第132話:午後のオープンキャンパス
しっかり昼ご飯にカレーを味わう。とろみが多めで食べた感触が非常に胃袋に残る、重たいカレーだった。ここまで重たいカレーを食べたのは久しぶりかもしれない。しっかり煮込んであったのか、それともたまたまかき混ぜが足りずに重たい部分を存分に盛られてしまったのかは解らないが、とにかく腹は膨れた。
さて、ここからはどんな場所や学部を巡ろうか……悩むな。工学部でもひやかしに行くか、それとも他の学部のオープンキャンパスを見に行ってみるか、もう一回ダンジョン学部の違う学科や研究室の話を聞きに行くか……あ、大泉准教授だ。どうやらあっちもお昼らしい。
「おばちゃん、いつもの! 」
「あいよ、せんせー」
どうやらいつもの、と言いつつ食券は買っているので、毎回同じものを頼むらしい。ぴょこぴょことアホ毛が揺れているが、アホ毛が身長に入るならばそれなりの背丈にはなるんだろうな。が、アホ毛は身長には入らないので小さいままだ。アカネと背比べをしたらどっちが勝つのだろう? 案外アカネのほうが成長する余地があるだけ勝つんじゃないだろうか。
「さて、昼からどうする? 」
「午前中だけで帰ってもいいけど、一応午後も予約は入れてあるのよね」
「ああ、二人そろって予約を入れたからどっちかが落ちてる、という可能性は低いし、そっちにも午後の予約は入ってるはずだろ? 」
「そうなんだけど、なんだか午前中だけでお腹いっぱいになった気分よ。大泉って准教授、すごいパワーだったわね」
「今さっきそこにいたぞ。あっちもお昼みたいだ」
「あらほんと……見ていて和むわね」
ソースカツ定食を頼むのがいつもの! らしい。カツの柔らかさにとろんとしながら一生懸命食べている。微笑ましいのは確かだ。
「とりあえず大泉准教授より午後の予定だ。サボって帰るか、他の学部へ行くか、もう一度ダンジョン学部へ行って違うゼミの話を聞きに行くかの実質三択だな。さすがにもう一回大泉ゼミを聞きに行くのはなしとして、その他にどんなゼミがあるのかは知っておいても損はない。あと、滑り止めで他の学部を同時受験するなら他の学部へ行くのも手。もう今日は疲れたから帰るのも選択肢としてはありだ。その場合、家に帰ったら復習をすることになると思うが、どうするね? 」
「私は他の学部へ見に行こうかな。念のため、というわけでもないけど生物資源学部のほうにちょっと用事かな。こっちは女子が多めのようだし、同時受験するならこっちを受験するだろうからその予備ってところね。幹也はどうするの」
彩花は行くところはもう決めてあるらしい。俺はどうするかな。
「俺かあ……もう一回ダンジョン学部の説明聞いて、他のゼミを受講しに行こうかな。何か面白いテーマとか身近なネタとか、明日からでもできるダンジョン戦略みたいなものをひらめくかもしれないし」
「じゃあ、終わったら入ってきた受付のところで待ち合わせしましょ。じゃあ後でね」
彩花は一足先に午後の会場へ向かった。あっちはあっちでやることはあるらしいし、さて俺はもう一度ダンジョン学部の説明を聞きに行くか。どちらにせよ総合挨拶をもう一回行った後で学部で別れるんだろうから、今彩花と別れる理由もなかったわけだが、別行動としてはっきり分かれるにはいいタイミングだったかもしれないな。さて、もう一回同じ挨拶を聞くとするか。
◇◆◇◆◇◆◇
午前と一字一句同じというわけではないが、ほぼ同じ内容の挨拶が終わり、学部の紹介が終わり、ダンジョン学部が新設されたことが発表されたのも同じ。話が終わり、ダンジョン学部の説明のほうへ行く。
すると、午後のダンジョン学部のプレゼンは大泉准教授ではなかった。まあ、午後は午後で別の人がやる予定だったんだろう。大人しく待っていると、一つ空けずに俺の真横に座る人が。
「なんだいなんだい本条君、私のことが忘れられずに午後もダンジョン学部の説明会に来たのかい? 私も罪な女だなあ? 」
大泉准教授がウザがらみに来ていた。この人も寂しいのか暇なのか、どっちなんだろうな。
「いえ、他のゼミが気になったので来ただけで、そっちにはいきませんよ? 」
「またそんな連れないことを……本当は私に会いたくて仕方なかったんだろう? 正直に言いたまえよ」
「ソースカツ丼の衣、口の端にまだついてますよ」
「何! ……ついてないじゃないか。というか、ソースカツ丼を食べたとなぜ知っているんだ、さては私のストーカーまで始めたのか」
「たまたま学食で見かけただけですよ。それより、渡辺学部長がこちらを睨んでいますが、行かなくていいんですか? 」
目線でそちらへ誘導すると、大泉准教授への熱い目線を送る渡辺学部長のピシピシと額にシャープマークが浮かびそうな怒り顔が見える。
「……一緒に謝ってくれるかい? 」
急に挙動不審になりはじめた大泉准教授がこっちにヘルプを求めてくるが、俺は知らないぞ。
「謝ることが微塵も思い浮かばないので遠慮しておきます。大人しく怒られておいてください」
「うわーん、みき太君がボクをいじめるよぉ」
「ドラえもんにたかるように言っても駄目だと思います。諦めてください」
渡辺学部長に首根っこを引っ掴まれ、大泉准教授はポイと投げ出される。
「すまんね、うちのが迷惑をかけた」
本当に申し訳なさそうにしている。学生相手にそこまでへりくだる必要もないとは思うので、こっちから下手に出て庇う様子を見せておこう。
「いえ、午前中で慣れましたので大丈夫です」
「そういってくれるとありがたい……って、午前中もこっちに来ていたのかい? 」
「ええ、出来るだけ複数のゼミを回りたいと思いまして」
「そうか……午前中は外れを引かせてしまったかもしれないな」
さすがにそれは言いすぎかもしれない、とは思うが、この性格だしなあ。でも、勉強になることがなかったわけではない。
「いえ、ちゃんと学になる話はしてもらえたので問題ないです。ただ、他のゼミが気になってここに居るわけですので」
「そうかね。いくつか研究を進めているゼミが既にあるのでそれをいくつか見たりしていってくれると助かるね。あとはそうだな……大学の周りにどんな店や遊び場があるかどうか、なんかを見ていくのもオープンキャンパスの醍醐味だと思うよ。今後ここに本当に通うことになった場合、学問以外の心の余裕を持たせるために何が必要か、というのを覚えておくのも良いと思うね」
なるほど、帰り道にその辺を調べておくことにするか。さて、それはともかく今からは何をするべきか、どこのゼミに行くべきか……
とりあえず学部全体の話が終わり、各ゼミの模擬授業や現在の研究内容についての話になりはじめた。
さて、今回は何処のゼミに行こうかな。
「じーっ」
ダンジョン環境学……ダンジョンが階層ごとに環境が変わる仕組みと、突然変わっても他の階層に影響を及ぼさないのはなぜか、とかそんな感じだろうか。
「じーっ」
あとは鉱物学か。ダンジョンの壁が既存の石や鉱石で出来ていることについての謎調査……これはフィールドワークのやりがいがありそうなテーマだな。
「じーっ」
……さっきから幼女に見つめられ続けている。さっき相手はしただろうに。午前午後とも同じ研究室を回るって、その研究好きすぎるだろう。もうちょっと悩んでそれでも行く先がなかったら仕方なく選ぶ、というところ。
「行きませんからね」
「連れないなぁ、本条君は。二回とも私の模擬授業を受けて、エネルギー関連の知識を深めてくれても良いんだゾッ。君の成績なら問題なく入試は突破してくるだろうし、今のうちに所属を決めてしまうというのも悪くはないはずだ。今ならどす黒いコーヒーに真っ白い恋人もつけようじゃないかね」
「要するに寂しいんですね。そんな人見知りで講師が勤まるんですか? 」
「講義中の受講者はハロウィン装飾されたカボチャだと思っているから問題ないとも」
「よくそれで准教授になれましたね」
新規学部の教授陣の中にいきなり入り込めるぐらいには優秀な准教授ではあるのだろう。実際、研究テーマも研究が進んで実用化まで持っていければかなりの費用対効果が見込める話題であり、実質的に電気代が下がってもおかしくない話であるという意味では、この研究室にかかっている予算はともかくとして、先の見込みはある気がする。是非とも研究は頑張ってもらいたいところだな。
「まあ、君が行きたいゼミに行くと良いよ。午前中はしっかり私の講義を聞いてもらって私のノルマはクリアしたからね。午後は本当に自分が興味があるゼミに行くといい。それが私のゼミであってくれればそれ以上に嬉しいことはないが、興味ある、またはそれについて才能や技術、下調べが出来ている学科ならそっちへ行く方がより伸びると言えるだろうし、せっかくの人生の選択を存分に考えられる場面なんだし、私にこだわらずいろんな研究があることを知ってもらうのも我々教授陣の仕事なのだよ。そういう意味では、今選択肢を狭めないように巡るだけ巡っておくのがいいね……と、そう言えば君の彼女、結城くんだったか、彼女はどうしたんだい? 」
「彩花なら他の学部に足を伸ばしに行きましたよ。もしダンジョン学部に入れなくても同時受験で他の学科に入ることになっても良いように……だそうです。まあ、第一志望はこちらで、一応目的の学部に知己を得たからまずは第一条件はクリアした、と判断したのかもしれませんね」
「学部に知己、というのは私のことかな? まあ、午前は二人しか来てくれなかった訳だが、エネルギー理論自体はそう不人気な話題でもないし、午後は他の学生も参加してくれるように祈っているとも。少なくとも君が実演してくれたように、エネルギーを取り出す方法が何かある、というのは確定情報になったわけだしね。あとはいかにして人の手を介さずにエネルギーを取り出すか、というところを考えれば良いという話だ。それが難しいことはわかってはいるんだけどね。最悪、探索者のスキル使用者の緊急スキルエネルギータンクとして、非常用の物資として持ち歩くようになる、何て話にもなるかもしれないしね。まだ頑張り甲斐がある分野だ、のんびり研究していくさ」
そういうと俺の隣から立ち上がり、自分の研究室のほうへ向かっていった。嵐が一つ去ったイメージだが、大学教授ってああいう特殊な個性がないとなれないものなんだろうか。他のゼミの話を聞きに行って確かめるとするか。
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