第18話:ARIGATOオオタニサーン
授業を一限サボって教室に戻る。教室に戻った瞬間から、俺に対するみんなの目線の色が変わりだしていることに何となく気づく。そして放課後、まとめて周りのみんなの注目になることになった。
「なあ本条、ダンジョンってどうだったんだよ」
「儲かったか? いくらぐらいになったんだ」
「俺も探索者になろうかな、もうすぐ誕生日なんだよ」
一気にワッと洪水のように質問を浴びせられる。ここまで人気者になった過去が俺にあっただろうか。
「えっと……ダンジョンはネットで調べて配信を見たほうが早いと思うぞ。あといくらになるかはこの後換金しに行くまで解らん。探索者は講習が誕生日の半年前から受けられる仕組みがあるからそっちにいくといい。早生まれの奴やまだ半年まで来てない奴は待つしかないな。それから……」
囲われて色々と質問責めにされてしまう俺。ここまでモテたのは初めてかもしれないな、ほとんど男だけど。どうせなら女の子に囲まれてちやほやされたかった。が、よく見ると遠巻きにこっちを見ている女子の集団もいる。興味がある人は幾人かいるようだ。
「ダンジョンに入ってからか? お前がテストの点数よくなったり体育の授業で妙なことし出したのは」
ちょっとセンシティブな話題に触れられる。どう乗り切ろうかな。
「あー、体育の授業のあれはたまたまだと思うぞ。それに今日だっていつも通りだっただろ? 多分、ダンジョンで歩き回ってるうちに血の巡りがよくなってその分成績に現れたのかもしれないな。ダンジョンに入ったからって成績までよくなることはないと思うぞ」
「そうか……ダンジョンに潜ってれば自然と賢くなるかもしれないと思ったんだがその様子だとたまたまみたいだな」
「まあ、ヤマカンが当たったってところと、日曜日真面目にテスト対策やってたからじゃないかな。何事もコツコツやれってことだと思うぞ」
ダンジョンのおかげで何かが起きた、という話じゃないのが伝わると、俺を覆い尽くしていた人の波はだんだん少なくなっていった。さて、今度こそ帰るぞ。帰りに駅前ダンジョンに寄って今日のダンジョンの稼ぎと先日の俺専用ダンジョンの稼ぎを換金してこないといけない。
カバンの中は割と魔石で一杯だ。ある程度教科書やペンケースなんかを抜いても一杯になってしまうので、一端教科書類は机に置いておき、換金が終わったらまた取りに来ることにしよう。カロリーを使う作業ではあるが、一回で換金を終わらせるにはそれが一番だろうな。
魔石満載したかばんを自転車に積み込み、坂道を下って一気に駅前ダンジョンまで走り切る。行きはともかく、帰りの駅前までの道はひたすら坂を下るので短時間で到着することができる。生活圏内にダンジョンがあるのは今の俺にとっては良い環境なのかもしれない。
駅前ダンジョンについて早速換金。換金カウンターで手持ちの魔石を全部出すと、換金担当の職員から流石に目をつけられたのか、質問をいくつかされる。
「これは何処のダンジョンで稼いだものですか? インスタンスダンジョンを隠れて利用していたとなれば探索者のルール違反になりますが」
「えっと……もう報告書には上がっていると思いますが、今日の午前中にすぐそこの高校の校庭に出現したインスタンスダンジョンでの報酬になります。授業中だったので報告は他の探索者さんに任せましたが、この通り拾った魔石だけはキッチリ持ってました。流石に授業を抜け出して換金するのは何か違うと感じたので、授業が終わり次第持って来たのですが」
わかってる範囲での情報を引き出しから取り出して、これはダンジョン探索で得られたもので、その該当ダンジョンは既に報告が終わっていると思いますというのを前面に出して言い訳を始める。
「ちょっと待ってくださいね……ああ、午前中に確かに踏破の申請が来ていますね。そこに参加された、ということでいいんでしょうか。念のため踏破報告書を作成した探索者と顔合わせすることで確認してもよろしいですか? 」
「確か大谷さんでしたか。まだ待機してらっしゃるなら呼んできてもらうのが確認としては一番早いと思います」
「名前まで知ってるなら確かに呼んできた方が早そうですね。ちょっと待っててください」
職員が探索者の待機所まで赴き、大谷さんを探している様子。確か今日は夕方まではいると言っていたし、まだいてくれてるかな。そう考えていると、大谷さんが待機所らしきところから出てきた。
「よう、たしか本条だったな」
「はい、さっきぶりです」
「顔合わせは済んだ。間違いなくインスタンスダンジョンの踏破を手伝ってくれた中々に見込みある探索者だ。かなりの数のモンスターを掃除してくれていたから……うん、このぐらいの魔石を入手しててもおかしくはないと思うぞ。二層辺りまで一人で掃除しててくれたみたいだからな。これでいいか? 」
「はい、ありがとうございます」
職員と大谷さんのやり取りが終わったところで、換金処理を始めてくれた。今日の収入、55000円。その内30000円分は俺専用ダンジョンでの収入だが、中々の金になってくれた。25000円分が表に出していい金だとすると、耳をそろえて隆介に装備品代として渡してしまってもいいことになるな。
「本条、運が良かったんだな。二層まで綺麗にしたとはいえ、この換金額は中々のもんだぞ」
「そうみたいですね、俺もここまで大量に稼いだのは今回が初めてです」
「クイックインスタンスダンジョンだったのがより良かったのかもな。モンスターの数が初期から多かったからそれだけ魔石も一杯落ちたんだろう。儲かったからってあんまり派手に遊ぶんじゃないぞ」
それだけ言うと、大谷さんは待機所へ戻っていった。無事に換金を済ませた俺はそのままダンジョンに潜……れるはずがないので家に向かって帰る。なんか俺にとって師匠的な立ち位置になってくれた大谷さんのおかげで無事に換金が済んだのかと思うと、お礼にいくらか包みたくはなるがそれを良しとする性格でもなさそうなので、単純にお礼をするつもりで祈っておこう。
さて、これで防具は俺のものになったということで、ダンジョン近くにある中古ショップに再び立ち寄る。次は武器だ。いつまでも包丁槍ではこの先進めない。剣ナタと似たような物……というわけではないが、ちゃんと肉厚もあって切れ味もある、槍か剣か、解りやすい武器を持とう。
さすがにお手製の包丁槍よりも安い武器はないだろうが、そこそこの値段でそこそこの装備、という風に武器はカテゴライズされているらしい。全てショーケースに納められていて気軽に触れられる、というわけではないらしいが、探索者証を見せることで手に持って確認することはできるらしい。
何かいい武器はないものか……包丁ではリーチが短すぎるし、かといって大きな剣を持ち歩くのは不格好というか、自転車に積み切らないし、出来れば取り回しのきくものにしたい。レッドキャップみたいに素早く取りついて攻撃するなら短剣や手斧なんかも効果的だろう。
並んでみている中に日本刀があるが、やはり相当お高いお値段がするし、注意事項として普通に使うと錆びますと書いてあるので、やはり取り回しが難しい方向になるだろう。
ここはお金をためてからもう一度悩むことにするか? いやでも、俺専用ダンジョンも深く作られていくならばオークやレッドキャップとの戦闘が予想される。そうなった場合に包丁槍では折れてしまう可能性が高い。両手持ちが出来て片手でもそれなりに扱えて……となると、やはり剣になるか。あまり重たい武器やスペースを取るようなものは狭いところで取り回しがきかないしな。
中古屋に並んでいる中でとりあえず、ブロードソードほど幅広ではないが、きちんと芯が通っていて充分に使えそうな剣が一週間ほどの探索で手に入るレベルのお値段で売られていることを確認する。これを取っておくことは無理だろうが、値段的にもこれぐらいのものを目標にしていこう、ということで気持ちを新たにする。
新品を買えばもう一桁上の値段になるんだろうが、そこまでして武器を新調するぐらいなら包丁槍で立ち向かえる範囲のモンスターを相手にしていく方が無難だろう。
中古屋を出て目標が決まったところで、教科書を取りに学校へ戻る。鍛え上げられた脚力……実際はレベルのおかげだが、その力を存分に奮って坂を上り高校へ戻り、カバンに教科書を詰め直すと一路家に帰る。隆介が学校に残ってたらついでに金も返せたが、明日の昼にでもまたふらっと現れるだろうしその時で良いな。
家に着いてアカネにただいまをする。
「遅かったわね。何かしてたの? 」
「駅前ダンジョンで換金をね。ちょっと臨時収入が思ったより多かったからそれも込みで色々とあったんだよ」
アカネに、学校のグラウンドにインスタンスダンジョンが発生したこととそれを踏破するために学校で備品を借りて探索したこと、駅前ダンジョンでインスタンスダンジョン攻略を目的に待機していてくれる探索者に知己を得ることが出来たことなどを説明する。
「学校でそんな事が起きてたのね。こっちはダンジョン作りに精を出してたからあなたのほうを見てなかったわ」
「もしかして、距離が離れててもこっちの動きを見ることができる感じか」
「ええ。あなたと私はいわゆるパスが繋がってる状態だからね。細かいところまではわからないけど、大まかに知ることは出来るし、ダンジョンに入ったならダンジョンに入った、ということを感じ取ることまではできるはずよ」
道祖神様便利だな。流石にトイレに入ったとかそういうプライベートな所は見てないだろうけど、誰と何をどう話したか、ぐらいまでは情報をあっという間に共有できるというところだろうか。
「まあ、大まかにそんな感じね」
「考えてることもある程度わかる、と」
「そうね。だからといって変な妄想をしてもシャットアウトできるから、邪魔をされることもないけれど」
ふむ。例えばアカネが成長したらどんな感じになるのか……というのを想像してみても、アカネには伝えることもできるし希望があればその通りになってくれるかもしれないわけか。
よし、試しにクールセクシー系でアカネがそのまま育った様子を妄想してみよう……胸はそこそこで腰がきゅっとしてて、お尻はそこそこ小さ目で……と。服装はナイトドレスみたいなものを着用させて……
「人の未来図を描くのは勝手だけれど、あなたも今大事な時なんじゃないかしら。大学へ行くのか探索者になるのか。それとももっと別の道を模索していくのか。調子に乗ってるといつか痛い目見るわよ」
やはり伝わっていた、と。でも、顔は笑っている辺り、しょうがないなあという感覚が伝わってくる。これもパスが繋がってる状態の恩恵みたいなものなのだろうか。
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。




