き、そのまま二人自転車に乗ると家まで帰ってきた。


「ただいまーっと」

「おかえり」


 アカネがリビングでふよふよと浮いていて返事をしてくれたが、隆介はそれについて何のコメントもよこさなかった。見えてないのか見えてないフリをしているのか。聞こえているが聞こえていないフリなのか。今はまだはっきりとしたことは言えないが、見えない聞こえないっぽい、ということはわかった。


 そのまま寝室がある俺の部屋まで招き入れる。隆介は途中のゴミ箱で鼻をかんでティッシュを捨てる。


「久しぶりにお前の部屋に来た気がするが……相変わらず殺風景だな。机とベッドと本棚、それにゲーム機。壁なんてまっさらじゃねえか」

「別に困ってないしな。壁があって暖かければそれで冬は過ごせるし、夏は適度に熱気を遮ってくれるしエアコンもちゃんと効く。これ以上何を求めろと? 」

「いやいや、もうちょっとこう……ポスターとか、キャッチーな小物とか置いてみろよ。女の子が見たら、うわ地味最低って一瞬で引くぞ?」

「女の子が俺の部屋に来る予定はないぞ」

「ははっ、そういうとこだよ。彼女いない歴が積み上がる原因」

「……余計なお世話だ」


 隆介は勝手知った様子でベッドに腰を下ろす。机の上にはスマホと参考書、横には積まれたラノベとゲームソフトがごちゃっと置かれている。


「まあ、高校生男子の部屋って感じではあるけどな。掃除が行き届いてるのが逆に不気味だわ。普通はもっと床に服とか転がってるもんだろ」

「俺だってそのくらいは片付けるぞ。自分のものとはいえ、数日着た後放置するような真似はしたくないからな。体操服だってこまめに洗ってるし」

「真面目だなぁ。まあ、だからこそ一人暮らしをきっちりやれてるんだとは思うが。金についてもちゃんと早めに返せる辺り、塩パスタで頑張ってはいるもののきちんと野菜も取ってるようだし、そのへんは安心した」


 寝室まで来る道中に鼻をかんでゴミ箱を開けていたのは、野菜くずの入ったゴミ箱を見て確認していたのか。割とちゃんと見てるなこいつ。俺が嫌がらない範囲で色々と見て回っているのは観察眼のなせる技か、そこまでちゃんと判断出来ているからこそ彼女が絶えない秘訣なのか。何にしろ、一つ安心させられたのは良いところだろう。


 金庫扱いしている引き出しから金を取り出して、封筒ごと隆介に渡す。隆介は「ちょっと失敬」と一応念押しをした後、中身の確認をしている。隣の部屋から壁を通り抜けてきたアカネが一緒に封筒の中身を数えだす。隆介とはもう息がかかるぐらいの距離だ。見えてるなら邪魔とか何とか言いだすところだろう。


 しかし、当の隆介は無反応。どうやら本当に見えてないっぽいぞ……という反応をしてくれている。もしかしたら隆介は、これを指摘したら友情が壊れると思って黙っているが、お前の家何か憑りついてるぞ、と言い出すのを必死に我慢しているのかもしれないな。


 こうなると、アカネがどこまで悪戯をし続けるのか興味すら湧いてきた。そのまま放っておこう。


 隆介はお金を数え終わる。どうやらちゃんと金額は合っていたらしい。


「たしかに、これで晴れて防具はお前のもんだな。しかし、稼いだんだからもうちょっと部屋に色々置いてもいいとは思うんだが? 」


 そういいつつ、俺のベッドに腰かける。その膝の上に座るアカネ。ちょっとジェラシーを感じるが、俺を笑わせようとしているアカネのいたずらをこらえるのに割と苦労する。


「服とかは何か新しいものは買ってないのか? 」

「今の所サイズは変わってないからな。お前が見たことある服しかないと思うぞ」

「ふーん……その様子だと本当に女っ気ないのな。気になる子が出始めたらまず服装を変えて形から入るってのが定番だが。本当に気になる子とかおらんのか? 俺の紹介で良い子を探そうか? 」

「それ、お前の前の彼女だったりせんよな? 」

「それは……保証できない。昨日の今日でお前は目立ってしまったからな。元カノの伝手を使ってお前に会おうとする女の子の一人や二人ぐらいは居ても不思議じゃないな」


 そういいつつ、クローゼットをチラッと覗いてみる隆介。そこにはダンジョンがあるはず……だが、無反応の隆介。どうやらダンジョンも俺にしか見えてないらしい。これで、二つの立証が出来たかな。アカネは俺にしか見えていないしダンジョンも俺専用で俺にしか見えず俺にしか入れず、他人の目には見えない。比較的俺に近い間柄の隆介に見えてないならこれはもう他人には見えない、と断言してもいいのだろう。


「さて、俺もこの金を元手にして、誕生日が来たら装備をそろえてダンジョンに潜る準備でもしておくか。経験者としてのお話をお聞きしたいところだが? 」

「そうだな……俺の場合は武器はお手製のこれだからな。同じものと作れとは言わんが、買うとなると防具ほどじゃないがそれなりの出費が必要だ。俺が新しい武器を都合したら古い武器を譲っても構わんが、しばらくはこのまま使い続けるし、深いところへ行ってこんな手作りの槍じゃきかないようなモンスターに出会うよりは、浅い部分で確実に倒せるモンスターを倒していく方がいいだろうな」


 包丁槍を見せつつ、隆介に説明していく。


「相変わらず器用な奴だな。わざわざ作るなんて」

「外せば包丁として普通に使えるから便利だぞ。それに、ダンジョンのモンスターは血のりも付かないしゴブリンぐらいなら硬くなければ刃こぼれもしないから取り外してそのまま料理に使えるのは便利な所だ」

「なんか生理的に嫌なんだが」


 隆介が少し顔をゆがめる。モンスターを倒した包丁で料理をするということに抵抗があるようだ。


「生ものを相手にするんだから似たようなもんだろう。どうせ使い始める前には綺麗に洗うんだし、実際に肉を斬ったわけでもないから不便はない。まあ、専用として持っておくのが安心ならそうすると良いと思う。後、意外と魔石ドロップしないから根気が必要かな。全部のモンスターが魔石を落としてくれるわけではない。だからくたびれもうけになる可能性も充分にある、ということは頭に入れておいていいだろうな」

「なるほど。頑張れば頑張った分だけ利益が積み重なるとは限らないわけか」

「今の所、俺も運で一回だけ魔石以外のドロップ品を拾ったことがあるだけだからな。まあシブいっちゃシブいだろう。しかし、積み重ねも大事であることは確かだ」


 隆介が座っているベッドの下にはまだ換金していない魔石が眠っているわけだが、それは黙っておくことにしよう。アカネがベッドの下をしきりに覗いてここにあるぞ! といわんばかりのポーズをとっているが、見えていない隆介には何も意味をなさない。


「さて、じゃあ俺は帰るよ。受け取るものは受け取ったし、飯まで奢らせるつもりもないからな」

「ああ、家族が作ってくれる食事に感謝しながら食べるといい」

「おう。じゃあまた明日な」


 隆介は帰っていった。ドアがばたりと閉まり、しばらく静かになった後、ゴミ出しのために扉を開けるが隆介の姿はなし。本当に帰っていったらしい。だとすると、アカネは完全に見えない聞こえない、ダンジョンも見えていない、で確定して良さそうだ。


 ゴミ出しを済ませて夕食を作り、アカネにささげた後食べながら今後の相談をする。


「本当に見えてないみたいだったわね。話しかけたり耳元で語り掛けたりもしてみたけど無反応だったわ」

「ダンジョンも見えてないみたいだったしな。そんなブラフをかけてまで友情を破壊するような行動をとる奴じゃないから、これはもう確定情報として置いていいだろう。ダンジョンもアカネも、今は俺にだけ見える」

「私を独り占めできてうれしい? ねえうれしい? 」

「面倒くさい彼女みたいな態度をとるなよ。ひとまずこれでしばらくの収入には困らなくなったわけだ。後はいかにして誤魔化しながら駅前ダンジョンのギルドに納品していくかだが……」

「そこはお金がかかってもいいから、他のギルドに納品しに行くって手はないの? 」


 アカネが青い光で俺の夕食をつまみ食いみたいに引っ張っては体内に吸収しながら質問をしてきた。


「うーん、昨日言われたんだけどさ、あんまり数が多いとやっぱりインスタンスダンジョンを隠しているんじゃないかって疑念は湧くみたいなんだよな。だからダンジョンに潜って時間を過ごして、その時間分で換金してもらうってのが一番の安全策っぽいんだよな」

「じゃあ土日にお金がまとめて入る、というイメージになるわね。それならダンジョンもあんまり拡張しなくていい感じなのかしら」


 少し残念そうにはしているものの、俺のほうの進捗が芳しくないのが主な理由なのでそこは何とかしてやりたいところではあるが、今の所いかんともしがたい。


「そうだな……新しい武器を手に入れるまでは奥まで行くこともないだろうし、自由にしててくれていいぞ」

「自由にってことは、そのへんほっつき歩いて迷い人を正しい道に導いたり、道祖神の本来の仕事をしててもいいってことよね」

「そっちが本業ならそっちをメインでやって、俺のほうはついででやっててくれて構わないぞ。ただ、朝夕の飯の時は一緒にいてくれると嬉しいかな。お互い報告することもあるだろうし」

「そうね……じゃあそうするわ。本業のあなたのお手伝いが滞ってるのはあなたの問題だし、私も一日ぷかぷかと浮いているだけじゃ暇だしね。どちらかの都合でお互い何かしら手を動かしてるほうが精神的にもいいことよ」


 道祖神にもメンタルを病むことがあるのか、という突っ込みはさておき、アカネにも本来の仕事があるならそちらに熱中してもらっても構わない、ただ、毎日顔を合わせて話をする時間は作ろうということになった。なんか同棲してる彼女みたいな立ち位置になっているが、アカネで練習して実際に彼女が出来た時のリハーサルということにしておいても良いのだろうか。


「いいけど、それ私に駄々洩れだからね? 気を使うところが間違ってるわよ」


 ……そうだった。

作者からのお願い


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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

後毎度の誤字修正、感謝しております。

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