第133話:ダンジョンロジスティクス
結局他のゼミに参加することにして、どこのゼミに顔を出していくか一通りパンフレットを目にしながら通りがかる。
ダンジョン構造工学科。ダンジョン内部の物理構造、空間のエネルギー効率的な配置などを研究していく学科。
モンスター生態学科。ダンジョン内に生息するモンスターの生態、進化の法則、ドロップアイテムの組成分析などを行っていく。
ダンジョン文化・経済学科。ダンジョン発生が社会・経済に与える影響、探索者・ギルドの組織論、ダンジョン観光学、ライトノベルにおけるダンジョンの文化的変遷などを研究する。
モンスターの異常発生と生態系への影響。特定のモンスターの異常発生やインスタンスダンジョンの予測するための生態学的・環境的な要因を解明し、シミュレーションモデルを構築する。
探索者ギルドの組織論とリスクマネジメント。探索者という特殊な労働形態における報酬体系、保険制度、危険手当などの経済的側面や、ギルドという組織の持続可能性について考察する。
エネルギー効率的な階層構造モデル研究。持続可能なエネルギー供給を可能にするダンジョンの理想的な形状・レイアウトをシミュレーションする。大泉准教授のゼミがここだな。
後は面白そうなのは社会システム・ダンジョン経済学科だな。ダンジョンの出現によって激変した社会における経済活動、法整備、そして文化を研究するらしい。研究テーマとしては、探索者やギルドなどの特殊な労働市場・組織の分析。ダンジョン関連の金融・保険システム。ダンジョン出現に伴う都市計画・地域振興策。現代ファンタジー作品におけるダンジョンのメディア論的分析。
これらを色々と考える学科らしい。これからの探索者におけるファイナンシャルプランナーとしての側面も持つことになるか。聞きに行くならここかな。
早速担当の教室に向かい、聴講の準備を始める。他の学生も参加するらしく、俺含め幾人かがこの学科に用事があるらしい。
しばらくすると、白衣を着た人が出入りし始め、準備をごそごそと始めた。こっちは手伝わなくても大丈夫らしい。
模擬授業の準備が出来たらしく、マイクのテストをし、それが済んだところで学生の入りを確認する。
「まだ来るかな……それともこれで目一杯かな……」
俺以外に数人は居るので客入りゼロではないのが救いか。大泉ゼミは無事に誰か入っているのだろうか。
「よし始めるか。皆さん今日はわざわざこの研究室の講義に来ていただいて誠にありがとうございます。この講義を担当する准教授の中谷と言います。この研究室ではダンジョンが新しく現れた後の社会システムや、ダンジョンを含めた社会における経済活動、それに伴う法整備や市場、組織の分析、ダンジョンでの活動における金融資産や保険システム、その他経済的な部分を包括的に分析、研究して行くことになります。主に座学を中心に勉強していくことになると思いますが、その分フィールドワークは非常に少なくなると思います。ダンジョンへ潜り込んで中で活動して、その結果や進捗をもってして単位をとる、という形の講義にはならないということをあらかじめ理解しておいてください。うちの研究室では基本的に座学がメインとなる、というわけです。もしダンジョン学部へ来て私の下でダンジョンについて学ぶ場合、ダンジョンに潜る必要はない、ということを考えておいてくれても構わないです」
非常に硬い文面で話を始めた中谷准教授。体格のがっしりした男性で、あまり白衣の似合うタイプではないが、ゆったりとした白衣の着心地からして服装に無頓着なのは間違いないだろう。
自分で座学が中心だと言っていたので、ダンジョンに実際に潜るという講義ではないらしいが中谷准教授のその体格からして、ダンジョンに実際に潜って成果の方を確認するという講義があっても不思議ではない。
「では実際に講義の方をやってみようと思う。資料を配らせてもらうのでその資料に目を通してもらいたい。この資料は去年一年間で主に国内で算出された魔石の総合計の量とそれに対する魔石から発電されるエネルギーの使用量をまとめたものだ。ご覧の通り年々魔石による発電に依存している形になっている。国内の電力供給であるが、決して備蓄量が十分であると言えるわけではない。むしろ、これから探索者をより増やし魔石を掘ってくる量を増加させることによって、ダンジョンからのエネルギー供給の量を増やしていく必要があると思われる。ダンジョンから魔石が枯渇する現象や、ダンジョン内でのモンスター発生がストップするといった現象が発生してないのは救いではあるものの、このままのペースで採掘を続けた場合、近いうちに魔石不足による停電という可能性も考えなければいけないだろう。従来の石炭や石油による火力発電、または原子力発電にベースロードを頼ることなくここまで発展してきた魔石による発電ではあるが、ここへ来て旧来の発電システムに逆戻りさせることは環境問題の点からしてもあまり良い傾向とは言えない。もう少し探索者の増員をする必要があるが、人手不足のこの時代で探索者がいくら増えたとしても、限界が来るのは間違いがないとは言える。ここらで何らかのブレイクスルーがなければ魔石発電の限界が来ると思われる」
一息に現状を分析して問題点と今後の展開を口にする中谷准教授。要するに掘る人間が足りないから発電所に送るだけの魔石が足りなくなってくる未来がある。その為には何らかの技術的な面による発電効率の向上か、大量の探索者の増員が必要になるだろう、ということらしい。
より深く確実な探索結果を求める方法よりも、全体的なシステムとして発電効率か、探索効率を上げていく必要があると提唱しているわけだな。
「また近年問題になりつつあるインスタンスダンジョンの増加傾向に関しても同じであり、これらをノーマライズ化することによって、インスタンスダンジョンの増加を抑えることができるのか、それともインスタンスダンジョンの発生とノーマライズ化とは何も関係なく行われているのかどうか、というのもまだまだ検証段階にあり、はっきりとした結果は出せないところである。そもそもダンジョンの総数が決まっているものなのかどうかということでさえはっきりしない現状であるので、悠長にインスタンスダンジョンの数を数えている場合ではないのだが全てのインスタンスダンジョンを仮にノーマライズ化させたとしても、やはり探索者の人数が不足するのは確実な話であり、この先エネルギー資源として魔石を利用していく場合、探索者の人数不足を念頭に入れずに考えていくことは難しいと考えられる」
学部として探索者を育成することは行わないとしているものの、社会全体で探索者の人数が増えてほしいという願いはあるらしい。どうやらダンジョン学部とは、その探索者の人数をどう増やしていくのか、または探索者がより効率的に探索をするためにはどうすればいいのか、それらを考えていくための学部のようだ。
しかし、インスタンスダンジョンは最近増えているのか。それは聞いたことがなかったな。インスタンスダンジョンもノーマライズダンジョンのように作っている人がいるという話なら、ノーマライズ化されたダンジョンを作り終えてその空いた手で新しくインスタンスダンジョンを作っている可能性はあるんだよな。
アカネのおかげで俺は知っている、ダンジョンを作っているという存在について、どのぐらいの段階までダンジョンの理解度が深まった時に発表されるべきなのか。
「したがって現状、より効率的な発電方法を開発するか、探索者の増員によって魔石の回収効率を上げていくかによって、今後のエネルギー政策は決まってくると考えます。それはさておき、このゼミの趣旨ではありますが、探索者間における保険や金融政策……つまり、探索者でも金の借りれる制度や法整備、ダンジョン産ドロップ品の市場での影響力や購買意欲、そしてそれらが波及する商品価値などを考え、それらに対する学びを得ていってもらうのが目的です」
要するに探索者としての金の儲け方というものについてどのような仕組みで行われているのかを説明してくれるのがこのゼミの趣旨らしい。
「例えばですが、探索者は皆武器を携帯したままその辺をうろうろしたりしていますが、どういう法的根拠をもってそれが可能になっているのか……などの簡単な疑問から、どうしてモンスターを倒すと魔石が落ちるようなシステムが組み立てられているのか、そもそもダンジョンとは何なのか。それらの話は総合授業で学ぶことになります。それら以外のより専門的な部分、例えばノーマライズダンジョンとギルドの関係、ギルドからどのような形の輸送ルートをたどって魔石が発電所に運ばれたり、魔石以外のドロップ品についても同様にどのような商社を経て市場に製品や原料、それから食品などが流れていっているのか。これらをしっかりと学んで行ってもらうのが目的です」
プロジェクターにダンジョンロジスティクスの文字が踊る。
「一言で言ってしまえば、これを皆さんに学んでもらうことになります。ダンジョンという現実になってまだ日が浅い職業とジャンルではありますが、まだまだこれから大いに発展する可能性のある仕事でもあります。これから共にこのダンジョンロジスティクスという大きな流れを学んでいきましょう。まだまだ遅すぎるということはありません。今から学び始めれば、卒業するころにはダンジョンにおける物資や装備品の流れやダンジョンドロップ品がどこにどうやって保管されてどうやって流通されていくのか、等が頭の中にでき上がることでしょう」
探索者側の必要物資というだけで考えても、まず武器があって、それから防具があって、行動の間に消耗するだけの飯と水分があって、そして怪我した時用のポーションなんかも必要になってくるだろう。そして持って帰ってきた魔石やドロップ品を、それぞれのギルドから回収してそこからそれぞれの素材を扱う企業への丁寧な流れを作ることが必要という話なのだろう。
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。




