第128話:学部調査
興奮冷めやらぬ中、学部長がダンジョン学部の説明を終える。そしてその他の本日公開されている学部、学科案内と諸注意を手短に済ませると、時間一杯まで大学内を回れるよう、他の説明はできるだけ手短に終わらせる予定らしい。
「さて、中々気合入った説明だったけど、どのぐらい集まるのかな。あんまり多いと困るし倍率が下手に高くてもそれもまた狭き門、ということになるから面倒だな」
「確かに、その分勉強に熱を入れるしかなくなるってことになるわね。何とか回避したいところだけど……私たちより賢い人が居なければいいって話よね」
「まあ、そういう話になってしまうんだが、探索者にどのぐらいの知的レベルを求めることになるのか……むしろ、大学で研究するレベルならどこまでが必要なのか、というのはやはり、他の大学の倍率や偏差値を見るしかないんだろうな」
移動中にざっくり、昨年の各大学のダンジョン関係の学科の倍率を調べてみる。大体が二倍から四倍。普通からちょいと高め、というところではあるようだ。そんな中で何人取るのかわからないが、新規の学部をこの少子化のご時世に開設する、ということは何かしら考えうるところがあったらしいと邪推するところだな。
偏差値的にはそれほど高いわけではないのでそこだけは安心か。ある意味ブルーカラーの行く大学という悪口も書かれているが、たしかに肉体労働には違いない。ただ、学部の中でまでそういう探索授業を行うかどうかまではまだわからない。これからそれを調べに行くのだ。
彩花と二人、とりあえず通りかかった生物資源学部をちらっとだけ見やり、そのまま素通りして目的であったダンジョン学部のブースの前へ行く。
「ここね。静かだけど」
「みんなが真面目に聞いていて静かなのか、誰もいなくて静かなのか……開けてみるまで解らないシュレディンガーのダンジョン学部だな」
「馬鹿なこと言ってないで入りましょう。もしかしたら私たちが最初の訪問者なのかもしれないしね」
彩花が扉に手をかけ、開け放つと、そこには複数人と対話ができるように並べられている様子の席に、一人座る女性の姿が。机も一人分だけ大きく、資料を大量に積み重ねたところに暇そうにしている。
「あの、ダンジョン学部の場所ってここであってますか? 」
彩花が心配そうにしながら聞いてみる。
「はい、合ってますよ。こちらです。やっぱり私よりも渡辺学部長が対応をしたほうがいいんじゃないかしら。私も自分の研究がしたいし、その為には予算を取ってこないといけないけど、そのためには結果を出さなきゃいけないし、結果を出すにはあと半年は待ってもらわないといけないし……ああ、どうしようかしらねえ」
一人でぶつぶつとつぶやきながら金がないとぼやき続ける女性。どうやらこの女性も講師……教授か准教授かは解らないが、おそらくそれにあたる人物なのだろう。かなり小柄で身長も彩花よりさらに一回り低く、アカネほどではないものの制服着せたら中学生でもギリいけそうなぐらいのルックスをしている。
女性の文句をひたすら聞き流していると、後から入ってくるダンジョン学部に興味がありそうな学生の姿がぽつぽつと増え始めた。
「そろそろ人数も増えてきましたし、解説というか、この学部の説明を始めますか……っと。まずはパソコンの用意をして……」
あらかじめ用意しておくべきなのでは? というところは突っ込まずにいるか。この人がどこまで通常時がポンコツなのかを見定めるのも面白いと感じるようになってきた。
「何か手伝いがあれば手伝いますけど、要りますかね? 」
「あら、じゃあスライドをスクリーンに映したいから、そこのモニタケーブルをプロジェクターに繋いでくれると助かるわ。その間に表示する資料の最終チェックをするから」
そういうと、ものすごい速さでパソコンをたたき出し、最終チェックらしきものを本当に始めた。プロジェクターをパソコンにつなぎ終えて準備が整うと、画面に次々に表示がされていき、それが高速でスライドされていく。その短い間に最終チェックを済ませているようだ。
ものすごい速さだ、俺じゃなきゃ見逃してしまいそうなところだろう。彩花でも見逃さずにそのまま見続けることはできるか……ただ、他の一般人では難しいかもしれないな。その点、探索者でレベル高くて良かった、と思うところだな。
「手伝ってくれてありがとう。もういいわ、後は自分でできるから」
「いえ、それではお願いします」
説明のほうを促すと、女性は集まったみんなに向かってしゃべりはじめた。
「私はダンジョン学部の教授陣の中の一人になります、准教授の大泉と申します。元は関西の大学でエネルギー資源に関する研究をしておりましたが、この度ダンジョン資源に関するエネルギー研究のほうへ舵を切りまして、そちらの方面での研究と講師を担当することになります。さて、ダンジョンでエネルギー資源と言いますと、真っ先に思い浮かぶのは魔石のことだと思いますが、現状では魔石の加工技術がまだ未熟であり、魔石のエネルギーとしての価値はまだまだ研究段階にあると推察されます。私の研究および皆さんが私の研究室に所属される場合、そちらの方向性の研究に共に挑んでいくという形になると思います。そもそもエネルギーポテンシャルの話で言いますと魔石とは……」
ここから、非常に専門性の高い話が続き、流石の彩花も俺も少し飽きてきた。というより、何を言っているかわからないというレベルの高度な話をされている可能性がある。一応頭には入っているが、このまま話を続けられると非常に睡眠的生存率が低くなってくるんじゃないだろうか。実際、既に専門性の高すぎる話についていけず舟をこぐ受験希望者が出始めている。
「彩花、寝るなよ。眠いのはわかるし俺もついていけてないが、ここで寝たら多分学部に入ることは諦めてファッションでダンジョンに潜ってるほうが賢いって話になっちゃうぞ」
「うん、がんばる。けど、ついてきてる人間が少なそう。大丈夫なのかしらこんな調子で」
「まあ、全学共通科目以外の専門科目がどうなるかだな。今は興味があるふりをするか、興味を持てる話題だと思い込むことが大事だ」
専門的な説明が一区切りつき、ようやくこちらを向き始めた大泉准教授が、自分の研究テーマを発表し、説明を終える。
「で、ここからが大事なことなんだけれど……ダンジョン学部はフィールドワークも行うけど、さっき私が説明したような座学もきっちりやっていくことになるからそれは覚悟しておいてください。ダンジョン学部だからダンジョンに深く潜っていればいいかと言われればそれは違います。ダンジョンという比較的新しい研究分野に関して、多角的視点からアプローチしていく必要がまだまだある分野だと言えます。今寝てる子は……厳しいかもしれないから、ダンジョン学部に入ってダンジョン探索者をやるより、他の学部へ行って趣味で空いた時間にダンジョンに潜ったほうが良さそうね」
俺の思ったことを指摘され、半分眠りに入っていた学生が青い顔をし始める。流石に顔は覚えたからな? という意味ではないとは思うが、専門性の非常に高い学部であるということは伝わった。
「ここで質問が何かあればどうぞ。なければ学部全体と、今後の学部としての四年間におけるカリキュラムの大枠の説明、それからフィールドワークでどこまでの物を求めるか、等を解説していきます」
ここで質問タイムが取られた。どうやら幾人かの勇気ある受験生が手を挙げ、ここでアピールしておかないと他に顔を売っておくところがないぞ、といったような気持ちが伝わってくるようだ。
「ダンジョン学部のフィールドワークに関わることだとは思いますが、ダンジョン探索者証を所持する必要はありますか? または、入学の際にダンジョン探索者証を保持していることが入学の条件になったりはしますか? 」
既に探索者であるものはさておき、これから探索者になるものが探索者証を所有することについて、入学前の段階から求められるのかどうか? という質問であってるんだよな。
「入学時に持っている必要はありません。ただ、入学後に取得してもらう必要はあるとだけ言っておきます。フィールドワークとしてダンジョンに潜ってもらう機会もありますから、それまでに取得しておいて装備も含めて自前で用意することを考えておいてください。どこまで強くなっておくかはこの際考えておかなくて結構です。ただ、学部としては個人の探索者としての実力やどこまで潜り込むことができるのか? という点に対しては今の所言及したり無理強いをさせるつもりはありません。人によって限度はあるでしょうし、自分の研究対象になるような素材を手に入れてくることができるまで深く潜り込むことができるかどうかはまた別問題になりますからね。なので、探索者である必要はありますが急ぎでなる必要はありませんし、あらかじめ踏破しておく階層がある、もしくはフィールドワークの課題として階層を指定したり、特定のモンスターのドロップ品を持ってくることを課題にしたりすることは、現段階ではないと言っておきます。ただ、ゼミ……つまり研究室の違いによってはその限りではありませんと言っておいたほうがこの場合は良いんですかね、渡辺学部長」
ふと気が付くと、先の全体講演でダンジョン学部のことを熱く語っていた人物……渡辺学部長がこっそりと聴講者に混ざっていた。気が付かなかった……忍び足でも持ってるのか?
「そうですね。大泉准教授の言うように、フィールドワークをメインとしたゼミが今後誕生しない可能性はない、とは言い切れませんからね。また、大学のサークルとしての探索者活動を行う可能性も考えれば、ダンジョン学部の受講生がその中で音頭を取れるかどうかは大事な所でしょう。そういう意味では個人的な趣味の範囲ではありますが、探索者としての経験を積んでいくのは悪いことではありません。どれだけの苦労と努力を重ねた結果、ダンジョン内におけるドロップ品である研究素材の確保や高品質の魔石の取得、ダンジョン内の環境の把握などをしていく必要がありますからね」
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