193.紅茶はポーション?
「ちょ、トモコまた人のステータスを勝手に見たの!?」
「私にはみーちゃんに変な人を近付けないという役目があるの。ていうかツッコむとこそこなの?」
トモコは落ち着いた態度のままお茶をすする。
紅茶をすするんじゃない。
「で、トリミーさんは精霊のハーフって…「ミヤビちゃん、この茶葉とっても珍しいものでねぇ」」
トリミーさんについて聞こうとした所で本人が戻ってきてしまった。
「二人にいれてあげるから味をみてくれるかい」
等と嬉しそうに言うので、トリミーさんの笑顔ととっておきのお茶の味見が相俟って顔が緩んでしまう。
おおらかで快活で、そんなトリミーさんがいれるお茶は意外にも丁寧で繊細な味わいなのだ。
そして今も、丁寧にいれてくれた紅茶は香り立ち、私の鼻を楽しませてくれている。
「うわぁ可愛い色~!!」
「そうだろう。この茶葉は特殊でね、このベリーのような甘い香りと赤みの強い色味が特徴なのさ」
通常の赤茶のような色ではなく、赤みの強いピンク色が珍しい紅茶だ。ルイボスティーの色合いに似ているかもしれない。
「見た目もいいんだけどね、味も…ほら、二人共味見しておくれよ」
促されて口に含めば、ベースの味はアッサムのような香りの引き立つものだが、後味はほんのり甘いのに少しだけ酸味のあるイチゴのような…鼻を抜けるのはベリー系の香り。しかしきつくはなく、しつこくもない。
「ふわぁ~フルーティー!! 何この紅茶!! 欲しいっ」
トモコが興奮したように立ち上がる。
トリミーさんはドヤ顔で「そうだろう。ウチのとっておきさ!」とサムズアップした。
「ミヤビちゃん、良かったらそのお人に持っていっておあげ。大した量はないんだけど、これからはある程度入荷できるかもしれないしね」
「え、でもこれ希少な紅茶なんですよね…」
「これはバイリン国の森と深淵の森でしか採れない植物の茶葉で確かに希少だけど、最近深淵の森が解禁になったって言うじゃないか。だからウチも期待してるんだよ!」
彼女の話にトモコと顔を見合わせる。
「その植物ってどんな見た目ですか?」
◇◇◇
「ふむ……素晴らしい」
ルーベンスさんから貰ったお金で買ってきたトリミーさんの茶葉だが、勿論ルーベンスさんに持って行かないわけにもいかないので、私の分はコピーしまくって空間魔法で保管してから持って来たわけだ。
それをルーベンスさんにお土産として渡せば、早速缶を開けて茶葉の状態や香りを確認し、自らお茶をいれだしたのだ。
そして冒頭の一言。
かなり気に入ってくれたらしい。
「でしょ! 王都の端っこの更に奥まった場所にある穴場の茶葉専門店。私達のお店のお隣さんなんですよ!」
「…これはバイリン国と深淵の森でしか採れない“イチコベリー”ではないかね?」
「さすがルーベンスさん! そうですっ これはバイリン国で採れたものを茶葉にした超希少な紅茶なんです!!」
「イチコベリーの実は食べた事があるが、お茶としては初めて味わう…こんな素晴らしい物を知らなかったとは」
ルーベンスさんの知識と味覚はもしかして希少な物を網羅しているんじゃないだろうか。
しかしルーベンスさんにも知らない事はあるらしい。
実はトモコに聞いたのだが、“イチコベリー”の葉から茶葉を作る事が出来るのは魔神ジュリアス君の精霊だけなのだとか。
つまりハーフのトリミーさんはジュリアス君の精霊と人族の間に生まれたから作る事が出来る、という事だ。
しかもトリミーさんの茶葉…紅茶は、付与魔法というのがされているらしく、今ルーベンスさんが飲んでいるイチコベリーの紅茶には“疲労回復”と“防御力1アップ”が付与されている。
トリミーさんは茶葉という名のポーション屋さんなのだ。
「ミヤビ殿、店舗名と詳しい場所を教えて貰いたいのだが」
「あ、いいですよ。店の名前は、“トリミーの茶葉専門店”で、場所は━━…」
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【━━…ルーベンス、貴様この茶を何処で手に入れた】
「ミヤビ殿から頂いたのですが…」
【チッ あの女神調子にのりやがって……ッ】
「言葉が乱れているようですが」
【うるさい!! お前は僕の言うことに従っていればいいんだ!】
「……」
【そうだ。“バイリン国”。最近あそこが騒がしいんだ。お前一掃してきなよ】
「……何を言っておられるのですか?」
【僕の力を貸してあげるからさ。ずっと目障りだったんだよね。あの方の周りをうろちょろしてて。お前はあいつらと同じ人間なんだし、責任とって片付けるのは当然だろ。ね、頼んだよ】
「っ……」
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※イチコベリー: バイリン国の森と深淵の森にのみ生息。
イチゴにそっくりの実がなる。その葉から茶葉を作れるのは魔神の創り出した精霊のみである。




