第140話:インスタンスダンジョンは突然に
日曜日、真面目に勉強というものに打ち込んでいたら町内の連絡スピーカーから緊急速報が流れ始めた。
「本日、午前八時十五分ごろより、コンビニエンスストア前にて、ダンジョンの発生が確認されました。探索者でない方は、近寄らないよう、注意してください。探索者の方は、探索者証と装備を持って、自主的な探索活動のほうを、よろしくお願いします。繰り返します。本日、午前八時……」
インスタンスダンジョンが身近に出来るのは久しぶりだな。いっちょ参加しておくか。彩花にもメールをして、内容をそのままコピペし、行くかどうかを確認する。すると折り返し電話がかかってきた。
「もしもし、幹也。そこっていつもの最寄りのコンビニよね」
「そうなる。どうする? 来るなら待ってから合流していくけど」
「幹也はその様子だと行くのよね。暇つぶしにはちょうどいいから? 」
彩花が心配するわけではないが、ちょっと揶揄うような口調でこっちに話しかけてくる。
「それもあるかな。ちょっとイマイチ煮え切れないところだったんだ。適度な運動でもして体を動かせばもう少しもやもやしたものも取れるかなって」
「じゃあ、私も行くわ。急ぐから数分……ダンジョンまで移動する時間も含めたら十五分後ぐらいかしら。その間だけ時間をもらうわ」
彩花も来る、つまりいつものダンジョンデートだ。駅前ダンジョンではない分だけ目新しさもあるし、専用ダンジョンではない分だけ収入に期待を持つことはできないが、インスタンスダンジョンで稼ぎましたと言って専用ダンジョンでの稼ぎを混ぜ込んで換金することはできる。その堂々としたチャンスが今来たと思えばこれはまた美味しい。
ちょうどいつ換金に行こうか悩んでた魔石がそこそこたまっていた所なんだ。ほとんどオークのものだが、オークチーフの魔石もあって困る所ではあった。それをまとめて交換できるのだからこれほど都合のいいタイミングもないだろう。
「あら、出かけるのね。さっきのダンジョンが出来たぞーっていう放送の話に乗るのかしら」
「ああ、ちょっと一稼ぎ行ってくる。ダンジョンから帰ってきたらついでに溜まってる魔石の換金もできるしな。できるだけチャンスは逃さないようにしたい」
さて、早速着替えて、彩花が来るのを待つとしよう。水分の用意ともしもの時の空腹用の……それはコンビニで調達するか。稼ぎに行くんだからその分の弁当やおにぎりもしっかりコンビニで確保できる程度には儲かっているはずだ。心配せずともそこそこ深くても戻って帰れるだけの体力と精神力、それから慣れと、レベルには達しているんだし、心配することはないだろう。
やがて彩花が到着し、着替えてる間に扉越しに打ち合わせをする。
「昼食は俺にしては珍しく、現場のコンビニで調達することにする。たまにはコンビニ飯もいいだろ。飲み物を調達するついでにご飯もってところだ。流石に大急ぎで行かなきゃいけないというほどではないだろうけど、あんまりゆっくりして他の探索者に旨味を取られて自分たちの仕事がなくなるのは辛いが……まあ、そこまで人が集まる場所ではないだろうし、俺達も十層経験者ではあるんだから、どこまでかは解らないが役に立つことはできるだろうと信じてるよ」
「前に五層のボス部屋の前で出会った……大谷さんだっけ? あの人も来るのかしら。」
「今日が非番じゃなければ来るんじゃないかな。久しぶりに会うのも悪くないかも」
するっという衣擦れの音が【聞き耳】を伝って聞こえてきて一瞬ドキッとするが、そもそも俺の方からお願いしてこうしてできるだけお互い見えないように着替えようという話にしているのだから、俺の方から覗きたいという話は矛盾するし、俺がムラムラしているのを……そっと眺めて俺の思考を読んでいるアカネがすっごくニヤニヤしてみている。くやしい。
「ただ、駅前ダンジョンで待機してる全員が来ることもないかもしれないから待機してても来ないかもしれないな。放送を聞いた感じ、学校のグラウンドに湧いたようなクイックインスタンスではなさそうだし、時間的猶予はそれなりにあるかも」
さっさと着替え終わった彩花が装備を整えてやってくる。ご飯と水分は目の前のコンビニで調達させてもらうとして、探索者証も忘れずに持つ。さて、久々のインスタンスダンジョン巡りに行くとするか。勉強ばかりで身体をろくに動かしていなかった分だけいい運動になるだろう。
◇◆◇◆◇◆◇
現場到着。コンビニは商魂たくましく、インスタンスダンジョンに入っていく探索者相手に商売を続けていた。どうやら、ダンジョンができたからって臨時休業を許されるようななまっちょろいシステムにはなってないようだ。モンスターが溢れて出てきたら店員の命が危ないんだが、そういうところまでは考えていないらしい。
彩花と二人ご飯と水分を買って、そのままダンジョンの出入り口にいたギルドの入退場担当に探索者証を見せて中に入ることを伝える。
「君ら、まだ高校生ぐらいじゃないか。大丈夫なのか? 受験のうっぷん晴らしでちょこっと入って出てこれる保証はないぞ」
「駅前ダンジョンでも十層までは潜ってますから、そこまでにダンジョンが終わってくれるなら大丈夫だと思います」
「十層か……なら大丈夫そうだな。今日もご安全に。充分注意してくれよ」
「はい、ご安全に」
十層まで潜ったことを証明するものは今の所存在しないが、十層という区切りまで潜って帰ってこれているのは事実なのでそこを念押ししてダンジョンには入れてもらえた。
「さて、平穏な受験生活を脅かしてくれたダンジョンには精々俺の稼ぎの糧になってもらわないとな」
「どうするの、入口から順番に奥へ行く形にするの? それとも最初から奥狙いで行くの? 」
「セオリーだと手前から順番にってことになってるからな。他の探索者の様子を見て、出来るだけ足並みをそろえていくことにしよう。自分達だけ奥から探索を始めるようなずるはしたくないからな」
他の探索者の影を見つけたらそこから探索開始ということにして、まずはスライムが周辺にいないかどうかを確認しながらの探索を始める。しばらく進んでスライムを乗り越えて、ゴブリンエリアに入ったが、まだモンスターの影はなし。
「さすがにちょっと出遅れたかな。発生から二十四時間はリポップしないのが解ってるからまだいいとして、もうちょっと早く到着してれば美味しい思いもできたかもしれない」
「まあ、オークまでに追いつければよしとしておきましょ? しばらくはモンスターというよりほかの探索者に追いつくのを優先して早足気味に追いかければきっと出会えるわよ」
「そうだと良いな。よし、追いつくのを最優先で、モンスターにぶつかるまで急ぐか」
そう声を掛け合いつつ、早足で奥っぽい方向へ行こうとする。流石にインスタンスダンジョンだけあって地図もなく、早めに潰しておかないといけないダンジョンだけあって、地図もなく初めて足を踏み入れるダンジョンだけあってそれなりの苦労もしてきたが、オークが登場するまでに追いつくことはできたらしく、オークの姿を見つけることが出来た。
そのオークをようやく一匹倒したがドロップはなし。辛い現実だが、これを放置しておくことでいずれはダンジョンの外にモンスターが出てくる可能性があることを考えると、何もくれないオーク一匹ですら取り逃してはいけない、という気持ちは出てくる。
これは探索ではなく殲滅戦なのだ。やることはただ正面に出てくるモンスターを倒すだけでなく、出来るだけ細かい道にも行って取りこぼしのモンスターが居ればぶちのめして黒い霧に還してやるぐらいの気持ちでいかなければならない。
「オークまで来るとそれなりに数が居るわね」
「そうだな。結構早めに来たとはいえ、もう少し奥まで潜られてるとは思ったんだが、案外残してくれてあるのか、それとも他の探索者が途中でまごまごしてるのか……それは解らないが、こっちとしては【威圧】で抜けてきたせいがあるのかもしれない。レッドキャップがもし居たら、その可能性が高いな」
「……絶対それよね」
「多分ね。今の所オークどころかオークチーフまで【威圧】で動けないようにして圧し切れるから、面倒な動きをしなくていいのも大きい」
「でも、ダンジョンに依ってはモンスターに何が出てくるかは解らないのよね? 」
「解らない。もしかしたらオークの後にコボルトだったりするかも。でも、急激に強いモンスターが突然現れる、という可能性は低いと言われてるから、困ったら【威圧】で切り抜けるのが良いと思う」
そのままオークをしばらく狩り続けて、三十分ほど経ったところでオークからケイブストーカーにモンスターが入れ替わった。どうやらオークよりも難易度が高いと判定されてきている様子だ。
「ケイブストーカーだけど大丈夫かしら」
「まあ、こっちにはエネルギーボルトって攻撃手段があるからね。向こうが近寄ってこなくてもこっちから近付けばいいし、近寄らせてくれないならそれなりにやり様はある」
ケイブストーカーが早速二匹出てきて、一匹は俺の方へまっすぐ飛んできて、もう一匹は後ろから俺へ糸を吐く。どうやらコンビネーションプレイをしてくるタイプの賢さを持っているらしい。
「エネルギーボルト」
手前に迫っていたケイブストーカーをエネルギーボルトで黙らせる。さすがにレベル8ともなればエネルギーボルトでも一撃でケイブストーカーを倒すことはできるらしい。オークは……ちょっと難しそう? オークより耐久が高いモンスターはそうそういないので、しばらくはエネルギーボルトで倒せるモンスターは続きそうではある。
糸を飛ばしてきた後ろのケイブストーカーの糸をあえて受け、そのまま引っ張りケイブストーカーをぽーんと自分の足元まで一気に手繰り寄せる。俺の馬鹿力で引っ張り込まれて目の前で着地したケイブストーカーが、「あ……正面に出ちゃった……どうしよう……」といった感じでまごまごしているが、目の前に来たんだからもうしょうがないよね? ね? という感じで俺に一撃で狩られ、黒い霧になって飛び散る。
どっちもドロップをくれたので良いケイブストーカーだったな。
「よし、このまま進もう。何層まであるかわからないけど、十層辺りまでなら日帰りでも戻ってこれるし、一応食糧も水もある。サラマンダーがいるような領域があるかどうかは不明だけど、装備不足ってことでそこで戻ってきてもいい。今必要なのはとにかくモンスターの数を減らすことだけだからな」
「インスタンスダンジョンって意外と面倒なのね。モンスターが湧かないから楽かと思ったら、湧かない分だけ面倒ごとが増えてる感じ」
彩花が肩をすくめながら次のモンスターを探しに歩く。そうなんだよな。
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