290.結婚の挨拶3
「精霊……」
そうか、先程の違和感はだからか。と納得する。
人族の時には分からなくても、鬼神になったからかステータスを見なくても人間とそれ以外の違いは多少分かるようになっていた。
「うまく擬態していたから分かりにくかったかもしれないけど…」
ステータスを見たのだろう。間違いないと言い切るミヤビを抱き寄せる。
「だから警戒してたのか」
「…ごめん。ロードの信用してる人なんだろうけど…私の事を精霊だと聞いているだろうに、あの人はどうして嘘を吐いたのか気になって」
「何も謝るこたぁねぇだろ。しっかし、オリバーが精霊だったとはなぁ…」
考察しながら、腕の中にいるミヤビを不安にさせねぇよう顔中にキスすれば、くすぐったそうに身をよじるのであまりの可愛さにオリバーが精霊という事がどうでもよくなってきた。
「ローディー!! 待たせたなっ」
バンッと扉を開け入ってきた義兄にうんざりする。
ノックぐらいしろ。そして“ローディー”は止めろ。今は俺達しか居ねぇだろ。
「お前に会いたがっていた者を連れて来たぞっ」
会いたがってた奴だぁ?
「スレイダ様。部屋にノックも無しに入るなどお行儀が悪ぅございますよ」
この声は……
「当主の無作法をお許し下さい。ロード様、精霊様」
義兄の後ろから入ってきたのは、
「ヴィヴィアンか!!」
俺の教育係兼世話係だった侍女のヴィヴィアン。当時40才を過ぎていた人族の女性だった。
「お久しぶりでございます。ロード坊っちゃま」
「おいおい。坊っちゃまは止めろ。しっかしまぁババアになっちまって」
そりゃそうか。家を出てから20年帰ってなかったしなぁ…。親父やお袋はたまに王宮に来ていたが、ヴィヴィアンは伯爵領から出るこたぁなかったから顔を合わせる機会もなかったしな。
「ババア…ですか? ロード様はいつからそのような愚かしい言葉を吐くようになったのでしょうか」
大仰にため息を吐くと、ババアとは思えない鋭い目で俺を睨み、低い声で
「再教育が必要でございますね」
と言うもんだから、変な汗が背中を伝った。
「あ、いや、そうだ!! コイツが俺のつがいのミヤビな!!」
「おい!? 今完全に話をそらせる為に私を紹介したでしょ!?」
悪ぃなミヤビ。つがいを助けると思って目眩ましになってくれ!! ヴィヴィアンは怒らせると恐ぇんだ!!
目で合図を送れば、ミヤビは胡乱な目で俺を見た後、仕方ないという諦めの表情をして俺の腕の中から抜け出したのだ。
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ミヤビ視点
「初めまして。ご挨拶が遅れ申し訳ありません。ミヤビと申します。宜しくお願い致します」
カーテシーなど出来ないのでお辞儀をすると、ロードのお兄さんも上品な老女のメイドさんも目を丸くして私を見ているではないか。
失敗したか? と気まずくなっていると、老女のメイドさんが「まぁまぁ」と瞳を輝かせ始め、お兄さんは慌てて背筋を伸ばし、
「改めまして、私はこの家の当主でスレイダ・オドス・ロヴィンゴッドウェルと申します」
と自己紹介を始めたのだ。
「私はロヴィンゴッドウェル家の侍女頭を担っております。ヴィヴィアンでございます」
老女のメイド…ヴィヴィアンさんからは美しいカーテシーを返されいたたまれない。
「まさか愚弟のつがいが精霊様だとは想像もしておりませんでしたが、いやはや、思いもよらぬ事もあるもんだ」
と豪快に笑い出すお義兄さんにビクッとする。
血が繋がっていないと聞いたが、お義兄さんもロード位に大きいし、筋肉もムキムキだ。ロードみたいに無精髭は生やしていないが、見るからに脳筋…。
「うるせぇ愚兄。デケェ声で急に笑い出すんじゃねぇよ。ミヤビが怖がってんだろ」
またしてもロードに抱き込まれ、恥ずかしさに下を向く。
「ミヤビは身籠ってるから吃驚させんなって言っただろ」
「すまん、すまん! しかしあのローディーにつがいがなぁ!! しかも子供まで…っ」
「だーかーら! ローディーは止めろ!! 後余計な事言ったらぶっ殺す」
やっぱり家族の前だとロードが少し幼く見えるなぁと観察していると、
「ご懐妊されております女性を、兄弟喧嘩でお待たせすべきではございません。さぁさミヤビ様、お部屋の準備は整えておりますのでこちらに」
ヴィヴィアンさんに声を掛けられ首を傾げる。
「お部屋の準備…??」
確か日帰りだってロードからは聞いてたんだけど…。
「ヴィヴィアン、俺らは親父達に会ったらすぐ帰るから部屋はいい「何を仰っておいでですか!! 身重の女性を休ませもせずに帰るなどとんでもございません!! 殿方と違い、女性は繊細なのですよ!!」」
眦を決してロードを怒鳴るヴィヴィアンさんは確かに迫力がある。ロードが怖がるのも無理はないだろう。
「いや、でもな…」
「でももへったくれもありません!!」
「う…っ」
完全にロードが気圧されている。そしてヴィヴィアンさんはロードへの態度とはうって変わり、
「さぁミヤビ様、お部屋にご案内致します」
にこやかに案内してくれたのだ。
勿論ロードも慌てて付いて来たのだった。




