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異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ  作者: トール
第4章

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199.チラシの問題点


「そんな大それた物とは知らず申し訳ありませんでしたーー!!」


紙の革命とまで言われてしまった事に泣きそうになりながら平謝りすれば、「まぁいつもの事だしな」とロードには頭を撫でられ、「君と出会ってから心休まる暇がない」とルーベンスさんには嫌味を言われた。


「それで、この“チラシ”とかいう紙の製造方法と権利だが…」

『その交渉、私が代わろう』


突然、ルーベンスさんの執務室に雪の結晶が散り、フワリと艶やかな黒が舞い降りた。


「「ヴェリウス!?」」


いつもの室内犬サイズよりも大きな、2メートル程の大きさで転移してきたヴェリウスは私の前に現れると、ふぁさっと尻尾で顔を撫でてくる。


「うぷっ ヴェリウス、どうしたの?」

『ミヤビ様、“和紙”の交渉はこのヴェリウスにお任せ下さい』


今までの会話を聞いていたのか、ヴェリウスはそう言ってルーベンスさんの前に立ちはだかったのだ。


「神獣様…ようこそ御出下さいました」


ルーベンスさんはヴェリウスの前へ跪くと頭を下げた。

その様子はまるで物語に出てくる騎士のようで、おぉっと声を上げそうになるのを我慢した程だ。


『ふんっ 人間と交渉などする事などないが、たまにはよかろう』


偉そう!! ヴェリウスがすごく偉そう!! けど見た目が犬だから尊大な態度も可愛い。


「…神と交渉などとお戯れを。お姿を拝見出来ただけでも光栄な事です」

『殊勝な心掛けよ。さて、ルーベンス・タッカード・ルーテルよ、貴様の言う“和紙”の製造方法はここに記してある』


ヴェリウスは別空間から和紙で出来た本を取り出し前足をそれに乗せた。


「…何とも準備のいい事ですな」


それを驚いた風でもなく見つめるルーベンスさん。一人と一匹の間に見えない火花が散る。

やはり弟子(ロード)と仲が悪いと師匠(ヴェリウス)も敵視してしまうのだろうか。


「神獣様のお望みは何でしょうか」

『フム…それもこの紙に書いてある』


そう言ってまた別空間から出てきた和紙の手紙は、ルーベンスさんの手元へ直接渡ったのだ。


『その条件をのめば和紙の製造、権利は貴様のモノよ』

「……」


ルーベンスさんは黙って手紙を折り畳み、懐へとしまうと頷いた。


「神獣様のお望みのままに」


ヴェリウスに跪き、頭を垂れるルーベンスさんの表情は見えなかったが、その声音は安堵しているように聞こえたのだ。



◇◇◇



ヴェリウスの登場で解放された私は、先程のやり取りをトモコに報告すべく店舗へ戻ると、暇そうにカウンターでデザイン案を描いているトモコに声を掛けた。


「トモコ、ただいま。お店の方は大丈夫だった?」

「あ、みーちゃんお帰り~。前の通りを数人がこっちの様子を見ながら通って行ったけど、それ位かなぁ。みーちゃんはどうだったの?」


相変わらず暇だったらしい。


「私の方は和紙の製造方法と権利を譲ってくれっていう話だったよ」


報告すれば、トモコはキョトンとしてコテンと小首を傾げる。


「ん~?? 羊皮紙があるのに、“パピルス紙”は無いの?」


パピルス紙とは、植物の茎の繊維を重ねて作った紙の事で和紙の前身のようなものである。

地球では確か羊皮紙よりも前からあった気がするが、私の記憶力では定かではない。


「分からないけど、ルーベンスさんは和紙は紙の革命だって言ってたよ」

「あちゃ~…で、その後どうなったの~?」


あちゃ~とか言いながら全然困ってない様子で聞いてくるトモコに、もしかして予想してたのだろうかと疑いをかけてしまう。


「ヴェリウスが交渉にあたってくれたから任せて来ちゃった」

「そっか~。ヴェリさんなら安心だよ」


ヘラリと笑って私を見るトモコへ、三階の休憩室に行こうと誘う。


暇そうだし、私が疲れたのもあるがトモコに大切な話があったからだ。


実は、チラシを配ってから片手で数える位しかお客様が来ていない理由に気付いたのだ。

勿論チラシが全てではないが、紙の革命とチラシがこれだけ注目されている割には来てくれる人が少ないと思っている。


それは何故か━━…。




「識字率の低さだよ」


貴族は王都に一つだけある学校に5~15歳までの10年間通って文法学・修辞学・論理学・算術・幾何学・天文学・音楽の7科目を学ぶ。勿論学校に通わない者もいるが、そういった子供達は家庭教師を付けて学ぶので問題はない。

だが、貴族でない者は学校に通う事も家庭教師を付けて勉強する事もない。


勿論裕福な家の子供は家庭教師を付ける事もあるが、庶民は簡単な計算を学ぶ位だ。それもごく一部…大きな街に住む者だけである。

つまり文字を読んだり書いたり出来ない者が多いのだ。


その為“チラシ”を配っても文字が読める者が少ない庶民では、その内容ではなく“紙”という物に興味がそれてしまったのだろう。


この事から、あのチラシを見て来てくれた3人組の女性は、教育を受ける事が出来た比較的裕福な家の出だと分かる。


「じゃあ“チラシ”を配るのは意味が無いって事?」

「意味が無いわけじゃないけど、集客に繋がるかと言われれば疑問が残るかなぁ」


特に庶民のご婦人をターゲットにする私達のお店では、教育を受ける機会が男性より少ない女性への販促物としてチラシは適当ではないのだ。


「チラシ以外となると、どうしたらいいのかなぁ? 服は試食が出来るわけじゃないし……」


トモコが頭を悩ませているが、私はすでに次の手を思い付いていた。

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