表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ  作者: トール
第5章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

236/303

234.不味すぎるご飯


晩餐会にはそれはもう豪華な食事が運ばれてくる。


見た目だけ。


厨房で少し味見させてもらったのだが、味は激マズであった。それを貴族や教会関係者は美味しそうに食べている。が、その中で顔色が良くない者が数名いた。


聖女であるお嬢様と、レンメイさん、カルロさん、そしてルーベンスさんだ。


お嬢様は一回り小さくなった事から食事が喉を通らないのは分かる。ルーベンスさんも最近ロードが作ったお菓子や軽食の差し入れをしていたのでご飯が不味いのだろう。

カルロさんにもパーティーに連れていってもらったお礼に、ロード特製のお弁当とお菓子を渡したので、舌が肥えてしまったのではないかと推測する。

レンメイさんは知らないが、もしかしたらロードがお菓子やお弁当をあげていたのかもしれない。


ロードのお手製を食べた者にとっては、王宮の豪華な食事も残飯にしか思えないだろう。

しかし、宰相があんなに顔に出して大丈夫なのだろうか……ほとんど食べていないし。

他の人達は、「これは豪華な」「さすが王宮の…」等と嬉しそうにパクパク食べている。

そんな光景を見ながら思うのだ。


飯テロをおこすしかない!! と。


しかし私は料理が作れない女である。絶品料理を作るロードは世界会議が終わるまで身動きがとれない状況にいるわけで、ここはウチの珍獣達の出番ではないかと思っているのだ。


ロードとまではいかないまでも、珍獣達のご飯は美味しい。

ロードが料理人のプロの中でもトップなら、珍獣達はそれに次ぐ美味しさだ。

そして私も珍獣達もお城の人達には借りがある。


あれは天空神殿でのパーティーの前、珍獣達を人型にした私は、ルマンド王国の王様に頼んで偉い執事さんと偉い侍女さんを教師とし、皆を王宮で教育してもらうという大きな借りを作ってしまったのだ。


なので今度は我が珍獣シェフ部隊を王宮の厨房に送り込むか、もしくは厨房の代表を数人珍獣村に呼んで料理を教えるかという計画を練っていたのだ。

とはいえ、その前にお嬢様に食欲が増す軽食でも差し入れするかなと思いつつ晩餐会を後にした。


その頃厨房で、「おい!! 誰がつまみ食いしやがった!? このクソ忙しい時に全皿ちょっとずつつまみやがって、なめてんのか!!」と料理長がキレていた事を知らずに。



◇◇◇



19時頃から始まった晩餐会も終わり、聖女の為に用意された部屋へお嬢様が戻ってくる頃には23時を過ぎていた。

子供には長すぎる拘束時間ではないだろうか。もう寝る時間だろう。

結局お風呂やらでお嬢様がベッドに入ったのは12時を過ぎていたので、この日はもう話し掛けずにウチへと帰ったのだ。


私の帰宅時間の遅さにヴェリウスが怒り、夜中の12時過ぎだというのに説教されるはめになったのは想定外である。

明日はお嬢様に美味しい朝食を持って行ってあげようと思っていたのに…。



翌日、案の定寝坊した私がお嬢様の元へ行ったのは昼前であった。美味しい朝食のはずが、美味しい昼食に早変わりである。


「ベルーナ様、今朝のお食事もほとんど召し上がっておりませんし、昨日の晩餐会でのお食事もお口に合わなかったご様子ですが、少しは召し上がらないとお体に悪ぅございます」


王宮から付けられた侍女なのか、メイドの格好をした女性が心配そうにお嬢様へ話し掛けている。

お嬢様は食欲がないのと首を横に振るだけだ。

多分昼食を断ったのだろうと推測される。しかも朝食もほぼ口にしていない様子に雑炊を用意して正解だったと思う。


侍女が部屋から出て行き、お嬢様一人になった所で昨日と同じように姿を現せば、「まぁ、また会いに来てくださったの?」と目をパチクリさせて言うので食事を持って来ましたよと机の上に準備する。


「え?? 何処から出てきたのかしら?」


雑炊の入った土鍋や食器類を出していれば、戸惑ったような声が耳に届いたので秘密ですと返して準備し終わった机の方に来るよう声をかけた。


「何だか良い匂いがするわ」


興味を示してくれたのか、ゆっくりやって来たお嬢様に席へ座るよう伝え、お嬢様が席についてからその目の前でそっと土鍋の蓋を開けたのだ。


ほわっと湯気があがり、白だしの良い匂いが鼻腔をくすぐった。思わず唾を飲む。


「これは…」

「鶏肉と梅干し、大葉の入った雑炊ですよ。食欲が無い時でも食べやすいので試してみてください」


ウメボ…? オオバ?? と良く分からないようだが、食欲そそる匂いに負けたのか、スプーンを手に取るとコクリと喉を鳴らして食べ始めたのだ。



「美味しい……っ」


一口食べて暫くモグモグした後、カッと目を見開き言った一言に、料理マンガのようだと思いながらそうでしょうと頷く。

何しろその料理は、ロードが食欲の無かった時の私の為に作った雑炊をコピーしたものなのだ。美味しくないわけがない。

特にこの飯マズ世界では相当美味しく感じる事だろう。


現に食欲の無かったお嬢様が相当の勢いで雑炊をかきこんでいるのだから。


「ご飯を食べないと元気も出ませんからね。沢山食べてください」


美味しい、美味しいと食べるお嬢様は年相応の幼い子供で、大人の都合で親元から離され閉じ込められるなんてあってはならない事だと突き付けられた気がした。




「とっても美味しかったわ」


一人用土鍋の中身を全て食べきったお嬢様は、何だかホッとした表情でそう言うと、お嬢様然とした微笑みではなく子供の素直な笑顔を私に見せてくれたのだ。


「それは良かった」


空間収納の中に綺麗にした食器や土鍋を片付けて微笑めば、


「貴女は…いえ、貴女様は噂の精霊様だったのですね」


と言われて返答に困る。

ロードと一緒の所を見られているし、突然現れたり消えたりするものだからそう思い至ったのだろう。が、精霊ではない。


「何故正体を隠されているのですか?」


いやぁ特に隠しているわけでもないんだけどね、ただ皆が神様だとは思ってくれないだけで。と心の中で呟きつつお嬢様を見れば目が合った。

彼女は先程よりも血色の良い顔をして私をじっと見つめていたのだ。


「わたくしを心配して様子を見に来てくださっていたのですか?」


恐縮ですと言わんばかりに身を縮め、眉をハの字にして上目遣いをするので、コロコロとした小動物のように見えてきた。

子供を心配するのは当たり前です。と頭を撫でればお嬢様は、もう子供ではありません。わたくし自立いたしましたのよ? と胸を張って、しかしどこか悲しそうな瞳でもって主張するので、そうだねぇと同意しながらも頭を撫でる手を止めなかった。


「…精霊様、わたくしは大丈夫です。だって皆様が心配して助けてくださるのですもの。精霊様までこうして来てくださるくらい」


健気に微笑む姿がいじらしくて、このまま拐って行こうかと思った位だ。


「もし、聖魔法を使いたくないと思うなら言って? 力を封じる事も出来るから」


今すぐ結論を出せというわけではない事も伝えて選択肢の一つを提案すると、彼女は暫く俯き、顔を上げて首を横に振ったのだ。


「いいえ、精霊様。わたくし聖魔法の適性があって良かったと思っておりますの。だって聖魔法は、人々を癒して笑顔にする事が出来ますでしょう。それに、」


精霊様にもお会いする事が出来ましたし、美味しいものも食べられましたわ! と笑うお嬢様はどこか吹っ切れたような表情で、何て良い子なんだろうかと眩しく思えた。


「だったらお嬢様、これだけは覚えておいて。自分ではどうしようもないと思ったら、私を呼んで。すぐ助けに行くから」


私の名前はミヤビだよ。

そう伝え、お嬢様が目に涙を溜めてはいと頷いた所で丁度人が来たようだったので家へ転移したのだ。



「ヴェリウス!! 居る?」


どうやら家には居ないようだったが、飯テロの話がしたくて大きな声で呼ぶと、


『お呼びでしょうか? ミヤビ様』


と私の目の前に突如現れた。

最近のヴェリウスは転移も簡単にするようになってきたな。


「ヴェリウス!! 飯テロだよ!!」





『━━…つまりミヤビ様の言う“飯テロ”とは、この世界の不味い食事を改善しようという事なのですね』

「そうなの!! 晩餐会の食事がとんでもなく不味くてね、これは“味噌”や“醤油”の出番だなって!」


捲し立てるようにヴェリウスに説明した後、ヴェリウスが頷き成る程…と考えているので、まずはルマンド王国の厨房から改善していこうかなぁって。とこちらの考えを伝えると、ヴェリウスは少し困ったような表情で私を見た。


『ミヤビ様、残念ながら“味噌”や“醤油”の原料である“大豆”は、この世界にはありません』

「え?」

『さらに、“米”に関しては似たような植物はあるかもしれませんが、品種改良しておりませんのでミヤビ様のお好きな白米とは全く違うものかと。この世界にミヤビ様の畑と同じものはないと思ってください』


この瞬間、私の飯テロ計画が頓挫したのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ