192.お隣さんの正体
「1日で建てちゃったら怪しいから、時間かけてね~って言ってたのに、1週間でほぼ完成しかけてるってどう思う?」
「どう思うって、仕方ないよ~。だって完成してるんだし」
トモコの言葉にハハハッと笑うしかない。
引きつった顔で目の前の元ボロ小屋、現3階建て店舗を見上げ遠い目になる。
「立派だね~」
「オーダー通りにしてくれたね。すごいやぁ」
王都の中でもお城から一番遠い場所。そんな場所の更に奥まった路地裏にひっそりと佇む小さな店舗……になるハズだったのだけど。2メートル60センチ程の間口しかない狭小さに、3階建てを希望してしまった私が悪いのか。
3階建ての建物などあまりないこの辺りでは飛び抜けてしまっておりかなり目立つのだ。
「こりゃ凄いね~。あっという間にこんな立派な家を建てちまうなんて!」
お隣の茶葉専門店のおばちゃんこと、元ボロ小屋のオーナーだった女性が出て来て人好きする笑顔で話しかけてきた。
「あ、トリミーさんこんにちは~」
「トリミーさん、お騒がせしてすみません」
この女性とはお隣さんという事で、店の進捗状況を知る為に毎日ここへ来ていたせいか仲良くなったのだ。
トリミー・メルティルさんといって、茶葉専門店は魔素が満ちてから始めた商売らしく、昔はこっちのボロ小屋で薬草を売っていたのだそう。
旦那さんが冒険者で、薬草も採取してきてくれるらしいのだが、今は茶葉の仕入れ等もしてもらっているそうだ。
「騒がしいなんてとんでもない! 活気があって良いじゃないか」
腰に手をあてニコニコと笑うトリミーさんは、THEおかん!! といった風体で頼もしい。
「ここは端っことはいっても王都の塀の中だし、治安も良い。けどあまり人通りが無くて逆に静かすぎるんだよ!! これ位活気がある方が良いさ!」
と珍獣大工集団を見遣り豪快に笑うのだ。
「しっかし、ウチもお金があったらこの兄さん達に真っ先に頼むんだけどねぇ」
とぼやくトリミーさんは、2年前に隣に移った事でローンがまだ少しあるらしく、羨ましそうにウチの店舗が建て替えられていくのを見ていた。
「トリミーさんの所なら、茶葉も絶品ですし人さえ入れば直ぐ人気になりそうですけどね」
そう、トリミーさんの店の茶葉は素人の私から見ても分かるくらい品質も良く、稀に珍しい種類の物まで仕入れているのだ。
どうやら茶葉の乾燥や発酵等はトリミーさんがやっているらしく、それを仕入れる冒険者である旦那さんはかなりの伝手があるようなのだ。
もう冒険者を止めて商人になるべきだと思うが、トリミーさん曰く「男ってのは冒険がしたいもんなのさ」という事らしい。
「そうだといいんだけど、こんな端っこの奥まった所じゃね~」
カラカラと笑いながら、
「ミヤビちゃん、トモコちゃん、お茶いれてあげるから飲んで行きな」
とお誘い頂いたので遠慮せずお邪魔する事にした。
これが最近の日課になりつつある。
「あ~美味しい! トリミーさんの紅茶最高!!」
トリミーさんのいれてくれた紅茶を飲みながら、トモコが蕩けた顔をする。美人なのにそんなだらしない顔をして。と思いながらも多分自分もだらしない顔をしているだろう。
「トリミーさん、この紅茶購入してもいいですか?」
「気に入ってくれたのかい? ミヤビちゃん達になら安くしてあげるよ」
「美味しいから。あ、値引きなんてとんでもない! ここの事を話した人にそんなに美味しいなら買って来いって頼まれたんですよ」
「そうなのかい!? 有り難いねぇ。なら、とっておきの茶葉を出してあげようかね!!」
私の話に嬉しそうに反応して、お店の裏に入ってしまったトリミーさんに首を傾げる。
「トモコ、トリミーさん中に入ってったね」
「だね~。みーちゃん茶葉をルーベンスさんに買って行くの?」
「うん。ちゃんとルーベンスさんからお金貰ってきたし」
「て事は、ここの紅茶が宰相様の口に入るのか~」
ランランとした瞳でそんな事を言うので「え? ダメ??」と不安になる。
「ダメじゃないよ~。ここの茶葉は王宮の茶葉にも負けてないもん」
「だよね!! 王宮のも茶葉だけは美味しいけど、ここのは美味しいだけじゃなくて、何かホッとして幸せな気分になるよね」
「だね~。やっぱりトリミーさんが半分精霊だからかな~」
「は?」
今、トモコは何て言いましたカ?
「だから、トリミーさんは人族と精霊のハーフなの」
はいィィィ!!!?




