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異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ  作者: トール
第5章

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246/303

244.ずっと気になっていた事


ヴェリウスの毛並みを堪能して皆へ向き直ると、あの忌まわしき出来事を語って聞かせたのだ。


異世界へ渡る“道”や他の創造神の事、そして地球での事━━…


彼らは静かに耳を傾けてくれた。




「━━…それは、何と言えば良いのか、」


話を聞き終わった皆は、それぞれ躊躇いがちに口をもごもごさせると目を逸らせた。誰も私を直視しようとしないのだ。

「災難でしたね…」という声は誰のものだったのか。トモコやロードでない事は確かだ。


「みーちゃんって毎回死に方がコントだよね~」


仰る通りだトモコさん!! って話を聞いた感想がそれ!? 他にないのか!?


『ミヤビ様、まさかそのような事でお命を散らされたとは…っ』


ヴェリウスは悔しそうに俯き前足で畳をパシパシ叩いている。可愛い仕草だが、畳がだめになるから止めなさい。


「そのふざけた“創造主”にゃ腹が立つが、雅と出会えたのはそいつのおかげでもあると思うと複雑だな」


ロードはそう言って腕の中へ私を抱き寄せ、ランタンさんは神王様が帰って来てくれただけでもアタクシは嬉しいわと、やはりクネクネしながら胸元のメロンを揺らしていた。

ジュリアス君もランタンさんの意見に頷き、神王様のそばにいられるなら良いと笑っている。


魔素が尽きかけた中、帰って来ない私を待っていた皆の姿を思うと胸が痛むが、この子達は責めもせずこうしてまた受け入れてくれたのだ。


「皆、ありがとう。…今まで辛い目に合わせてしまってすまなかった。恨まれて当然だというのに、待っていてくれたんだね」

『っ神王様!!』


ロードを蹴散らしてヴェリウスが突進してきた。

どうやら一番の甘えん坊は変わっていないようだ。


抱き付いては来なかったが、ランタンさんの瞳は潤み、ジュリアス君にいたっては抱きつこうとしてロードに阻止されていた。ヴェリウスに蹴散らされた後のロードの行動は素早かった。


「ヴェリウスはまだしも、男が俺のつがいに触れるんじゃねぇ」


ヤクザのように凄むロードのあの顔…貴族のお嬢様方から盗賊扱いされるはずである。



暫く我が子(神々)と戯れた後、まだ本調子ではないと皆を追い払ったロードに抱き込まれたまま30分。一向に離してもらえない。


「ロード、お腹も空いたしそろそろ離してくれないかな?」

「嫌だ。飯なら収納してるもんがあんだろ」


それを出して食や良いだろうが。とぞんざいな言い様に、つがいになんて態度だと頭突きしたくなった。


前々から思っていたが、この男は私に対しての扱いがつがいのそれじゃないのだ。平気で睨んでくるし。

トリミーさんの旦那さんは、目の中に入れても痛くないくらいの溺愛っぷりでトリミーさんをお姫様扱いしていた。

他にも王都の人族のカップルは大概男性は女性をお姫様のように大切に扱っていたのだ。


しかしこの男はどうだ。神輿のように私を担ぎ移動し、舌打ちや睨み付けは当たり前。出会った当初は嘘をつき監視して薬を盗むという暴挙に出た事すらあった。

挙げ句このぞんざいな言い様。


誰かーー!! このゴリラにつがいとはなんたるかを説いてやって下さい!!


「うるせぇ。十分溺愛しているし、お姫様通り越して神様扱いしてやってんじゃねぇか。最高グレードだろ」

「これが最高グレードだと!?」

「これ以上って事なら、そりゃもう布団の上じゃねぇと不可能だな。お、丁度布団の上だし、最高グレードの更に上を今すぐ実感させてやろうか」


すいませんでしたーー!! もう文句は言いません。神様扱いありがとうございますーー!!


「ったく。俺の愛はどうやったらお前に届くんだ」


ぶつぶつ言いながらも離さないその愛は十分届いていますとも。と2人で軽口をたたき合っていた。


そんな中タイミングを見て、雰囲気が和んだ所でずっと気になっていた事をロードに聞いたのだ。


あのさ…と恐る恐る切り出すと、ロードは何だよと私の肩に埋めていた顔をあげる。



「ロードは、神王(ワタシ)を恨んでないの?」



後ろから私を抱き込むロードの腕の力が強くなる。

肩に顔を埋め、暫し沈黙が落ちた。


「ロー…「恨むわけねぇだろ。何ふざけた事聞いてんだ」」


少しだけ不安になった私に、この男ははっきりそう言って埋めていた顔をぐりぐり擦り付けてきたのだ。


「ちょ、何? くすぐったいんだけどっ」

「お前が可愛い反応すっからだろ」


何やら悶えているようだ。あー可愛い可愛いと言いながら肩口に猫のようにすり寄り、ぎゅうぎゅう抱き締めてくる。


「神王がこの世界から消えたのなんぞ気の遠くなるほど前だぜぇ? 魔素が尽きかけていたからって神王のせいじゃねぇだろ。天災みてぇなもんだ。それで神王を恨むなんてお門違いもいいところだぞ」


だからそんな不安そうな顔すんなと包み込んでくれるロード。

もしかしたら教会の神王像の件もイアンさんのいう不正の件も全て知っているのかもしれない。だからこうして励ましてくれているのだろう。


「ありがとう。気にしないようにしてたけど、神王像が壊されてたり、責められる夢を見たりしたから、少し落ち込んでたのかも」

「あ゛?」

「ん?」

「神王像が何だって?」


ロードの頭に角がメキメキはえていき、こめかみの血管が浮き出て目が血走り始めた。


「え、いや…知ってたんじゃ…」

「初耳だなぁ…」


地を這うような声と笑っていない目が徐々に怒りに染まっていくのが見えるようで顔が引きつる。


「責められるって、誰にだ?」


低く冷たい声で尋ねられ、背筋が凍るかと思った。

ロードの周りの空気がピリピリと肌に刺さるように痛い。


「ゆ、夢の話だよ~。しかもまったく知らない人だし…ハハハ」

絶対言っちゃダメな人に自ら暴露してしまったと気付いても後の祭りであった。

ロードは私ではらちがあかないと思ったのだろう。

立ち上がると自らが追い出したヴェリウス達を探しに行ってしまったのだ。鬼神の外見のままで。


今頃地上では雷が落ちているかもしれない。それほどまでに彼の怒りは凄まじかった。

まさか自分が殺気や怒気を肌で感じとるというバトルマンガのような事を経験するとは思わなかった。




◇◇◇




「そういえば、イアンさんは何処に行ったんだろうか?」


ロードが“怒れる鬼神”にチェンジしてヴェリウス達を探しに行ってから一向に戻って来ないまま時間が過ぎ、ふと思い出したのは完全に忘れていたイアンさんの行方であった。


しまった!! と思い慌てて立ち上がり障子を開け放つ。


美しい日本庭園が眺められる廊下には誰の姿もなく、それを良いことに駆け抜ける。


ヴェリウスの事だ。イアンさんを勝手に天空神殿から追い出したりしていないはず。

そんな事を思いながらパタパタ走っていると、ロードらしき声と、イアンさんらしき声が耳に届き足を止めた。


「テメェ、まさか……ッ」

「貴方はあの時の…っ」


声がする方へ行けば、睨み合う2人の姿……いや、睨んでいるのはロードだけか。

イアンさんはロードの鬼神化に戸惑っているのか、ぎょっとした表情で角に注目している。


「テメェが何で天空神殿(ココ)に居やがるっ」


ロードが鬼の形相そのままにイアンさんに絡んでいくものだから、イアンさんはひぃっと声を上げ怖がっているではないか。


止めなければと一歩踏み出したその時、


『貴様らにどのような因縁があるかは知らぬが、神王様のお膝元で争うでない』


氷の結晶を纏い現れた艶やかな黒に、刹那、ロードの身体が宙を舞い日本庭園へと吹っ飛ばされたのだ。


ヴェリウスの強力なバックキックが決まった瞬間である。

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