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異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ  作者: トール
第1章

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22/303

22.良い所って大概もっていかれるよね


『ミヤビ様っこちらは終わりました!』


カッチコチに固まったダリ髭公爵達を、氷でできた鎖で一纏めにして引きずってきたヴェリウスは、尻尾をブンブン振って褒めて褒めてと言わんばかりにそばへとやって来た。

ハッハッといいながらこちらに期待の目を向けて。


こういう時は思いっきり褒めてあげる事が大事だと、いつか読んだ“犬の飼い方としつけ”という本に書いてあったなぁと思い出す。


「よくやったね~!! 良いこ、ぐふぁッッッ」


ふわっふわの首もとに手を埋めて、某動物王国のキングのようにわしゃわしゃしようとすれば、突然丸太(のような腕)に腹を掬われ身体が宙に浮いた。


そうかと思えばがっちり固められて腕の中にいた。ゴリラの。

バックドロップ一歩手前の状態である。


「テメェ、俺というものがありながら犬っころに触るたぁどういう了見だコラァ」


意味がわからねェェェ!!!?

内臓!! 内臓が口からこんにちはするからァァ!!


『貴様ぁッせっかくミヤビ様から褒めていただける所を…っ許さんぞ!』

「んだとコラァ!! 許さねぇはこっちの台詞だ犬っころ!」


またこのパターンか!! 止めろっ読者はもう飽きているぞ!

それより初仕事をさせてくれ!!


ロードの腕の中から牢屋の隅へ転移すると、何故かそのことに気付かないゴリラと犬がギャンギャン言い合っていた。

金髪青年だけはこちらをぎょっとして見ていたが、気にせず初仕事を始める。



まずは病気の完治と体力の回復、後は“マソ”とやらの補充、だよね。


しかし“マソ”とは何だろうか?

金髪青年の話では、“マソ”が尽きたから病気が蔓延したとか。

薬か? それなら病気を完治させるからいらないか。


でもスルーしたらヤバイ匂いがするんだよなぁ。


「ちょっとそこの金髪青年、“マソ”が何か教えてもらえるかな?」


聞いた方が早いので近くにいた青年に聞いてみた。

声をかけた時ビクッとされたのは見なかった事にしよう。


「は……あの、魔素ですか…?」

「そう。マソって一体何?」


え、何で知らないの? みたいな顔をされ、戸惑いながらも答えてくれる青年は人が良いのだろう。


「“魔素”とは、神王様がこの世界を創られた時に、世界の生きとし生けるものを守る為に覆われた、結界の内側で発生したものだと言われています。生命力や魔力の素となるもので、これが尽きれば生物は死に至ると…」


成る程、結界は地球でいうオゾン層のような役割をしていて、その内側で酸素とはまた別の、この世界特有の生命維持にかかせない“もの”が発生したと。

それが“マソ”。

魔力や生命力の素だって事だから、漢字をあてると“魔素”か。


「何となくイメージ出来たわ。ありがとう」


青年にお礼を言い、願う。


念のため世界を覆っている結界を修復し、強化するイメージと、魔素の増加。病気の完治と体力回復。もうこの辺りは元気な状態に戻るよう大雑把に。


世界規模だったからか、いままでなかった力が抜けるような感覚に驚いたが、何となく、まだ余裕がある感じもするので気にしない。




刹那、

まるでダイヤモンドダストのような、キラキラと光る結晶がふわりふわりと雪のように降り注いだ。


「これは…っ」


青年が息を飲み、ゴリラと犬の言い合う声がやんだ。


『魔素が、世界中に満ちた…っ』

「あ? そりゃどういう…」


ヴェリウスにキラキラの結晶があたる度に、毛並みが良くなっていく。

何だかうっすら光りだしてる気がしなくもない。

ロードもそう思ったのか、ぎょっとした顔でヴェリウスを見ていた。


「…祖父から聞いた事があります。神王様が世界を結界で覆った日、世界は光で溢れたのだと……っ」


青年の言葉が耳に届いた時、


「アオォォォーーーーーー!!!!!」


ヴェリウスが遠吠えをして、発光し始めたのだ。



そしてー…




え…ちょ、ええェェェ!!??




発光しているヴェリウスはどんどん巨大化し、遂に元の大きさをも越えてしまった。


当然牢屋は鉄格子が無くなってもそんなに広くないわけで、メキメキいいだしている壁や天井に、このままでは潰されると危機感を抱いた私は、周りに居た人達と共に急いで外へと転移した。




ふわりと頬を撫でる風と、ヴェリウスの纏った光とは違う自然光に、外へ出たんだとホッとする。


牢屋の外なんて見たこともなかったので少し不安だったが、転移でも上手くいったらしい。扉で繋げた方が安全だったがそんな時間は無かったので仕方がない。


「ミヤビ!」


外に出た途端ロードに体当たり…いや、抱き締め……潰されたがこれはもう諦めよう。コイツの癖なのだ。


「あの犬っころは一体何なんだ?! いきなり光りだして巨大化したぞ…しかもこの光の結晶は…っ」


ロードに言われふと思う。未だ周りを雪のように舞う光の結晶は、一体いつまであるのだ…と。真剣に心配になってくる。

綺麗だが、このままずっと舞っていたらかなり鬱陶しいだろう。




そういえば、この世界に来て初めて森以外を見た気がする。


どうやらここは城内の庭の一角らしく、少し離れた所に石で出来たばかデカイ洋風の古城と、反対側にそれを囲むようにして建てられた壁が見えた。

気分は一瞬で観光客である。


しかし、くすんだグレーや茶の石で出来ている城はおどろおどろしく、何だか雰囲気が怖い。

よく見ると周りの植物も元気が無く枯れているようで、余計お化け屋敷のようだ。


けれど光の結晶が舞っている為、何とか怖さを緩和出来ている。昼間という事も大きいが。


「ロード、ここってお城…」


ロードに話しかけた時、タイミングを図ったように地面からゴゴゴゴ…と地響きが鳴り始め、地震が起きた。

かなり大きな揺れに転びそうになる。


やっと揺れが収まってきたかと思った次の瞬間…


ドオォォォンッ━…!!!!


爆音がして、目の前の地面が隆起したのだ。


「おいおい。マジかよ…」


さすがのゴリラもこれには驚いたのか、私を抱き潰したまま即座に後退した。

金髪青年も青い顔をして同じように後退し、ダリ髭公爵達は盛り上がった地面の影響でゴロゴロと転がっていった。


再度ドンッ!! ドンッ!!!!と大きな音と振動で、隆起した地面にヒビが入ったと思ったら、爆発したように土が舞い上がって、黒い何かが勢いよく飛び出てきたのだ!



バラバラ降ってくる土の雨の中、

垣間見えたのは鋭く光る牙と、艶やかな黒、そしてまばゆい光だった。



『アオォォォォーーーーーー!!!!』


再びあがる咆哮と共に光の柱が立ち上がり、天を貫いた。


すると、それに続くようにいたる所で次々と光の柱が天をつき、空を白く染め上げたのだ。





驚きすぎて誰一人声が出せず、呆然とその光景に目を奪われていた。


その時、まばゆい光の柱から波紋のように、目に優しい光が拡がっていき、その光に触れた枯れかけの植物が、一気に鮮やかさを取り戻していったのだ。


一瞬で私達の周りは鮮やかな緑と色とりどりの花で埋まり、それが世界中で起こっているのだと理解した。

何故なら、他の光の柱からも同じような現象が見られたからだ。





「…神獣だ……」


青年の呟きが耳に届いた。


「あの犬っころが神獣だぁ?」


呟きを拾ったロードが、目の前で上がる光の柱を見ながらマジかよ…と口元を引きつらせ私を見下ろしてくる。


「オメェなんつーもん従えてんだっ」

「ウチのペットになりたいって言ったのはヴェリウスですー」


何故かオッサンに怒られたので言い返せば、大げさに溜め息を吐かれた。失礼な奴だ。


しばらくすると城壁の外から何やら声が聞こえてき、人々が城の周りに集まって来ていることに気付く。


最初はまばらだった人の声が、あれよあれよという間に大きな塊となり、地響きのするような大歓声へと変わった。


まるで国中が歓喜に包まれたかのように。


「神々は、我らを見捨てたわけではなかったんだ…っ」


金髪青年が唇を噛み、涙を流しながら光の柱を見上げ、膝をついて天に祈るかのようなポーズをとった。


ロードは特に表情は変えず、白く輝く空を見ている。



そんな事よりも、これは良い所を全部ヴェリウスに持っていかれた気がするんだが…。

考えてもみてほしい。流行り病を治して魔素を増やすぜ! と意気込んだものの、端から見ると私は何もしていないように見える。


だって心の中で願っただけだもの。


ロードや青年達には、意気込んで大口を叩き、ヴェリウス(ペット)に全部任せた役立たずだと思われただろう。





……ヴェリウスさん。もういいでしょう。

戻ってらっしゃい。

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