第152話:石見銀山と名付けたい
十一層をグルグル回る。ホブゴブリンは中々にしぶといので毎回の戦闘には他の階層に比べて時間がかかる。やはりスキルスクロールやレベルアップでベースの強さを上げていかないとサクサクと戦いながら進む、というのは難しいのだろう。
そもそも二人しかいないパーティーメンバー、当初予定ではここを俺一人で突破させられる予定だったことを考えると、もっと浅いダンジョンで長めの時間下積みをする予定だったはずなのだろう。ゲームプレイ動画なんかでやる「主人公一人だけでゲームクリア」みたいなことをダンジョンでやっているような状態だったのだ。
それが彩花の合流でかなり速いペースでダンジョン攻略が出来ているのは間違いない。なので現段階で装備の刷新も含めて、一度考え直してみるのも悪くないかもしれないな。
「そろそろ装備更新の時期かも? 」
「私も幹也の持ってるそっちの武器のほうが確実に倒せるような気がしてきてるのよね。重さには慣れたし、もうちょっと重い武器でも問題なく振り回せるだろうし。次の目標は装備更新にしましょうか」
「だったら、中古屋やネットで調べて十一層以降の装備のおすすめとかそういうものがあったら参考にしないといけないな……と、次が来るぞ」
ホブゴブリンがまたこっちへ向かって歩いてくる。これで八匹目で、銀貨は14枚溜まっているので、平均二枚ぐらいくれることになっている。銀貨一枚何グラムでいくらになるのかまではちょっと調べないとわからないが、駅前から少し離れたところに貴金属買い取り店はあるので、そこで参考相場を調べることにしよう。
ホブゴブリンもこちらを見つけ、戦闘開始だ。ホブゴブリンが全身の力をこん棒に集めながら勢いよく振り下ろしてくる。当然全力で受け止めたりはせずに、回避する。さすがにこの体格の差がなく、向こうが筋骨隆々である以上向こうのほうが腕力は高いと考えていい。そんな奴に俺の胴ほどもあるこん棒をぶつけられて武器も含めて無事で済む可能性は低い。
そのまま地面にくぼみを作る形でこん棒がめり込むと、今度はこん棒がこっちに向けて殴り飛ばしに来られた。流石に勢いも体重もかかってないので、今度は受け止める。受け止めて、体重も勢いも乗っていない軽いものであることを認識し、そのまま山賊刀でからめとるようにこん棒をくるくると絡め取る。
ホブゴブリンのこん棒が明後日の方向へ飛んでいった後、がら空きになった胴体と腕にそれぞれ切り傷を入れる。片腕は落とし、そして胴体にも傷をつける。そして離れた後、彩花が続いて二撃目を入れて、彩花のおそらく全力の力で残っていたもう片腕のほうを切り落としに行く。
両腕を落とされたホブゴブリンはそのまま何もできずに倒れ込み、黒い霧が全体を覆い、そして消えていった。残ったのは銀貨三枚と魔石、そしてスキルスクロール。何のスキルが出たかは後で調べよう。
「スクロールが出たわね。何かしら? 」
「調べた範囲だと【頑健】【体捌き】【バッシュ】のどれかだな。どれも肉体型だが、【バッシュ】はいわゆるアクティブスキル、【威圧】みたいに意図的に使用するスキルで強く殴る……みたいな使い方をするはず。【頑健】は痛みに強くなる、だったかな。どれも有用そうではあるけど……そういえばバッシュに当たるような攻撃をホブゴブリンからはまだ受けたことがないな。その内打ち込んでくるタイミングがあるってことだよな。まさか使えないのに持ってるスキルがドロップするということはないだろうし」
「そのあたりはダメージを受けてから考えましょうか。できるだけ出てこないようにと願いつつ【バッシュ】を使ってくるなら耐えるか確実に回避するかを選択する余裕ぐらいはあるはずよ」
「まあ、予想するようなバッシュであってくれるとありがたいが、実際バッシュってどんな技なんだろう? そこから始めないといけない気がするけど、戦ってるうちにわかるか……よし。次へ行こう」
◇◆◇◆◇◆◇
そこから二時間ほど戦い続け、銀貨もしっかり重みが感じられるほど手に入れることが出来た。これはそれなりの金額になったかもしれんな。また、スクロールも合計二枚出た。これは一つ一つ解析サイトにかけて行って、覚えるべきは覚えていくことにしよう。
なお、俺も彩花も更にレベルが上がった。多分そろそろ20レベルに到達するぐらいだと思う。ここまで上げればもうしばらくレベル上げに勤しむ必要はないんじゃないか、と思う程度だ。
彩花も二つレベルが上がり、一つレベル差がなくなったことになるのか。そうすると、彩花は15か16で俺が19ということになるのかな。
「さて、いったん戻ってお昼と換金タイムにするか。魔石のほうは換金するには駅前ダンジョンに潜って証拠を耳揃えて出さなきゃいけないけど、銀貨のほうは貴金属買い取り店で無難に換金できるらしいから、そっちは換金してしまおう」
「そうね。どっちを先にするの? 換金? それともご飯? 」
「換金してから贅沢、というのも選択肢に入れられるな。それを考えると先に換金してしまいたいとは思う」
「じゃあ、先にお金にしてしまいましょう。外で食事でも良いし、選択肢が取れるほうがいいわ」
彩花と一旦着替えて、貴金属買い取り店へ向かう。カバンの中には二時間分の銀貨がたんまり。いくらになるかまでは解らないが、十一層へ通った分だけの金額にはなるだろう。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなものをお持ちでしょうか」
「おそらく純銀になるとは思うのですが……ダンジョンで出た銀貨の買い取りをお願いします」
「ダンジョンの銀貨……十一層にお潜りになられたのですね。若いのに凄いですね」
どうやらこの若さで十一層まで潜るのは珍しいほうになるらしい。やはり、十層と十一層の間には少し壁があるらしい。その壁を乗り越えて帰ってきたということはそれだけの実力を認められるということになるんだろう。
「鑑定結果ですが、二分割にしてもらうことは出来ますか? 彼女と折半する予定なんです」
「わかりました。そこも配慮させていただきます」
どうやらこの手の分割は手慣れているらしく、素直に頷いてくれた。やはり、ギルドに下ろさずにこういう店を使う人は少なくないらしい。しばらく待って、鑑定の結果が出てきた。
「お待たせしました。お二人で分割する、ということになりますので、今回の買い取りはおひとり様当たり116886円になります。そちらの金額で納得されるのでしたらこちらの取引における本人確認が必要ですので、探索者証か学生証、またはマイナンバーカードの提示をお願いします」
マイナンバーカードは持ち歩いているのでそっちで本人確認と署名を済ませる。住所と名前と年齢と性別と……と、この辺はデジタル化されてないらしい。多分本人の筆跡かどうかを確認したりもするんだろう。その為ならまあ仕方ないところではある。
記入を終えて、言われた金額を受け取る。中々の大金だ。午前中の稼ぎにしては充分すぎるほど多い。これはこのまま回らない寿司を喰いに行くというプランもできる。
彩花も身分証をちゃんと持っていたようで、金額に納得して書類に書き込み、しっかりと金額を受け取っていた。
「しかし、珍しいね。換金カウンターで換金せずにこっちへもってくるのは」
「銀貨だけ別袋にして保管してたのを忘れて、家に帰ってから換金し忘れたことに気づいたんです。なので今回はギルドではなく、こちらの方が家が近かったので」
お、この言い訳は以後使えるな。これをまた使っていこう。この店じゃなくても他の店でも使える手口のはずだ。
「なるほど、それは仕方なかったかもしれないね。また来てね」
気さくなお兄さんに見送られて、買い取り店を出る。
「とっさにあんな嘘が付けるなんて、中々のものじゃない。どう言い訳するかちょっと焦ったわ」
「まあ、専用ダンジョンで稼いでるってのは彩花と付き合う前から内緒にしてたからな。言い訳は色々考えてある。そのうちの一つは今使ってしまったからまた新しい言い訳を考えないとな」
「で、このお金は置いとくとして、魔石の換金はどうするの? 午後から潜る準備をして十層十一層を巡って戻ってから換金ってことにしておくのかしら」
「一日でスッキリ終わらせるならそれがいいかな。さて、どこへ食べに行こうかな。これだけあれば回らない寿司でも回る中華テーブルの店でもいけるぞ」
しっかりと太った財布を見せて彩花と二人、どうするか考える。
「そうね……何を食べたいって気分でもないし、適当なファミレスに入ってそこでご飯にしましょう。色々選べる分お互い気苦労もしなくて済むわよ」
女の子のほうから食べる品目を教えてくれるのはありがたい。学生の身分とはいえそれなりに金を持ってるからと言って一方的に奢るようなそんなシチュエーションに巻き込まれる心配がないのは大きい。
「じゃあ、そこのダストだな。今は……丘盛りポテトとハンバーグという胃袋かな。オーク肉だとひき肉までは手が回らないから自分で作らないご飯でもあるし、楽しみだ」
早速すぐ目の前にあるファミレスに移動し、二人で食事を取る。昼時で少し混んではいるものの、あまり待たずには入れたのは僥倖。席に案内されると、早速ランチメニューのライス、パン、スープお代わり自由のハンバーグセットと山盛りポテトを注文。彩花はしばらく悩んだ後、サラダバーのフルセットを注文した。あと、二人分のドリンクバーもちゃんと注文する。
「大丈夫? それで足りる? 」
「パンもライスも他の食べ物も合わせてサラダバーだし、足りなかったらもう一品何か頼むから良いわよ」
どうやらまずはサラダバーで様子見して、物足りなさを感じたら次へ行くらしい。しっかり体を動かしたのだからしっかり食べたほうがいいのは確かだが、彩花には彩花の都合があるだろうし、体を動かしたからといって最近ちょっと食欲が旺盛気味で抑えておきたいところかもしれない。これ以上問うのはあまりよろしくないだろう。俺はそっとメニューを閉じ、料理が来るのを待った。
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