第143話:今日の戦果と最近のお気に入りはおはぎ
これはダンジョンの不思議な所だが、インスタンスダンジョンにもワープポータルが現れるのか? という疑問が頭をよぎるだろうと思うが、そうじゃあない。ダンジョンのシステム側の実装としてワープポータルがデフォルトでついているのだ。
これは後から人類側が設置するであるとか、ノーマライズ化されたダンジョンについて設置されるようになるとかではなく、どんなダンジョンでも十層ごとにはワープポータルが設置されるようになっている、という説明のほうが正しいと思う。なので、この後ワープポータルで途中下車するのも権利として認められているし、ダンジョンが完全に停止するまではワープポータルは稼働し続ける。
ダンジョンが停止した時、ワープポータルから脱出しなかった探索者はダンジョンから自動的に排出され、荷物も無事に持ち帰ることができる。ただし、生物に接触していなかった持ち物やドロップ品、アイテムや装備品などはダンジョンと一緒に消滅してしまうという特徴を持つ。
そんなわけで十層にたどり着き、後はワープポータルの場所さえ見つければかなり楽に帰れる。流石に俺達が蝙蝠で彷徨い続けている間に九層も十層も掃除していってくれているので、ワープポータルも楽に見つけることができるだろう。
ちなみにボス部屋もオープンしているはずだが、インスタンスダンジョンの場合はボスを一回相手にするとその後は放置される。理由としては、ボス部屋にダンジョンコアがある場合、ボスを倒しながらでも、そしてボスを倒した後でも壊すことができるが、その時点ですべてのモンスターが消えてしまうためボスを倒した後のほうが収入分だけ有利になるということ。
そして一回しか倒さない理由は、もし自分がボス狩りをしている間にダンジョンコアが破壊された場合、ボスと対峙して戦っている最中でもボスが消えてしまうため、くたびれもうけになってしまう可能性が高くなるという理由らしい。
今回はボス部屋にダンジョンコアがあるかどうかはわからないが、もし十層にダンジョンコアが安置されているならば、やはりボス部屋に置いてあるのだろう。
ただ、その場合もうダンジョン自体の攻略は完了していて、モンスターの出現もしないしあとは時間がたって消え去るのみになっているはず。
しかし、今俺達の目の前はシャドウウルフが立ち塞がっているので、まだダンジョンコアが割られていないという予想をつけることはできる。
シャドウウルフはかなり素早く、牙による噛みつきと爪によるパンチでこちらを翻弄してくるが、正直俺と彩花ぐらいまでレベルが上がっていればそれほど問題になるような相手ではない。しかし、腐ってもインスタンスダンジョン、専用ダンジョンとは違い、最大限の素早さや強さを繰り出して戦うと目立って仕方がないので、そうならないようにほどほどに出力を落として戦っている。
シャドウウルフの鋭い爪と牙がランダムに、しかし効率的に俺か彩花を襲う。立ち位置をうまく入れ替えながら、一匹に対して二人で対応したり、エネルギーボルトでダメージかブラフの攻撃を入れながら相手を誘い込むようにしてこちらの都合のいい場所に誘導して狩るやり方が比較的効率的だ。
順番にシャドウウルフの相手をしながらうろうろしていると、人が集まっている地点を見つけることができた。どうやらワープポータルがそこに設置されている様子だ。入れ替わって入ったり出たりしては、中にまで飯や水分を持ってきて休憩する探索者の姿を見ることができた。どうやら周辺の掃除は終わっているらしく、非常にリラックスしている様子だ。
「どうやら到着みたいだぞ。外に出よう」
「ふぅ、今日は久しぶりに頑張った気がするわ」
ワープポータルを利用して一層に出ると、そのままダンジョンを出てコンビニに。コンビニで水分の追加補給とゴミ捨てをすると、ダンジョンに再突入する前に一旦俺の家に帰る。時刻は……午後四時ってところか。
家に帰るとアカネもいたので二人そろってただいまと声をかける。
「朝早くからご苦労様。気分転換にはなったかしら? 」
「おかげ様でいい運動になったよ。インスタンスダンジョン作ってくれた人に感謝だな」
「ただいまアカネさん。今日は何してたのかしら」
「私はいつも通り、本業の道祖神をしてたわ。その後はちょっと眠って、昼からは少しダンジョンをいじってたわよ。この先も作れるようにいつでも準備はしておかないとね」
アカネはそう言うと、再び丸くなってくるくると回転をしながら眠りはじめた。どうやらお疲れの様子らしい。
「どうする? 明日の授業もあるし、今日はちゃんとインスタンスダンジョン攻略に力を貸したってことで納得しておくか? 」
「本業として探索者をやるならその通りなんだろうけど、私たち、まだ本業は学生だからそっちをおざなりにして探索者をやるってのは色んな方面から苦情が飛んでくると思うのよね。探索者の内側からでも、自分の食い扶持が減るから困る、と言った感じで」
「ふむ……じゃあ、とりあえず今日の分の稼ぎってことで換金に出しておくか。ついでに……これも換金してしまおう」
ベッドの下の魔石箱から魔石を取り出し、バッグに詰め込めるだけ詰め込む。彩花にも魔石を渡し、詰め込もうとすると、彩花が魔石の受け取りを拒否する。
「それは幹也が稼いだものでしょ? だったら私が受け取るわけにはいかないわ」
「別に俺はあまり細かいことは気にしないが、彩花が気にするってなら……じゃあ、お互いのバッグに入っている魔石の分だけをそれぞれが稼いだってことにしておこう。それでいいか? 」
「むしろそのほうが納得できるわ。いくら食費を浮かすついでに潜ってて、換金しに行くタイミングに困るからと言って、分け前までもらうのは、彼女だからとか、同じアカネさんの信徒であるとか、という理由があったとしてもちょっともらいすぎだと思う。そこは今後きちんと分けていきましょう」
「わかった。じゃあ今日からはここは原則俺の貯金箱、ということにしておく。さて、大きいバッグはどこかにあったかな……」
背中に背負えるサイズで一番大きいものを選び出すと、そこに魔石をできるだけ詰め込んでパンパンになったバッグを背負おうとしている俺の姿に、クスリと彩花が笑う。
「なんだよ、何かおかしいか? 」
「この時を待ってましたと言わんばかりにこれだけ用意されてパンパンに詰め込んでるのを見たら、なんだかおかしくなっちゃった。ちょっとツボに入っただけだから気にしないで」
そんなにおかしいことをしてるかな……まあ、せっかくの大手を振っての換金騒ぎではあるんだし、これをチャンスに堂々と換金できるというのは確かに大きいのだけれど、それにしても笑い過ぎじゃないだろうか。
彩花が着替えるのを待って、二人で駅前ダンジョンまでしばし自転車で出かける。アカネには声をかけるか迷ったが、眠りはじめていて起こすのも悪いのでそっと家を出てきた。帰りにまたおはぎ買って帰るか。
まだまだ暑いさなか、通り道のさっきまでダンジョン探索をしていたダンジョンでは、ダンジョンから出入りして表でアイス食べたりコーヒー飲んだり、中のイートインスペースで食事を取ったりと、様々な格好で休憩を取っている探索者の姿が見えた。
インスタンスダンジョンもここまで補給に便利な所にできると、ノーマライズ化させたくなるものじゃないだろうか。これでもうちょっと駅前ダンジョンに近いコンビニにできていれば……いや、その場合は駅前ダンジョンでいいのか。
流石にここにギルドの出張所を作ることはできないだろうし、ダンジョンを避けて生活する一般市民からしても、駅前ダンジョンほどしっかりとした防備の作りになってないここがいきなりノーマライズダンジョン化したところで不安しかないだろう。
ダンジョンはほどほどに空いているところがあればそれでいい。駅前ダンジョンはそれを現状満たしてくれているのでなおのこと良い。さて、換金したらいくらになるかなっと。
◇◆◇◆◇◆◇
換金時にコンビニのインスタンスダンジョンに潜ってましたと伝えると、すんなりと疑われずにそのまま換金を始めてくれた。俺は128500円、彩花は67200円の収入になった。やはり俺のほうが持ち出しが多かった分だけ収入になったようだ。これ、来年の税金とか大丈夫かな。そろそろ気にし始めるほうがいいような気がする。
「中々のお金になったわね」
彩花もこれにはほくほく顔。お互い懐が寂しいまま受験に挑むのは少々厳しい間柄。特に俺のほうは食費や生活費に色々金を使う分だけより逼迫していても不思議はない。ダンジョンがなければいまごろまた塩パスタでのギリギリ生活をして、脚気や壊血病になるかならないかのギリギリのラインを攻めるブレーキの壊れたレースを繰り広げていたかもしれない。まったく、ダンジョンには頭が上がらないな。同様にアカネにも頭が上がらない。
「さて……アカネへのお土産とかいろいろ買って帰るか。彩花も一回は家に戻ってくるだろ? 荷物整理とかするだろうし」
「そうね。少なくとも防具をどうするかは考えておかないと」
防具の洗濯タイミングを見極めているらしい。気になるなら毎回洗えばいいと思うんだがな。どうせ明日からしばらくは学校続きで潜りに来るタイミングを見計らうのも難しいだろうし、洗濯を任せてくれればそれでいい。
家に帰る前に大黒堂のおはぎを二つ買うと、そっと家に帰ってきてアカネが眠っている足元にそっと備えて手を合わせておく。これは起きるまでそのまま置いといて、起きた時に喜んでもらえるようにしておこうかな。
「さて……じゃあ、洗濯お願いできるかしら? そっちの防具とついでになってしまって悪いのだけれど」
「わかった。綺麗にして乾かしておく」
「それじゃ……ん……」
そっと目を閉じて口だけ突き出してくるので、誘われるようにキスをする。いつもの激しい奴ではなく、シンプルだがお互いの口の中の香りを感じられるほどのキス。しっかりとお互いに口を離さないように目をつぶって……そして目を開けると、そこには彩花の後ろからこっちをにやにやと見つめるアカネの姿が。
「……あんまりみるなら金取るぞ」
「おはぎが来た時点で起きてたんだけど、寝てると思っておっぱじめるとは思ってなかったわよ」
「おっぱじめるとか言うなし」
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