第14話:やりくり
カクヨムのほうに追いつくために一日二話更新でかけて行きます。
部屋に戻ってスマホ片手にポチポチ検索。「ダンジョン レベルアップ 強くなる」等のキーワードで検索をしてみるが、目立った情報はなく、ダンジョンに潜り続けることで本当に強くなるのか? という検証をしている探索者は何人かヒットしたが、明確にレベルアップという行動や現象について説明ができるようなサイトはなかった。
じゃあ、次は英語だな……俺でもわかる英語の範囲で調べてみる必要がありそうだ。英単語辞書片手にキーワードを入力していると、結構大手の海外サイトでは話題になっているらしい、という報告が寄せられていたので、それを和訳しているサイトがないか検索をすると、数件だけヒットした。さすが、世界に根を張るネットワーク言語だけあり、日本語にもきちんと翻訳されているらしい。
日本語訳のサイトをうまく英文から日本語に変換しながら探すと、該当記事を翻訳して紹介している探索者向けブログがヒットしたのでそれを読んでみることにする。
それによると、ある日モンスターと戦い続けていたら倒した瞬間にスッと頭や全身がすっきりするような現象を味わったことがあるという。その人物はかなりの深さまで潜った経験を持つノーマライズダンジョンの探索者で、わりと有名な人らしい。それ以後、物事に敏感になったりという多少の自分の感覚の変化が感じられたので、もしかしたらこれがレベルアップという現象だったのかもしれない、というコメントを残している。
元々強い探索者であったので、レベルのあがった感覚が自分の感覚に追いつき過ぎていて元々の強さが高すぎてわからなかった可能性が高いんじゃないか? というコメントや、今までそこそこ潜ってきたけどそんな感覚はなかった、とする探索者のコメントのほうが多くみられた。
「一応、レベルアップという現象を体験した人は少なくとも一人みられたわね。でも、そんなに感覚が違うことがわからなかったりするのかしら? 」
横から画面を覗いていたアカネが不思議そうにしている。レベルアップという現象が現実に起きるなら、もっとわかりやすい形で出るはずで、実際俺にはそれだけの感覚があったというのにこの差は何なの、ということらしい。
「数字で例えると、1から3にあがったら3倍になるけど、15から18にあがるのならほとんど変わらないとかそういうことなんじゃないかな。俺は前者でこの人は後者だった、という可能性があるね」
「でも、学校で色々あったんでしょ? 1から3というのが極端な例なのはわかってるけど、明らかに変化はあるのよね? 」
「たしかに、授業の内容が頭に入りやすくなったし、運動面でも明らかにおかしい動きをしているのは確かだ。もしかしたらこのままレベルを上げ続けるといきなり高レベルな大学に入るのも夢じゃなくなるかもしれないな、いかないけど」
「あ、いかないんだ」
「なんだかんだ地元が好きなんだよね。だからここから通える範囲で入れる大学にいこうかなと」
それに、ダンジョンの付け替えとか面倒くさそうだし、ここの大家とも顔が知れているし気軽に挨拶もできる間柄だ。人の伝手は出来るだけ閉ざさないようにしていきたいと思う。
「とりあえずレベルアップ現象は俺に限った話ではないけど、それまでにかかる経験値が膨大すぎてその頃にはレベルアップが気にならないぐらいの強さになってしまっている……というのが実情なんだろうな」
「まあ、気軽にレベルアップしてお得な感じね。後は体と頭に馴染ませることが出来れば、あなたは相当強い部類にもう足を踏み入れてるのかもしれないわね」
たしかに、既にレベルは正しいなら5ぐらいになっているはずだ。ダンジョンが出来てからもう何年も経つし、その頃から最前線でダンジョンで戦い続けて日々の糧を稼いでいる人たちならとうに追い越していてもおかしくはない領域のはずだ。そこにいきなり足がかかった、というのは充分に俺専用ダンジョンの恩恵を受けている。世にいうチートって奴だな。
と、すると後の問題は資金か。装備品をそろえてより安全な服装と武器で戦えるようになっていれば、服に着られるの逆の意味の姿になることはできるかもしれない。
うん……何にせよまず金かあ。日々20000円ずつぐらい稼いでいるのはへそくりとして、まずは土日でダンジョンに潜る分で隆介に金を返さないといけないからな。そこがマイナススタートなのが俺の足を引っ張るところではある、と。
「資金集めで難航するのは避けたいところだが、ここは一つ、自分ダンジョンの儲けでまともな武器をそろえるか。せめてそれぐらいはやらないとな」
「そうね、いつまでも自作の包丁槍で戦い続けるのは無茶というところよ。折れたらそれで終わりだし、ダンジョンの真ん中で折れた包丁槍片手に戦い続ける自信は? 」
「今なら素手でもゴブリンを倒せるような気はするけど、そういう危ない橋は渡りたくないかな。そこそこ費用が掛かってもいいのでちゃんとした武器を買おう。今度探索者ショップによって何かしら見繕ってくるよ」
英語の辞書をパラパラとめくって単語を覚えていく。すると、文章が頭の中で自然に組みあがり……気が付くと、ある程度の英語のサイトの文章なら読めるようになっていた。明らかに俺の頭脳じゃないなこれは。ゲーム的に言えばステータスに補正がかかってるおかげで賢くなっている、という状態だろう。
これは中間テストで大旋風を巻き起こしそうな予感がする。平均値そこそこだった俺の成績がいきなり上位入賞者になる……そんな未来が見えてきた。というか、英語の辞書の全ページを見終えるだけでもうそれだけの記憶力が頭に備え付けられるような、そんな気すらしてきた。これなら暗記科目は問題なくいけそうだな。
さすがに国語の「この時の作者の気持ちを答えよ」的な解答は難しいだろうが、漢字の暗記や筆記は問題なさそうだ。数学は、既に小テストの結果でどうなっているかが丸わかりだ。
体育のテストは……もうどうにでもしてくれと言った方が良さそうだな。いっそのことダンジョンのおかげってことにしておいて、学校中にダンジョンを流行させてその間に一歩先を行っている、みたいな感じでどんどん伸ばしていくのも手だな。
「うーん……俺一人ではどうしようもないことがどんどん増えている気がするが、考えても仕方なし、か。どうやらそういうところを誤魔化すほうには賢くなってくれないらしい」
「弱点がわかってていいじゃないの。それを強みにして逆張りするってのもありなんじゃない? 」
「今それを考えていた所だ。そこで上手いこと解決法を見つけられないってことは、地頭自体は賢くはなってはいないってことなんだろうな。レベルアップにまだまだ着せられてる気分だ」
「まあ、頑張ってみることね。でも、ばれないようにしながら……ってのはなかなか難しいわよ。賢いけどバカのつもりになってたら本当にバカになっちゃったってこともあるんだし、賢いからこそできる間違いや失敗を学んでいくべきね」
賢いからできる間違い……英語のスペルミスや漢字の書き間違いなんかがそれに該当するんだろうな。後は歴史の問題でなんとか三世と四世を間違えて覚えてたとか……うん、そういうのなら何とかなるような気がする。自分のできる範囲でそこそこの人間を演出していこう。
「さて、もう一つの問題だが……この魔石どうするかな。明日の登校の時にでもまとめて提出しておいたほうがいいかな」
「まあ、毎日外から同じ時間に換金してたらさすがにバレるわよね。受付対応してる人が顔を覚えるって可能性もあるし。だからと言ってダンジョンに潜って探索者してるふりをして出てきたにしても、数でバレるでしょうね」
アカネがいい線をついてる質問をしてくれるため、これも頭の刺激になって色々考えることができるな。まあ、手段としてできることは限られてはいるんだが、その範囲で考えることにしよう。
「なんかいい方法ないかな……と探しつつ、とりあえず明日は魔石をカバンに入れて持っていこう。帰りにでも換金して帰ってきて、そのお金で何か武器でも見繕うことにするよ」
「あの槍で戦うのもそろそろ限界でしょうしね。まともな防具はあるんだし、後は武器と換金の問題だけね。何か都合よくインスタンスダンジョンが何処かに開いてくれればいいんだけど……そう都合よくはいかないわよね」
そこまで自分の思い通りに物事が動き出すなら、もう何かの話の主人公だろう。そうそううまいこと物事が運ぶようなことにはならないはずだ。
「やっぱりまた中古品ショップで良い武器探しかな。流石に槍は持ち運びや組み立てに難があるし、学校へは持っていけないから家から駅前ダンジョンまでの間持ち歩く前提で探すことになるんだろうけど」
「お金がないって辛いわね。でも、そのおかげで今の槍があるわけだし、あなた手は器用な方なのよね? 」
「そりゃ、アカネが放置されてた祠を材木から新しく作れるぐらいには器用だし……多分、今はもっと器用になってるんじゃないかな。さくらんぼの茎を舌で結ぶぐらいは容易だと思うぞ、今家にサクランボないけどさ」
「それは異性にキスの上手さを見せつける時の仕草でしょう? 私に見せつけようとしてどうするのよ、今の所は触れもしないんだから」
「そうだな、触れられるようになって、アカネとキスできるようにでもなったらその時に披露させてもらうことにするよ」
そういうと、アカネから触れられないけど両ほほをピシっとはたかれて支えられるような体勢に組み敷かれた。思わず触れられると思って目を閉じてしまったが、そういえばまだ触れないんだったな。俺の頬の中に吸い込まれた両手がすかっと通り抜けたような気がしたので、多分俺の顔の中では猫だましのような感じでアカネが手を組んでいるのだと思われる。
「そういうセリフは本当に惚れてる間にだけ言うものよ。使えば使うだけ安っぽくなるから肝心の時まで取っておきなさい」
「そういうもんなのか」
「そういうもんなのよ。貴方も友達を見習ってみたらどうなの? 」
隆介を見習うのか……ちょっと、あんまり真似したくはないかもな。
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