第151話:ホブゴブリンと謎の銀貨
シャドウウルフが首筋を噛みつきに飛びついてくる。かなりの早さだが、対応できないほどの早さではない。首筋に飛んできた黒い塊をスウェーバックで回避し、回避した場所に山賊刀をそっと置いていくと、自分の体重と動いてきた角度で勝手にダメージを負いに来た。
こうして少しずつ体力を削っていくのも戦う方法としてはありだ。ただ、面倒くさい上にこいつ自身に時間をかけてでも手に入れたいものを持っている……というわけではないので、早めに倒してしまうことにする。
シャドウウルフのほうへ全力で近づき、山賊刀を上から下へ薙ぎ払う。シャドウウルフが避け始める前に近づいたため、シャドウウルフへ吸い込まれるようにこちらの攻撃が当たる。これが中々面白い。
こっちのトップスピードを出せば、シャドウウルフのような素早いモンスターでも反応する前に斬りに行くことができる。それさえできてしまえば基本的にダンジョンでは勝てる。まだ勝てる、というほうが正しいのかな。
早さは攻撃力にも重みを与えてくれるし、素早い攻撃はそれだけ戦闘時間の短縮に寄与してくれる。緊張する戦闘時間は短いほうがいい。そういう意味でも素早く動いて素早く切って、素早く戦闘を終えるのは大事なことであると言える。
彩花もシャドウウルフには同じ対策で挑む。俺とは多少レベル差があるとはいえレベルそのものが上がっている彩花と、他の探索者とはそもそも出せるトップスピードも体の柔軟性や動きも違う。山賊刀ほどの切れ味を持っていない俺のおさがりの中古剣でも、しっかりとしたダメージを叩き出せているらしく、三度ほど切りつけるとシャドウウルフは黒い霧に変わって消えた。
シャドウウルフも耐久力があるモンスターではなく、素早さと行動力、それから鋭い爪と牙で襲ってくるモンスターなんだろうが、こっちも同じく素早さと攻撃力で押しきるタイプのため、どっちが早いかで勝負が決まってしまう。そしてこちらの方が早いため、確実に勝てる相手になっているのも美味しい話。
更にこっちは二人で戦えるので、一匹しか出てこない間は安心して戦える。十層も楽だな……等と考えていると、レベルが上がった。これでレべル……18ぐらいか。もう数えるのがわからなくなってきたが、十分人類としては強い部類に入るのだろう。
彩花も同じペースで上がってきているのだから、14か15か、そのあたりになっているのは確か。レベルが1を超えて数レベル上がっている現役の探索者は普通に存在するだろうから、その人たちと比べたらモンスターとの戦いで実際に蓄積した戦闘データもあるだろうから、仮に戦うことになっても負ける可能性はある。
最も探索者同士で争うのはあの五層での一件だけで充分だ。戦うならモンスターとだけでいい。探索者同士で争ってもお腹が空くだけで何の得にもならないし、それで強さを誇ることも目立つこともしたくない。
人前で大きな声で叫べるような行為でレベルアップをしている訳ではないのだから、目立たないように行動するのが一番いい。そう考えながら十数匹のシャドウウルフを相手にしながらダンジョンを進む。
「中々次の階層に着かないわね」
「結構長めだな。もしかしたら九層側に切れ目がある、という可能性もあるがその時は大人しくぐるっと回って戻ってくるしかないんだけど」
しばらく歩いてまたシャドウウルフの相手をする。そろそろ着いてくれないかな。
「ねえ、あれそうじゃない? あそこから足元の石床が切れてる」
彩花が指さす方向を見ると、たしかに石床の切れ目がある。ここから先が十一層ってことかな。アカネを連れてくればはっきり方向を教えてくれるからそれに頼るのも良かったかな。
ダンジョンの切れ目をくぐり、また土の足元に変わり始める。ここのダンジョンはあまり見た目の変化がない。石壁とか石床とかそのぐらいの変化こそあるものの、他のダンジョンに見られるようなあからさまなダンジョンの中らしくない……例えば空があるとか、暑くない太陽が照っている等、ダンジョンによって様々あるらしいが、とにかくここは洞窟風のダンジョンと石壁石床の角ばった石造りのダンジョン以外で見た目の変化は乏しい。
そこに手を加えるぐらいなら他のことに手を回した方が効率的ではあるし、俺がそういうのを求めている訳ではない、というのをアカネがわかっているからなのかもしれないが、とにかく見た目の華美さにはあまりコストをかけてないダンジョンである。まあ、その分ドロップや経験値に割いてくれていると考えれば、美味しいダンジョンであるのは明白なので文句を言わずにありがとうだけ伝えるようにしておこう。
入り込んだ十一層、しっかり【聞き耳】を立てて歩き回ると、オークの時のようなドスドスという足音が聞こえる。どうやらホブゴブリンは動画でも見た通り、ゴブリンというにはあまりに大きく、オークサイズのゴブリンであるということが確認されている。つまり、俺と背丈が変わらず筋肉質のゴブリンだ。もうゴブリンじゃないんじゃないかな。
足音は段々大きくなり、やがてホブゴブリンがその姿を現す。見た目はオルトロスやオークチーフほどの恐怖心はない。つまり、威圧を持ってない可能性は非常に高い。
「ホキャアアア! 」
ホブゴブリンが吠える。向こうも戦闘態勢に入った、ということだろう。
「長引くと他のホブゴブリンが寄ってくるかも。早めに倒しましょ」
彩花が早速ホブゴブリンの三枚おろしにかかる。俺も彩花に遅れまいとして追いつき、追い越し、こん棒を持っている側の腕を切り飛ばす。こん棒さえ切り落としてしまえば後は何とかなるだろう。そう思うことにしてホブゴブリンに突撃する。
ホブゴブリンはその硬い肉体で彩花の刃をガードしているものの、俺の攻撃で弾き飛ばされた片腕を気にして、そっと吹き飛ばされた片腕のところに近づき、そこからこん棒だけを拾い上げる。まだ戦意は衰えていないようだ。このやる気の高さが階層の深さとイコールになっているのかどうかはわからないが、まだまだこのホブゴブリンはいけるらしい。
しかし、斬り飛ばした腕からは出血の代わりになる黒い霧が出続けているので、これが止まったらきっとこいつは倒れるのだろう。しかし、それまでは倒れる意思を見せない、というのが十一層からのモンスターの気合の入り様、ということなのだろう。
そのままホブゴブリンに斬りかかり、こん棒を山賊刀で受け止めて軽く吹き飛ばされている間に彩花が懐に潜り込み、その腹筋を切り裂く。彩花のほうが多少剣が安物で威力や重さがない分だけ切込みが浅くなってしまうのか、それとも【剣術】スキルが少し足りないのかもしれないが、戦力としては少しだけ落ちるらしい。
それでもホブゴブリンの腹筋をきっちり切り裂いて、本来なら中身がボロボロと出てくるところだが、代わりに黒い霧が吹きだし、ホブゴブリンが腹を抑えるようにして倒れ込む。そしてそのまま顔から倒れ込み、黒い霧が全身から噴き出して、そのままホブゴブリンは倒せた、と言えるところまで行った。後には魔石だけが残った。
「十一層のわりに結構苦戦したな。オークチーフよりも下手すりゃ強いかも? 次は威圧が効くか試しておかないとな。効くならオークチーフと同等、効かないならオークチーフよりも強い相手ってことになる」
「そうかも。でも、二人で一匹なら勝てることはわかったわ。後、両腕斬り飛ばせば大丈夫なことと、そこまで行けば時間をかければ倒せることも確実になったわ」
「シンプルに戦える方が楽でいいんだけどな。でも、三十分待たなくていいだけマシと考えるのか、でも食糧が手に入らない分だけ損と考えるのか……とりあえずあと複数回戦ってみて、どのぐらい戦いづらい相手かをはっきりさせておくのも大事だな。さ、次を探そう」
少し歩いて、二匹目のホブゴブリンを探し当てる。足音がするから方向を見失いにくいのは良いこと。距離感もつかめるので、地図を描きながらでも探せるのもなおのこと良い。
二匹目に出てきたホブゴブリンに精一杯の威圧を仕掛けるが、少しばかり効果があるかな? と言ったところで、他のオークチーフやモンスターのように効果的であるとは言い難い。やはり、オークチーフより強者であることは間違いないらしい。
「威圧が効かないや。もうちょっとレベル上げないといけないかな」
「それはまたの機会にしましょ。向こうから威圧仕掛けてこないだけマシだわ」
彩花がそう言って飛び出し、ホブゴブリンの攻撃を誘って避けて、その間に一撃入れる。彩花に遅れること一秒、彩花が切り込んでヒットアンドアウェイで離れたところに追撃を入れる。今回も腕を斬り飛ばしてこん棒を吹き飛ばす。そして、こん棒を拾いに行こうとするホブゴブリンを後ろから刺して、背中の筋肉を断ち切るように横に切り目を入れる。背中を斬られたホブゴブリンはそのまま背中を抑えるようにして倒れ込む。チャンスか。
そのまま背中に山賊刀を突き刺し、背中から心臓に達するであろう位置に刃を突き立てる。後ろから突き刺した刃はそのまま前まで貫通したらしく、前後から黒い霧が吹き出してホブゴブリンを覆い尽くす。こっちもいったん離れて、どのぐらいで力尽きるかを確認していく。できれば一発でそのまま絶命させたかったんだけどな。刃を入れる位置を間違えたか?
しばらくそのまま動かなくなった後、ホブゴブリンは全身が黒い霧に変わっていった。どうやら心臓には達していたが傷が浅かったとかそういうものだろう。魔石は確実にくれるとして、他のドロップは……と。
ホブゴブリンが消えた後を探すと、銀貨を二枚くれていた。銀貨二枚が確実にくれるラインなのか、それともランダムで何枚かくれるのかは解らないが、とりあえずもう何枚か集めてみて、一匹当たりの平均枚数を出してそれで一匹当たりの美味しさというものを出してみよう。
「本当に銀貨くれるのね。見た目は銀なのかアルミなのか白銅貨なのかぱっと見ではわからないんだけど」
「安全な所で調べるようにしよう。今はもうちょっとばかり戦闘経験を積んで必勝パターンを確実にものにする方が先だ」
「それもそうね。魔石は確実にくれるんだし、銀貨の分だけ収入が増えると思えば美味しいものよね」
さて、もうしばらく連戦だ。しっかり戦って戦闘経験というものを積んでいこう。
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