第17話:クイックインスタンスダンジョン 2
俺がレッドキャップと戦っている間に三人も戦闘を終えたらしく、互いに向き合う。
「一人で倒せたのか。時間稼ぎだけしてくれれば人数でそのまま押し潰す予定だったんだが、予想外だな。でもこれでここまで楽にダンジョンをクリアしてこれた理由がわかったってもんだな」
大谷さんが素直に褒めてくれている。レッドキャップはどうやら一つの壁みたいなものとして設定されているモンスターみたいだな。難なく倒せた……とまではいかないが、問題なく倒せたことでこいつはできる探索者なんだな、ということを見せつけられた気がする。これで今日の放課後、大量の魔石を換金しに戻っても不思議はなくなるな。
残念ながらレッドキャップは魔石を落とさなかったが、まだ奥にレッドキャップがいるかもしれないのでその時はきっちり拾って駅前ダンジョンのギルドに提出しよう。
その後も少しずつ進んでいく。レッドキャップ地帯はレッドキャップが物陰に隠れられるような小さめの岩が随所にあるので中々に把握しづらいところがある。どうやら索敵みたいな能力を持っている人が居ないらしく、みんながあっちを見ながらそっちを見ながら……と進んでいるので歩みは緩やかだ。
レッドキャップが出た以上、ゴブリンのように声を上げて襲ってくる可能性が低く、こっそりスニーキングして襲ってくる可能性を考慮してのことなんだろう。
更に奥へ進む間に三回ほどレッドキャップとの戦闘を経験して、俺も大谷さん達も魔石のドロップがあった。大谷さん達にとってはようやくのドロップ、ということもあったのか、少しほっとしている様子だ。このまま大した戦果もなく帰ってインスタンスダンジョン踏破報告書を出す報酬だけでは物足りないと思っているのかもしれないな。
レッドキャップ地帯を抜けて、おそらく三層から四層辺りにたどり着いたところで、空気が少しずつ変わり始める。出てくるモンスターが明らかに変わった。そこに出てきたのは大きめの二足歩行の緑色の豚……オークだった。
「ここからはオークか……ってことはレッドキャップはもう出てこないな。安心して戦えるな」
「こっそりと進んできましたけど、ここからは安心して進めるってことですか? 」
「そうだ。ここからは目に見えてモンスターがでかくなるしこっちを見つけると襲ってきてくれるからな。こっちも探す必要がないから便利だ……と、どうやら今回のダンジョンはオークで打ち止めらしいぞ」
大谷さんが指さす先には光る台のようなものが見えている。
「あれがダンジョンコアだ。あれさえ破壊してしまえばダンジョンからモンスターは湧き出ないし今出現しているモンスターは消える。二時間もすればダンジョン自体が破壊されて踏破完了、ということになる」
「つまり、あれを壊したら二時間以内に脱出しなきゃいけないってことですか」
「そうでもない、自動的にダンジョンから排出されるから破壊して力尽きても問題ないようにはなってるらしい……らしいというのは実際に体験したことがないからだが。まあ、四人居るしどうやら後続もいるらしいから安心してダンジョン探索に挑めるってところだな」
そう言われて耳を澄ますと、後方で剣戟を交わす音が聞こえる。どうやら後ろから来た探索者の増援がレッドキャップと戦っているらしい。まだ撃ち漏らしがあった、ということなのだろう。
「後ろは置いといて、前だ。オークが四体。一体なら任せられるか? 」
「レッドキャップとどっちが戦いにくいかにもよります。どっちにせよ初顔合わせなので」
「そうだな……タフさはオークのほうが上だ。でも動きは緩慢だからお前さんが俊敏に動けるなら充分だろう。その様子だと問題はなさそうだが、刃物が長くないと相手の弱い部分に届かないかもしれないから、まず足の腱を切るようにして、横倒しになったところを仕留めるようにしたほうがいいな」
「……参考にします」
「じゃあ行くぞ」
オーク四匹が固まっている場所に向けて走り込む。一人一殺。手軽に聞こえるが初めて倒すモンスターを一匹任されたその責任は割と重いと考えられる。これも訓練の一種だと思っておこう。最悪、助けを求めればいいしな。
オークに一気に忍び寄ると、言われた通りに足元の腱を狙うように身をかがめて低い体勢で走り込む。オークは手に持っている剣でこちらを追おうとするが、明らかな速度差とこちらが先に懐に入り込んだ分、オークは武器の取り回しが出来ないのか一旦距離を取ろうと後ろに下がろうとしている。そのスキに片足の腱を切断。どうやらオークはその大きい体を支えている割に足の腱を切られると途端に体勢を崩し、その場でスッ転び始める。どうやら足は弱点ということで良さそうだ。
そのまま両足とも腱を切断して起き上がれないオークが剣をバタバタと振り回している間に、剣を持ってないほうに移動して心臓があるらしき場所に向かって剣ナタを突き刺す。オークからは血の代わりに黒い何かが噴き出し、周囲を一瞬闇に覆わせる。
どうやら外れだったらしく、オークはまだじたばたともがいているのでもう一回、突き刺し直す。今度は当たりだったらしく、オークが黒い霧になって消えていく。そして後には魔石と肉が落ちていた。オーク肉……さっきの姿を見る限りあんまり食べたくはないが、これも換金してもらえるのかな。
大谷さん達も問題なく戦闘を終えたらしく、こっちのドロップを見てほほえましくしていた。
「どうやら運が良いようだな、ドロップを両方くれるなんて。お前は何か持ってるな」
「ということはこのオーク肉も換金対象品だったりするんですか」
「おう、中々良い値段で売れるぞ。これがなかなか美味いらしいんだよな、俺達は見た目を知ってる以上あんまり美味そうには食えないと思って毎回売り払ってるがな」
美味いらしい。見た目さえあれじゃなきゃ美味しい食べ物はいくつか知っているが、このオーク肉もその一つ、ということらしい。とりあえずドロップ品をまとめて背負っているバッグに放り込むと、ついにダンジョンコアの前まで来た。
「クイックインスタンスダンジョンとしては割と浅めのダンジョンで良かったな。もう二層ほど深いダンジョンも体験したことはあるが、その時はなかなか大変だったぞ」
「慣れてらっしゃるんですね」
「まあな。そんなわけで新人探索者君、ダンジョンコアを破壊してみてくれ」
「いいんですか? 俺が割っちゃって」
「何事も経験ってもんよ。その代わり、ダンジョン踏破報告書には俺の名前を書かせてもらう。お前さん一人でここまで来れることは可能だったかを考えればそこは譲ってくれる、と思ってるが」
なるほど、報酬が自分たちにあるなら後は後輩に経験を積ませてより楽に次のインスタンスダンジョンを攻略できるように、という配慮らしい。
「何事も経験ですか。では、そのようにしてください。俺もダンジョン踏破してきた! なんて騒いで注目されるのはちょっと恥ずかしいし、それを理由に目立つのもアレですし、教師には一応注意して行ってこいとは言われてるので、下手に目立つのはあまりよろしくないと思います」
「その辺の分別が付いてるようで助かるよ。じゃあ、割ってくれ」
「はい、割ります」
力を込めてグッと左右にダンジョンコアを切断しようとすると、意外にもあっけなくダンジョンコアは切断された。どうやら硬くて割れないとかそういうことはないらしい。その瞬間、ダンジョンの空気が一変し、ダンジョンの生命活動が今終わったかのような、そんな感覚に包まれる。
「よし、活動停止を確認した。後は表に出て駅前ダンジョンに戻って報告して終わりだな。お前さんも授業が終わったら換金に行くんだろ? まだ俺達がいたらその時話そうぜ。一応夕方までは今日は仕事の時間なんだ」
「はい、今日は貴重な経験を積ませていただいてありがとうございました」
これで、自分のダンジョンにオークやレッドキャップが出てきても問題なく対応できるようになるかもしれない。一気に社会経験を積んだ、ということで俺も満足だ。レッドキャップとの戦い方やオークとの実戦経験、ものにしたぞ。
ダンジョンを出て、周辺を警戒していた教師や後続で駆けつけてくれたらしい探索者と面通しが済む。鬼沼先生からは「無事だったか! 心配したぞ! けがはないか! 」とやたらなれなれしかったが、これも外部の目があるから、ということかもしれない。後で生徒指導室で怒られる準備ぐらいはしておくか。
「では、我々は無事ダンジョン踏破の報告をしに戻りますのでここで失礼します。ダンジョンのほうは後一時間もすれば通常空間に戻っていつも通りになりますので、もうしばらくだけお待ちください」
「あの、うちの生徒は御迷惑ではありませんでしたか」
「なんの、探索者になったばかりであれだけの活躍が出来るのなら将来が楽しみなぐらいですよ。彼のおかげで一時間ほど短縮してダンジョン踏破に達することが出来ました。怒らずにやってください、彼は彼なりの義務を果たしたにすぎませんから。では、失礼します」
大谷さん達は去っていった。さて、俺も剣ナタとか防具を倉庫に戻して、怒られる準備ぐらいはしておかないといけないな。
「本条、一応生徒指導室に来い。何もなかったとはいえ、体裁上注意をしておいた、という格好だけはつけにゃならん。怒るなと言われているので怒らないが、中でどんな活動をしていたのか、ぐらいは教えてくれるんだろう? 」
怒らないけど話は聞かせろ、ということか。今後も学校内にダンジョンが出来ない保証はないし、同じように探索者になってダンジョンが出来たら突っ込もう、という生徒が出ないための措置としての呼び出しと考えていいんだろうな。
装備を倉庫に返すとその足で生徒指導室に行き、中の様子やどのようにして戦ったのか、そしていくら稼いだのか、等を事細かに聞かれた。
いくら稼いだかは計算してないのでまだわからないことと、たまたま用具倉庫に戦えそうなものを見つけたから拝借してうまくいったこと、真似は多分出来ないだろうことを伝えると、鬼沼先生は納得して、とりあえず一限使って怒ったことにしておくから、疲れをとるためにも寝ていろ、と言われたので保健室のベッドを借りて休むことにした。
今日の帰りの換金が楽しみだな。
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